ゴッドイーターになれなかったけど、何とか生きてます。   作:ソン

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マルドゥーク&ヴァジュラ戦中編です。
主人公が一切出ていない……。仕方ないですね、非戦闘員の宿命ですから。
次回、決着です。


騎士道

 

 

「ラケル、本当にこれでいいの?」

 

 レアはラケルにそう進言していた。

 現在、ブラッド総員はマルドゥーク一体とヴァジュラ三体。合計四体の大型種と交戦中。大型種討伐経験保持者は、半数にも満たない。感応種討伐経験に至ってはゼロ。

 本来ならば撤退を告げるべきである。多くの者がその選択をしようとしていたが、突如ラケルとグレムが止めたのだ。

 

“センに任せましょう。彼とブラッドなら、必ず生き残ります”

“ブラッドに加え、セン博士もいるのだ。失敗などあるはずがなかろう”

 

 結局、二人に押し切られる形でセン・ディアンスにオペレーターが委任され、ブラッドは交戦状態となっている。

 フライアの中では誰もがミッションのモニターを食い入るように見つめる頃だろう。

 

「お姉様はご不安なのですか?」

「……少しね」

「ご心配には及びませんわ。センとブラッドがいるのですから」

 

 レアはセン・ディアンスと言う少年を推し量れていない。無論、彼の能力が高い事は彼女も認めている。だがどこか、安心出来ないのだ。

 それはただ一重に、彼が達観し過ぎているからである。要するに、彼の反応は年齢不相応だ。それが純粋に不気味だった。

 ――否、そう感じるのはたった一つの真実のせいだ。

 

「それとも、センが怖いのですか?」

「……そんな事、無いわ」

「フフッ、体は正直ですわね。お姉様」

 

 レアの肩が少しだけ震えている。

 彼女は知っているのだ。センの正体を。彼の呪われた体を。

 分かっている。彼がとても優しい人物であることは分かっている。

 宿命――その言葉はレアのトラウマを抉るのだ。彼女の罪を。彼女が妹に与えてしまった物と同じ宿命を、彼は辿っているのだから。

 

「私も、センの深くは知らないのですから」

「……えっ?」

「不思議とは思いませんか、お姉様。センは私達と変わらない年なのに、既に私達を突き放す領域にいます」

「突き……放す?」

 

 ラケルの視線はモニターを見つめている。ヴァジュラと交戦するブラッドの姿が映っていた。

 

「センは研究者として私達と同じ段階まで並んでいます。それだけなら、まだ世間で言う天才なのでしょう。――ですが、オペレーターとしては私達を遥かに突き放しています。ほら、不思議に思いませんか?」

 

 あっ、とレアは呟いた。

 ようやく気付く。彼が持つ一端に。

 物事を極めると言うのは、果てしない道だ。どれだけ時間を掛けたとしても容易にたどり着けるものではない。

 だと言うのに彼は――。

 

「彼は一体どこで、オペレーターとしての力を学んできたのでしょうか」

 

 

 

 

 

 

 頭が真っ白になると言うのはこういう事なのだろう。

 ネルはまさしくその状態だった。

 センの作戦は、マルドゥークがアクションを起こす前にヴァジュラを一体でも倒しきると言うのが目的だ。

 そしてネル達が相手にしていたヴァジュラは残り僅かの攻撃で沈む。そう思わせる程、瀕死の状態だった。顔面の結合崩壊まで起こしたのだ。そこまで至れば、最早新入りのゴッドイーターでも倒しきれる。

 しかし、今そのヴァジュラに逃げられ合流されてしまった。作戦は見事に破綻した。

 

『よし、次の攻撃だ』

「……え?」

 

 センの言う内容が意味できない。

 倒しきれなかったと言うのに――。

 

「――ッ!」

 

 瞬間、ネルは神機を銃形態へ切り替える。

 すぐにスコープで狙いを定めた。

 

『顔面が結合崩壊しているヴァジュラに狙撃。ナナとロミオとエミールは回復錠を使用して』

 

 迷うまでも無い。これならば容易に区別がつく。

 ネルが引金を引くと同時に、狙いを定めたヴァジュラへバレットが殺到する。それも大きく負傷している顔面へ集中。次々と穿たれたヴァジュラは体を大きく仰け反らせ、断末魔の咆哮を上げて倒れ込む。

 ――ヴァジュラ一体目、撃破。

 

「仕留……めた……?」

『残り二体、これなら三人にチームを分けられる。二体に対して間合いを広げながら交戦をして。多分、マルドゥークはもう分断させるつもりはないから、この手は使えない』

『了解した。人員はこちらで考えていいな?』

『うん、任せる。マルドゥークから攻撃があったら知らせるよ』

『助かる』

 

 通信が終わると共に、ジュリウスとギルがそれぞれのヴァジュラへとバレットを撃ち込む。

 ロミオが続いて飛び出し、ジュリウスがバレットを撃ち込んだヴァジュラへと斬りかかっていく。 それを援護するようにシエルが狙撃を行い、ヴァジュラの足止めする。

 ネルが素早く姿勢を屈め、ギルが狙っていたヴァジュラへ剣戟を浴びせた。斬撃を交錯させた二連撃。振り向こうとするヴァジュラの前足目掛けてインパルスエッジを繰り出し、転倒させた。その間、僅か三秒。驚異的な速度だった。

 それを見計らったかのように、ナナがブーストハンマーでヴァジュラの顎を打ち上げる。

 

「そいっー……やーっ!」

 

 そのままナナは弾かれたようにブーストハンマーを真上へと振り抜いた。

 ヴァジュラの巨体が持ち上がり、仰向けに再度転倒する。

 ネルが再度、攻撃態勢に移ろうとした時、彼女の直感が何かを嗅ぎ取る。

 

『マルドゥークが攻撃準備に移った! 注意して!』

 

 センの言葉にネルが振り返った。

 マルドゥークが崖の上から、前足を構えている。まるで何かを打ち出すかのような動作に、ネルは硬直した。

 来るのは間違いなく遠距離攻撃。だが、ヴァジュラと挟み撃ちになった格好だ。このまま、ヴァジュラへ攻撃を繰り返し、その遠距離攻撃をぶつけるか? ――否、ヴァジュラが復帰するまでマルドゥークは待つだろう。

 もしそのまま倒されれば、ジュリウス達へそれを撃ち込むに違いない。

 マルドゥークが打ち出す。――それは灼熱の火球だった。長い時間を掛け、蓄積されたそれはフィールド全体に及ぶほどの熱気を生み出す。人が触れれば蒸発してしまう程の温度を持ったそれが、弾丸の如く迫る。

 回避か、迎撃か。迷う暇は無いが、決断が僅かに遅れる。

 

「まはへたまえ!」

 

 飛び出したのはエミールだった。

 口へ何かを加えている。何かの道具のようだが、ネルは見た事が無い。――否、見た事がある。手に取った事は無かったが、市販されているアイテムだ。

 しかし今は一刻を争う。その名へ辿り着く前に、まず彼を止めなければ。

 

「っ! エミール、下がって!」

 

 エミールの神機は起動していない。言うなれば、神機としての能力を失っているのだ。それでアラガミの攻撃を止めようとすれば、まず間違いなく神機は破壊される。

 ネルが駆けだそうとした途端、エミールの体が仄かに発光した。

 

「……ッ!?」

「セン博士ッ! 貴方のおかげで僕はまた一つ前へと進めるッ! 闇に負けぬ光を、手にすることが出来るッ!」

 

 バースト状態。神機とゴッドイーターのオラクル細胞が活性化した状態だ。バースト状態となったゴッドイーターは、強化と言う恩恵を受ける。エミールは現在、その状況になっている。

 だがそれには捕喰が必要な筈。しかし、エミールは捕喰していない。まるで強制(・・)的に神機を解放(・・)させたような――。

 

「おおおおっ……!」

 

 エミールの神機――ブーストハンマーが待ちくたびれていたと言わんばかりに轟音を鳴らし、火球へと突撃する。

 拮抗状態――。火球の威力とブーストハンマーの破壊力が衝突しあっている。

 エミールが神機ごと押されつつあり、彼の足は地面に平行線を刻みつつあった。

 

「フ、フフフ、闇の眷属よ聞くがいい」

 

 歯を食いしばりながら、エミールは声を絞り出す。

 こうでもしなければ負けてしまう。彼の魂がそう感じたのだ。

 

「確かに人類は脆い。簡単に壊れ去り、容易く崩れ去ってしまう」

 

 ブーストハンマーはさらに音を立てる。青い炎がさらに燃え上がる。それに呼応するように、エミール自身の力がさらに湧き上がる。

 

「だが、人には絆があるッ! 繋がりがあるッ! 思いがあるッ! それを束ね、一つの道へと導く事ッ! それが、それが僕のッ――!」

 

 押されていたエミールの足が止まる。同時に、彼の体が僅かに動いた。

 闇を払う一振り。それと共に彼は吼えた。

 

「騎士道ォォォーッ!」

 

 一撃が振り抜かれ、火球が打ち返される。それは真っ直ぐに、ジュリウス達の狙っていたヴァジュラへと向かっていく。

 マルドゥークが時間を掛けて蓄積されたその一撃に当たれば、ヴァジュラと言えども一撃で屠られるだろう。その上、弱点属性でもあるのだ。

 しかしヴァジュラは俊敏な移動を得意とする。そしてマルドゥークがいる以上、回避など容易い。

 

「――と、でも思ったか?」

 

 ジュリウスがヴァジュラの足元へ何かを投げ込んだ。

 同時に、その巨体が地面に沈む。

 フォールトラップ――センが用意した足止め用の罠。足を取られたヴァジュラなど最早機動力すら皆無。ただの的に過ぎない。

 灼熱の火球がヴァジュラへと直撃し、その身を焼き尽くし蹂躙する。業火に焼かれながら、ヴァジュラは静かに息絶えていった。

 ヴァジュラ、残り一体。

 

「セン、どうやら本陣から引きずり出したようだぞ」

『うん、ここからが本番だ』

 

 ジュリウスの視線の先。

 崖上で佇んでいたはずのマルドゥークが今、高らかに吼えた。

 

 

 

 


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