「双方、決闘に支払う代償を」
「決まってんだろ!あのクソ編入生の退学、そして汚された制服の弁償」
「彼女、セセリア・ドート嬢への非礼の謝罪、及び金輪際危害を加えない、近付かないこと」
まさか編入初日に決闘をすることになるなんて誰が予想できようか。改めて我に返ると、柄にもない突拍子な振る舞いにため息がでた。
「あら、騎士さんはお姫様を護ったことを後悔してるんすか?」
不意に隣に誰かやって来たと振り向いてみれば、件の人にして、今回の火付け役、襲われそうになっていた彼女ことーー、基セセリア・ドート嬢が、座っていた。その手には2本のドリンクが握られている。
「1本貰っても?」
「どうぞ、元々そのために持って来た物だし」
特に会話は無い。初めましてはアレはほぼノーカン、だから実質初対面の今、話題が無い。こういう時どうしたらいいんだ。
「一応助けて貰ったことには感謝してるっすけど、随分と無謀な手に出たっすね」
無謀、というのは決闘のことだろう。
「なんでだろうね。気付いたら動いてた」
「本当に騎士みたいっすね。それもベタベタの」
少し嫌味っぽくも聞こえるが、事実だから返す言葉もない。気恥しさを誤魔化すように頬をかく。
「……というか結構フランクな話し方なんだね」
健康的な褐色の肌に、透き通るような白髪、切れ長の碧色の瞳、よく見れば見るほど、クールな見た目から勝ち気な人かと思っていた。けどこうして実際話してみれば、距離感の境界が甘いというか、割と接しやすい人だ。
そんな感想を抱きながら、セセリアさんの方を見てみると、目を見開いて、どこか驚いているようだった。
「単に口が悪いだけっすよ」
「俺はそっちの方が親しみやすいけど」
「変わった人っすね。私をそんなに煽てて、もしかして一目惚れしたとか言ってこないっすよねぇ?」
悪戯な笑みを浮かべてからかってくる。妖艶さすら漂うその雰囲気、正直意識するなと言われてもこちらも多感な青少年、意識はめちゃくちゃする。
「いやー、こんな美人と友達になれるならこちらも鼻は高いかなー……なんて」
「じゃあ、負ける訳にはいかないっすね」
セセリアさんはそれだけ言うと立ち上がる。そして振り返り、俺を見ると、また悪戯な笑みを浮かべーー、
「私が蒔いた種?なんで、言えた義理じゃないっすけど、勝ったらなってあげてもいいっすよ?友達に」
去って行った。小さくなっていく彼女の背中を見送っていると、俺の生徒証の端末が鳴り、メッセージが表示される。それを見てついつい笑ってしまった。
『せっかく追加してあげたこの連絡先が使えなくならないよう、決闘、期待してますよ』
いつの間に、というのもあるけど彼女なりの激励だってことは直ぐに分かった。確かに口は悪い、のかもしれない。だけど、どこかひねくれてるような素直じゃない物言いが、今の俺にとってはとても心地良かった。
「これは、何がなんでも負けられない理由ができちゃったな」
勿論、負ける気もない。時間を見れば、決闘指定の時刻が近くなっている。俺はパイロットスーツに着替えると、指定された戦術区域に向かった。
『これより、双方の合意の元、決闘を行う』
MSコンテナが開くと、目の前には3機のMSがいる。細身の流線形、背部の2基のスラスターが特徴的な機体が2機、そして奥にはスラスターが大型の砲身とミサイルポッドに換装された機体が1機。情報通りならペイル社のザウォートと重装型のカスタム機。
「相手にとって不足なし。行くぞファントム、ラビ!」
「いつになく燃えてるじゃん。これは私も久しぶりに暴れちゃう?」
「ほどほどで頼むよ、俺が吐く」
『両者、公顔』
モニター中央に厳つい顔が3つ並ぶ。鼻腔を大きく膨らませ、勝てると自信に溢れ、信じて疑わない表情だ。
「ねぇ、コイツらなんで揃ってチンパンジーのモノマネしてるの?」
天下のAI様にはそう見えるらしい。思わず噴き出しそうになった所をグッと堪える。
『おいおい、銀ピカに翼とは、随分趣味の悪い機体だな』
決闘前の煽り口上だろうか。まあ、色が色なのは認めよう。ただしこれは開発者の趣味だから、俺のセンスじゃないから。
「皆さんも、そのガタイの割には細身の機体なんですね。そんなテクニックが求められるよりも、もっと簡単なレバガチャするだけの簡単な機体今度紹介してあげますよ。娯楽施設の遊戯目的のですけど」
『……潰す!』
「いや、あんたも大概なこと言ってるじゃない」
黙らっしゃい。
「えっと、勝敗はモビルスーツの性能のみで決まらず」
『パイロットの技のみで決まらず』
『「ただ、結果のみが真実」』
『フィックス・リリース』
瞬間、腰部のビームライフルーー、バタフライバスターBを両手に持ち牽制射撃を行う。
狙うは高機動型の2機。当たらなくていい、連携させないようにすればいいんだ。
『チッ!田舎者が小癪なッ!』
「脳筋単細胞な見た目して連携なんて賢しいんだよ!」
とは言え、妨害に徹しているが、内心の焦りが大きくなっていく。やはり実戦の経験の差では圧倒的に向こうが上、俺の射撃の軌道を早くも見切って対応し始めている。実力は認めざるを得ない。でもーー、
「だからってやられる気は更々ない!」
定点射撃を辞めて、機体を加速させる。4基のメインスラスターから一斉に噴き出す蒼炎が生み出すGに、全身がシートに貼り付けられるような衝撃に堪えながら肉薄する。
『コイツ、速い!』
『クソッ!射線が定まらねぇ!』
接近してくる2機のザウォートの壁を抜け、左右にステップ、加速、ステップ、加速を繰り返す。狙いは重装型のザウォートの射線の延長上に味方が入るよう誘導。
狙い通り、モタつく重装型ザウォートの懐に入り込むと、至近距離から射撃。狙うは頭、そしてブレードアンテナ!
『背中がガラ空きだぜ!』
「後ろから2機、もう来たよ!」
「チッ!」
咄嗟に跳躍、スラスターを噴かせ宙返りの要領で背後からの攻撃を回避する。苦し紛れに放ったビームは、重装型の頭を掠めるもブレードアンテナの破壊には至らなかった。
だがこちらもタダでは終わらせない。
すれ違いざまに足裏から小型のダガーを展開、赤熱化した刃が、高機動型の胴体からバックパックを切り裂く。咄嗟の一撃は浅かったが、バックパックには確かにダメージを与えた。
『なに!?バックパックが死んだだと!?』
高機動型の機体の脚を奪った。これで連携は難しくなった筈だ。
着地と同時に機体を滑らせ、バタフライバスターを撃つ。放たれたビームは、鈍くなったザウォートの両脚を、両腕を撃ち抜き、最後はブレードアンテナを宙に飛ばした。これで1機。
『よくも!』
高機動型のザウォートが、動けなくなったザウォートを踏み台にして加速し、サーベルを抜いて切りかかってくる。いや、味方ならその扱いは無いだろう!?
「バタフライバスター展開するよ!」
サーベルが迫って来る前に、バタフライバスターが中央から折れ、畳まれる。そして剥き出しになった場所から、サーベルと言うにはあまりに太い光刃が、ザウォートのサーベルを受け止め、スパークが視界を埋め尽くす。
『今だ、やれ!』
スパークは目潰しか!白んでほとんど見えない視界の端に、重装型のキャノンのマズルフラッシュが見切れた。
「マジかよ」
「このままじゃ当たるよ!」
致し方ない。バタフライバスターを手放し、右に機体をロールさせ、砲撃を躱す。揺れるカメラ映像が鮮明になると、そこには何もない。
刹那ーー、コックピットが揺さぶられ、機体が動かなくなる。いや、正確には動かせない。
「取りつかれたよ!」
さっきまで鍔迫り合いを繰り広げていたザウォートが俺を羽交い締めにしている映像が映る。動けないのはそのせいか!?
『散々手こずらせやがって……』
重装型が距離を詰めてくる。態々ブレードアンテナを狙い撃たずに歩いてくる。
「おいおい、大体想像はついてるけど、本気でやる気か?下がりきった株を自分でさげるとか……」
鈍い音が響き、コックピットが、カメラが左右に揺れる。
『オラッ!オラッ!どうした速く反撃してみろよ』
「何してんの!メインスラスター噴いて焼いちゃいなよ、後ろの奴なんか」
「それは、ダメだ」
確かにラビの指摘通り、この拘束自体はそれで抜けられる。でも、実際にやればどうなるか。おそらく、いや、間違い無く、スラスターの炎で機体は焼かれ、パイロットの命に危険が及ぶ。決闘でもここは学園、本当の戦場で命のやり取りをしているわけじゃない。ルール無用のチンピラの殴り合いでもない。だから命を奪うような事は許されない。それ以上にーー、
「この機体は木星のみんなの夢なんだ、たくさんの想いが積まったMSなんだ。そんなみんなの夢の結晶に、俺が人殺しの烙印を押す訳にはいかない。そうだろ!ファントム!」
「え、何このシステム?ファントムが、答えようとしてる?」
『チッ、抵抗しないのかよ。じゃあこれでサヨナラだな!』
重装型のザウォートがサーベルを引き抜き、振り下ろした。