ゴッドイーターになれなかったけど、何とか生きてます。   作:ソン

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いきなりの高評価でビックリしてます。
ちなみに主人公は自分から好んで戦闘をしたりしません。彼が戦う時は大抵、撤退戦です。


こんな僕でも

 

「……ネルティス、香月ナナの二人かぁ」

 

 僕が手にしているのは、今日入隊してくる新人二人。

 二人とも髪は黒で、ナナちゃんの方は短髪だけどネルティスちゃんの方は背中まで髪を伸ばしている。

 日本人の容姿だから、どことなく親近感が湧くね。しかも二人ともまだまだ少女とは思えない体つきである。うへへへ。

 ……うん、我ながらこの一言は無いわ。

 

「失礼します、セン博士」

「ん、ジュリウスか」

 

 ノックした後、扉を開けて一礼する金髪の青年。

 ジュリウス・ヴィスコンティ。ブラッドの隊長でもあり、僕の数少ない親友の一人だ。

 

「かしこまらなくていいって、ジュリウス」

「そうだな。だが、表向きの社交も必要だろう」

「表向きって……」

 

 最初こそ堅苦しい雰囲気を出していて、僕にも敬語を使っていた。だが堅苦しいのは苦手だし、何よりジュリウスと僕はほぼ同年代だ。

 ジュリウスが打ち解けてくれるまで長かったなぁ。

 

「セン、フォールトラップ見事だった。これならあの二人を実戦に出してもほぼ確実に生還出来る」

「……え、いきなり実践? 訓練は?」

「オレが一通り揉んでやるさ。三日でな」

「うわー」

 

 ジュリウスの訓練は意外と厳しい。僕も上司命令で、ジュリウスと組手をした事があるが秒殺された。ゴッドイーターとしての力とかそういうのじゃなくて、ただ純粋に瞬殺された。

 生身での戦闘能力も相当な者なのだよ、彼は。

 

「それにしてもお前の腕と発想にはいつも驚かされるよ。研究者だけではなく、オペレーターまでこなせるとは」

「はは、まぁフランさんに申し訳ないからあまりしないんだけどね」

 

 僕は要請があった場合、研究室からゴッドイーター達のオペレートが出来る。その要請としては、予測に無いアラガミの出現やゴッドイーター達の苦戦など。要するにミッションがハードモードになった時だ。ちなみに明らかにフェンリルが仕組んだであろう『騙して悪いが』系のミッションも含まれる。何これ、イジメ?

 前の世界では、ロボットアクションゲームをしていたため、僕はこういった状況判断が意外に上手くなったのである。特にそういった類のゲームはオンラインが充実していて、たまーに「これ、AIが操作してんじゃねぇの?」と思う程の腕を持つ人がいる。

 そういった人達を出し抜くには状況を利用しての勝利しか無かったのだ。あのゲームの領地防衛キツかったなぁ……。

 ちなみに僕が以前オペレーターを要請されたのは、ジュリウスとロミオが二人で行ったミッションに対してヴァジュラが二体同時に現れた時だ。

 ヴァジュラと言う獣型のアラガミは意外と攻撃範囲が広い。それが狭いフィールドに二体もいるとなれば、恐ろしい絵面である。

 分断するなど以ての外だ。二人いると言うアドバンテージを潰す訳には行かないし、分断して倒せるのならば、そもそも僕が要請されない。

 アラガミはゴッドイーターにしか倒せない? ――違う。アラガミはオラクル細胞による攻撃でしか倒せない。

 ならば出し得る答えは一つ。

 

「まさか、同士討ちを狙うとは。オレも驚愕したよ」

 

 ジュリウスの言う通り、ヴァジュラ同士の消耗を狙ったのだ。回避と言うのは徹すればそこまで難しくは無い。ヴァジュラの攻撃も極めて単調であり、攻撃を視野に入れなければ新人でも何とか持ちこたえられるだろう。

 そうしてヴァジュラの一匹が倒れ、残る一体も瀕死。ならばジュリウスとロミオが苦戦するはずがない。そうして討伐も終わり、二人も無事に生還したと言う訳だ。

 だが、決して僕が褒められる訳じゃない。僕はあくまで理想論を言っただけ。何よりも称えられるべきなのは、僕の言葉を信じて実現してくれた二人だ。僕の士官学生時代を共に生きた者やプライドの高いゴッドイーターは、決して僕の言葉に耳を貸さずヴァジュラに特攻していただろう。

 だから、僕を信じてくれた二人には頭が上がらない。二人とも大事な親友だ。

 

「二人なら出来るって信じてたからね」

「フッ、それを考えたのはお前だろう。お前がオレ達の為に動くなら、オレ達はそれに応えるさ」

 

 うん、これが出来るイケメンってやつだ。

 って、そういえば……。

 

「ジュリウスは何か用があったのか?」

「あぁ、お前にもあの二人を会わせようと思っている。普段、研究室に籠るお前の事だ。フライアのロビーにも余り顔を出していないだろう?」

「……確かに」

 

 否定できない。何よりフライアに新しく異動してきた人は、僕の『無能』を聞き及んだ人が多い。昔からいる人、例えばダミアンさんとかはありのままで僕に接してくれたけど。

 やはり『無能』でありながら『フェンリル最高の頭脳を上司に持つ』と言う話は、嫉妬をさらに炎上させるらしい。

 現に僕を無視したり、陰口を言ったりする人は今でも見かける。まぁ、もう慣れたけど。

 

「それに新しい仲間にお前を誤解させる訳にはいかん。それだけはオレが断じて許さない」

 

 そう、何故僕に直接的な被害が出ないかと言えば彼らのおかげである。博士とジュリウスの二人だ。

 博士は人脈にも太いパイプを持ち、彼女の父であるジェフサ博士―現在もご存命で、僕と博士で度々会いに行ったりしている―の存在も大きい。彼女を敵に回す事はフェンリルを敵に回す事と同意義である。

 ジュリウスは、高い戦闘能力を持つゴッドイーターでありブラッドの隊長。しかもイケメンで仲間想い、義理堅い性格である。敵に回せる訳が無い。

 多分、この二人がいなかったら僕は即刻フライアから追い出されていたに違いない。まさかのまさかでグレム局長とかが拾い上げてくれるかもしれないけど、それは無いだろう。

 

「……分かった。それで、今二人は?」

「あぁ、ロビーで待機するように伝えてある。じゃあ、行こうか」

 

 額に掛けていたゴーグルを首元まで下ろす。どうにもこうしなければ落ち着かないのだ。

 椅子から立ち上がり、ジュリウスと共に廊下へと出る。

 エレベーターに乗ってロビーへ降りれば、早速降りかかって来る挨拶。一部は僕も含まれているが、その大方はジュリウスだけに送られている。まぁ、こんな事ももう慣れたんだけど。

 ジュリウスが歩きながら、握りしめた拳を強く震わせている。彼は誠実で真っ直ぐな人だ。この現状を今すぐにでも変えたいと思っているのだろう。だが、ほんの僅かな時間と行為と僕の名声が変わるわけではない。そんな事も気づいているはずだ。

 思えば、彼との初めての出会いも中々に新鮮だったけど、今ここで語るべき話ではないだろう。

 ここで彼に言葉を投げかけるのは、逆効果。さっさと目的地へ辿り着くのが手っ取り早い。

 ロビーの下、ソファや自販機がある憩いの場に二人がいた。

 

「ここにいたか、楽にしてくれ」

 

 溜まっていた感情を吐き出すかのように、ジュリウスが口を開いた。

 楽にするのは君も同じなのに。

 

「オレは隊長のジュリウス・ヴィスコンティだ。今後長い付き合いになるだろう。よろしく頼む」

「あ、はっはい! ブラッド第二期候補生、ネルティスです! よろしくお願いします!」

「同じく、ブラッド第二期候補生、香月ナナですー。よろしくねー!」

 

 うん、二人ともハキハキしてて僕とは大違いだ。じゃあ、そろそろ自己紹介でも行こうか。

 僕に腕輪が無い事に、気づき始めたみたいだし。

 

「セン・ディアンス。フライアでは研究者をやってるし、オペレーターも一通りはこなせます。研究室にいる事が多いからあんまり出会う事は無いかもしれないけど、よろしくね」

 

 僕が言葉を言い終えた瞬間、背後から声が聞こえた。いつも通りの内容といつも通りの状況。

 だけどさすがに、この場では空気位よんで欲しかった。

 

「無能って肩書きがつくがな」

「何も出来ねぇくせによ」

 

 瞬間――ジュリウスが握りしめた拳と共に背後へと振り返った。

 

 

 


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