【概説】ゴールデンバウム朝銀河帝国史:第2巻「拡大期~強堅帝ジギスムント1世」   作:旧王朝史編纂所教授

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第7節 権謀家マクシミリアン・カストロプ③~帝国に降伏、領主貴族に転身

 総裁時代から、ノイエ・シュタウフェン公ら帝国首脳部と密かな誼を通じていたと思われるマクシミリアンだが、彼が単独降伏を決意したのはいつだったのか、これも史料上の記述は無い。

 だが、前述の通り、彼は降伏後、罪に問われる事も無く、自身と一族、側近らの生命と財産も保障されたのみならず、公爵位を与えられて、首都星ヴェネーディヒを主星とする星系を領地として下賜されているが、共同体領にある軍事基地と生産基地の所在地情報と云う、国家機密を手土産にしたとは言え、約10年に及ぶ拡大戦役中、これだけの厚遇を以て迎えられた旧敵国人は存在しない。

 

 例えば、同じ旧敵国の指導者だった、シリウス大統領ジョルジュ・ラヴァルは、同じ公爵位を与えられてはいるが、帝都オーディンに移住を命じられ、死ぬまで飼い殺しの境遇を余儀なくされており、攻守連合の盟主国だったカストル軍政府、初代総統スー・ディン・ファンの三男ウェイ・ダオは、帝国に亡命後、侯爵位を与えられたが、その驕慢な為人を先帝ルドルフ、ノイエ・シュタウフェン公に忌避されて、帝国軍及び貴族社会では、決して重んじられてはいなかった。

 

 彼らと比較すれば、マクシミリアンの厚遇ぶりは際立っており、周到な事前交渉が行われた事を想像させる。だとすれば、ジギスムント即位後、断続的に交渉が行われ、帝国軍の矛先がシリウス・共同体に向けられた時には、既に妥結していたのかもしれない。

 

 帝国に降伏し、首都星ヴェネーディヒで皇帝ジギスムントに謁見、カストロプ公爵に封じられたマクシミリアンは、その人脈と財力を活用、駐屯する帝国軍や社会秩序維持局に協力し、今や帝国領フレスベルグ軍管区となった共同体領で蠢動する反帝国勢力の捕縛と撲滅に力を尽くしている。

 古来より、旧敵国の高官を登用し、かつての同胞を取り締まらせる事は占領政策の常套手段だが、マクシミリアンは帝国の官僚や軍人達が思わず顔色を失うほど、積極的かつ厳酷に、反帝国活動を行う同国人たちを逮捕、処刑している。

 

 だが、この一事を以て、マクシミリアンを単なるエゴイスト、卑劣漢と断罪する事は出来ない。彼は自由経済を懐かしむ同胞らを弾圧する一方、皇帝ジギスムントの方針に則り、帝国政府から派遣されてきた財務官僚らを迎えて、連邦の遺産たる生産・物流システムを明け渡し、その運用に関するノウハウを教授するため、との名目で、共同体政府の官僚や企業人らを多数、帝国政府へ仕官させる事に成功している。

 

 想像するに、彼は殊更に同胞を弾圧してみせ、帝国と皇帝に異心を抱いてはいない事を示し、その事実を大義名分として、さらに多くの同胞を救うべく、帝国政府に彼らを推薦、登用する事を承諾させたのだろう。それは大の虫を生かして小の虫を殺す、大多数を救うために少数を犠牲にする、マキャベリズムそのものの手法だったが、それにより、多くの共同体人民が生活の保障を得て、帝国の支配下で平穏に暮らせたのも事実だった。

 これ以降、旧共同体領はカストロプ公爵家を中心として、急速に治安を回復、その影響は隣接する旧シリウス領、帝国領ヴァフスルーズニル軍管区にも及んでいる。当時、旧シリウス・共同体領に住む人民から、既に滅びた地球時代の言語を用いて、彼が密かに「イル・マニーフィコ(偉大なる)」との敬称で呼ばれた事も、社会の平穏と生活の安定を齎してくれた、彼への感謝の念の表れだったのかもしれない。

 

 だが、誤解するべきではないが、彼は決して統治者としての責任感や、人民への愛情から、敢えて悪役を務めた訳では無い。彼は共同体人士に対し、帝国政府に推薦する見返りとして、自家の傘下に入る事を強制。彼らが帝国で得た地位に応じて、自家の従家や従臣となる事を承諾させており、彼等を先兵として、マクシミリアンは帝国の政界・官界・財界に、その勢力を伸ばしていった。彼が「エゴイズムの怪物」と呼ばれた所以であろう。

 

 だが、彼が凡百のエゴイストと異なるのは、自らが権力者としての地位を保ち、その権力を最大限に行使するためには、自身を支持し、協力する者達が必要だと見切っていた点にある。彼の言葉として「古代地球のある思想家が言ったそうだ。王とは民という海の上に浮かぶ、一艘の小舟のようなものだと。なかなか卓抜な比喩と言うべきではないか。人民の支持を悉く失った権力者など、所詮、張子の虎に過ぎぬ」が伝わっているが、彼は常に自身が大多数の人民から支持されるように行動し、その数の力を自身の権力に変換している。

 その意味で、彼は極めて「民主的」な権力者であって、その手法は、かつて連邦政界で台頭した、ルドルフのそれを髣髴とさせる。彼がその事にどこまで自覚的だったかは、もはや詳らかにしないが、後世の視点からすれば、彼は皇帝ジギスムントと並ぶ、ルドルフ大帝の「愛弟子」だったと言えるかもしれない。

 

 彼の振る舞いに対して、優れた政治家で皇帝支配の貫徹を希求していたジギスムントは、警戒心を抱かなかったのだろうか?結論から述べると、ジギスムントは警戒心を抱きこそすれ、具体的な処置を施すには至らなかったと思われる。占領直後のヴェネーディヒに行幸し、親しく謁見した事からして、ジギスムントがマクシミリアンを警戒、少なくとも何らかの興味関心を抱いていた事は間違いないだろう。

 しかし、同胞を弾圧までして、帝国と皇帝への忠勤に励むマクシミリアンを罪に問う理由は無く、また配給制度の完遂を主要な政策目標に掲げていた事もあり、効率的な生産・流通システムのノウハウと、それを熟知した人材を供給し続けるマクシミリアンの姿勢は、その心底が透けて見えるにしても、ジギスムントが拒否する事は困難だっただろう。まして、当時のジギスムントは、重臣ビューロー大将らと共に、旧攻守連合領を対象にした再平定戦の準備を進めていた。既述の通り、同領域には、名目上は帝国領だが、実際は民主共和政体が保持されている星系が存在しており、皇帝支配の貫徹を求めるジギスムントにとって、彼らの再征伐の方が政策上の優先順位が高かったのだろう。

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