【概説】ゴールデンバウム朝銀河帝国史:第2巻「拡大期~強堅帝ジギスムント1世」   作:旧王朝史編纂所教授

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第3節 思考実験・第2の自由惑星同盟の存在可能性①~新国家建設の必要条件とは?

 続いて、カストル・ポルックス攻守連合だが、同国の滅亡が自由惑星同盟建国の萌芽、少なくともその要因の1つだったのではないか、これが筆者の見解である。この点は既に詳述したので、ここでは繰り返さないが、航行不能宙域が広がるサルガッソ・スペースを越えて、ほぼ人跡未踏のサジタリウス碗へと至る冒険行には、命知らずでアウトロー的気質が強い攻守連合残党が、その存在感を発揮したであろう事は想像に難くない。旧帝国側史料から、自由惑星同盟の建国事情を解明するのは、筆者のライフワーク的課題でもあるので、本シリーズでも折に触れて言及したいと考えている。

 

 本節以降は、少し視点を変えて、第2、第3の自由惑星同盟の存在可能性、即ち、シリウス民主共和国や汎オリオン腕経済共同体の遺民たち、もしくは、かのジャン・ピエール・アルドワンが率いた集団の如き、両国の支援を受けた共和主義勢力が帝国領を脱出して、新国家を建設する可能性は無かったのだろうか、実証史学者としてはあるまじき態度かもしれないが、読者諸氏の興味を喚起する意味で、歴史のifを考察する、知的遊戯に敢えて耽ってみたいと思う。

 

 とは言え、この問題を提起したのは筆者が初めてではない。実は、歴史を愛好する旧帝国貴族のサロンでは、外敵の存在を認めない旧帝国の国是を憚り、公然とは語れなかったが、その実、定番の話題だったと云う。

 ちなみに、同盟の歴史学界では、前述の通り、同盟建国の理由をアーレ・ハイネセンの超人性、聖人性に求めるイデオロギー的史学が主流だったため、アーレ・ハイネセンが指導者ではない以上、如何なる集団も同盟建国の如き大事業を成し遂げる事が出来るはずはないと、そもそも議論の俎上にさえ上っていなかったようだ。

 よって、ここでは歴史愛好家の旧帝国貴族らが書き残した諸著作や日記等の記述を参考にしつつ、本問題を論じてみたい。

 

 イデオロギーを離れ、客観的視点から同盟建国を可能とした要因を考察した時、帝国では「距離の暴虐」、同盟では「距離の防壁」と言われた、地理的要因を筆頭に挙げる論者は多い。とは言え、帝都オーディンからの航行距離だけを問題にするのであれば、同盟が位置するサジタリウス腕とは反対方向にも、宇宙空間は無限に存在しているので、この「距離」概念には、サルガッソ・スペースという、航行不能宙域の存在が前提になっていると考えるべきであろう。

 

 そして、新帝国暦10年現在、既知宇宙の中で、サルガッソ・スペースに比すべき場所は見つかっていない。よって、余りにも当たり前すぎる結論だが、旧帝国と同盟の間に、サルガッソ・スペースという暴虐、或いは防壁が存在したが故に、同盟は旧帝国の攻撃に晒される事無く、建国事業に邁進できたのであり、シリウス・経済共同体の故地周辺に、サルガッソ・スペースと同様の宙域が存在しない以上、仮に独立国家建設の動きがあったとしても、反帝国勢力の段階で帝国当局によって逮捕、鎮圧されて、国家建設に至る事は出来なかった、と言えよう。

 

 では、あり得ざる仮定だが、シリウスや経済共同体の故地周辺、或いはそれ以外の宙域に、サルガッソ・スペースの如き領域が存在していたとしたら、その向こうに反帝国を掲げる独立国家は誕生しえただろうか?

 

 この時に問題となるのが、無人の宇宙空間にゼロから国家建設を行う際、必要不可欠な要素は何か、という事だ。既に一部論じているが、同盟建国の事情を加味しつつ考察するなら、おおよそ以下の5点に集約できると思われる。

 

 ① 世代交代を図る上で、量的に十分な生殖可能世代を含む人間集団

 ② 生産体制が軌道に乗るまでの期間、全住民の衣食住を賄えるに足る食料等の各  

   種物資及びエネルギー、またはその供給源

 ③ 生産体制構築に必要な科学知識と経験を保有する人材集団、及び知識を現実化 

   するための工業的設備

 ④ 社会の工業的発展を可能とする豊富な各種資源とエネルギー源

 ⑤ 全人民を国家建設事業に邁進させられる求心力あるイデオロギー、及びそれを

   体現する個人または集団

 

 繰り返しになるが、同盟を建国したのは、辺境域の領主貴族らが密かに派遣した、深宇宙探査を目的とする農奴・奴隷達、そして旧攻守連合の残党や原・地球教団等の諸集団だった、というのが筆者の見解であり、旧帝国の支配者階級である貴族層の密かな支援があれば、①~③の確保は難しくはなかっただろう。

 そして、同盟が建国されたサジタリウス腕は、ほぼ人跡未踏の宙域であり、採掘可能な各種資源やエネルギー源は、まさに無尽蔵と言っても過言では無かった。故に④も問題なく、⑤は言うまでもなく、民主共和思想が人民の紐帯たるイデオロギーであり、それを体現したアーレ・ハイネセンという「偶像」、さらにはグエン・キム・ホアに代表される、ハイネセン思想を継承して、具体的な国家像を描いた集団が存在していた。

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