ゴッドイーターになれなかったけど、何とか生きてます。 作:ソン
レイジバーストのサントラ、いいですね。「Blood rage」と「wings of tomorrow」がかなり好みです。「Blood rage」を戦闘BGMに選択できるようになれば文句無しです。
ちなみに我ながら、どうしてこんな展開になったのかはわかりません。けれど、センがゴッドイーターの作品の主人公として、本編を締めるにはこの展開以外私には思いつきませんでした。
武蔵出ねぇぞ、オイッ!!
雨が降る。血の如き、鮮雨が降る。
全てを洗い流す贖罪の泉が世界を覆う。
全ての命の終焉の時。人も神も、全て塵と化す裁きの時。
さぁ、始めましょう。
――審判の時を。
――世界全域で赤乱雲が出現した。
ラケル・クラウディウスの作り上げたレーダーの予測を嘲笑うかのように、その日は突然訪れた。
今まで極東支部でしか観測されていなかった赤乱雲が、世界全てを覆うように出現し、赤い雨を降らせている。
出撃していたゴッドイーターは緊急退避するも、何名かは黒蛛病に感染の疑い。世界全域からは次々と黒蛛病の発症報告が告げられていた。
極東支部でも全てのゴッドイーターの出撃が中止となり、外部居住区にすら出ることが出来ない。アーコロジーである事から飢え死と言う問題こそ無い物の、ゴッドイーターからすれば、己の全てを否定されるような物だ。
例えば今、この最中にアラガミが群れを成して進撃でもしてくれば――蹂躙される末路しか残されていない。
――そんな空気の中で、ジュリウス・ヴィスコンティとラケル・クラウディウスの帰還。そして極東支部全てのゴッドイーターをラウンジに集合させると言った出来事は、ある種の不気味さを兼ね備えていた。
「――今からいう事は全て、事実だ。嘘だと思う者、参加を拒否する者は途中で出て行って貰っても構わない」
そう前置きをする。
全てを明かす時が来るとすれば――それはギリギリのタイミングまで。センはジュリウスにそう伝えていた。
今がその時、ただそうジュリウスが判断したから話すだけ。
「――セン・ディアンスは生きている」
その事実を告げるのに、どれだけ時間を掛けて来ただろうか。ジュリウスの脳裏に浮かぶのは、一人の親友の姿。何かあくどい笑みを浮かべているのは、気のせいだろう。
彼の言葉に、真っ先に反応したのはネルティスだった。
「……本当、に?」
「あぁ、理由は今から話す。俺がブラッドを離れたのも、センが自身の死を偽装したのも、お前達に真実を告げなかったのも――全て俺とセンが仕組んだ事だ」
最後は嘘だ。全てはセン・ディアンスが仕組んだ事。けれど、ジュリウスはそう告げるのを許さなかった。
彼にとってセンはかけがえなき友だ。ならば、その友に全ての責任を押し付けるような発言など、許されない。
「全て話す。俺とセンの目的を。そして――これからの戦いを」
ネモス・ディアナ。そこからも降り注ぐ赤い雨ははっきりと見えている。
それは雨と言うよりも最早豪雨に近い。まるで人々を殺そうと迫る弾丸の如き雨音を立てていた。
だからと言って、僕が怯む理由にはならないけれど。
今、僕の服装はれっきとした戦闘服だ。黒を基調としたスーツタイプで、ブラッドの制服にも似ているようなデザイン。
覚悟を決めよう。
僕らはこれから地球を騙す。世界を騙す。そして、滅びの未来を変える。
「行くんだね、セン」
「はい」
いつになく真剣なニーナさんの声。彼女の酒癖などハッタリだ。己の真実を隠すための隠れ蓑でしかない。
彼女もまた――と言うより彼女達は僕の目的に気づいてしまっているらしい。先輩の言ってた言葉は強ち嘘では無かったと言う事だ。
「どうするんだい。アンタのその例の力とやらは、まだ一度も試せていないんだろう」
「かなり疲れますからね、アレ。下手に試して、本番で燃料切れなんて笑えませんから。――全て、僕の覚悟次第です」
「覚悟……ねぇ。アンタの覚悟とやらは何だ?」
ニーナさんの瞳が僕を捉える。
本気だ。彼女は場合によっては僕を全力で止めようとするだろう。
研究者からしてみれば、仮定で物事を進めるなんて以ての外だ。僕もその端暮れだからよく分かる。決定的な確信を持たなければ、ただの博打と何ら変わらない。
僕の脳裏に過ぎるのは、大切な人達。そして助けると決めた一人の少女。
「約束を、守る事です」
ジュリウスとも約束、そして僕自身の約束。
その全てを果たしに行く。
ニーナさんは無言で僕を見つめて――そして困ったように笑った。
「――くっ、くはははっ!」
「へ?」
「合格。こういう場面でしっかりと物事を言える――なら、覚悟は示せてるって事さ。大事なのは何を言ったかじゃなくて、どこで言ったか。何よりもそいつが大事だからね」
何だかよく分からない。
けれどニーナさんからお墨付きは貰えたみたいだ。
「行って来な、セン」
「はい、行ってきます」
さぁ、約束を守りに行こう。
ジュリウスの口から語られたのは、まさしく世界を騙す企みだった。
これから行うのは、文字通りの計略である。セン・ディアンスが提案し、ラケル・クラウディウスが準備をし、ジュリウスが発動させる。
そして、これからがその総仕上げ。
意義を唱える者はあれど、参加を降りる者は一人もいなかった。
まずブラッド隊が先行し、神機兵保管庫まで突入。極東支部の隊員はフライアの周囲に集うであろうアラガミを掃討する。
防護用のコートなど人数分も無い。つまり外部で戦う者は黒蛛病に罹患する事を受け入れなければならない。
彼らはそれを受け入れたのだ。赤い雨は止ませない限り、人類に未来は無い。
――ならば、自身の小さな未来などくれてやると。
「っ! どいて!」
跳びかかって来るオウガテイルをすれ違いざまに斬り捨てる。さらに左右から来るドレットパイクを刃の腹で吹き飛ばす。
フライアの地下――神機兵保管庫。そこで終末捕喰を発動させる。
ラケルは既にそこへ特異点となるアラガミを用意していると言う。
“大分長い間、置いておいたから暴走の可能性は高いでしょう。戦闘は避けられないと考えてください”
そのアラガミを倒せば、特異点が発動。そしてジュリウスもまた特異点の力を発動させ、終末捕喰を二つ引き起こす。
何でもそこからはセンが介入すると言う。それで全てが集約すると。
保管庫の扉を神機で斬り捨てる。
「アレが……。ラケル博士が設計した、神機兵のプロトタイプ」
そこにいたのは、何とも形容しがたいアラガミの姿だった。巨躯を守る装甲に、頭部には人の顔。デミウルゴスを連想させるその外見は、彼らの知る神機兵とは程遠い。
その名は神機兵零號と言う。
「うわー、つよそー」
「あぁ、放置してる間アラガミに喰われないようにするために、かなり戦闘力を上げてるらしい。意外に俊敏らしいぜ」
零號の瞳がこちらを向く。耳をつんざくような咆哮。
他のアラガミとは比べ物にならない。
「よっし、隊長、号令掛けてくれよ。こんな時こそ、いつも通りだろ」
「あぁ、隊長。頼む」
ジュリウスからの言葉に、ネルは息を吐く。
会える。アイツを倒して、終末捕喰を止めれば、あの人に会える。もう一度、あの日々が帰って来る。
亡くした存在意義を、取り戻す。
「ブラッド隊、出るよ!」
彼女の言葉に、全員が頷き高台から跳躍する。
着地と同時に各々が弾けるように散開した――。
走る。フライアは意外に広く、侵入にも手間取ったけれど、アラガミがかなり入り込んでいた。
跳びかかって来るオウガテイルを回し蹴りで吹き飛ばして、その勢いのままでもう一体を蹴り飛ばす。
あの仮面を付けてから、何故かそれなりの護身術が僕の体に染みつきつつあった。いまの僕ならばオウガテイルの一体、二体程度なら何とか徒手空拳で戦える。――まぁ、オラクル細胞での攻撃じゃないから倒せないんですけどね。
「!」
咄嗟に頭を伏せる。さっきまで頭のあった位置を、サイゴートの放った弾丸が掠めていく。
マズい事に数が無駄に多い。――どうする、ここで足止めを食らう訳には――。
「セン!」
聞き覚えのある声と共に、オラクル弾が次々と殺到し、アラガミ達を駆逐していく。
ゴッドイーター達が神機を振りかざし、アラガミへ斬りかかって行った。
「コウタさ……!?」
名前と共に振り返ろうとして、絶句した。
――彼の左腕に紋様が現れている。
「へへっ、さっきまで外で戦ってたからさ。意外と進行早いんだな、コイツ」
「……すいません」
「何も謝る事なんか無いって。赤い雨、止めるためなんだろ? だったらこのくらいへっちゃらさ」
「……」
分かっていたけれど、知人が黒蛛病に罹患していると言う光景は心に来る。
必要な事だ。必要な事だと感じてはいるけれど。
隣を見る。アリサさんにも紋様が浮かんでいた。――否、ゴッドイーター全員に紋様が浮かんでいる。
「センさん、行ってください。退路は私達が死守します」
「……分かった、お願いします」
振り切って走る。走る。
跳びかかって来るオウガテイル。思わず体が反応しそうになるけれど、構わない。
横からエリナちゃんが槍を突き出しながら突進し、吹き飛ばす。その手には紋様。
続けて迫るドレッドパイク。エミールがブーストハンマーで薙ぎ払う。その首裏には紋様。
頭上のサイゴートが僕を喰らわんと飛来する。――スナイパーでの狙撃が直撃し、サイゴートが沈黙する。背後を見れば、手を振るハルオミさん。その頬には紋様。
「!」
構うな、走れ。走れ。
覚悟を決めたんだ。
やがて聞こえて来る戦闘の音。聞き覚えのある声。――間違いない。
そしてアラガミの断末魔。良かった、ギリギリ間に合った。
「! セン!」
「ジュリウス! 特異点を!」
「あぁ、了解した!」
倒れ伏す神機兵零號の周囲へオラクル細胞が集まっていく。
ジュリウスが神機を床に差し、左腕を翳した。
「皆は後ろに! 巻き込まれる!」
終末捕喰が激突する。
そうだ、ここまでは想定通り。ここまでは。
問題はここからだ。
――やがて、集うオラクル細胞は一つの液体となった。山吹色の濁流が次々と頭上へ上がって行く。
「セン!」
「うん、分かってる!」
意識を集中させる。これが僕の力。
――偏食因子を奪い取り、オラクル細胞を活動停止にまで追い込む球体を出現させる。まるで九尾の狐の殺生石を連想させる効果。この事から僕はこれを殺生石と名付けている。
初めて使ったのは幼い頃、アラガミから逃げるため。あの時は文字通り暴走した。そしてラケル博士と共に何回か、実験した程度。
終末捕喰を構成するオラクル細胞。その外壁に当たる部分を、この力で活動停止させ閉じ込める。それが僕の計画だった。
――けれど一つ、失念してしまっていた。
地球の意志が、以前よりも強靭であると言う事を。
「!」
虹色の球体が出現し――その瞬間、僕はジュリウスを後ろへ突き飛ばす。理由なんてほとんどない。ただ、危ないと感じたから。
途端、止まりかけていた終末捕喰から触手が伸びて、僕を飲み込み――そこで意識は途切れた。
終末捕喰は止まらない。セン・ディアンスの力により、その速度はなだらかではあるが、まるで樹を成すかのように天へと伸び続けている。
――まるで、月を飲み込まんかとするかのように。
ぱちりと目を覚ます。
見慣れた僕の部屋。いつもの荷物。何ら変わりない普通の光景。
時間はいつも通りの朝だ。カレンダーを見れば、日付は土曜日で学校は休みである。
窓から見える風景は見慣れた住宅街。遊びに行こうとする子供達が元気に走り回っている。
「あれ……」
何でこんなに懐かしく感じるんだろうか。いつも見ている光景の筈なのに。
“――”
呼んでいる。誰かが呼びかけている。
もう一度耳を澄ませた。
“セン――丈――か”
「セン……?」
誰だろうか。少なくとも僕の名前じゃない事は確かである。
空耳か或いは――。
まぁ、外の子供達の声を聞き間違えたか何かだろう。
「……あれ」
日課のゲームでもしようかと思ったところで、ふと手が止まる。
何かを忘れている。
大事な何かを。
「んー……」
何か気乗りしない。期末試験はだいぶ先だから、勉強もあまり捗らないし。大学受験が控えている訳でもないし。
――なのに、どうして。こんなに気持ちが落ち着かないんだろうか。
「少し外でも歩こうかな」
街でも歩けば気分は晴れるだろう。