ゴッドイーターになれなかったけど、何とか生きてます。   作:ソン

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恐らく今年度、最後の投稿です。次は春くらいになるかもしれません。
……あまり進んでないですね、反省しないと。

次の更新がいつ頃になるかは不明ですが、気を長くしてお待ちいただけたら幸いです。


彼我

 

 

 僕の研究室に入ると、ラケル博士とジュリウスがいた。

 

「時間通りね、それじゃあセン。貴方に任せていいの?」

「はい」

 

 今から僕がジュリウスに話すのは僕が知り得る限りの全てだ。そして僕とラケル博士の目的。

 現在、話を済ませているのはグレム局長とレア博士、そして榊博士の三人だ。榊博士の方は、ラケル博士が済ませてくれたらしい。

 

「ジュリウス、今から君に話すのは全て真実だ」

「そうか。聞こう」

 

 そして僕はジュリウスに全てを話した。

 この地球のシステムの事、赤い雨、僕達の目的、そして僕が持つ謎の力。

 僕が知り得る限りの全てを、話した。

 その間、ジュリウスは頷くだけで一回も口を挟まない。ただ僕の目を見て、黙って聞いてくれていた。

 一通りを話し終えて、漏れが無いか、分かっていない事を話していないかを省みる。ラケル博士と目が合うと、博士は無言で頷いてくれた。

 

「これが、僕達の目的。僕とラケル博士が考えた、人類の救済策」

「……発案はラケル博士が?」

「そうよ、センの力ならそれを大きく進められる。私だけでは限界があるけれど、センがいるなら――」

「――センはまだその力を使いこなせていないのか」

「……うん、いつから使えるようになったのかは分からない」

 

 僕の正体に関してだが、それはもう見当がついている。だがどうしてそういう経緯になったのかが分からないのだ。目的を果たすための力――それを使いこなすために、僕は僕の運命を知る必要がある。

 

「つまり、セン。お前は次の作戦で」

「最初からそのつもり。……これは、僕にしか出来ない事だから」

「……そうか」

 

 ジュリウスの表情が少し曇る。僕だって、親友と離れるのは寂しい。

 だけど、こればかりは仕方ないから。

 

「セン、なら約束をさせてくれ」

「……」

「いつかまたお前と出会えた時、再び友としてお前の隣に立つ。そう、約束させてほしい」

 

 ――約束。うん、ネルちゃんの時もそうだった。

 どうして僕はいつも。

 

「うん、僕も約束するよ。ジュリウス」

 

 約束と言う言葉に、気分が曇るのだろうか。

 

 

 

 

 ジュリウスの用事を済ませた後、僕はフライアの研究室で神機兵の調整をしていた。自律型システムで稼働する。これまでは今までの計画と同じだった。しかしここからが僕の改良である。簡単に言えば、自律型システムの志向を切り替える事だ。

 一極端なスタイルは必ずどこかで綻びを生む。ならば、そのスタイルを柔軟に切り替える事が出来れば、生まれる綻びを最小限に抑圧する事に繋がる。

 まぁ、簡単に言うと臨機応変なAIに切り替えようと言う訳だ。そんな訳で神機兵の指令権は何故か、僕に委ねられている。

 

「……」

 

 僕の机の上に置かれているのは、進軍中のアラガミを撮影した一枚の写真だった。偵察班によって届けられた色彩確かな情報。

 そこに映るアラガミの数――職員が数えただけでも凡そ百体以上。その上、この集団は氷山の一角に過ぎない。そしてそれを統制するであろうアラガミは、感応種だろう。

 あの時倒された一匹は、塵の中の一つに過ぎなかった。ブラッドを総動員してようやく倒せたあのアラガミはまだ至る所に蠢めいている。

 

「……うーん」

 

 さて、ここで気になるのがこちら側の戦力だ。まぁ、ざっくり分けると剣形態で突出する前衛部隊。戦いの中ではこの部隊の状況が、今回の戦いそのものを表す事になる。

 そして剣形態と銃形態をバランスよく使いこなす中継部隊。前衛との入れ替わりやサポートなどを中心とした部隊で、新型を扱うベテランが多い。戦いの維持するための大事な戦力となる。

 続いて銃形態で遠距離から狙う後衛部隊。エンゲージシステムが確立した事を考えれば、戦局を左右する部隊と呼んでも過言ではない。銃形態での強烈な一撃は、剣形態の攻撃すら凌駕する。

 次に避難部隊。住民の避難を促す部隊で、人数は少ないがその道に優れたベテランが集う。既に避難は始めているため、彼らも戦力として数えることは出来るけど、避難した人が戦場へ足を踏み入れる暴挙へ出る事は十分予測できる。それを予防するための部隊。

 最後に神機兵部隊。総勢九機の神機兵によって構成された部隊―ちなみに九機しか無いのは、時間の都合上である―。この神機兵を指揮するのが僕の役目である。

 神機兵が初めて実戦投入される戦闘でもあるため、とにかく過失は許されない。神機兵の役割として、囮あるいは前衛の補助のどちらかだ。だけど僕としては、出来る事ならばあらゆる局面に対応できる状態にしておきたい。

 大体の準備は終わりかけているけども、やはり念には念を入れなければならない。

 そこまで考えたところで、ドアがノックされた音が聞こえた。

 

「セン、少しいいか」

「ジュリウス? うん、構わないよ」

 

 入室したジュリウスの手にあるのは、複数の書類。

 それも紙面至る所に文字が書き込まれている。

 

「ヘリの燃料補給及び貯蓄は何とか要求通りにこぎつけられたぞ。神機のチューニングも要望者のリクエスト通りに合わせておいた」

「よかった。グレム局長に感謝だね」

 

 僕が先に整えた準備とは、ゴッドイーター達を戦場へと向かわせるヘリの手配だ。それも一機では無く、大量に。

 どうしてそんな事をしたかと言うと。

 

「ヘリでアラガミの大軍ギリギリまで接近し、長距離狙撃弾で一斉に狙撃。削れる限りのアラガミを削る――か。かつて例を見ない内容だな」

「うん、ブラッドバレッドが無かったら実現しない攻撃手段だからね」

 

 ブラッドバレッド――ブラッド隊員が扱うブラッドアーツと酷似した物で、ブラッド隊員の能力によって生み出された新たな弾種である。

 その中の一つが長距離狙撃弾と言う物で、本来のバレッドなら距離による威力減衰を受けるのだが、このバレットの場合は寧ろ逆。距離があればあるほど、威力を最大限に発揮できるのである。――とは言っても、全員分にバレットが配給出来たわけでは無く、普通の狙撃弾しか使用不可能なゴッドイーターもいる。だけど、戦えない訳じゃない。

 長距離狙撃弾の内容を受けて、僕は早速作戦の手順に付け足した。敵は削れる内に削っておいた方がいい。何らかの裏が無い限り、それをしない理由は無いからだ。少なくとも僕はそう思っている。

 だって何の意味も無い。アラガミとゴッドイーターが互角に戦い合う事なんて現実じゃ何の価値も無いから。それじゃあ駄目なんだ。ゴッドイーターがアラガミに対して優勢に戦える状況であり続ける事。それが重要だ。そしてそれを作り出すのが僕の役目。

 

「一次攻撃隊の発艦は?」

「今の進軍速度から見て、明日に一次攻撃が行われる。しばらく様子を見て、問題が無ければ、二次攻撃に移る予定だ。何か変更が?」

「いや、そのままでいい。ジュリウス、一次攻撃は徹底的に行うように伝えて。不意打ちは威力と効果が直結する。アラガミがそのまま進軍してくるか、休息を取るかでこっちの戦法が変えるから、その事を皆に伝えておいてほしい」

「了解した」

 

 一次攻撃、そして二次攻撃を一体どのように行うか。今回は防衛戦だ。ゴッドイーター達が行うミッションとは違う。たった一つの戦況が未来を変える。

 極東支部による総力を掲げた防衛戦。もし敗北すれば、それは全てを失う事を意味する。

 

「……」

「いつになく寡黙だな、セン」

「うん、今回ばかりはね。それに出来ればやり残した事を無いようにしたいから」

「……そうか」

 

 ゴーグルを触ろうとして、そのまま首に触れてしまう。

 そっか、確かネルちゃんに預けたんだっけ。

 ずっと付けて来たから、何か少し新鮮な感じがする。

 

「何かあったら連絡してくれ。すぐに駆けつける」

「うん、分かった。ゴッドイーター達の事は、ジュリウスに任せるよ」

「了解した」

 

 そうしてジュリウスが出ていくのを見送る。

 入れ違うようにして、ラケル博士が入って来た。

 

「神機兵の調子はどう?」

「十分でもあり、不十分でもあります」

「そう、臨地試験が一回だけだからそうなのかもしれないわね」

 

 ラケル博士の言う通り。

 何でも僕とジュリウスが出張中の間に、一度実戦テストが行われたらしい。結果としては背部に損傷を受け、機能停止となったため試験は中止となったんだとか。後はネルちゃんが乗り込んだとか聞いたけど、そこに関しては余り追及しないでおこう。

 こればかりは本当に僕のミスだったと思う。まだ試験が早いという事を伝えておくべきだった。

 そんな反省も込めて、今回の調整はより丹念に行う必要がある。

 

「……変に力みすぎるよりはこっちの方がいいのかもしれませんけど」

 

 神機兵の強度と硬度をさらに強化させ、戦闘思考も時間と共に変化していくパターンへと組み替えた。

 時間が許す限り機能は組み込みたかったけど、欲張り過ぎたら逆効果だからこれでいいのかもしれない。

 

「やれなかった、出来なかった、知らなかった――それじゃあ許されない事だってありますから」

「――そう。セン」

「はい」

「貴方は貴方の手段で行きなさい。時代に、人に、全てに流される事無く、貴方は貴方の信じるままに、貴方の魂が求めるように」

 

 ラケル博士が僕に幾度となく教えてくれた事。

 博士らしく、結構遠まわしな言葉使ってるけど。まぁ、簡単に言うと『僕らしく進め』と言う事だ。

 

 

「貴方が生きた世界を、愛しなさい」

「はい。分かりました」

 

 

 

 

 ラケル博士が退室して、作業を続行し凡そ数時間。あらゆるロジックパターンを再試行しながら組み込んだ。これが研究者として僕に出来る最後の事。後はオペレーターとしての仕事が待っている。

 それにしても神機兵の最後の調整で、思った以上に時間を浪費してしまった。

 

「……軽く歩くかな」

 

 極東支部はフライアと違って、夜も人が多い。何でも夜間に出撃するゴッドイーターもいるようで、その仕事ぶりには本当に頭が下がる。

 

「やぁ、セン君。眠れないようだね」

「榊博士。……まぁ、仰る通りです」

 

 エレベーターの前で、偶然榊博士と出会った。

 何というかこの人は飄々として、どこか変わり者だ。だけど、根幹には死を悼み生を尊う魂がある。

 僕はまだそんなに深くまでは知らないけれど、かつて極東で一人の科学者によって引き起こされた事件がある。ゴッドイーターどころか民間人をも巻き込み、アラガミの餌にしたと言う身の毛もよだつような事件で、榊博士ははっきりとした怒りを見せたと言う。ちなみにであるが、この事件を収束へ導いたのも当時の第一部隊隊長とあのアリサさん達が主軸となったと聞いた。

 

「そうだ、セン君。そういえばキミはオペレーターを担当した任務では戦死者は一人も出ていないそうだね」

「そうですね。……死にかけた人を出した事は何回もありますけど」

 

 何でも僕のオペレートは他と変わっているようで、そういった点で余り息の合わないゴッドイーターは突然、指示を無視して独断で交戦を開始する。

 そういった時はジュリウスが咄嗟にカバーに入ってくれたり、僕が無理やり作戦の方針を切り替える事で何とか凌いでは来たけれど、本当に危なかった。

 

「なら好都合だ。キミに見てもらいたい物がある。いや、言い方を変えよう。キミは見なければならない」

「……」

 

 エレベーターのボタンが並ぶパネル。榊博士はその下にある穴に何かのカードキーを差し込んだ。

 それと同時にエレベーターが起動し、地下に下りていく。

 ――そうして、エレベーターを降りた途端、広がったのはただ虚しい景色だった。

 

「これは……」

 

 石碑が整列して林立していた。言うなれば墓地だ。人が通るであろうスペースには、あの花々が至る所に敷き詰められていた。

 沈黙しか出来ない石碑の一つ一つには名前が刻まれている。

 

「既に察しているとは思うが、説明をしよう。ここは無縁墓地。私はポッターズ・フィールドと呼んでいる」

「……ポッターズ・フィールド」

 

 頭の中にある知識を手繰り寄せる。

 確か、新約聖書に出て来る言葉だっただろうか。何故知っているのかと聞かれれば、そこまで詳しい話は知らないけれど、その言葉を僕は学生時代に聞いた事があるからだ。

 

「ここには戦死したゴッドイーターや職員、身寄りが無い人々の名前が眠っている。本来ならば共に葬られるべき亡骸は、アラガミの養分の一部になったまま。この花――ベロニカは、彼らの魂を導くために供えられた。任務に、己に忠実であった彼らを」

「……」

「ここには私の友人達の名も刻まれているよ。そしていずれ私自身もその隣に並ぶ時が来るかもしれない」

 

 榊博士が墓石の前に立つ。そこには名前が刻まれていた。

 

 

『ヨハネス・フォン・シックザール』

 

『アイーシャ・フォン・シックザール』

 

 

 前支部長と、恐らくその奥さんであろう人の名前。

 エイジス島の崩落事故により亡くなったと聞いている。――もしまだ生きていたのなら、きっと榊博士と良い関係を築けていただろうと思う。

 

「セン君。私は時折思うんだ」

「……」

「我々は何故戦っているのか、そしてその戦いに正義はあるのかとね」

 

 それはそうだ。戦いは正義と共に起こる。僕はラケル博士からそう教えられた。

 人は皆、自分が正しいと思ってる。自分が間違っていないと心のどこかで思ってる。だから平静を保っていることが出来る。なら、一体どうすれば戦いは終わるのか。

 僕とて未だにはっきりとは言えないし、ラケル博士も応えられないと言葉にしていた。いつか世界が人かアラガミ、どちらかに統一されたとしても、また争いは起きるだろう。

 

「戦いが続く限り、傷つき斃れる者は必ず出てしまう。そして、戦いで死ぬ者はどう思うのだろうね。我々を、見送る事しか出来ない者を恨んで死んでいくのだろうか。それとも、家族の事を思いながら息絶えていくのだろうか」

「……」

「私達が今、死人にしてやれる事など何もない。ただこうして、彼らの事を脳裏に繋ぎ止めておく事で精一杯だ。時間に掻き消され、薄れていく記憶の色を何度も塗りつぶす事で必死だ」

「……」

「誰もが生きるために戦っている。それが正義であると言うのならば、この世のどこにも正義など存在しない。だから私に正義を語る資格はない。観察者、と尊大な肩書を名乗っているが、所詮は世界から遠ざかった汚れ仕事の一つに過ぎない」

 

 榊博士はいつになく饒舌だ。けれどいつもと違う。

 飄々とした雰囲気はさっぱりと無くなっていて、重い空気が充満しつつある。

 博士は立ち上がって、僕の目をはっきりと見た。狐目のような細い瞼の間から、はっきりと瞳が見える。

 

「セン君、君ならばどうする。死に行く者、死者への手向けをどう差し出す?」

「……僕は」

 

 言葉が詰まる。

 舌が重い。動く事を拒んでいるかのようだ。頬の筋肉が硬直して上手く言葉を作れない。

 動け、動け。

 

「……分かりません。けれど僕は……僕は……」

「……」

「答えになっていないかもしれませんけど。僕は、僕は――もう、失いたくありません。奪われたくありません」

 

 前の世界の記憶はほとんど思い出せない。僕が僕である証は、一体どこへ消えてしまったのか分からない。

 雲霞となった物をこの手で掴める事など出来はしない。だからもう、取り戻すことは出来ないのだろう。

 

「だから僕はまだ、その質問に答える事は出来ません」

「……そうか。なら聞かない日々が続く事を祈るよ」

 

 榊博士の「手を合わせてやってくれ」と言う言葉に頷いて、僕は二人の墓の前に座る。

 

「先ほどの質問、私ならこう答えるよ。――語り継ぐ事だとね」

「……語り継ぐ、事」

「そうさ。正義だの悪だの、そういった枠当ては放っておけば後の世代が勝手にやってくれる。だから善悪の彼我を図る必要なんて後回しでいい」

「……」

「大事な事は、今あるこの世界全てを次の世代へ残す事だ。ありのままの世界を残すために、力を尽くす。それが私に出来る死者への手向けだ。彼らの意志が、何一つ歪む事無く、彼らへと伝わるために今を残す」

 

 ありのままの世界を残す事。

 アラガミに喰われつつあるこの世界で、それを成す事は酷く困難だ。今この時も、世界は牙に侵食されつつある。

 それがどんなに困難で、夢物語なのか分からない程まで僕は無知でも愚かでも無い。

 

「これから先、キミはいつか選ぶことになるだろう。世界の選択を。そんな難しい事じゃない。左を向くか、右を向くか――ただそれだけなのだからね。

 新しい世界を受け継ぐか、古い世界を守り続けるか。これは私達、科学者だけでは無い。この世に生きる全ての命が課された、無意識の選択なんだ」

 

 無意識の、選択。

 誰もが生きるために戦っている――いつかその意味を問われる時が来る。己の生きる理由を問われる時が来る。

 ふと気が付けば、榊博士は咳払いをしていた。その雰囲気はいつもの彼が見せる飄々としたものだった。

 

「……わざわざ長話に付き合わせて悪かったね。お詫びに一つ、気になる話を聞かせよう」

「気になる、話?」

「そうだ、セン君。君は今、ご両親がどこにいるか知っているかな?」

 

 両親――セン・ディアンスを生んだ二人。正確に言うのならば、僕にその記憶は無い。何でも僕は不倫の息子として生まれたらしい。らしいと言うのは、当時の教官に嫌味顔でそう言われたからだ。けれども、僕に幼少期の頃の記憶は無い。

 ただ気が付けば、士官学生として生活を送り始めていたのだ。確か、アレは地下の貧民街で教師にスカウトされたからで――。

 

“あれ……?”

 

 ちょっと待てよ。なら僕はどうやって学生生活を送って来た? 一体どんな経緯で?

 記憶が混濁してるのか、今の世界の記憶も?

 

「少し気持ちの悪い話になるが、構わないかな?」

「……はい」

 

 榊博士は眼鏡をクイと挙げて、真っ直ぐに僕を見据えた。

 

「ディアンス家は数年前にアラガミの襲撃で断絶となっている。今、この世界でディアンスの名前を持つ者は――。セン君、キミ一人だけだ」

「……えっ?」

「そして気になる事がもう一つある。士官学生の頃を調べてみた所、既にセン・ディアンスと言う生徒の存在は抹消されている。……つまり、最初からキミはいない事になっていたんだ」

 

 待て、なら僕への資金提供は誰が行っていた? ディアンスの名を僕が出して入学したから、ディアンス家が資金提供をせざるを得なくなり、僕が嫌がらせを受ける事に発展したんじゃないのか?

 

「セン君、もう一つヒントだ。アラガミの襲撃により崩壊した支部に対して、フェンリルは必ず破壊工作を行う。どうしてか分かるかい?」

「……」

 

 アラガミの餌になる。今までの僕ならそう答えていた。だけれど、今は違う。

 

「崩壊した支部は、セキュリティが無いからですか」

「その通りだ。私とグレム局長、ラケル博士の三人で現在本部の工作部隊に圧力を掛けている。単なる噛ませ文句だが、私達の立場から無下には出来ない筈だ」

「……分かりました。何とか探ってみます」

 

 やはり僕は僕の運命を知る必要がある。

 この手が握りしめた宿命を、果たすために。

 


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