【概説】ゴールデンバウム朝銀河帝国史:第2巻「拡大期~強堅帝ジギスムント1世」   作:旧王朝史編纂所教授

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第11章 拡大戦役⑦~総括、後世に与えた影響
第1節 拡大戦役の実像~国内問題としての視点


 帝国領内における共和主義者の叛乱事件「マザンダラーンの叛乱」の鎮圧から、カストル・ポルックス攻守連合、シリウス民主共和国、汎オリオン腕経済共同体など諸敵国への侵攻と占領、即位後のジギスムントが遂行した一連の軍事行動、筆者が名付ける「拡大戦役」の内実について、同戦役で活躍した人物たちの評伝を交えて、詳述してきた。

 

「はじめに」で述べたように、従来、ジギスムント即位後の軍事行動については、旧帝国では後見人たる帝国宰相ノイエ・シュタウフェン公の指導力が称揚される傾向にあり、同盟では共和主義勢力の抵抗が如何に果敢であったか、それに対する帝国の弾圧がどれほど過酷だったかを強調する傾向が強かった。

 

 例えば「100億人が農奴階級に堕とされた」云々の主張は、帝国政府の非人道性を証明するものとして、広く人口に膾炙していた。しかし、前述した通り、農奴とされたのは共和主義者だけではなく、全体の比率で言えば、むしろ敵国人民の方が圧倒的に多かった。それは、労働力確保の観点から、旧敵国の人民を農奴として確保しようとしたジギスムント帝の方針に基づくものであり、彼らは逃亡や反抗した者を除けば、解放年限を迎えた後、帝国の国民または領民として、その生存を保障されている。そして、100億人という数字にも、明確な史料上の根拠は見いだせない事、既に指摘した通りだ。

 

 一方、旧帝国でノイエ・シュタウフェン公の存在が強調された理由だが、現時点では詳らかにしない。新史料の分析を通じて明らかになったが、本書でも縷々述べてきた通り、拡大戦役においては、ジギスムント帝が強い指導力を発揮し、その意向によって遂行された面が強い事が分かってきた。それどころか、父親で後見人たるノイエ・シュタウフェン公と、息子で皇帝たるジギスムントの間では、密かな権力闘争さえ起こっている。

 

 現時点で指摘できるのは、同公の存在が勤皇家、社稷之臣として称揚され、皇帝ジギスムントに代わり、共和主義勢力を討伐した人物として評価されるようになったのは、かのダゴン星域会戦後、対同盟戦争が激化し、さらに領主貴族の勢力が伸長して、皇帝権が比較的凋落してきた、帝国暦400年代以降の現象だという事だ。

 ここからは私見だが、この当時、皇帝に代わって国政を壟断する権臣たちは、自己の存在を正当化し、かつ対同盟戦争を遂行するための大義名分として、共和主義勢力を討伐した社稷之臣、ノイエ・シュタウフェン公という存在を作り上げていったのではないかと考えている。この点は史料上の根拠が乏しいので、さらなる研究の深化を期したい。

 

 公開された新史料を分析した結果、ジギスムント即位後、帝国が行った軍事活動-筆者が言う「拡大戦役」-は、いわゆる対外戦争や叛乱鎮圧としてではなく、帝国の国内問題として理解すべきではないか、これが筆者の結論である。

 

 前巻でも指摘したが、ルドルフ治世末期の時点で、辺境域の敵国は弱体化し、僅かに余喘を保つだけの存在となっていた。帝国領内の共和主義勢力も、その多くは社会秩序維持局の監視下に置かれて、帝国政府にとっては然したる脅威ではなくなっていた。彼らが見逃されていたのは、ルドルフ崩御を見据えて、即位後のジギスムントが彼らを討伐、そして「人類社会を武力統一した史上初の皇帝」となり、先帝ルドルフに匹敵する権威を得るための方途だったのではないか、との学説さえある事は、既に紹介した通りだ。

 

 にも関わらず、彼ら敵対勢力の討伐戦、即ち拡大戦役は、ジギスムント即位から数えて、約10年もの長きに亘っている。これまで詳述してきた通り、この期間中、新帝ジギスムントの母、皇女カタリナによるクーデター未遂事件が発生。そのカタリナを使嗾した反シュタウフェン派と、ジギスムントの父、帝国宰相ノイエ・シュタウフェン公を領袖とするシュタウフェン派との抗争。同公が自派閥を強化するために利用した攻守連合への征討。そして、同派の暴走に危機感を募らせた皇帝ジギスムントと反シュタウフェン派との和解。そのジギスムントとノイエ・シュタウフェン公の密やかな闘争。その結果、シュタウフェン派を事実上、掌握するに至った皇帝ジギスムントの支配権確立。さらには、ジギスムントが近い将来の親政を見据えて、皇帝直属の臣下を取り立てるために利用したシリウス・経済共同体への征討。これだけの政治的事件が起こっている。さらには、何度となく指摘した事だが、この一連の戦役の背景には、敵国住民や共和主義者らを農奴とし、先帝ルドルフが創始した配給制度を完全施行する上で、不足しがちな人的労働力の確保、との政策目的が存在した。それはジギスムント即位時の施政方針演説からも看取できる。

 

 これは、先帝ルドルフの絶対的支配下で、治安回復を至上命題として遂行された平定戦役とは、著しい対象をなしている。拡大戦役では、敵対勢力を討滅する戦闘はあくまで手段、いや名目でしかなく、皇帝・皇族・貴族、さらに貴族中でも、主流派と非主流派がそれぞれの立場を主張し、対立抗争した政争の場であった、これが筆者の見解である。そう捉える事によって、当時の帝国と敵対諸国との国力比を考えるならば、あり得ぬ程に拡大戦役が長期化した原因が初めて理解できるのではないだろうか。

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