【概説】ゴールデンバウム朝銀河帝国史:第2巻「拡大期~強堅帝ジギスムント1世」   作:旧王朝史編纂所教授

88 / 147
第9節 権謀家マクシミリアン・カストロプ⓹~死去、その為人

 帝国暦78年、第3代皇帝リヒャルト1世の御代、初代カストロプ公マクシミリアンは脳腫瘍のため死去。生前より、墓などという代物は死者のためではなく、生者の自己満足で建てるのだ、仰々しい墓標など必要ない、との意向を示しており、生前の地位や業績からすれば、到底相応しいとは言えない、粗末な墓しか作らせなかったが、生前の彼の行為に感謝する旧シリウス・共同体人民の手で、その墓標に献花が絶える事は無かった。

 

 彼の一生は数多の政略と謀略に彩られており、凡百の人物であれば、間違いなく生命を落としている修羅場を何度となく潜り抜け、共同体時代からその死去に至るまで、一貫して権力者の地位にあり続け、最終的には帝国政界の有力者となって、旧帝国とほぼ歴史を等しくする大諸侯・カストロプ公爵家を後世に残している。まさに「保身の天才」「エゴイズムの怪物」と呼ぶに相応しい人物であった。

 

 しかし、彼をして単なるエゴイストと断じる事は正しくない。後世、ある歴史家は、連邦末期、もしルドルフ・フォン・ゴールデンバウムという巨星が登場しなかったなら、人類社会は秩序を失い、かつての地球・シリウス戦後以上の分裂状態に陥り、数多くの小国家や小集団が乱立する戦国時代へと突入したであろう。その時、彼マクシミリアン・カストロプは、必ずや大勢力の長になっただろう。或いは、彼こそが人類社会を再統一する英雄になったかもしれないと、最大級の評価を与えている。

 筆者は、この見解に全面的に同意するものではないが、少なくとも乱世の梟雄と言うべき存在だったとは思っている。そして、もし彼が存在しなければ、旧帝国史が今とは異なる様相を見せていた可能性は高い。それほど、彼が後世の歴史に与えた影響は大きかった。その事は次巻以降、詳述していきたいと思っている。

 

 さて、歴史上の存在感とは裏腹に、現在まで僅かに残る肖像画等を見る限りで、彼の風采は決して良いとは言えない。その身長は160㎝にも満たず、頭髪は薄く、所々は地肌が剥き出しとなっており、何より人目を引くのは、上顎の前歯が前方に突き出している事。当時の貴族の日記に、その容姿を評して「体毛が抜けた鼠の様だ」とあるが、そう言われても反論できない外見ではある。

 

 当時、皇族や貴族らの間では、自身や一族の姿を肖像画として描き、従家や従臣への恩賞として与える事が始まっていたが、その際は肖像画家がモデルの意を汲み、不自然ではない程度に美形として描く事が通例だった。しかし、摂政皇太后ヒルデガルド陛下の御実家、マリーンドルフ伯爵家など、カストロプ公爵家の一門だった貴族家に残る伝説によると、独りマクシミリアンのみ、その風潮に逆らって、見た通りの姿を描くよう、肖像画家に厳しく命じたと云う。

 

 理由を問われたマクシミリアンは、自らの頭と心臓を拳で叩くと「儂の矜持は此処にある。顔面など所詮、頭蓋骨の上、数センチの問題ではないか」と言い放った、と伝えられる。ここからは想像だが、共同体総裁の子として生まれながら、庶子として軽んじられていたマクシミリアンは、幼少期からその醜貌を周囲に嘲笑され、屈辱感を味わい続けていたのではないか。だからこそ逆に、表面的な美醜に一喜一憂する風潮を軽蔑し、祖国の滅亡という逆境をも跳ね除け、敵国で立身出世した自身の才覚と度胸こそ私の誇りだ、と主張したかったのかもしれない。本エピソードの実在を裏付ける史料上の証拠は無いのだが、梟雄マクシミリアンの矜持を示す格好の挿話として、ここに紹介させて頂いた次第である。

 

 最後に、カストロプ公爵家の行く末について一言しておきたい。家祖マクシミリアン死後、長子アントンが爵位を継承。父親ほどの才覚は無かったが、十分に有能な領主貴族として、同公爵家の勢威を維持する事に成功している。

 

 その子クレメンスは前述の通り、同家初の枢密院議長に就任、当時の領主貴族達の盟主的存在となった。また、経済的利権を巡って競合関係にあった権臣エックハルトを排除するため、寛仁公フランツ・オットー大公と結び、枢密院を反エックハルトで一本化、同大公によるエックハルト誅殺を後押ししている。

 その功績により、エックハルト誅殺後、大公の父ユリウスが即位すると、領主貴族としては初めて、帝室顧問官の肩書を与えられている。クレメンス以降も、同公爵家は帝国政界に有形無形の影響を与え続けており、それは旧帝国の政治史を語る上で、決して等閑視できない重要な要素である。よって、詳細は次巻以降に譲りたい。

 

 なお、同家に生まれた男子には、家祖マクシミリアンの如き偉大な人物になれ、との思いが込められての事だろうが、家祖と同名の人物が実に多い。だが、上記のクレメンスら、同家を隆盛に導いた優れた人物には、却ってマクシミリアンの名が与えられておらず、この点は歴史の皮肉と言えるかもしれない。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。