【概説】ゴールデンバウム朝銀河帝国史:第2巻「拡大期~強堅帝ジギスムント1世」   作:旧王朝史編纂所教授

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第5節 ほらふき男爵と呼ばれて

 ただ、彼は後世、アカデミズムの研究者から、ともすれば批判される事も多い。理由は「学問の真実性を無用に毀損したから」。

 

 彼自身は終生、実際に目撃したと主張したが、科学的、学問的常識からすれば、どう考えても虚構ではないかと疑われる存在について、その実在を著作中で訴えているからだ。

 例えば、巨大な吸盤がついた腕を複数持つ全長数キロに及ぶ海洋軟体生物とか、自動的に自己修復と自己再生を繰り返すロボット群が永遠に整備し続ける完全無人の機械都市だとか、人間同様の自我と知性を持つガス状生命体などなど、実在すれば人類の科学史上、最大級にして空前絶後の大発見と言えるが、彼が発見したという場所を訪れた他の人間は例外なく、海洋生物も機械都市もガス状生命体も見出す事は出来なかった。

 筆者は彼の主張の真実性について、ここで論じる意思は無いが、彼が後世、偉大な冒険家、探検家としての名声を残すと同時に、ほらふき男爵とも綽名されたのは、決して故無い事ではないと言わざるを得ない。

 

 ただ、旧帝国史上、彼の主張を信じて、機械都市やガス状生命体の発見に一生を捧げた者、その実在性を科学的に立証しようとした者、そして、それら超科学的な存在を盲信して、スピリチュアルな思想に耽った者などもおり、如何に科学が進歩しても、超自然的なものを愛好する人間の心性は、遥か数千年の昔から変わらぬのだなあと思ってしまう。

 

 だが、学問的には疑問符がついても、彼の奔放な為人そのまま、自由闊達で想像力を刺激してやまない彼の著作は、学術書の体裁を取りながらも、ドキュメンタリーや冒険小説的な面白さがあると、数多くの読者を獲得。それは貴族だけにとどまらず、平民の中にも熱烈なファンを生み出し、各地の町役場に併設された図書館では、所蔵希望書籍の上位を独占し続けた。そのため、彼は旧帝国史上初のベストセラー作家にして、紀行文学や冒険小説の祖とも言われている。

 また、弟ノイラート侯爵から彼の著作を紹介された皇后アデルハイドは、深窓の貴婦人と言われたその為人を知る者からすると意外なのだが、彼の熱烈な愛読者となって、自ら手紙をしたためては、その活動を激励すると共に、新作はいつ出るのか、早く読ませて欲しい、続きが気になると、幾度となく催促している。その生涯で、帝都オーディンを離れて、宇宙に出る事などほぼ皆無だった皇后アデルハイドが、帝国領の辺境に位置する大瀑布が見たいと、皇帝ジギスムントにねだったのも、彼フリードマンの著作に影響されたためだと言われている。

 

 そして、彼の活動した時期は皇帝ジギスムントの治世とほぼ重なるため、その著作中には、占領前後のシリウス・経済共同体に関する記述も少なくない。その意味で、彼の著作や報告書、日記等は、一次史料が極めて少ないシリウス・共同体両国の歴史研究を行う上で、第一級の史料とも見なされている。

 しかし同時に、その観点は旧帝国の国体や政治を絶対善とするものであり、民主共和制や自由経済、また両国の日常生活を意味不明、理解不能な愚行と断じる傾向が強い。よって、彼の著作群を歴史史料として用いる場合は、このバイアスの存在を意識する事が必要だ。彼の著作を用いた歴史書や論文等は多数存在するので、興味関心のある読者は、それら専門書を参照して頂きたい。ここでは、彼の観点がよく表現されている箇所を引用し、民主共和制等に対して、当時の帝国人が持っていた「常識」を明らかにしてみたい。

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