イセカイ・リコイル   作:おじさん

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遂に書いてしまった…


episode1

 突然だが、皆さんは異世界という物をご存じだろうか?

 

異世界―――読んで字の如く今自分達が生きている世界とは全く違う世界であり、多くの人が剣と魔法のファンタジーな世界である事を想像するだろう。

まぁ、実際剣や魔法のファンタジーな世界である事は本当だ。何で断言できるかって? それは勿論、俺は異世界で冒険をした経験が有るからだ。…まぁいきなりこんな事言われても困惑するだろうし、下手すれば中二病と馬鹿にされるだろう。でもこれは本当の事、マジの出来事だ。

 

 そう…アレは中学2年の正月、貰ったお年玉でお気に入りの漫画を買いに行こうとした時、トラックに撥ねられたのだ。赤信号にも関わらず突っ込んできたトラック、俺は避ける事も逃げる事も出来ず、見事に宙に打ち上げられ、15年にも満たない人生を終えるかと思っていた。だが違った。目を覚ませば、そこに広がっていた者は自分が見た物とは全く違う世界、異世界だったのだ。

 

 そこから先は色々あった。良い事も、悪い事も。…殆ど悪い記憶しかないけど。そりゃ最初は喜びもした、異世界転生なんて俺のからしたら夢にまで見た事だし、ラノベみたいな展開にも何度も憧れた。…でも現実は厳しかった。

 

 

 詳しく説明すると…異世界人は皆がヨーロッパ系の顔付をした外国人顔であり、俺の様なアジア系の顔は異質だった。そう言えば髪の色も金髪や赤髪などカラフルな色が多かったが、黒髪は殆どいなかったし、中世ヨーロッパの世界観である異世界からすれば俺の顔付や外見は宗教的にも生物学的にも異端だったのだ。

 

俺が異世界に来て初めて起きた出来事で、異世界人との初コンタクトを試みた時、少女は俺の顔を見るなり魔物に遭遇したと勘違いし、摘んでいた花やら薬草やらを放り出して全力疾走で逃げられた。村に行く度に「黒髪の亜人が!」なんて罵倒されて襲われていたし、……今思い出したけど、ゴブリンやオークの群れを滅ぼす為に集落に突撃した時に、何故か歓迎されてしまった。

 

 兎にも角にも俺はこの容姿が原因で異世界では文字通りの孤独で、4年間も元の世界に戻る方法を探す羽目になった。

 

 その後も、この顔が原因でトラブルに巻き込まれる事が多かった。と言うか殆どトラブルの原因はこの外見に有るだろう。魔族の亜種だ末裔だの難癖を付けられ牢に入れられる事は当たり前、酷い時は初めて街に行った時兵士全員が臨戦態勢でこっちに魔法を一斉放射なんて事もあったし、最悪奴隷として売り飛ばされ掛けた事も有った。いや、本当にこの顔には苦労した。異世界に整形や染髪いう概念が有るなら喜んで俺は飛び付いていただろう。

 

 だがこんなトラブルだらけの生活は、俺を結果的に強くし、異世界を生き抜く術を身に付けるきっかけにもなった。昼夜襲われる生活を送って居ればそれなりに戦い慣れて来るし、異世界で生き残る為に必要な知識を身に付ける一環として勉強して魔法を身に付ける事もできたし、多くのスキルを身に付ける事も出来た。

 

戦っては襲われ、勉強してはまた戦い、帰る方法を探してはまた戦う。正直何度も死に掛けたし、『魔王』なんて名誉なのか不名誉なのか解らない渾名で呼ばれる様にもなったし、こんな生活が一生続くのかと本気で考えた事も有った。だが異世界に来てから4年後、遂に俺の努力が報われる時が来たのだ。

 

 そう、あれは次元を司る神が祭られている神殿で封印されていたドラゴンを倒した時、突如次元の歪みが発生し、それを通ってみたら、無事日本に帰還する事が出来たのだ。

 

 だが何の神様は俺に何かしらの恨みでもあるのか、帰って来てからは異世界生活以上に精神的にキツい事が多かった。

 

どうやら俺が異世界に行っている間、こっちの身体は昏睡状態となっていたらしく、俺が帰って来て初めて知った事は、俺の処遇を巡って両親は離婚し、親戚諸々一家離散した事だった。

 

正直お先真っ暗だった。俺が旅立ったのは今から4年前の14歳の頃、今俺の年齢は18歳だが実質義務教育は終了しており、高校に行っていない所謂中卒と言う扱い、現代社会において生活するのに必要な職に就く事も難しく、頼れる存在もおらず、途方に暮れるしかなかった。

 

 だが神は俺の事を見捨てなかった。なんせ異世界で俺が異世界で使っていた力―――スキルや魔法はこの世界でも使用する事ができたのだ。勿論色々と制約が有るが、この力のお陰で随分助かった。

 

 そして現在、俺はアパートで独り暮らししながら、異世界で身に付けた『錬金術』を使って純金を生成し、それを売って資金にして生活している。

 

そして今日も『錬金術』で作り出した純金や宝石を家から少し離れた場所にある質屋で買い取って貰い、無事取引も済んだ。

 

純金の値段は1gで7000円前後、売った事は無いが、1㎏の重さにもなると700万円は下らないらしい。数秒で作れる金を売るだけで十分すぎる儲けだ。

 

この数週間でかなり貯金も溜まったし、そろそろ勉強して高卒認定試験でも受けよっかな…そんな事を考えつつ、運動の為に少し遠回りをしてアパートまでの帰り道を歩いていた時。

 

「にゃーん。」

 

何処からか下手な猫の鳴き真似が聞こえた。

 

「なんだ?」

 

 俺は妙な声がした方向に思わず目を向ける、声が聞こえたのはすぐ近く、俺の頭上だ。そこに居たのは木登りをする赤い制服を着たJK。黄色が掛かった白髪で、横顔だけでも十分整った容姿をしている事が解る。

 

 だがそんな赤服のJKは太い木の枝に座っている猫に手を伸ばし、下手くそな猫の鳴きまねをしている。どうやら木から降りれなくなった猫を助けたいらしい。

 

「おーい、そこの赤服の子ー!そこで何をしている、危ないぞー!」

 

 俺はJKを見上げながら、彼女にそう話し掛ける。すると予想通りの返答が帰って来た。

 

「ごめんなさーい!この子、迷子で飼い主に届けなきゃダメなんだけど、降りれなくなっちゃったみたいで—!」

 

 手を振りながら、そう答える少女。彼女の事を尊重して間違ってもスカートの中は覗いていない。本当だよ?

 

「ほーら、こわくないにゃー。こっちに来るにゃー。」

 

 引き続き猫の鳴きまねを続行し、仲間と思わせて捕まえようとしている赤服JK。正直かなり下手だが、彼女の努力が実ってきたのか、猫の警戒心が薄れていき、ほんの少しずつだが近付いて来ている。

 

「…ん?」

 

だがどうやら、彼女は運が悪い様だ。目を凝らしてみると、彼女と猫が乗っている木の枝に少し亀裂が入っているのが見えた。そしてその亀裂はあっという間に広がっていく。そして彼女が猫を捕まえた次の瞬間。

 

「お、おい!」

 

「お?おおおぅ?! ちょちょちょーい!」

 

 少女と猫が乗っていた枝が根っこからポッキリと折れ、少女は猫を抱えたまま落下してしまう。やばい、俺が居る場所じゃ走っても間に合わない。彼女が乗っていた場所の高さは少なくとも4~5m以上、転落して地面に体を打ち付ければ流石に無傷じゃすまないだろう。

 

…っ! 風よ!(テンペスト)

 

俺は無詠唱で魔法を使い、足からジェット噴射の要領で風を放出すると、上空へと飛び上がって落下していく少女を地面に当たる直前で救助する。

 

「おおぅ!?」

 

「大丈夫?!」

 

「う、うん…平気…」

 

風魔法を使って減速した為、着地の衝撃は殆ど感じない。良かった…見た感じ少女に怪我は無いようだ。

 

「猫は?」

 

俺は唯一の不安要素を抱えていたであろう彼女に訊く、落下の勢いは魔法で減速させた。だがもしかしたら猫の様な小動物には何かしらの負担が有ったかも知れない。

 

すると彼女の腕の中から「にゃーん」と可愛らしい鳴き声が聞こえ、ひょっこり無事だった子猫が顔を出してくれた。良かった‥‥何処も怪我していないみたい。

 

「よかった…無事だったみたい。」

 

「そうだね、誰もケガしなくて良かった。」

 

 子猫が無事だった事に安心する様な表情をする少女。だがこの子もかなり無茶する、まさか猫を助けるために5m近い木に登るとは…猫もそうだけど、この子も無事でよかった。

 

俺も皆の無事を確認し、一息吐いて安心していると、赤い制服の少女が、何処か震え声で話し掛けて来た。

 

「あ、あのですね…その…そろそろ降ろしてくれると有り難い…かな?」

 

「あっ!」

 

 瞬間、少女の言葉で我に返る俺。そうだ今この状況、端から見れば俺が彼女をお姫様抱っこしている光景その物であり、彼女にとっても、俺にとっても結構恥ずかしい体勢である事を思い出したのだ。

 

「ご、ごめん!」

 

「ううん! 私は平気だから…」

 

急いで彼女を降ろす。彼女は平気そうに振舞っているが、頬が赤くかなり無理をしているのが解る。ここが異世界じゃなくて良かった…あっちでこんな事が有ったらドンパチ待った無しだし、穏便に済ませたとしても追放モノだ。

 

「その…助けてくれてありがとう。」

 

「い、いや…それ程じゃ…」

 

ヤバイ、彼女の目を直視できない。いざ話そうとすると挙動不審になってしまう。まさか異世界でぼっちだった弊害がここで来るなんて。予想外の事態に内心頭を抱える。異世界に行く前ならそれなりに友達も多かったのに…何で…

 

「ううん、この子も助かったし、私も痛い思いせずに済んだし、助かったよ。ありがとう。」

 

やはりお姫様抱っこされた事は恥ずかしいのか、彼女の顔は赤くしながら、少女はお礼を言う。でも良くできた子だ。こう言った状況、アニメとかならビンタを頂いても珍しくないシチュエーションなのに。

 

「その猫、君の?」

 

「いや、私のじゃないよ。飼い主に逃げたしたから保護してって頼まれていたんだー。」

 

少女に呼応する様に「にゃーん」と再び猫が鳴き声を上げる。成る程、野良猫じゃなくて飼い猫だったか。通りで人懐っこい訳だ。と言う事は無事保護できたし、今から飼い主に返す感じだろうか。

 

「でも本当に助かったよ、一応あそこの枝、ヒビ入っていたのは解ってたけどさ…まさかポッキリ逝くなんて。」

 

「いや、危ないだろ。」

 

 ヒビが入っていたのを知っていた上で登ったのか。ある意味凄い度胸だ。普通なら怖くて登れないぞ。

 

「でも、猫も君も大きな怪我が無くて良かったよ。」

 

「にひひー、ありがとう。 あっ! そうだ、君名前は? 色々助かっちゃったし、後でお礼したいから教えて。」

 

「ああ、自己紹介がまだだったね。俺は柴咲佳斗。君は?」

 

「佳斗君ね、私は錦木千束! あ、さん付けとか無しで大丈夫だから。ち・さ・とでオーケー!」

 

 ふむ成る程…彼女は錦木千束と言うのか…異世界ではあまり知り合いもおらず、基本名乗られる事も無かったからか、こう言ったやり取りは新鮮だ。でもこの子…いきなり呼び捨てを許可するなんてフレンドリーだな…

 

「でさ、佳斗君。」

 

「ん?」

 

「どうしてあの高さまでジャンプ出来たの?」

 

……あ、やっべ。完全に失念していた。

 

 俺は基本的に人前では魔法や目立った技術を使わない様にしている。見つかったり、世間に目を付けられたりでもしたら、即刻拘束され、研究機関に送られて人体実験のモルモットコース待ったなしだ。

 

だが今日、俺は彼女と猫を助ける為に反射的に魔法を使ってしまい、普通の人間じゃ到底不可能な5mの大ジャンプを披露してしまった。彼女は別段悪い人間じゃなさそうだけど、人の口に戸は立てられないと言うのが昔の人の教えだ。

 

この際記憶を魔法で…いや、それは最悪人格に影響が出る可能性が有る。あくまで記憶消去は最終手段とすると…やっぱりどうにか誤魔化すしかないか。

 

「その…それなりに鍛えているから…かな?」

 

「着地の時、衝撃来なかったけど。それも?」

 

「うん…一応足腰には自信あるし。」

 

我ながら壊滅的に下手な嘘だ。何だよ、5mから落下しても足腰に自信あれば無問題(死語)なんて。

 

「ふーん…」

 

 納得している様な口ぶりだが、やはり疑わしいのか警戒の色を感じる。…やはり記憶消去を使うしかないか…

 

「まぁ、そう言う事にしておくよ。」

 

あれ?

 

「その…自分で言って何だけど、いいの? そんなすんなり。」

 

「うん、だってキミ悪い人には見えないし、何か人に言えない事情が有るんでしょ?」

 

「う、うん…その、ありがとね。」

 

「ううん、お礼を言うのは私。助けて貰っちゃったしね。」

 

 何と言うか…悪い人じゃない所か予想以上の人格者で罪悪感を感じてしまう。何で記憶を消すなんて馬鹿な事を考えてしまったのだろう。やはり異世界での事が影響で人間不信になっているのだろうか?

 

「にゃーん」

 

 脳内で一人反省会を開催していると、彼女の抱えている猫が「オレの事忘れんじゃねー。」と言わんばかりに再び鳴き声を上げる。

 

「ああ、そうだった。この子!」

 

 猫を飼い主に返す事を思い出したかの様に、彼女は声を上げる。いや、猫の事忘れてちゃアカンやろ。

 

「それじゃあ、私この子を飼い主に返さないとだから。もう行くね。」

 

「うん、それじゃ。」

 

「あ、私ここから近くにある『喫茶リコリコ』って所で働いてるから、良かったら来てねー!今日のお礼にご馳走しちゃうから。」

 

そういうと彼女は猫を抱え直し、飼い主にそれを届けるために何処かへと去っていく。

 

でも錦木千束か……年は俺と同じくらいだったけど、明るくて可愛い子だったな…確か喫茶リコリコってお店で働いているって言ってたっけ。今度時間が有る時に行ってみようか。

 

ちょっとした楽しみが増えた事を嬉しく思いながら、俺はアパートへの帰路を歩み始める。そとはもう夕暮れ、早めに今日は家に帰ろう。

 

だがこの時の俺は想像すらしていなかった。

 

彼女―――錦木千束との出会いが、自分の人生を大きく変える出来事であり、俺の冒険譚の第二幕がもう開いていた事に。




人気が有れば続けようと思います。
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