ゴッドイーターになれなかったけど、何とか生きてます。   作:ソン

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一人称は初挑戦です。
意外に書きやすくてビックリしました。
戦闘から離れた描写もいいものですね。


拝啓、皆さま

 拝啓、前の世界の父上様母上様と僕を捨てやがった父上母上。いかがお過ごしでしょうか。

 僕、セン・ディアンスはこの世界に転生してから凡そ十八年余りが過ぎました。この世界ではアラガミとゴッドイーターの戦いが日夜続いており、僕もそれに関わるようになってきました。と言っても、ゴッドイーターとなるには資質があるらしく、僕にはそれが無かったようです。おまけに運動も出来ていないので、兵士どころか訓練兵にもなれません。そんな訳で僕は――

 

「うーん、やっぱ似合わないか」

 

 頭の中に浮かんだ文章を掻き消した。どうにも僕には文通と言うのが苦手らしい。

 我ながらよく、ここまで来れたものだと思う。

 硬い椅子に座り、首元まで下ろしたゴーグルを弄りながら改めて文章を考え直す。推敲と言うのも実に厄介だ。士官学校で散々、やったはずなんだけどなぁ。

 

「あら、セン。どうかしたの?」

「博士、お疲れ様ですー」

 

 僕の研究室に入って来る車椅子の少女。黒いベールに少し傷跡の残る頬が、何とも言い難い。

 フェンリル極致化技術開発局の副開発室長であり、僕をフライアに誘ってくれた人物。それが目の前にいるラケル・クラウディウスである。

 彼女は言うなれば僕の上司だ。僕が首にゴーグルをぶら下げたり、白衣を着崩したりしているのが許されるのは、彼女の権限のおかげである。

 ちなみにレア・クラウディウスと言う姉がいるが、余り仲は良くない。――と言うか、何か嫉妬されているらしい。だが、神機兵の開発に関しては僕も一枚どころか多分、五枚くらい噛んでいるので、互いに険悪を見せない関係を築いている。

 

「いや、少し懐かしい人を思い出して何か文通でもしようかなと考えたんですけど」

「フフッ、貴方らしくていいと思うわ。出来上がったら私にも見せて頂戴ね」

 

 何というか、彼女。僕などの親しい人以外では、言葉遣いが変わるのだ。

 と言うか、彼女が敬語を使わない相手など僕位しかいないんではなかろうか。尤も、それに対して僕が何も言えない事と彼女に頭が上がらないのは立派な事実である。

 

「それで、博士はどうしてここに?」

「えぇ、ジュリウスから貴方宛てにレポートが届いたわ。フォールトラップの実戦検証みたいね」

 

 フォールトラップとは、僕の作成したアイテムである。現在、世界中で使われているトラップアイテムは、動きを止める『ホールドトラップ』。ヴェノム――まぁ、簡単に言うと毒の元となる奴を大量に流し込む『ヴェノムトラップ』。封神――アラガミの攻撃力を下げたり感応種の場合は感応能力を封じ込む元となる奴を流し込む『封神トラップ』。

 この三つだけである。強いて言うなら閃光手榴弾――俗にいうスタングレネードも含めれば四つだけ。そう、たった四つだけだ。アイテムは多ければ多い程戦略が広がり、生存率が高まる。

 なら、僕に出来る事と言えばゴッドイーター達のサポートしかない。

 その一つがこのアイテム作成である。

 ちなみにフォールトラップは士官学生時代から構想していたアイテムの一つだ。尤も、教師や同級生にはアホ臭いって笑われたけど。

 余談ではあるが、僕は前の世界で『ゴッドイーター2』をプレイしていた経験が無い。プレイしてたら、その時の感想を元にしてもっと早く作成に取り掛かれていたんだろうけども。どちらかと言うとロボットアクションゲームが多めだった。

 

「ヴァジュラやシユウみたいな歩行するタイプには効果が高かったみたい。けどグボロ・グボロやサリエルにはほとんど効果が無かったようよ」

「足を使って移動しないアラガミ……。そっちにはホールドトラップの方がいいですね。捕縛時間は?」

「えぇ、ホールドトラップの倍は拘束出来ていたそうね。さすがに地中へ引きずり込まれたら出るのに時間はかかるでしょう」

 

 フォールトラップ。理論はオラクル細胞の偏食因子を利用しただけである。

 設置自体はホールドトラップと変わらない。中に詰めているオラクル細胞には、『動いている物を嫌い、止まっている物を喰らう』偏食因子を投与している。アラガミがトラップを踏むと同時にその作用が発動し、オラクル細胞が地面を喰らう。それで完成した穴にアラガミが落ちる訳だ。

 ちなみにオラクル細胞自体の持続時間は凡そ数秒程。だがその数秒でアラガミが動けなくなるほどの穴を作るわけだから恐ろしい。

 そしてオラクル細胞は地面と同化するために、穴は塞がる。これによって、ゴッドイーター達が自分で作った穴に嵌ると言う事態は回避される訳だ。

 

「落ちると言うのは、アラガミにとっても未知の経験でしょうね。これで本部から使用許可が下りれば……」

「いえ、その必要は無いわ。ブラッドにしか使えないアイテムにするから」

「ですよねー」

 

 何度か作成したアイテムの使用と流通の許可を貰うため、本部に連絡をした事がある。しかし本部は真面目に取り合わず、提出しようとした許可願いとサンプルはその場でとんぼ返りと言う結果しかなかった。

 やっぱり、士官学校時代の成績でしか物事の尺度を判断されないのだろう。成績ギリギリで卒業した者の事など全く相手にされない。

 

「ブラッドの最高責任者は私とセンよ? なら問題は無いでしょう」

「あー、はい。そうですねー」

 

 椅子から立ち上がった後に背骨を鳴らす。パキパキと心地よい音が響いた。

 体に悪い行動とされているが、最早病みつきになった以上仕方がない。健康と行動がすぐに結びつく事など不可能なのだ。

 そういえばもうすぐブラッドの新しい候補生が二名来るらしい。両方とも女の子と聞いた。今のブラッドは男子二人なので、性別的にはつり合いが取れるだろう。

 そんなどうでもいい事を考えながら、時計を見れば既にお昼時。そろそろ話題転換に入ろうか。

 

「博士、お昼は食べました?」

「いえ、まだね。センは?」

「丁度、今食べようと思ってたんです」

 

 ――尤も、僕も博士もそんな必要は無いのだが。

 しかし博士は微笑んで、反応を示してくれた。

 

「あら、奇遇ね。それじゃあ、私の研究室に行きましょうか」

「了解です」

 

 博士の車椅子を押して、研究室の廊下に出る。僕の研究室は博士の研究室のすぐ隣だ。反対側には、局長室がある。今頃、グレム局長が葉巻を吸いながら金の産物を眺めている頃だろう。彼との関わりは余りない。局長は成績や過程などどうでもいいと言いはり、結果だけが全てと言う人だ。ある意味僕にはそれがありがたい。

 廊下には誰もおらず、そこから見えるステンドグラスには一人の少女が描かれていた。

 

「――神を喰らう者、か」

 

 ゴッドイーター。人類の持つ最後の希望。

 アラガミ。人類種の天敵。

 今の世界はどちらかに区分される。叡智の牙を極限まで高めた人類か、神々の名で敬称される獣か。

 ジレンマなんて僕らしくも無いのになぁ。

 

「? どうかしたの、セン」

「博士、僕は――。いえ、僕らはどっちなんでしょうね」

「……そうね、私達はどちらでもない。でも、それでいいと思うわ。その答えはきっと、運命の中で見えるでしょう」

「……見える、か」

 

 見えない物が見える。それは難しい事だと、僕は思う。

 見るのは、それがあると分かっている事が前提だからだ。つまりは前以ての知識と理解が必須である。そこから仮定し、想像し、確信する事でようやく見えるようになる。

 今の僕の目に見えるのは――。

 

「それにしても、随分と哲学的な話ね。センにしては珍しいわ」

 

 頬へ手が伸びる。少し冷たくて、柔らかい。

 やがて、それは徐々に強く――なっ……て?

 

「いだだだだ!」

 

 頬抓り。博士がしていたのはそれだ。

 それでも車椅子のハンドルを微動だにさせなかった僕の精神力を誉めてほしい。

 

 

「大丈夫、センは無能じゃない。私が保証する」

 

 

 両手で顔を包まれ、深緑の瞳がじっと見つめて来る。

 無能――それは僕の学生時代から続く今のあだ名である。運動も出来ず、成績も最悪。卒業できたのは、十年に一度の奇跡と言われた程。

 だけど、そんな僕に手を差し伸べてくれて、ここまで導いてくれたのは彼女のおかげだ。

 

「落ち着いたかしら?」

「……えぇ、おかげさまで」

 

 その彼女に報えるように。

 見返すためじゃないし、自分の名を高めるためでもない。誰かを見下すためでもなければ、誰かを破滅させるためでもない。

 彼女が僕を受け入れてくれた心。優しくて、温かい生きるための力。その心を、今度は僕が色んな誰かに伝えるために。それが今の僕の生き方だ。

 

「じゃあ、食事にしましょう。博士」

「えぇ」

 

 

 

 拝啓、皆さま。僕、セン・ディアンスはフライアで今日も生きています。

 

 

 

「私初恋ジュースが飲みたいわ。もちろんセンもよね?」

「……も、勿論です」

 

 

 

 

 


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