イセカイ・リコイル   作:おじさん

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遅くなりました。ガーディアンヒーローズに夢中になって執筆を怠っていました。


episode5

 

 「銃声聞こえたと思ったら、随分状況変わってるじゃん。」

 

 俺は髑髏の仮面の中で白目を剥いた。なんせ良く入り浸っている喫茶店の看板娘が俺に向かって拳銃を向けているのだから。

 

 銃持ってるJKなんてアニメや映画の世界でしか見た事ないし、リアルで存在しないと思っていたが、実例がある以上現実から逃げる事はできない。

 

 この子は銃の取引と何かしらの関係が有りそうだけど、まさかさっきの取引を取り締まるエージェントか何かか? 映画でしかないような武装JKが居る以上有り得る話だ。

 

 正直彼女とは戦いたくない。勿論ここは異世界では無い為殺すつもりは無いが、戦うとなると必然的に女性である彼女に手を上げることになる。異世界でも女性冒険者と戦う事は珍しくなかったけど、やっぱりアレは慣れても結構抵抗がある。

 

「……で? キミは誰? 見た感じそのコート防弾みたいだけど。」

 

 問い掛けて来る彼女に沈黙を続けながら、俺はどうにか彼女を傷付ける事無く事態を収拾できるか考える。この際人格に影響があるかもしれないが、仕方ない。記憶消去魔法を使う他ないか。

 

 記憶消去魔法

 頭を触れた相手の記憶を自分の任意の範囲で消去する魔法だ。だが記憶とはその人間が生きた大事な時間の証、もしこの魔法を行使すれば相手の性格や人格に影響を与える可能性がある危険な魔法だ。

 

 この場合消すのはつい数十秒前の俺が千束とエンカウントしてからの記憶、この程度なら記憶や人格が変化する事は無いだろう。だが初めて会った時、この魔法を使わずに済んだのに、結局使う羽目になるとは……正直残念だ。

 

「ねー、そろそろ何か言ったら? いい加減だんまり止めて欲しいんだけど。」

 

 俺は彼女の言葉を無視しつつ、一気に駆け出すと、彼女の頭に触れる為に右手を勢い良く伸ばした。

 

「おおぅ! 急にどした?!」

 

 だが俺の手は彼女に届く事は無かった。千束は俺の手が触れる瞬間にヒョイと身を翻して上半身だけで回避しやがった。記憶消去魔法は基本的に自分の手で触れる事で初めて発動するタイプの術式だ。これでは使えない。さっきの動きで解ったが千束の奴、中々良い反射神経を持っている。だが身体能力が高いだけでは異世界では生き残れない。

 

 千束の持つ拳銃から発砲音が鳴り、俺の視界に赤い粉塵が舞い散る。

 

「……あれ? 聞いてない? もしかしてそのガイコツマスクも防弾って感じ?」

 

 違う、俺の全身に展開された魔力障壁が俺にふふ害を与える概念を防いでくれているだけだ。だが彼女の弾丸が当たった時に散った赤い煙、何だ? まぁ今は気にする必要はない。お陰で彼女の弱点は見切った!

 

 身体拘束(レストレシオン・フィジカ)

 

 「おおおぅ! ちょいちょいちょーい!」

 

俺は彼女の背後から無数の鎖を召喚すると、彼女の四肢に巻き付くようにして千束の身体を拘束した。

 

 確かに彼女の身体能力は高く、特に反射神経に関しては人間の中でもトップクラスだ。

 

 だがそんな彼女でも弱点がある。それは彼女が彼女自身の視覚に依存している所だ。人間というのは基本的に脳に入れる情報の70%は視覚から取り得れていると聞く、それは彼女も同様。先ほど記憶消去魔法を避けられた時に解った事だが、彼女は俺の攻撃を見てから避けていた。きっと他の人間と比べて非常に目が良いのだろう。だが同時にそれが大きな仇となっている。故に背後や死角などの攻撃にこの子は弱い。しかも魔力で形成された鎖となれば変則的な動きをする、魔力感知ができない人間に避ける事は不可能に近いだろう。

 

 戦闘で一番頼りになる感覚は視覚や聴覚などの五感ではない。脳が直接感知する感覚、第六感だ。この感覚を実戦レベルにまで鍛えないと、異世界で生きて行くのは難しいだろう。

 

「ちょ、何コレ! 動けないッ!」

 

 さて錦木千束、色々聞きたい所も有るけど、君の正体に関しては後々調べよう。生憎君は色々見てしまったし、何よりタイミングが悪かった。悪いけどさっきの事は忘れてもらうよ。俺は今度こそ記憶消去魔法を使うために右手の掌を彼女の頭へと近づける。

 

 『亜人さーん!』

 

 「――――!」

 

 だが瞬間、俺の脳裏に異世界で出会った一人の少女の顔が甦った。そう彼女は俺を匿ったせいで周りから迫害されて……でも何でこんな時に、俺の選択は間違っていなかった筈なのに。

 

 「むー! ちょいちょい!何する気!」

 

 魔法の鎖による拘束から抜け出す為にもがく千束、だが俺の眼はそんな彼女の姿を、その少女の面影と無意識に重ね合わせて見ていた。

 

 そうか俺が何故リコリコに入り浸ったか、その理由が改めて解った。珈琲の味が気に入ったと言うのも勿論理由の一つだ。だが一番の大きな理由で有るのは他でもない、彼女‥‥…錦木千束だ。

 

 異世界で蔑まれ、忌避の対象であった俺を唯一受け入れてくれた一人の少女。白髪であり色白で赤い瞳をした女の子、村娘のネフェルタリに錦木千束は瓜二つなのだ。

 

「―――!」

 

 直後、遠くから違和感を覚える。思わずそちらの方に振り向けば、俺の肩に目掛けて弾丸が放たれた。どうやらスナイパーの様だが、勿論俺には通じない。

 

 「……! 先生!」

 

 拘束されながら絞る様な声を聴きながら、俺は丁度いいタイミングと考え、千束の手から拳銃を奪い取り、装填されていた弾丸を回収する。だがこの弾、赤くて弾力のある素材で出来ている、俗に言うゴム弾という奴だろう。

 

 ゴム弾、つまり相手を殺めず無力化する事が目的の弾丸。さっきの狙撃も俺の急所を狙っていなかった。殺気が無いのが可笑しいと思ったが、俺の事を殺しに来ていないのか?

 

「スナイパーライフルも効かないって……君、ターミネーターか何か?」

 

 魔法鎖に体を縛られながらも冗談めかしてそう言う千束。おそらく彼女の目的は先程俺が無力化した銃取引の犯人の制圧であって、彼女の様子を見るに元より誰も殺す気が無いのだろう。ネフェルタリ‥‥もし君がこの状況に居るとしたら…俺は彼女の目の前に右手を翳し、鎖の拘束を解いてやる。

 

「おおぅ。何、急に。解いてくれるの?」

 

 拘束を解かれても千束は相変わらず此方に銃口を向けて来る。やはり彼女は警戒が解けるまで銃を納めてくれる事は無いだろう。相手が顔見知りという事も有るし、この際平和的に解決したい。

 

「君とは戦いたくない。」

 

「お? 初めて話してくれたじゃん。」

 

 俺は髑髏の仮面に手を掛け、パカッと外して素顔を晒す。

 

「……え? 佳斗君?! マジで?」

 

 気の抜けたような言葉を口にする千束を前に、俺は心の中で真剣に願った。どうか彼女達が平和的に解決する気持ちが有る様にと。

 

 

 その後、臨時休業となった喫茶リコリコにて。

 

 俺は誰も居なくなったホールのカウンター席の端っこでミカさんと向き合う形で座っていた、ミカさんの隣にはミズキさん、俺の隣には千束が座り、俺を囲んでいる。おそらくこれも警戒の意味も有るだろう。因みに俺と千束が倒した犯人たちは清掃員の格好をした人たちに連行された。

 

 空気が重い。まぁ幾ら店の客とは言え、正体不明に加えて、弾丸が通じない相手と来たのだ。それも仕方ないだろう。

 

「改めて聞くが佳斗君、何故君があそこ居た?」

 

 何時ものバリスタとしてではなく、妙に威圧感の有るミカさんが口を開く。

 

「イレルラーズ グランバハマル トナ ガルトエバレリクス」

 

「真面目に答えろ。」

 

 だってしょうがないじゃん、この空気下手したら戦争起りそうなくらいの緊張感なんだもん、異世界語ジョークの一言くらい挟まないと俺の精神が崩壊してまうわ。内心涙目なのを悟られない様に、あの後回収し、手に下げていたビニール袋をカウンターテーブル上に置く。

 

「これは?」

 

「カップ麺です、その……家にストックしてある奴が切れたので買い物にと。その帰りにあの銃取引を目撃しまして……それで……放っておけないと考えて……」

 

 ミカさんはビニール袋からカップ麺数種類を取り出すと、一つ一つ手に取り色々と調べ始める。いや、俺カップの中に爆弾とか発信機とか入れる様なアメリカンな事出来ないんで、大丈夫ですよ。

 

「でも幾ら何でも自分から首を突っ込むのは危険すぎるよ。」

 

 それに関してはマジで返す言葉も有りません千束さん。でもしょうがないじゃん、俺異世界帰りだもん、マジで治安終わっている中世ヨーロッパみたいな世界で4年間も戦っていた張本人だもん。そりゃ悪事を見かけたらゴミ掃除の一つ位したくなるさ。

 

「それで? 一番聞きたい事だが、君は何者だ?」

 

「何者……ですか?」

 

「ああ、そのコートもマスクも防弾の素材ではない。でも私や千束のゴム弾だけでなく、君はあの時実弾ですら防いでいた。それに突然現れた鎖に加えて、銃取引の犯人を掌底一発で10m以上も吹き飛ばしている。明らかに人間とは思えない。」

 

 とうとう恐れていた質問が来てしまった。正直彼女達には嘘を吐きたくない。異世界では生き残るために嘘吐いたし、散々人も騙した。現世に来ているのに、もうあんな真似はしたくない。それに仮に嘘を吐いたらリコリコの人達との関係はこれで終わってしまう。それだけは嫌だ。もし、これを話して悪用されたり、俺に害があった時は、その時はその時だ、戦うしかないだろう。

 

「俺は………数日前に異世界から帰って来た人間なんです。」

 

「………は?」

 

 流石のミカさんも余りに予想外だったのか、鳩が豆鉄砲を食ったような表情をし、先程の緊張感が一瞬だけ薄れる。

 

「弾丸を防いだのも、千束の動きを止めたのも、犯人をぶっ飛ばしたのも全部俺が異世界で学んだ魔法なんですよ。」

 

「ふざけているのか。」

 

「本当なんです。」

 

 するとミカさんは小さな溜息を吐きつつ、棚に置かれている空のティーカップを一つ指差した。

 

「もしそれが本当ならあのカップを浮かせてみろ。そうすればその法螺話を信じてやる。」

 

 なんだ、そんな事なら容易い。風よ(テンペスト)

 

 俺がティーカップをチョイと指差すと風が纏わり、俺が指を上に向ければ、ゆっくりとティーカップは宙に浮き始めた。

 

「……なっ!?」

 

「嘘?!」

 

「えっ……これ、マジ?!」

 

 指をパチンと鳴らし、魔法を解除してティーカップを元の場所に戻せば、3人が有り得ないものを見る様な目で此方を見て来る。この世界に超能力のような異質な力は存在しない。だからこの力は異端なのだから、当然ともいえる反応だろう。

 

「その…‥手品とかでなない……よね?」

 

「ああ、カップには何の変哲もない。」

 

「じゃあ、マジの魔法って事?!」

 

 ミズキさんとミカさんが驚愕する中、千束はに向けてミカさんが尋ねたのと同じような質問をして来る。

 

「君、何なの?」

 

「異世界帰りのお兄さんだよ。ただのね。」

 

 このまま3人に他の魔法を披露するのも面白いだろう。だがそれ以上に気になっている者がある。今度は俺が質問する番だ。

 

「それじゃぁ、今度は俺から質問しても良いかな?」

 

「あ、ああ! 何だ?」

 

 俺がミカさんに訊いたのは簡単な話で、この店についてだ。だが俺が思っていたよりも話は広大だったらしく、予想を大きく裏切るものだった。うん、予想外だ。予想の数倍を超える位の予想外だ。

 

「成る程、この喫茶店の裏の顔はDAとかいう陰で犯罪者をブッ殺す暗殺組織の傘下って訳か。」

 

「ああ、まぁ簡単にまとめるとだが。そうだな。」

 

 正直耳を疑った。なんせ俺が今まで謳歌していた平和は仮初めの者に過ぎず、その治安を保持する為にまさ超法規的措置の暗殺組織が陰で存在していたなんて。……正直言うと、少しがっかりだ。結局異世界とこの世界はそれ程変わりないじゃないか。これでは魔法悪用ルート待ったなしだな。

 

「ねぇ、佳斗君。」

 

 この世界に内心失望し掛けながらも、深い溜息を吐いていると、隣から千束が話しかけて来る。

 

「君さ、リコリコでバイトしてみない?」

 

「……は?」

 

 え? 無職卒業できるの?

 

 




 一応この物語のエンディングまでの展開は考えています。千束との関係はかなり急ピッチで展開されると思いますが、どうしても書きたいラストシーンの描写に必要なのでご了承ください。

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