ゴッドイーターになれなかったけど、何とか生きてます。   作:ソン

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作戦二日目

 

8:00

 

 作戦開始から二日目、アラガミの行軍速度は多少の誤差はあるものの想定の範囲内だ。

 今回、僕は直接作戦指揮を出すのではなく、各オペレーターの指揮をする事になる。二日目からは各地へ分散し、進軍するアラガミに対抗するため部隊は別々のロケーションにて戦闘となる。要するに多面同時作戦だ。

 交戦するゴッドイーターもアラガミも全く異なる中で、同時にオペレートし戦闘を指揮するなんて無茶もいいところだ。

 戦闘ではゴッドイーター達が主体となる。オペレーターはあくまで補佐だ。――と言うのも、僕のオペレートは異例であるらしく、普通のオペレーターは戦闘を指揮するのではなく、戦況を分析し助言を行うらしい。まぁ、それはそれ、これはこれという奴である。僕の本職はオペレーターではなく、研究者だからノーカウントだ。

 極東支部の指揮室で、全体のモニターを見る。――大丈夫、まだ予想外の事態は起きていない。

 作戦開始時刻は9:00。まだ一時間ある。今の内に交戦が予想されるアラガミを各ロケーションごとに纏めておいて――。

 

「センさん! ちょっと助けてください!」

「落ち着いて。どうかした?」

「その、避難されている方が外出許可を求めているようで……」

「……それはまた何て言うか」

 

 一人の男性オペレーターの報告。それに思わず僕は口から出かけた言葉を飲み込んだ。とんでもない人もいるものだ。

今回の戦闘ロケーションに近い地域に住んでいる方々には前以て避難を呼びかけており、従わない人は強制連行させてもらった。――と言うのも、戦闘への影響を考えてである。

 戦場に民間人が一人紛れ込んだだけで、戦況に及ぼす事態は大きく拡大する。民間人の防衛に戦力を最低一人は割かなくてはならない上に、守らなければならない。要するに作戦のハードルが上がるのだ。

 僕もオペレーターの時に何度か経験した事はあるけれど、外部居住区に近い地域での防衛戦ほど気を遣わなくてはならない事は無い。

 

「今はどうしてる?」

「コウタ隊長とジュリウス総隊長、アリサさんが対処してますがどうもこちらの言葉に耳を貸さないようでして……」

 

 唇を噛む。作戦開始時刻は9:00。もうその時刻には戦場に降り立ち、死神と生を競い合わなくてはならないのだ。

 出撃前のゴッドイーターにとって、準備時間と言うのはかなり重要だ。神機の調整、チームメンバーとの打ち合わせ、オペレーターとの調整、アイテムの確認――やらなくてはならない事が多すぎる。

 しかも対処に当たっている三人は最も険しい激戦が予想される地域へ向かう班の一員かつリーダーだ。これはかなりマズい。

 

「僕が行く。案内を」

「はい、こちらです」

 

 指揮室を出て、彼の後をついていく。やがて喧騒と見覚えのある顔が見えて来た。

 ――うん、完全にコウタさんは参っている。アリサさんは難しそうな表情をしている。そしてジュリウスは無表情ではあるが、苛立っている。

 あのままじゃ、最悪のコンディションで戦場に行かなくてはならなくなる。

 

「僕が代わる。指揮室の器材と神機兵の調整を、ラケル博士にお願いして。多分、フライアの研究室にいると思う」

「分かりました」

「行き方は分かる?」

「はい、フライアの地図は頂きましたので」

「うん、なら良かった。ありがとう」

 

 現在、極東支部とフライアは密着している状態だ。フライアの設備を今回の作戦に活かそうと言う事で、進言した結果ラケル博士とグレム局長の受諾で許可が出た。

 グレム局長は物事の優先順位を間違える事はあるけれど、方針は間違っていないのだ。ならば僕らが優先順位を導けばいい。そういう意味ではあの人が局長で本当によかった。

 さて――。

 

「ジュリウス、後は僕が対応する」

「セン、だが……」

「大丈夫。皆は出撃準備を優先して。それが一番大事だと思う」

「……分かった」

 

 去っていく三人を尻目に、僕は例の民間人と向き合う。

 見た所、二十代の男性だろうか。服装も容姿も特に気になる所は無い。

 

「担当を変わらせて頂きました。副長のセン・ディアンスです。ご用件は?」

「ちっとでいいから、家に戻らせてほしいんだよ。何度も言ってるんだが、三人とも危ない危ないって喧しくてさ」

 

 ――よくある事だ。避難民が、忘れ物をした・少しの間でいいから帰りたい、と言って勝手に避難場所を抜け出していく。

 厄介な手合いだ。何を言っても通用しない。――だからと言って、僕らが見捨てていい理由にはならない。

 

「……今回の事態についてはどれほどご存じで」

「あぁ、いつもよりちょっとアラガミが多いくらいだろ。静かにしてれば平気さ」

 

 何がいつもだ。相対した事も無いだろうに。

 静かにしていれば平気――最早その認識は無意味だ。アラガミの中には嗅覚で襲ってくる物もいれば、本当に細やかな物音で強襲してくる個体もいる。

 そこらの愛玩動物は訳が違うんだ。民間人は目を付けられれば終わりなんだぞ。

 

「許可できません。今回、極東支部のゴッドイーターとオペレーターは総動員されており、外部からの援軍も参加しています。これがどういった事態か、お分かりでは」

「あー……でもほんのちょっとくらい、大丈夫だろ」

「どのくらい、滞在される予定で」

「今から出て一時間くらいだよ。ヘリ飛ばしてくれたらすぐだろ」

 

 ふざけるな、ヘリ一機でもタダじゃないんだ。今回の作戦でヘリと燃料、パイロットを確保するのにグレム局長がどれだけ骨を折ってくれたか分かっているのか。

 

「もう一度言いますが、許可できません。9:00からゴッドイーター達は作戦に移ります。ヘリ一機でも緊急時には必要です。ゴッドイーターにとっては命綱なんです」

「じゃあ神機兵でも……」

「神機兵に護衛システムは搭載されていません。こちらからの器材を使用した指示が必要ですが、器材はまだ調整中です」

「……ゴッドイーターは」

「総動員です。護衛に付ける予定は一人もいません。警備兵は避難されている方々の守りで手一杯です」

 

 来る。そろそろ来る。

 だが黙らせるには僕にはこうしてやる事しか出来ない。

 

「っ! こっちは勝手に連れてこられて迷惑してるんだよ!」

「……」

「大体、アラガミとの戦いなんてゴッドイーターだけでやってればいいだろう! 何で俺達まで巻き込まれるんだよ!」

「人類が、アラガミにとって生きる餌であるからです」

 

 主導権を握られるな。あくまで淡々と。

 相手が折れるまで待て。その場凌ぎには変わらないが、こんな些末事に時間を割いていられない。

 

「! 大体お前は何だ、腕輪も無い癖に!」

「僕はオペレーターです。それと、ゴッドイーターはこれから出撃準備に移ります。彼らにとっては生きるか死ぬかの場所です。彼らは生きるために戦っている。決して邪魔をしないでください」

「っ!」

 

 男が苛立たしげに去っていく。

 思わず僕は一息ついた。

 何とか凌いだけれど、これで良かったんだろうか。――念のため、警備の人にマークについてもらおう。

 本来なら、ハルオミさんやコウタさんが適役な筈だけれど彼らは出撃がある。だから今回は僕が出た。

 ――これで、いい筈だ。

 

 

 

9:00

 

 

 作戦開始時刻になったが、僕は改めて戦況を見直す。――アラガミの進軍が予想時刻よりも大きくずれていた。――どうやら予測されていたらしい。恐らく、一時間か或いは三十分か。少なくともその間には交戦時間に到達する。

 さて、どうするか。このまま作戦を続行するか、それともこちらの仕込みをさらに増やしておくか。

 既に神機兵は出撃体制であり、現在はヘリのハンガーに格納されていて、投入時は上空から降下される仕組みだ。けれどまだ使うには早い。

 部隊は既に複数に各々の戦場に向かっていて、ジープで向かう部隊とヘリで向かう部隊に別れている。このまま呼び戻し、時間になったら再出撃させるか――否、そんなのは無駄だ。

 ならば仕込みを増やす。

 

「各部隊に通達。ロケーションに到着次第、トラップと地図の把握を行うようにして」

 

 奴らが遅く仕掛けてくるのなら、こちらは出迎えをより派手にしてやる。

 

 

 

 

「……」

 

 ヘリから降りると共に、班員達の雰囲気が一変する。戦場の空気――それをネルは肌で感じ取れるようになっていた。

 黎明の亡都――最も、激戦が予想される最重要地域。ここを突破されれば、外部居住区まで目と鼻の先である。

 メンバーはジュリウス、ネル、アリサ、ギルバートとその他極東支部が誇るベテランのゴッドイーター達である。ネル以外は、長年にわたり戦場を掛けて来た猛者達だ。彼女は溢れる才能と身体能力に身を任せ突き進んできたに他ならない。

 

「――了解した。これから戦域の把握とトラップの確認を行う。交戦予測時刻は9:30から10:00の間だ。気を抜くな」

 

 ジュリウスの言葉に全員が頷く。

 設置されているトラップは爆破トラップにフォールトラップ、そして各隊員が所持するセンチネルに、バレットグレネードを数種類ずつ。

 

「……ふー」

 

 息を吐く。もうすぐ戦える。その人の下で戦える。

 その思いが、ネルを強く動かしていた。

 

 

 

 

10:00

 

「01部隊エンゲージ!」

「02部隊エンゲージ!」

「03部隊エンゲージ!」

 

 各地に展開されていた部隊がほぼ同時に交戦に移った。――間違いなく、相手は連携を取ってきている。

 みた所ジュリウスのいる部隊に大型が集中しているようだ。他の地域に囮のアラガミを送り、本隊で黎明の亡都を突破。外部居住区に殴り込みをかけると言った所だろう。

 ――けれど、何かおかしい。まるで人の考えた戦略みたいだ。いくらアラガミと言えどもここまで連携を組めるのだろうか。

 何かに誘導されているような気がする。

 

「神機兵、投下開始して! 後方からゴッドイーター達と挟み撃ちになるように!」

「了解! 各部隊、サイゴートの撃破を優先し神機兵投下準備を開始!」

 

 ともかく今は、こちらに集中しよう。

 

 

 

 

10:30

 

 反射的に飛び、壁面へと跳躍する。神機の波面から映し出されるアラガミはコンゴウ。――振り下ろしたその剛腕は地面を破砕した。

 壁面に足を付け、弾丸の如く蹴る。狙うはコンゴウ。――そして一閃。首を刈り取る。

 ネルが仕留めたアラガミの数は容易く二桁へ到達している。だと言うのに、倒しても倒してもキリが無い。

 

「ッ!」

 

 再度、背後からの強襲。背中越しに神機で受け止め、返す刃で、その胴体を真っ二つに切り裂いた。仕留めたのはシユウ種。

 

『神機兵、投下!』

『メインシステム、戦闘モードを起動します』

 

 上空のヘリより投下された神機兵が、起動を開始する。

 着地すると同時に、驚異的な速度でアラガミへ迫り薙ぎ倒す。その巨躯で、アラガミに体当たりをし、蹴り飛ばす。――流れが変わった。

 

「頼もしいな、これは」

 

 口を切ったのか、口角から流れる血を拭いジュリウスが呟いた。

 アラガミ達の猛攻を紙一重で避けながら、何とか反撃の機会を伺うだけで精一杯だったのが、少しは余裕を保てるようになってきた。

 

「! 躱せッ!」

 

 地面を転がると、空気を切るような音と細かく砕かれた石片が頬を撫でた。上空へ目を向ければ、サリエル種のようなアラガミが一体――しかし体色や雰囲気が今までとは異なる。

 

『増援を確認! 感応種です! そのアラガミはまだデータがありません! 注意してください!』

 

 サリエル種への対応は、主に二つ。銃形態で遠くから仕留めるか或いは反撃を承知で剣形態での空中戦を挑むか。

 背後から神機兵が大きく剣を振り上げた。

 だと言うのに、回避どころか気に掛ける様子すらない。

 

 ――神機兵が振り下ろした一撃は、そのアラガミを文字通りすり抜けて地面へと激突した。

 

「っ!? 何だと……!」

『あ、ありえません……。アラガミ反応に異常無し、攻撃が通っていません!』

「なら、これはどうだ?」

 

 ジュリウスが神機を銃形態へ切り替えて放つ。アサルトは、一発の威力こそ低いが連射が効くのが売りだ。燃費の悪いスナイパーやブラストに比べて、試射とするには最適だろう。

 弾丸はその肉体に当たると弾け――またもう一つの弾丸となって、別のアラガミへと飛来した。

 

「効いているか?」

 

 オペレーターの通信が入る前に、その瞳がジュリウスを捉え――再度レーザーを放つ。

 その行動が答えだった。

 

『スナイパーとブラストを装備しているゴッドイーターはその感応種の撃破を優先してください!』

 

 合図と共に、ネルは銃形態へ神機を切り替えた。

 

 

 

11:00

 

 

 

 モニター画面からアラガミ反応が消失する。

 現在、戦闘が起きているのは三か所――全ての戦域に神機兵を投入してから凡そ数時間。負傷の報告はあるが、死者が出たと言う話はまだない。

 

「アラガミ掃討確認! 増援は見られません!」

 

 ――再度、思考に移る。

 今、一番の激戦区は黎明の亡都。交戦区域は最早普通の任務での範囲どころでは無い。通常の任務領域を大きくはみ出さなければ、アラガミとの間合いを作れない程。

 それ以外の地域での交戦は終了した。次の行動として、戦力を全て引き上げて応援部隊として黎明の亡都へと送り込む。或いは、アラガミが再度攻めて来る可能性を考慮して、戦力を残しておくか。

 ――まぁ、この程度なら考える間でも無く後者だ。

 

「最低限の戦力を残して、黎明の亡都へ応援に向かって。アラガミの増援も近い。後、帰投のヘリもそろそろロケーション周辺に待機させて欲しい。そろそろ頃合いだ」

 

 オペレーター達に指示を出して、僕はモニターを広く見渡した。

 極東支部――世界中に存在するフェンリル支部の中で、最も練度が高いと言われる場所。それ故にアラガミの脅威も桁違いだと言われている。

 ――僕はその事実を改めて思い知らされる。先ほど戦闘が終了した事についても、アラガミ殲滅までの時間が早すぎるのだ。いくら神機兵を投入したからと言って、誰にでも出来るような芸当では無い。

 

「……」

 

 そんな猛者でも苦戦を強いられているのが、現在黎明の亡都で行われている戦闘である。

 広範囲での同時戦闘では、どうしても周囲へ注意を払わなければならない。巻き添え、流れ弾が命取りになるのは、珍しい事でもないからだ。

 だけど、彼女――ネルちゃんは異常だ。全身を巧みに使い、まるで獣のような速さでロケーションを移動する。アラガミを次々と神機で屠り、瞬く間に戦場を横断する。

 

「……考えすぎかな」

 

 彼女の戦闘スタイルそのものが、『普通に生きてきた人間に可能なのか』。そこまで考えて僕は頭を振った。

 今はともかく、戦闘に集中しよう。

 今の僕にはこれしか出来ない。彼女達を、置いて行く僕にはこれしか。

 

 

12:00

 

 

 戦況が変わった。

 ゴッドイーターにとっても、アラガミにとっても大きく変化した。

 

『アラガミの増援を確認! トラップ、起動します! 巻き込まれないように!』

 

 オペレーターの声と共に、轟音が辺りを包み込んだ。

 見れば、高く聳えていたビルが倒壊を始めていて、巨大な柱がロケーションを分断せんと迫ってきている。

 ネルは神機を後方へ引き、右足を大きく回し、ヴァジュラの顎下を大きく蹴り上げた。狙うは胴部。縦横無尽の刃が、その組織をズタズタに引き裂く。

 

「あああぁぁぁっ!」

 

 大きく振りかぶり、剣の腹でヴァジュラを吹き飛ばす。まるでボールのように転がる巨体は複数のアラガミを巻き込んで、倒壊していくビルの下敷きになっていった。

 

『増援部隊が到着しました! センチネル、起動してください!』

 

 偏喰場パルスが発信され、アラガミが分断される。ビルを挟んだ向こう側ではヘリから飛び降りていくゴッドイーターの姿が見えた。

 まだ、まだ戦える。

 

“私は――”

 

 そうだ、守るんだ。仲間を、皆が帰る家を。

 だから、私は――。

 

“守る楯になる――!”

 

 

12:30

 

「っ! オペレーター、マズい! アイツは……!」

 

 一人のゴッドイーターが見上げる先には、紅き狼の姿がある。

 ――感応種、マルドゥーク。ブラッドが死闘の末に、撃破した一匹。

 

『! これは、偏喰場パルスが減少してる……!? 嘘、そんな事が……。』

 

 誰もが耳を疑う。

 センチネルの効果が、強制終了或いは書き換えられている。そんな事がアラガミに可能なのだろうか。

 マルドゥークがいるのは高台の場所。攻撃を加えて妨害するには遠すぎる。と言って弾丸での威力もたかが知れている。周囲にアラガミが乱立する箇所での狙撃は自殺行為に等しい。

 どうする――どうする。

 

「っ!」

 

 瞬間、ネルが動くセンチネルを右手で強く握りしめた。

 そして躊躇う事無くそれを引き抜いて――マルドゥーク目掛けて投擲する。

 弾丸の如き速度で、射出されたセンチネルは最早巨大な弓矢も同然であった。その鋭利な先端が、マルドゥークへと突き刺さる。

 アラガミの目線が、一気にマルドゥークへと集中した。

 

『総員、退避! ヘリが強制着陸に移ります。すぐに搭乗を! パイロットは収容限界人数に達し次第、すぐにロケーションから離脱してください!』

 

 どこからか現れるヘリが次々と高度を落としていく。ゴッドイーター達が次々と乗り込んだ。

 背後を向けば、マルドゥークへアラガミが殺到している。センチネルの効果がマルドゥークの力によって引き上げられたのだろう。

 

「ネル! 急げ!」

「は、はい!」

 

 見れば、ヘリもほとんど離陸をしていて、残っているのは一機だけ。つまりほとんどが既に乗り込んでいたのだ。

 ヘリに乗り込むと同時に離陸が開始し、彼女は思わず息を吐いた。

 手が震えている。――戦闘時間は凡そ二時間半。通常のミッションではありえない。長くても精々、一時間がいい所だ。それに加えて、一部のゴッドイーターにはロケーション間の移動も含まれている。

 極東支部のベテランにしても、今回の戦闘は大きく堪えただろう。

 

「神機兵は……」

「あぁ、俺達と違って、自力で回収可能圏域まで向かってから回収されるそうだ。心配はいらん」

 

 今回の戦闘で無傷で済んだゴッドイーターなどいない。しばらくの間―とは言っても、半日ほどだろうが―休養が必要だろう。

 

「しかし、アイツの判断には助けられてるな」

「ジュリウス隊長、アイツって……」

「あぁ、センの事だ。今回の作戦の凡そもアイツの立てた物だ。一部、想定外はあったがここまで穏便に済んだのは、アイツあってだ。オレはそう思っている」

 

 セン・ディアンス――無能と揶揄されていた彼の能力は今回の一件で大きく引き上げられるだろう。

 彼の判断力と指揮能力は確かだ。何より、どんな戦場であったとしても常に冷静な判断を下せると言うのは誰にでも出来る芸当では無い。

 ネルは首元のゴーグルに触れる。センから貰ったゴーグルは、年期が入っていて彼が使い込んでいたのだと分かる。

 

「ジュリウス隊長、センさんとはどうやって知り合ったんですか?」

 

 ネルの言葉に、ジュリウスは僅かな間呆気に取られた顔をした。

 そして小さく微笑んだ。

 

「この作戦が終わったら、話すとするか。思い出話に浸るのも悪くない」

 

 

 

 

15:00

 

 全部隊が帰投してから凡そ二時間。今回の作戦による結果のレポートに目を通していた。

 やはり負傷者の中で、一日以上の治療が必要な者がいる。こればかりはどうしようもないけれど、こうしてみると改めて自責の念に捕らわれそうになる。

 

「セン、全神機兵の回収。無事に終了したわ」

 

 博士が入室してくる。博士にも神機兵のAIの切り替えを頼んであるのだ。

 研究者とはいえ、戦闘とは無縁という訳にはいかない。――ぶっちゃけ、神機兵を任せられるのは、博士位しかいなかったし。

 

「戦果はどうかしら」

「上々です。これなら、何とかなりそうですね。このままいけば、明日中には殲滅できると思います」

「そう、なら良かった。それとね、明日の午後、赤い雨が降るそうよ」

「……午後、ですか」

「そう、午後」

「分かりました」

 

 終わらせよう。僕に出来る限りの事を。

 

「セン」

「はい、どうかしましたか?」

「……いえ、何でもないわ」

「?」

 

 

 

 




作戦開始3日目

 10:00
 セン・ディアンス、原因不明のトラブルを起こした神機兵を現地修理するべく外部へ。

 11:00
 セン・ディアンス、MIA(作戦行動中行方不明)。通信履歴無し。全部隊捜索へ。

 12:00
 セン・ディアンス、捜索打ち切り。白衣の切れ端と血塗れの職員証からKIAと認定。全作戦行動終了。後日に緊急の葬儀が予定。

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