ゴッドイーターになれなかったけど、何とか生きてます。   作:ソン

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難産の一話です。意外にも二話構成に別れました。
ちなみに話の後半で、センが何か思いついていますが答えが分かった方は感想でのネタバレをご遠慮ください。
ぶっちゃけ、ゴッドイーターやモンハンをやり込まれた方ならすぐにわかると思います。


ちなみに戦闘シーンですが考えた結果、三人称となりました。一人称だと、どうも誰視点にしようか迷うので……。


金色の雷獣×3

 

 

 

 僕は研究室で、要請されたオペレーター依頼に疑問をぶつけていた。

 マルドゥークに加えてヴァジュラ三体。こんなのは正規の任務でもない。一支部が総動員で動く事態だ。小型種もしくは中型なら分かるが、大型が合計四体。これを一部隊で突破しろと言うのだ。

 依頼主はグレム局長。彼は過程を気にせず結果だけに執着する。そういった人は扱いやすくもあり扱い辛い傾向にある。この場合は後者だ。こればかりは彼を恨もう。

 

「どうして撤退命令を出さないんですか!?」

『セン博士、感応種の討伐記録は未だに無いのだ。なら、討伐すれば莫大な利益になるだろう。他に理由がいるか?』

 

 その言葉を聞いた瞬間、僕は頭の中が真っ白になる。ガツンと殴られたような感じだ。

 金の亡者とは思っていたけど、まさかそこまでとは思わなかった。……いや、多分分かってた。だけど僕が目を逸らしてただけなんだ。

 こういった事も呑み込んでいかないと。今までだって出来たんだ。だからこれからだって出来る。

 

「……」

『おい、どうした。分かったのならさっさと行動に移れ』

「……分かりました」

『物分かりがいいのは、貴方の長所だな。セン博士』

 

 そう言って通信は切れる。

 僕の手は強く握りしめられていた。

 落ち着け。落ち着け。

 今するべきは感情に身を任せる事じゃない。

 僕に出来る事をするだけだ。

 

「マルドゥークとヴァジュラ三体……」

 

 ヴァジュラの討伐経験があるのはジュリウスとロミオの二人。それ以外は恐らく無し。

 感応種の討伐経験は誰も無い。つまりマルドゥークに関しては完全に初見で挑む事になる。

 

「機器異常無し、オペレーターバイタル異常無し」

 

 モニターを映し、ヘッドセットを装着。周波数を調整し、通信準備を整える。

 どうやらジュリウス達は無事隠れているらしい。救援が来るまで凌ぐと言う事だろう。

 ならこちらから通信しても問題ない。戦闘中の場合は、自重しなくちゃいけないけど。

 

「行こう」

 

 

 

 

 

 

 現在、ブラッド隊はそれぞれが散開して姿を隠している。無論、撤退の命令待ちであり大型アラガミ四体と同時に戦うなど、自殺行為にも等しい。そのため、今回は撤収こそが当然だとジュリウスは考えていた。

 その最中、ジュリウスは通信が届いた事に気づく。

 

『通信回線は良好。機器の異常無し。うん、再確認完了』

「セン? ……なるほど、そういう事か」

 

 何故センがオペレーターとなったのか、その真意にジュリウスは歯噛みする。

 任務は続行、恐らくあの四体のアラガミを撃破するためにセンがオペレーターとして宛がわれた。

 

『うん、任務は継続。目標はヴァジュラ三体にマルドゥーク一体』

『……ちっ、道理で撤収命令がこねぇのは、あのおっさんの差し金か』

『グレム局長……まさかそこまで』

 

 任務の継続を知らされた時、全員の脳裏にはグレムの姿が過ぎっていた。彼ならばそんな事すら容易にやりかねない。

 ギルの苛立つ声に、ネルの失望する声。だが今すべきは罵倒じゃない。

 生きる事だ。

 

「さて、ここからどうする、セン」

『状況を教えて欲しい。今から考えるよ』

 

 ジュリウスは物陰から崖を伺う。その先にいるのは白銀の紅狼、マルドゥーク。それが見下ろすは三体のヴァジュラ。

 その連携は凄まじく、七人がかりでも防衛一方だ。何一つ崩せない。攻撃特化のロミオとネルがかろうじて僅かに揺るがせた程度である。

 

『……まるで観戦してるみたいだ』

「その通りだ。アイツは一回も崖から降りてきていない。これは予測の範疇だが、恐らくヴァジュラへ連携の指示か何かを出している可能性が高い」

『そうか、なら考えられるのは。……うん、まず案が二つ浮かんだ。どちらも賭けだけど』

「話してくれ」

 

 恐らくヴァジュラは間違いなく捕捉をしている。強襲を掛けてこないのは、マルドゥークの指示を待っているからだろう。

 つまり、マルドゥークの意志はこういう事だ。

 

“待ってやろう。死ぬまで遊んでやる”

 

 紅狼は、火の粉を散らす鬣を悠然と風に靡かせて次の行動を待っている。風に流れる火の粉は徐々にフィールドの熱気を加速させていくだろう。

 余り長居も得策ではない。

 

『まずマルドゥークだけを集中砲火する方法。Oアンプルを全てシエルとネルに渡して、スナイパーによる狙撃の連射で仕留める。そうすれば――』

『ヴァジュラの連携を崩して、同士討ちを狙うことが出来るって事だろ?』

「……なるほど」

 

 Oアンプルの残量を確認。改良版もあるため、合わせて八個程。強制解放剤・改もあるため、バースト状態での回復も十分。

 前者の作戦条件は既にクリア。

 

『うん、そしてもう一つは、二人一組で分けてヴァジュラを先に潰す方法。この場合も火力勝負だ。シエル、ロミオ、ネルの三人が必ず別々の班になる必要がある』

 

 ジュリウスは編成を確認する。現在、散開しているチームはジュリウスとシエル。ロミオとギルバート。ネルとナナとエミールの三組。

 後者の作戦の条件は既にクリアしている。

 

『だけど、どちらも運任せになる。前者はOアンプルが切れればヴァジュラを相手にする必要がある分、乱戦を強いられる。だからこちらの被弾率も大幅に上がる』

「後者は?」

『時間はかかるけど、確実に仕留めていく事で被弾率は大きく下がる。だけどマルドゥークにアクションを起こされたらアウトだ。結局、乱戦になる』

「封神トラップは?」

『以て数秒程。それにマルドゥークへの攻撃手段が必要になるから結局、意味が無い』

 

 センから提示された作戦は二つ。どちらかを決める必要がある。

 ならその手段をどうするか。

 否、そんな事もう既に決めている。

 

「セン、作戦の判断はお前に任せる」

『! おい、ジュリウス!』

「それは危険すぎます!」

 

 ギルバートとシエルの意見も確かだ。ジュリウスはブラッドの隊長であり、実戦経験も多い。

 ならば彼が作戦を決めるのが普通だ。

 しかしジュリウスは、何の迷いも無く躊躇も無く選択をセンへ託した。

 

「セン、オレの命をお前に預ける」

 

 その言葉の真意を、センは見抜く。

 もし作戦が失敗すればその時はジュリウスを置いて、他のメンバーは逃げさせろ――そういう事だ。

 

『なら、僕の首を君に託す』

 

 センもまた返答する。

 作戦が失敗すれば、その時彼は全てを失う。

 その言葉に、ジュリウスは笑う。

 

『……ったく、分かんねぇなお前ら。で、どうするんだセン博士』

『……後者だ。まず先にヴァジュラを潰そう』

「了解した。引き付けはどうする?」

『シエル、ギルバート、ネル。銃形態で最も近いヴァジュラを狙撃して誘導してくれ』

 

 通信機から、変形の音が聞こえる。

 既にスタンバイに入っているのだ。これからは二人係でヴァジュラを潰さねばならない。

 出来るか、出来ないかでは無い。やるしかない。

 信じてくれた友のために、全力で答える。

 それが今、成し得る事。

 

『エミール』

『な、何かね!?』

『回避に集中するんだ。反撃と防御は考えなくていい。優雅な、騎士のようにね』

『――フッ、フフフッ! そうか、任せてくれセン博士ッ! このエミ――』

「――全員狙撃」

 

 エミールの言葉を掻き消すように、ジュリウスが発砲を指示。

 それぞれのヴァジュラへ着弾し、各々が散開する。

 その方向は三方向。まさしくセンの読み通り。

 

「行くぞ、シエル!」

「はい!」

 

 ジュリウスの心に恐怖など無い。あちらにはマルドゥークがいる。しかしこちらにはセンがいる。ならば出来るのは信じて応えるだけ。

 今、最大の攻防が幕を開ける。

 

 

 

 

 

 僕はすぐに次の作戦を練る。三方向への誘導、これは成功した。そしてマルドゥークが呼び寄せない所を見ると、どうやら本当に観戦してるだけのつもりらしい。

 今までのアラガミとは異なるロジック。こちらの行動を伺うような動作。そして待つと言う捕喰からは何とも離れた動作。これから証明されるのは――。

 

「人と同格の知能を持っている……?」

 

 感応種の生態は未確定である。何ら不思議な話では無い。

 もし作戦に気づかれれば、すぐに対応されるだろう。相手に知能があるのならば、それはいつ進化をしてもおかしくない。

 合流されれば終わりだ。ヴァジュラそれぞれの体型は似通っているため、一体どの個体にどれだけのダメージを与えたのかが不明になってしまう。そうなってしまっては全て白紙だ。

 考えろ、考えろ。マルドゥークが痺れを切らす前に。

 

「何か目印になる物……なる物」

 

 ペイントボールとかあればいいんだけどね。作ろうと思っても、インク捕喰されちゃうから出来なかった。

 ふと視界に映るのは机の上に乗った折れたボールペン。僕の心臓に刺さって折れたまま。何故か捨てようとしたらラケル博士の命令で保管する事になった一品。

 

「……! そうか!」

 

 すぐに全員のスキル一覧を出す。神機の構成によってゴッドイーターの戦闘能力は大きく変化する。それぞれの神機がコアへ特徴となる変化を与えるからだ。それを僕らはスキルと呼んでいる。

 例えば、銃器をメインに使うゴッドイーターならオラクルポイントに作用するスキルを使えば、戦闘能力が大幅に向上する。

 この中でも一番の攻撃特化はネルちゃんだ。

 全力攻撃に剣の達人、どちらも威力を上昇させるスキルだ。そして威力手数共に優れたロングブレード。ジュリウスはどちらかと言えば粘る方――防御型である。

 だがモニターを見れば、もう恐ろしい程の連撃をヴァジュラに叩き込んでいる。何て言うか格ゲー並のコンボだアレ、言うなら世紀末的な。多分、言う頃には終わっている。

 だとすれば、次の起点は。

 

「ジュリウス、ロミオ。頼みたい事があるんだ――」

 

 そしてもう一つ、僕の心には予測が生まれていた。

 エミールがいるおかげでもしかしたら試すことが出来るかもしれない。

 ――普通の神機使いが、感応種相手に戦う事が可能になる手段が。

 

 

 

 

「こ、のっ!」

 

 ネルが斬り上げた一撃でヴァジュラが大きく仰け反る。

 そのまま前足で踏みつぶそうと迫るカウンターを背後へ跳んで回避し、スナイパーで顔面を狙う。

 

「ふはははっ、来い闇の眷属よッ!」

 

 エミールの動きはかなり俊敏である。ブーストハンマーの重さが加わっているはずだと言うのに、その動きは素早い。例えるなら常にチャージグライドみたいな。

 

「おりゃー!」

 

 ナナのハンマーによる一撃が、後脚へ炸裂しヴァジュラを転倒させた。

 瞬間、ネルは弾かれたように飛び出し、ヴァジュラの顔面を滅多切りにする。叩き付けるかのような動作を、何度も高速で繰り返し再度、大きく斬り上げた。

 

「ナナ!」

「任せて!」

 

 ネルが横へステップすると同時に、再度ナナによるブーストハンマーのラッシュがヴァジュラの顔面へ叩き込まれる。

 そして止めと言わんばかりに頭上から振り下ろされる鈍重の一撃。それはヴァジュラの顔面を結合崩壊させた。

 

「やった! あと少し!」

 

 そう思った矢先、突如咆哮が響く。

 見ればマルドゥークが雄叫びを挙げていて、螺旋に渦巻く紅色のオーラを噴出させていた。

 全員がその様子を見ていた。そして嫌でも分かる。

 あれはマルドゥークの出した命令であると。

 

「……そんな」

 

 心に絶望が穴をあける。

 それと同時にヴァジュラが三人を見向きもせず、マルドゥークの元へ走り去っていく。

 

「合流……しちゃった……」

 

 ――センの作戦が、失敗した。

 

 


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