ゴッドイーターになれなかったけど、何とか生きてます。   作:ソン

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今回はシンプルに。
ある意味、これでようやく一段落です。


作戦三日目

 

 

 

9:00

 

 

 作戦が開始されてから三日目。経過はかなり順調だ。

 既にアラガミの撤退は確認されていて今回は追撃戦となる。無理に追い打ちをする必要は無いのではと言う考えもあったが、次の侵攻も考えて念には念を押しておく。

 昨日通り、部隊はそれぞれに別れての行動になっている。追撃が可能ならば攻撃する――と言う考えだから、膨大な人数も必要ない。

 そう言った意味では、前回の防衛戦よりもマシと言った所だろうか。

 既に神機兵も投下されていて、成果を上げつつある。

 この調子で行けば、午前中にはケリが着くはず。

 

「……」

 

 神機兵の動向も問題ない。奇襲に備えて、周囲に配置させているけれどこれなら穏便に済みそうだ。

 正直な所、二日目あたりで避難している人から脱走者が出ると思っていたけど、脱走者を全員警備が捕まえたと言うのは驚いた。さすが、極東支部。

 これなら何も問題ない。

 

「……」

 

 そろそろ準備しておくかな。

 

 

 

10:00

 

『神機兵にトラブルが発生。セン博士が現地修理に向かいました』

 

 ヘリの中で、ネル達が聞いたのはその情報だった。

 既に各フィールドをヘリで飛び回ってから数十分。アラガミの追撃を目的とした作戦は徐々に効果を発揮しつつある。

 ブラッドが担当するのは感応種の撃破だ。既にマルドゥーク、サリエル種、ハンニバル種は撃破した。

 そして次の感応種へ向かっている時の通信であった。

 

「センが? 護衛は?」

『いえ、拠点から数分もしない距離なので、博士自らが断りを』

「……まぁ、あの地域のアラガミは粗方片づけたしな。反応を掻い潜るヤツでもいない限り、大丈夫だろ」

 

 ジュリウスは次の討伐アラガミの情報を確認し、ロミオは作戦後の予定を立てていて、ギルバートは神機の整備をし、シエルは教本の閲覧を、ナナはおでんパンを食べている。

 ――センがいなければ、きっとこんな雰囲気で戦場には行けなかっただろう。最終防衛ライン寸前まで侵攻されていて、極東支部を包囲されていたとしても不思議では無い。

 彼がいて、そして彼の働きかけがあって、この結果がある。

 

「……」

 

 だが、ネルはどこか悪寒を感じていた。どこか納得のしきれない、拭いきれない気味悪さが、心に張り付いていた。

 

 

 

 

 

1-:--(詳細時刻不明)

 

 

「それじゃあ、博士。行ってきます」

「えぇ、気を付けて。そして必ず帰って来なさい」

「分かりました。――博士」

「どうしたの?」

「今までありがとうございました」

「……フフッ、そうかしら?」

「はい。お世話になりましたから」

 

 

 

「――運命を知りたければ、魂を辿って来なさい。運命に抗いたければ、魂に向き合いなさい」

「貴方に、祝福のあらん事を」

 

 

 

 

11:00

 

「よっし、終わりぃ!」

 

 ロミオの振り下ろした一撃が最後のアラガミを打ち倒す。

 既に周囲に反応は無く、他の部隊も帰投準備に入っていると言う。後は帰還報告を、支部へ提出すれば晴れて作戦は完遂である。

 

「と、突っ立ってる時間はねぇんだ。さっさと帰るぞ」

 

 その言葉に、ロミオが頷く。

 本日の午後から、数時間に掛けて赤い雨が降る事が予測されている。

 

「全員、帰投準備に……待て、緊急回線が入った」

 

 緊急回線――その言葉に、不安が過ぎる。

 余程の緊急事態が起きた時に使われるモノ。戦場で決して聞きたくはない言葉だ。

 

「……! 分かった、すぐ行動に移る!」

 

 ――途端、息が詰まった。

 彼の表情が、かつてない程に焦燥に駆られていたから。

 

 

「センが行方不明だ! すぐに捜索に当たれ!」

 

 

 

 

 

 雨が降る。

 赤い雨が降っていた。ただそれだけがラウンジに響く。

 机の上に置かれた二つの物。

 血の付着した職員証と、焦げた白衣の切れ端。

 たったそれだけが、彼の行き先を告げていた。

 

「現場には……これら以外に何も、ありませんでした」

 

 ――赤い雨による二次被害のため、捜索打ち切り。全作戦課程終了。

 部隊には、それだけが告げられた。

 

 

 

 

 

 

「……っと、雨か」

 

 テクテクと歩く。

 白衣は切れ端以外、燃やしておいたし職員証には血を付けておいたから偽装としては完璧な筈。

 僕――セン・ディアンスは携帯端末のマップを見ながら、長いフィールドを歩いていた。歩いてから多分、二時間くらいは経ってるんじゃなかろうか。

 赤い雨に打たれながら、歩くと言うのも中々に心臓に悪い。

 博士も微妙な日程で、僕を送り出してくれたものだ。確かにアラガミとゴッドイーターの双方からの監視から逃れるためには、赤い雨の最中とアラガミが掃討された直後――この二つのタイミングが重なる瞬間が最もベストだ。

 赤い雨を突っ切るとなれば、僕とて怖い。だから、『せめてレインコートとか無いですかね』と聞いた際の博士の返答を、僕は決して忘れはしないだろう。

 

 

『センは黒蛛病にならないのだから、無くても問題ないでしょう?』

 

 

 そんな事を、笑顔で言ってきたのである。

 僕の体質上、赤い雨の影響を受けないのは確かだ。心臓貫かれても死なないとか、人間じゃないし。

 ――異常なほどまでに、生きる事に貪欲な体。脳を穿たれ、心臓を砕かれても、一時的な仮死状態になるだけですぐに蘇生を開始する。感染症にも罹らないし、体調を崩す事も無い。傷なんてたちまち治ってしまい、痕すら残らない。

 ある意味、アラガミよりも恐ろしい物だ。

 

「……」

 

 にしても、白衣が無くなったのが落ち着かない。

 僕の服装は黒の上着とズボンだけで、ネクタイは白衣と共に燃やしてしまっている。

 

「はぁー」

 

 さて、一体いつになったら着くのやら。

 雨はまだまだ止みそうにはない。

 

 

 

 

16:00

 

 

 雨が止んでから凡そ一時間。もう正直、足が限界です。

 そんな中で、僕の前に見えるのは巨大な壁。

 フェンリルから見捨てられた人々が暮らす場所。

 ――うん、大丈夫。フェンリルの証が着いてる物は全部捨てて来た。大丈夫。

 

「遅かったな、セン」

 

 懐かしい声がした。

 眼鏡をかけた男性――ネモス・ディアナで『総統』と呼ばれている人物。

 僕の先輩でもあり、これからもお世話になる人だ。

 

「なら迎えでも下さいよ。僕、一応研究者なんですから」

「あぁ、丁度迎えに行こうと思ってたところだ」

「……何か、大分柔らかくなりましたね、先輩」

「そういうお前は、どこか変わったな」

「変わった?」

「以前はただの廃人にしか見えなかったが、今はまるで人のようだ」

「……何ですか、それ」

 

 思わず笑ってしまう。

 生真面目を絵にかいたような人が、そんな事を言うなんて冗談もいい所だろう。

 

「さぁな、それはともかく。――セン・ディアンス。ようこそ、ネモス・ディアナへ」

 

 葦原那智――それが彼の名前。

 ネモス・ディアナ――それが、これから僕の過ごす新たな場所。いつか起こる『審判の日』まで。

 

 

 




那智さん、キャラムズいです。
……あの人、コミック版限定のせいか、私の読解力では人物像が読み取れないんです。

時期は遅くなりましたが、別の那智さん、改二おめでとうございます。そんな私は現在、足柄を育てている最中です。


GEの二次書いている作者様の中で、提督はどれだけいるんだろうか……。

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