ゴッドイーターになれなかったけど、何とか生きてます。   作:ソン

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レイジバースト、購入して現在プレイ中ですが……ボリュームがかなりあってビックリしてます。
まさか難易度15まであるとは……。神融種も通常種とは全く異なるので、結構快適ですね。マグナガウェインは初見殺しですが、某狩りゲーのシャガルさん程ではないので慣れてきたら楽しいです。


ただし、ヤクシャ神融。テメェはダメだ。


E-5、丙で突破! 天城さんが目的だからいいんだよぉぉぉ!


ネモス・ディアナにて

 

 

 フライアの庭園。そこには太陽が差し込み、光が溢れている。

 そんな中に彼らは立っていた。

 

「貴方に安らぎを捧げます」

 

 歌姫の声と風の響く音、そして嗚咽。ただそれだけが室内に響いている。

 彼らの視線の先にあるのは、一つの石碑だ。

 そこに刻まれた名前は、非戦闘員である一人の青年の物。ゴッドイーターである彼らが決して守り抜かねばならないはずだった。

 

『セン・ディアンス』

 

 名前だけが、刻まれた石碑。誕生日や年齢などはどこにも記されていない。

 激闘の三日間――彼らは確かに極東支部を守り抜いた。だがそのファクターであるのは、彼だ。彼が手を回し、知恵を絞り、策を散りばめ、状況を変えた。

 犠牲者は彼一人以外、誰も存在しない。

 

「……」

 

 ネルはただ前を見ていた。目尻から流れる涙が零れ落ちないように、背筋を伸ばして前を見ていた。

 そうでもしなければ、きっとこの場で蹲ってずっと泣いていてしまいそうだったから。

 彼女が握りしめているゴーグルは、ただ冷たい。それが彼の生きた証。ただそれしか残ってはいなかった。

 

「お姉様、今日は何かあるのですか?」

「……ラケル」

 

 きょとんとした表情で、彼女は傍らにいる姉を覗き込んだ。その表情はどこか無垢な子供を思わせる。

 

「セン博士が、亡くなったのよ」

「……あら、センが? それは大変。すぐに準備しなきゃ……」

 

 途端、糸が切れた人形のように項垂れた。そして、まるで逆再生のような軌道で上体が浮き上がる。しばらくの間顔を俯かせたままで、ふと眼前を向いた。

 彼女は口元に微笑を浮かべたまま、何も映さない瞳で、両手を虚空でなぞり続ける。

 

「ほらセン、襟が立っているわ。今日は貴方の葬儀なのだから、しっかりなさい。ネクタイも歪んでるわ。フフッ――ほら、姉様も何か言ってあげてください」

「……そう、ね」

 

 乾いた言葉がただ響く。

 この場にいるほとんどの者達が、無力感に襲われていた。

 その中で、ジュリウスだけはただ一人、石碑を見つめていた。脳裏に過ぎるのは友との約束。

 

『ジュリウス、頼みがあるんだ。僕はここを少しの間、離れる事になる。

 その時に博士に寄り付こうとする奴が必ずいるはずだ。だから――ジュリウス。

 フライアと、そして何よりもラケル博士を、守っていてほしい』

 

 あの時、託された言葉。例え今の状況が仮初の出来事でも、友の言葉から伝えられた真実と交わされた約束は、真実に他ならない。

 

 ――あぁ、分かった。フライアとラケル博士は、必ずオレが守り抜く。

 

 そう答えた。だから約束を果たすだけ。

 幾度となく神機を握り続けて来たその手を、彼は強く握りしめた。

 

 

 

 

 センの葬儀が終わった後、ジュリウスはその場に立ち続け来るべき人を待っていた。

 ここから先は全て彼自身の判断だ。けれど、それが間違っているとは思わない。もし望まぬ結果を導いたのならば、自身が責任を取るだけの事。

 

「来たか、副隊長」

「……はい」

 

 ネルティス、ブラッド隊副隊長。その頬にはまだ涙の痕が残っている。

 首に掛けられたゴーグル。きっと、彼から貰ったのだろう。

 作戦中の時も、彼女はずっとそれを持ち続けていた。

 

「……そうだな、単刀直入に言う」

「……」

「ネル、明日からお前が隊長だ」

「……えっ?」

「お前が隊長として、ブラッドを率いるんだ。そして皆を守ってくれ」

「ちょ、ちょっと待ってください! それって、つまり……」

「あぁ、オレは明日付でブラッドを抜ける」

 

 訳が分からないと言った様子だった。

 戦闘ではほとんど直感的に動き、ベテランのゴッドイーターですら翻弄する程の俊敏さを持つ彼女が、戸惑っている。

 その様子に思わず笑ってしまった。

 

「ど、どうして……!?」

「……分かったんだ。オレに多数を守る力は無い。オレが隊長でいられたのは、お前達がいてくれたから。そして――センがオレを導いてくれたからだ。

 ネル、お前はオレ以上の実力がある。そして仲間を導く力がある。もしお前が隊長なら、センはまだ生きていたのかもしれない」

「だ、だけどそれは結果論です! ジュリウス隊長が分からなかった事が、私なんかに分かる訳が……!」

「いや、分かる。オレが保証する」

「……けど、私が、私なんかが……!」

「ネル。センを守れなかったのは、全てオレの落ち度だ。ブラッドやお前までが背負う事は無い。

 オレはフライアとラケル博士を守る。だから、ネル。お前は……ブラッドや極東支部を、守ってくれ。

 頼む――隊長としての最後の我が儘だ」

「ッ……! ――分かり……ました……!」

 

 俯いて、彼女は両肩を震わせる。

 部下を指揮する時や民間人から暴言を受ける――そんな事など、今と比べれば如何にささやかな事なのかが分かる。

 世界の為に仲間を背く。常人ならば到底、耐えられない重み。

 あの時の彼の気持ちが、今なら分かるような気がした。

 

 

 

 

 ネモス・ディアナ。かつてアリサさんとその同僚が、ヘリで不時着した際に訪れたと言う街。その大通りを、僕と先輩は歩いている。

 僕はその光景に圧倒されていた。極東支部の居住地区と、風景こそは変わらない物の雰囲気はまるで違う。

 あちらが殺伐と言うのなら、こっちは穏やかだ。

 子供たちが元気に走り回っているし、露店らしきところには商品が並んでいる。

 

「セン、お前のオラクルリソースの理論、それが実用段階に進みつつある。かつてお前が机上の空論と言って、諦めていた物だ」

「……先輩、どうやって完成させたんですか。僕も理論は出来てましたが、実験が出来なかったのに」

 

 僕がそう言った途端、先輩が嫌そうに舌打ちした。

 え、何。僕今、地雷踏んだ?

 

「一人の天才が完成させた。セン、エイジス島は知っているな?」

「え、はい」

「……そこから資源を盗み出して、実用化にこぎつけた」

「……はい?」

 

 ……あの理論は、膨大な研究資材が無いと実験すらままならないから僕は完成出来なかった。

 つまりはこういう事だ。資源を用意できないなら、他所から盗めばいい。

 どうみても窃盗です。本当に。

 

「やり口は気に入らんがな。爺さんを思い出させる」

「……へー」

 

 先輩の祖父……と言うのには、僕も一回だけあった事がある。とにかく個性的な人だったような気がする。

 

「さて、セン。お前がネモス・ディアナに来た目的は何だ」

「はい、一見信じられない話ですけど」

「信じる。さっさと言え」

「――雨を、止ませる(・・・・)ためです」

「……ほう」

 

 大通りを歩きながら、けれど周りの人達には気づかれないような声量で僕と先輩は会話をする。

 

「先輩は、ノアの箱舟って聞いた事ありますよね」

「あぁ、無論。だが、私はどちらかと言うと、空中庭園が好きだ」

「僕はバベルの塔です。……と、話は置いといて。

 僕は、この雨は地球の再生システムの一環であると考えています。数年前に、極東支部で起きた終末捕喰は知ってますよね」

「あぁ、あの狐目博士から聞いている」

「あれが前回は防がれてしまった。だから地球としては、今回こそは何としてでも成功させたい。――終末捕喰の鍵が、特異点の発生だと言うのは?」

「知っている。特異点から生存反応が消滅した際に、終末捕喰が発動したともな。そして前回は一人のアラガミの少女が、特異点だったとも聞いている」

「そこまで知っているなら、話は早いです。地球側は前回の失敗を考えてみた。理由は単純で、特異点が一つだったから防がれてしまった。――なら、そもそも特異点を大量に用意してしまえばいい」

「なるほど。オリジナル一つに時間を掛けるより、レプリカを大量に用意した方が効果的か。あればそれでいいのだからな」

「仰る通りです。そして特異点に選ばれる理由として、ゴッドイーターかアラガミか。そのどちらかに分類される事が条件だと考えられます。黒蛛病は、そのどちらにも当てはまらなかった、或いは――特異点としての適性が低かった事による拒絶反応の可能性が高いです」

「……なるほど」

 

 まだ仮説の段階だ。これは完全に僕の自論だからどこか間違えている所もあるだろう。例えば特異点の所とか。

 先輩は頷くようにして、話を頭の中で纏めている。

 

「つまり、セン。お前の目的は――終末捕喰を引き起こし、雨をやませる。そして終末捕喰に対しては、オラクル細胞自体へ何らかのアクションを起こし、永続的に機能を停止させて、終末捕喰を閉じ込める。こういう事か」

 

 思わず胸が鼓動を上げた。

 そうだ、この人は情報を断片的に渡すだけで、一気に確信まで斬り込んで来る。

 

「……」

「お前のやる事なら大体想像がつく。――恐らく、終末捕喰を起こす理由も、雨とやらを止ませるためだろう」

「……」

「ノアの箱舟と言ったな。だとすれば、今の雨は予兆であり、本格な雨となれば洪水となって全ての者を死に至らしめる――と言った所か」

「全部、大当たりです」

 

 この異常とも呼べる洞察力の高さ。

 それが、総統としてネモス・ディアナを成長させ続けている。

 

「なら、これからお前がここに来た理由は何だ。あちらでも、十分出来るだろう」

「先ほど、終末捕喰を閉じ込めると言いましたが、そのためのファクターがまだ足りていないんですよ。あっちだと少し動きづらいんです」

「……隠れ蓑か」

「はい」

 

 ――と、話している間に気が付けば大通りを抜けて巨大な施設の前に辿り着いていた。

 大きさは、黎明の亡都とかにある図書館くらいでネモス・ディアナでもそれなりに大きな規模だ。

 

「セン、ここがネモス・ディアナ開発局だ。主に資材の開発や設備強化、対アラガミ防壁強化などを行っている。

 数は片手で足りる程だが、その誰もが怪物クラスの一角を持つ。セン、お前の理論をアレンジし、実現させた奴もその一人だ。……大変憎たらしいがな」

 

 先輩が扉に手を掛ける。そこで僕は何か異臭が漂ってくることに気が付いた。

 少しキツイ鼻に突くような刺激臭。――そこで僕はふと匂いを思い出す。

 極東支部のラウンジで、バーから漂ってくる香り。僕が苦手な物の一つ。

 

「おい、入――」

「おー! 那智坊! お疲れさん!」

 

 扉を開けた瞬間、盛大に先輩の顔面へ液体がぶちまけられた。

 その正体は酒――どちらかと言うとウィスキーとかかなり度数の高い奴だ。今のご時世なら、一本数万は下らない。

 それを人の顔にぶちまけるなんて、札束でビンタするような物だ。

 ちなみにそれをぶちまけたのは、長い赤髪の女性である。――レア博士と違って、体型はスレンダーだけれど、その両手には大樽が挟まっていた。

 もしかしてあれごとぶちまけたの?

 

「……ニーナ。私は新人を出迎える用意をしろと言っただけで酒をぶちまけろと伝えた訳ではないんだが」

「えー? でもブレンからそう聞いたぜー」

「……ブレン、一体どういう事だ」

 

 先輩の目が動く。

 その視線の先にいたのは、茶髪で髭を生やした壮年の男性。

 ――それを見て、何か引っかかった。

 

「どうもこうも何も、出迎えと言ったら酒だろ。人類史が始まって以来、出迎えは酒と決まっている」

 

 そして背の小さい―多分僕よりも若いかもしれない―黒髪の少年が、呆れたように両手を返して空に向けた。

 

「どうでもいいじゃん、総統さん。気にしてたらハゲるよ?」

 

 そうして先輩と謎の三人の言い争いが始まる。

 ――にしても、あの中の一人、どこか見覚えがあるような……。

 

「……すまんな、実力は確かなんだがな」

「あ、いえ。別に……」

 

 最後に、背の高い黒髪の男性。どこか申し訳なさそうに頭を振っていた。

 どうやらこれで全員。確かに、片手の指で事足りる人数だ。

 

「……えぇい、埒が明かん。セン、さっさと済ませろ」

「……セン? お前、士官学校のセン・ディアンスか?」

 

 僕を見て驚いたように指を差すブレンと呼ばれた男性。

 ――違う、同級生の年齢じゃない。どちらかと言うと教える立場のような――あ。

 

「教官!?」

 

 ブレン。ブレン・ギーレス。フェンリル士官学校の教官の一人。

 僕が最もお世話になった人で――士官学校の中で、誰よりも僕に目を付けてくれた人。

 彼の教える講義や訓練は、多くの士官学生が殺到する程の人気っぷりだった。

 

「ほー、フライアに行っていたとは聞いてたが、まだ生きてたか。やはり俺の見込んだ通り、中々しぶといな」

「それ、どちらかと言うと喧嘩売ってます教官。――それにしても、どうしてここに? 教官程の人なら、まだ現役を張れていたのに」

「いや、お前が卒業してから中々面白みのあるやつがいなくてな。簾を押すのにも飽きて来たところを、ここに拾われて厄介になっていると言う訳だ」

「フン、本当に厄介だとは思わなかったがな」

 

 うん、教官は昔から色々な伝説があった。

 今はあえて言わない。多分、話が代わっちゃうから。

 

「へー、アンタがセンか。アタシはニーナ・アンドリュー。この場所の室長もやってんだ。よろしくな!」

 

 と、そこまで来たところで、僕の鼻に再度強烈な刺激臭。

 ――って、ちょっと待って。これ、結構ヤバい度数じゃない?

 

「……あの、ちなみに何を呑んでたんですか」

「えー、ただの水だよー」

 

 嘘つけ。絶対水じゃない。

 

「確か、昔の名でスピリタスだったか。中々に刺激的な味わいだった」

 

 硫酸レベルの奴じゃないですかー、やだー!

 

「……まぁ、こんなところだがお前は染まらずに馴染んでくれ。俺はウェルナー・ハンス。研究もやるが、どちらかと言うと対人格闘向きだ」

「地下街でスカウトした。あそこのゴロツキは裏打ちされた強さを持つ。それを上回るのが、そこの男だ」

「そこまでの話じゃない。それに俺よりも桁違いの奴だっている」

「桁違い?」

「あぁ、昔……今から二、三年以上前だったか。巨漢数人を一人の少女が半殺しにしたって噂があってな」

「……うわー」

 

 地下街はヤバい。僕も何度か訪れた事はあるけれど、そこは完全に世紀末だ。

 どう頑張っても、視界にモヒカンとスキンヘッドが入って来る。そんなところである。

 

「で、そこにいる子供は中々に頭がキレる。フェンリルでは扱いきれない程にな」

「ハッ、アンタにだけは言われたくないよ総統サン。僕はリュード。リュード・ライジング。新しく誰かが来るってのは聞いたよ。よろしくな」

 

 お酒大好きな科学者に、どこかネジが飛んでいる科学者、そしてバリバリの武闘派科学者に、毒舌な少年科学者。

 ――そこまで聞いて僕が思う事はただ一つ。

 こんなイロモノの中にいて、僕はこれから大丈夫なんでしょうか。

 


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