【概説】ゴールデンバウム朝銀河帝国史:第2巻「拡大期~強堅帝ジギスムント1世」 作:旧王朝史編纂所教授
カストロプ公爵家の家祖マクシミリアンの前半生、共同体総裁時代の経歴は必ずしも明らかではない。その原因は、共同体由来の一次史料が極めて少ない事、また同公爵家が旧帝国末期、帝国政府に叛乱を起こして滅亡、絶家しているため、同家所有の史料等もほぼ全て失われた事による。
ただ、拡大戦役に従軍し、共同体の占領事業に携わった帝国軍人や官僚らの報告書、手記等の史料に拠ると、マクシミリアンは初代総裁ディートリヒが愛人に産ませた庶子で、カストロプ一族の中では決して重んじられる存在ではなかったようだ。
彼が歴史に登場するのは、帝国暦32年、シリウス・共同体の連合軍が帝国軍に大敗したヴェガ星域会戦。この敗戦の結果、共同体社会は混乱、政府の責任を追及する暴動やデモが頻発し、治安も急速に悪化した事は既に触れたが、老境を迎えていた総裁ディートリヒには、この難局を乗り切る力量はもう無かった。この時、率先して総裁と政府の責任を追及し、人民の支持を獲得したのが彼マクシミリアンだと云う。
彼は、父親でもある総裁ディートリヒを評し、自由経済体制の護持というイデオロギーに固執した結果、人民と国土を守るべき軍隊を徒に壊滅させた、現実が見えない夢想家と断罪した。
そして、我々共同体人民にとり、自由経済は富を獲得するための手段であって目的ではない、イデオロギーと心中するのは隣国シリウスの連中に任せておけば良い。残念ながら我が国と帝国との国力差はもはや明らかだ、だからこそ、理性ある経済人たる我々共同体の民は、帝国の宗主権を認め、帝国内部で我々の経済的利潤を追求する道を模索するべきであり、それは十分に可能なのだ。我々には連邦の遺産とも言うべき、高度な生産・流通システムがあるではないか。
側聞するに、帝国は科学技術を重視せず、農奴や奴隷の労働に依拠した前近代的な生産体制を採用しながら、その一方で、全人民に衣食住を供給すると称し、配給制度を導入したと云う。その結果、深刻な労働力不足が表面化しつつある。我々の勝機はここなのだ。我々は高度な生産・流通システムを帝国に提供する見返りに、システムの管理・運営者となる事で、帝国社会の中で一定以上の地位を占め、かつ今まで以上の利益を上げる事が出来る。もはや国体やイデオロギーの是非に固執するべきではないのだ、と力強く主張した。
彼の言説は、今の生活が崩壊するのでは、との恐怖に晒されていた庶民層の支持を得ただけではなく、「文明人の知恵が野蛮人の腕力に負けた」などと、自虐的な心理状態に陥っていた知識人層の支持をも獲得。折しも、総裁ディートリヒが心臓麻痺のため急死、彼の嫡出子も事故死や病死等が相次ぎ、世論の圧倒的支持を背景とし、庶子であり、後継者とは見なされていなかったマクシミリアンが二代目総裁に就任している。
なお、当時の共同体政界では、ディートリヒ他の急死は、決して自然死ではなく、マクシミリアンによる謀殺の結果だ、との噂が実しやかに語られていた、と云う。