イセカイ・リコイル   作:おじさん

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取り敢えず続けてみます。


episode3

 

「鑑定の結果、合計3万円でございます。買取りでよろしいでしょうか?」

 

「はい、お願いします。」

 

 既に日課となった生活費確保の為の純金売買。俺は諭吉3枚を有難く受け取り、店員に一礼すると、質屋を後にする。

 

 純金売買で予想以上に設けてしまった。財布の中には既に諭吉が15枚。銀行に預けている額を合わせれば、相当な額になっただろう。しかし、外回りの最中であるサラリーマン数人とすれ違い、万札を手にしたテンションは静かに下がっていく。

 

……俺、働いていないんだよな‥‥

 

 周りの人間が汗水を流して金を稼いでいると言うのに、やはり数秒間意識を集中させるだけで、働きもせずに金を稼ぐと言うのは些か楽過ぎる物であり、僅かに自分が情けなく感じたのだ。それに……質屋の店員も毎日の様に純金を売り捌く俺を怪しい目で見て来る様で気まずい。

 

 いや……ただ俺が労働と言う存在に飢えているだけかもしれない。何せ異世界では働くなんて事出来なかったのだから。生活費や活動資金を稼ぐために様々な店員の面接を受けた事もあった。だが案の定店主たちは顔を見るなり罵詈雑言の嵐、仮面やローブで顔を隠しても雇ってくれる所もなく、仕事と言っても荒くれた事しか出来なかった。

 

「今のままじゃ就職は……厳しいか。この際バイトでも良い。働き口を探さないと……」

 

 生憎今の俺は中卒と言う現代社会において就職が難しい肩書を持っている。就職支援も無しに俺が社会でやって行けるのは至難の業だ。一応高卒認定試験の勉強はしているし、半年に2回しか実施されないのは結構痛いが、このペースなら今の内にバイトや職業訓練を受けても問題ないだろう。

 

「さて……取引も終わったし、何時もの所寄ってくか。」

 

 純金の交換が終わった後の何時もの習慣。俺はこれからの事を考えながら、最近知った喫茶店へと足を運ぶ。

 

 喫茶リコリコ。数日前少し興味が沸いて立ち寄った喫茶店だが、此処の珈琲は格別に美味い。和菓子も其処らの甘味処より遥かに満足の行く味だ。気が付けばこの数日の内、俺自身の中で小さなマイブームとなっていた。

 

「おお! 佳斗君いらっしゃい! 」

 

 扉を開けて入ってみれば、最近知り合った白髪の少女、錦木千束が明るい笑顔で俺の事を迎えてくれる。今思い返してみると、彼女と馴れ初めは、まるでラノベやゲームのシチュエーションの様だった。つい数日前、千束は木に登ったまま降りれなくなった飼い猫を助けようとしており、偶然通りかかった俺がその手助けをしたのだ。

 

 空いているカウンター席に座り、珈琲と和菓子を一品注文すると、鞄から高卒認定試験の参考書と過去問集を取りだして机に広げる。すると、ここの店主であるミカさんに話し掛けられた。

 

「勉強かい?」

 

「はい、すいません。少しの間やっていっても良いですか?」

 

「ああ、今日は客も少ないし、いいぞ。」

 

 ミカさんから許可も取れた事で、俺は問題を解く為にノートにシャーペンを走らせる。何時もは図書館でやっているが、今日は定休日。ここで勉強するのは初めてだ。

 

 勉強は嫌いじゃない。中学2年の段階で俺の学習は止まっており、4年間も命がけの戦いに身を投げていた為か、帰って来てからは小学生の勉強からやり直す羽目になった。しかし、こうして学を身に付けること自体が幸せだ。

 

 すると周りの客の対応を終えたのか、千束が此方に話しかけて来た。

 

「お? 佳斗君は勉強中?」

 

「ん、ああ……」

 

「へぇ……どんなのやってるの?」

 

 ひょっこりと横から俺が開いている参考書を覗き込んで来る。だが千束は参考書の題名を見た途端、少し驚いたような素振りを見せた。

 

「高卒認定試験?」

 

「アンタ学校行ってないの?」

 

 するとそれを聞いたのか、ミズキさんが割り込んでくる。

 

「はい、色々面倒で……」

 

上手く誤魔化しながら訳を話す。異世界に行ってい事は人には言えない。そもそも言っても余程のミーハーでも信じないだろう。 

 

「おおぅ…ダメな子だ…」

 

「まぁ、アタシの頃も学校通うの面倒だからそれ取ってるの結構居たし、良い手なんじゃない?」

 

「ミズキの時代って何年前だよ。時代は変わるんだよー。」

 

「んだとコラァ!」

 

 相変わらずのキャットファイト。俺もこの光景に大分馴染んできた。最初は女同士の取っ組み合い何て見たことが無かったから本気で心配する事が多かったが、最近になって何となく周りのお客さんが温かい目で見守っている理由が何となく解った気がする。

 

「まぁ‥‥本当の所、俺の場合は面倒とか不登校って訳じゃ無くって、高校に行けてない感じかな?」

 

「何か事情が有るの?」

 

「色々と人には言えない事情が有るの。」

 

「あー、そっか‥‥」

 

 藪蛇であったことを察したのか、深入りせず引き下がってくれる。有難い。此方も余り家族の事や異世界の事は離したくないので、下手に訊こうとしないのはとても助かる。

 

 しかし、やっぱり甘い物を食べると頭が冴えるってのはマジらしい。問題を解くスピードが心なしか速い。それも影響しているのも理由のなのだろうか。高卒認定試験も随分近くなった事だし、そろそろ本格的に勉強に集中しないと。でも珈琲が美味い、これ全部飲んでから勉強しよう。

 

 まさかこんな風にのんびりと寛ぎながら勉強できる日が来るなんて‥‥異世界(あっち)に行っていた頃には考えられなかったな。やっぱり色々法律とか厳しい所も有るけど、現代社会は最高だ。技術も発展しているし、なにより俺の顔を見ても襲い掛かったり、逃げたりする人が居ない。4年間も離れていたから色々時代に乗り遅れるか不安だったが、この生活にも随分と慣れた。

 

 でも‥‥一人暮らししてから解った事だけど。やっぱり親ってのは偉大だったんだな。家事とか滅茶苦茶大変だ。炊事に洗濯に最初は混乱してばかりだった。

 

 そう言えば、父さんと母さん。何しているのかな‥‥俺が異世界に行く前からよくケンカしていたけど、やっぱり離婚したのって俺の所為だよね。異世界に行っていなかったら今頃俺、どうなっていたんだろ。

 

「おい、おーい!」

 

 すると千束が目の前でパチパチを手を叩きながら、呼び掛けて来る。

 

「どしたの? ボーっとして。珈琲もう空っぽだよ?」

 

「あ、ああ……」

 

 試しに手に持っているティーカップを見てみれば、彼女の言う通り中身は空っぽだった。そろそろ勉強に戻らないと。

 

「おかわり入れる?」

 

‥‥やっぱりもう一杯飲んでから勉強しよ。

 

 

 

「あー、結局3杯も頼んじゃったよ…」

 

帰り道、俺は背伸びしながらそう言う。

 

結局あの後も俺は珈琲を3杯、和菓子を3個も注文し、飲食に集中する余り、問題集には殆ど手をつける事が出来なかった。

 

「美味すぎるんだよ……あの珈琲。」

 

子供の理屈の様に自己中心的で無責任な言葉、普通この状況なら俺の自業自得と考えるだろう。だがあの珈琲を飲めば俺の考えも解る筈だ。仮に天国からアインシュタインが降りて来ても、アレを飲めば相対性理論など小難しい研究や論文など全て放り投げて、あの喫茶店に入り浸る事になるだろう。

 

「あたっ。」

 

だが考え事をしながら歩いていた為か、正面から誰かにぶつかってしまった。

 

「すいません。」

 

「痛ぇな! 気を付けろ!」

 

 ぶつかった相手は不機嫌そうにそう吠えるとすたすたと去っていく。だが俺はその場から動かず、その者の背中をじっと見ていた。

 

 今のぶつかった男……堅気ではないな。

 

 異世界で何人もの殺気を毎日の様に浴び続けていた事から。何となくだが、それが分かった。それにアイツの右ポケットの妙な膨らみ。まさか……

 

 人の物を勝手に覗くのは趣味じゃないけど…俺は目を凝らし、静かに『透視の魔眼』を発動する。

 

やっぱり、右ポケットに自動拳銃。更に左には折り畳み式ナイフが入っている。明らかに銃刀法違反だ。

 

銃の所持か認められている欧米ならまだしも、ここは日本。一般人が拳銃を持ち歩いて外を歩くなんて考えられない国。つまり凶器を持っている以上、この男は何かしらの犯罪を行う可能性があると言う事だ。何せ相手が持っているのはエアガンでもモデルガンでもない本物の拳銃なのだから。

 

このまま見逃す訳には行かない。幸いスキルや魔法などの異世界で培った戦闘技術はこの世界でも使える事だし。犯罪が起こる前にコイツを制圧し、警察に付き出すのが妥当だろう。

 

武装した人間一人くらい俺の敵ではない。異世界でそれ以上にヤバイ輩と戦っていたのは伊達ではないのだから。

 

しかし戦うにしてもここは街のど真ん中。監視カメラなどで魔法を使う所を写されたら色々面倒な事になる。ここで倒す事はできない。一先ずコイツを尾行して安心できる所でぶちのめそう。

 

光よ、暫く我を隠せ(ルーズ エスコンデミ)

 

 俺は光魔法で光学迷彩を自身の体に掛けると、相手を尾行し始める。この魔法は姿は消せても音は誤魔化せない。足音や物音に細心の注意を払いつつ、暫く男を追跡していると、突如公園辺りで何者かが男の道を阻む様に立ちふさがった。

 

 それはかつて出会った時の千束と似た服装、唯一違うものは此方はベージュのカラーリング程度だろうか、千束と同じ学校の後輩か? 歯痒い、漸く人気が無くなったと思ったら‥‥

 

いや‥‥違う! この女の子から相当強い殺気、この子も只者じゃない。それにあの子の鞄‥‥やっぱり、自動拳銃だけじゃない、マガジンが3個ほど有る。ヤバイこの状況、ある程度察しが付く!

 

 その刹那、彼女らは予想通りの展開を迎える。一瞬サプレッサーで小さくなった銃声が聞こえた直後、二人の身体が糸の切れた人形の様にぐらりと地に落ちたのだ。

 

 恐る恐る倒れた二人に近付く。どうやら男の方は頭を撃ち抜かれているな、どうやら即死の様だ。これは助からん。

 

「‥‥‥‥ッ‥‥」

 

 だが直後、もう一人の呻き声が聞こえた。もう一人の存在、武装していた女の子だ。

 

 この子は肩をやられたみたいだな…弾丸は貫通しているし、急所も外れている。撃たれた痛みとショックで失神しているだけの様だ。だが意外と傷が深い、このままじゃ後遺症が残る可能性が在る。ここに居る俺以外の人間は皆意識がない、監視カメラも光学迷彩で俺の姿は写っていないだろう。ならば‥‥

 

この者の傷を癒したまえ(クラ・エリィダス)

 

女の子の方に手を翳し、治癒魔法を発動する。あまりこう言う系統は得意じゃないんだが、この程度なら‥‥良し、少しづつだが傷が塞がってきた。

 

 まさか警察に突き出そうと思っていたら男が殺されるとは‥‥生きてしっかりと法の罰を受けさせたかったが、あの状況魔法を使って止めていれば、監視カメラの事も有り、色々面倒な事になっていた、やむを得ない事だったのだろう。

 

 しかしこの子の制服、やはり千束が来ていた制服の色違いだ。どこの学校かは解らないが、銃を持つなんて普通の人間ではない。つまり千束もこの子と同じく銃を持って人を‥‥いや、彼女の雰囲気から人殺しをするような人間ではないのは確かだ。

 

「兎に角、色々調べてみる必要が有りそうだな‥‥」

 

 すると手から発せられた光がふと消える。どうやら治癒が終わった様だ。さて…意識が戻る前にトンズラしなくては。俺は光学迷彩を維持したまま、足音に気を遣いつつ帰路に就くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




光学迷彩はステルスゲームやっている人からすればロマンですよね(力説)


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