【概説】ゴールデンバウム朝銀河帝国史:第2巻「拡大期~強堅帝ジギスムント1世」   作:旧王朝史編纂所教授

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第4節 国務尚書公認の冒険家に

 かくして、地球を帝国皇帝の保護下に置く事に成功したフリードマンは、この時の探検行が忘れられなかったのだろう、前述した通り、拡大戦役終了後も帝都には帰らず、占領された旧シリウス・経済共同体領内で、地球時代は繁栄していたが、シリウス戦役後、また連邦成立後に衰退、人類社会から取り残されていった惑星や人工天体を探すと、自ら率先して、同地の占領行政に従事している。

 

 尤も、その行政手法は地球で示されたように、一般的な官僚のそれを比較すれば、良く言えば細かくて丁寧、悪く言えば無用なほど細部に拘泥したもので、特に住民統治には直接関係が無い、歴史的遺物や自然景観などの調査と保護を熱心に行い、上司から「業務が非効率に過ぎる」と、屡々叱責されている。

 

 このままならば、如何にハーン伯爵家の一門に属する男爵家の後継者と雖も、貴族の怠慢や不行跡に厳しい目を向けるジギスムント帝の不興を買い、少なくとも免職、或いは爵位没収もあり得たが、幸いと言うには失礼すぎるけれども、フリードマンに失望、冷遇していた国務尚書ザルツァ子爵が不慮の事故で急死、その後任に宮内尚書の地位にあったノイラート候アルフォンスが就任した事で、フリードマンを巡る環境は一変する。

 

 皇帝ジギスムントの義弟で、腹心でもあったノイラートは、生来控えめな性格で、自ら積極的に主張、行動する事は無いが、自己主張が激しい人物の圭角を巧みに受け止め、全体の調和を図る事ができる、いわゆる調整型の政治家だった。また、多くの貴族達が出世と爵位獲得にのみ狂奔し、それ以外の価値観に目を向けない風潮に対し、生理的な嫌悪感と共に、危惧の念を抱いてもいた。

 

 拡大戦役の終結も目前、これからは武勲や功績を立てる機会が急減する、立身出世にしか価値を見出せない貴族は、法を犯してでも功績を求めようとするだろう。かつて、攻守連合の征伐時、シュタウフェン派の若手貴族が武勲を焦り、現地の敵対勢力と裏取引、現地勢力を降伏させたとの功績を偽って、その代わり、現地勢力には民主共和政体を密かに容認したように。

 この風潮に歯止めをかけるためにも、貴族達の目を政治・軍事以外に向けさせ、そこでも功績を、少なくとも名声を得られるようにする事が戦後の帝国政界、貴族社会には必要なのではないか、との考えを抱いていたノイラートは、自分自身が学術や文化を愛好する為人だった事も手伝い、学芸尊重の気風を盛り上げるため、文化的側面で功績を上げている、或いは上げる可能性が高い貴族を探していた。皇帝の学友同士で、親友でもあった軍務尚書ビューロー大将から、茶飲話の中で、フリードマンの存在を聞かされたノイラートは、これは興味深い人物だと、国務尚書就任後、わざわざ帝都に召喚し、親しく面談している。

 

 常識人だったノイラートは、破天荒と言ってもよいフリードマンの性格を完全に理解できた訳ではなかっただろうが、嬉々として、旧シリウス領等に残る歴史的遺跡や自然景観の素晴らしさを語る姿は、同じ学術愛好者として、共感できる部分は確かにあったのだろう。こういう規格外の人物は、区々たる行政事務に従事させるよりも、無駄になる可能性を承知の上で、自由に行動させる方が適材適所であろうと判断。フリードマンを学芸省文化局に出向させると、国務省の予算を用いて良い、学芸省と協働して、新領土内の歴史・文化的遺産及び自然景観の調査を行い、帝室財産として保護する必要があるかどうか、定期的に報告せよと求めた。

 

 ノイラートの意図は、フリードマンを学術や文化に関する事業に従事させて、その行為を顕彰する事で、平和な時代に相応しい貴族の仕事がある事を周知させたかったのだろう。

 

 また、皇帝ジギスムントが実利主義的な性格で、学術や文化にはあまり興味が無い事は承知していたが、姉たる皇后アデルハイドの口添えを得れば、その同意と評価を得る事は難しくない、との目算もあった。

 実際、後年の事だが、フリードマンが新領土で発見した、長さ数十キロ、落差が約1キロに及ぶ、人類社会最大の大瀑布を見たいと、皇后アデルハイドが夫にねだり、その方面へ向かった皇帝ジギスムントの行幸に同行した事があった。念願の大瀑布を目の当たりにした皇后の喜びようは尋常ではなく、常に冷静さを保つ皇帝ジギスムントも、童女の様にはしゃぐ愛妻の姿に絆されたのか「まるで時期外れの新婚旅行だな」と軽口をたたき、皇后と楽し気に談笑していたと、同行した侍従の1人が書き残している。

 

 その為だけと言う訳ではないだろうが、ジギスムントはフリードマン死去時、その永年の功績を嘉すると、子爵位を追贈している。なお余談ながら、この大瀑布には皇帝ジギスムントの勅命で、皇后アデルハイドの名が与えられ、「アデルハイドの大滝」と命名された。以降、この滝は銀河帝国の著名な観光地となっており、現在もその威容を接する事ができる。

 

 それはさておき、国務尚書ノイラート侯爵の了解を得て、新領土内に残る歴史的遺物や自然景観等の調査に乗り出したフリードマンは、まさに水を得た魚との例え通り、その有り余る体力の命じるまま、自ら装甲地上車や航空機を運転して、旧帝国史に残る発見を成し遂げていった。

 その中には、前述のアデルハイドの大滝のほか、かのラグラン・グループが初めて一堂に会したと伝えられる惑星プロセルピナの革命広場跡地、銀河連邦成立以前、人類史上最大のコンビナートと称された人工天体PKNオルレン、宇宙時代の「万里の長城」とも言われた防衛施設ジァン・リァンなど、これまで存在を知られていなかったもの、或いはその存在に関する情報が失われていたもの、または文献上だけの存在で、その実在が疑われていたもの、彼の冒険行はそれらの存在を明らかにしていった。

 その職務の性質上、現地に駐屯する帝国軍の協力を仰ぐ事も屡々あったのだが、当時の軍務尚書ビューロー大将は、旧シリウス・経済共同体領に設立されたヴァフスルーズニル・フレスベルグ両軍管区司令官に対して、フリードマンの調査活動に最大限の便宜を図るよう訓令しており、また旧経済共同体領に隠然たる勢力を有していた大諸侯、カストロプ公爵家の当主マクシミリアンも、その活動を妨害するような事は無く、皇帝と国務尚書の歓心を買う事が出来ると考えたのか、何くれとなく支援したほか、慰労の名目で自邸に招待しては、その冒険譚を聞く事を好んだと云う。尤も、彼の発見を自家の権益に結び付けられないか、その機会を伺う下心も皆無では無かったようだが。

 

 また、その対象は歴史的遺物や自然景観だけにとどまらず、珍奇な動植物にも及んだ。その発見は後世にも影響を与えており、一例をあげると、今なお帝国の園芸家の間では人気が高いバルバド星系産の蘭は、彼が発見した原種を基に、帝国暦170年代、美麗帝アウグスト1世の御代に開発されたと言われる。

 なお、帝国の地理学者、博物学者にとり、その会員に選ばれる事は最大の名誉とされる帝国地理博物学協会は、彼の業績に触発された、当時の学芸省所属の研究者や学者官僚達が発議して設立された組織で、フリードマン自身も、同協会初の名誉会員に選ばれている。同協会には、いわゆるアカデミズムの学者だけではなく、軍人や官僚として立身する傍ら、研究や探検を行うアマチュアの学者でも、業績さえ認められれば会員として所属する事が出来るが、彼の存在がその先例になっている。そのため、彼はアマチュアの学者や探検家達から、旧帝国史上における冒険家、民間人学者の祖として、今なお尊敬されている。

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