ゴッドイーターになれなかったけど、何とか生きてます。   作:ソン

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ちょっと、詰め込み過ぎた感じが……。
とあるシーンはある潜入ゲームに影響されています。
台詞多すぎワロエナイ。

次回、キュウビ編完結。


ターミナル・フェイズ

 セン・ディアンスが原因不明の病に倒れた。呼びかけに彼は反応する事も無く、そのまま病室にて全身管理がされている。

 その話が広がった翌日、ラウンジへ全てのゴッドイーターが召集されていた。

 ラケルと榊の二人が彼らの視線の先に立っている。

 

「今回の召集の理由は言うまでも無く。セン君の容態についてだ。彼は決して普通の病で倒れたのではない。

 ラケル博士、説明を」

「はい。まずセンの特異性について説明します。――彼の体はレトロオラクル細胞で構成されている」

 

 ラケルの言葉に周囲が騒然となる。

 セン・ディアンスの体に、求めていたオラクル細胞が存在しているのだから。

 

「けれどそのレトロオラクル細胞は研究には決して使えない。既にその性質は『生存』と言う力に固定されている。

 ――だから彼は黒蛛病にも罹患しない。それすら受け付けない程の強い力を持っている」

「……待ってください。だったら黒蛛病の抗体として使えてたのでは?」

 

 一人のゴッドイーターが口を挟む。

 至極当然の質問にラケルは表情を一つも変える事無く淡々と答えた。

 

「――言った通り、彼の体はレトロオラクル細胞で構成されている。つまり彼の体にしか、そのレトロオラクル細胞は活動できない。彼の体にしか適応できないの。

 もし他のゴッドイーターや民間人の体にいれていたら――そのレトロオラクル細胞に体を食い尽くされ、死亡するか或いは――神機を使用する事が出来なくなる。

 抗体として使用するには余りにもリスクが大きすぎた」

「……ラケル博士。つまり今回のセンの急変はそのレトロオラクル細胞が暴走したと言う事ですか」

 

 ジュリウスの言葉にラケルは頷く。

 

「普通の暴走なら良かったの。けど今回は普通では無い。

 貴方達も見たでしょう。センが終末捕喰を停止させる際に使用した球体。

 あれは偏喰因子を停止させる力を持つ。――今まではその力はセンの意志によってコントロールされていた。その力が、もう徐々に彼の体の中で暴走を始めている。

 今回、センが倒れた理由はそれよ。もう薬では決して治らない」

「他に手段はねぇのか?」

「一つだけ、方法がある。けれど、確立した手段では無い。確実に助かると言う保証はどこにも無い。

 ――キュウビから入手したレトロオラクル細胞を、彼に投与する。外部からレトロオラクル細胞を使用した外的因子を与えれば、回復する可能性はある。けど確証は無い。もしかするとレトロオラクル細胞自体が無駄になってしまう事だって在り得る」

 

 ラケルの口調はいつもと違う。

 何かを押し殺すような、無理しているような印象を受けた。

 

「そしてもう一つは――彼を決して出てこれない棺桶に隔離する。それも決して人目に付かない深い地の底へ。

 彼と二度と出会う事は出来ない。彼の声を二度と聞く事も出来ない。

 その代わり、人類はより進化した生活と未来を約束される」

 

 今度こそ誰もが沈黙した。

 つまりラケルはこう言っている。

 センを救うか、それとも見殺しにするか選べ、と。

 

「ま、待ってください! 何でセンさんを閉じ込めないと……」

「――彼の体の暴走は最早体内で収まるモノでは無い。少しずつ少しずつだけれど、徐々に外に漏れ出してきている。

 貴方達も見たでしょう。彼が螺旋の樹の際に見せた力を」

 

 脳裏に過ぎるのは、あの時の光景。

 彼の頭上に突如出現した球体が、次々と終末捕喰を停止させていく。

 

「あの力は彼が今まで制御していたからこそ、私達は無害だった。――けど、その力はもう己を制する事が出来ず、宿主を乗っ取ろうとしている。

 つまり、このままだとセンは――ただ在るだけで何もかもを破壊する大量殺戮兵器になる」

「……冗談じゃねぇぞ」

 

 ラウンジに重い空気が張りつめる。

 彼一人の命か、それとも人類の未来か。

 

「――あー、ラケル博士。ちょいとスマンが、そいつは時間を置けるか?」

 

 頭を掻きながらリンドウは椅子から立ち上がる。飄々とした振る舞いではあるが、その視線は極めて真剣だった。

 

「今、俺達が直面している問題はどちらにせよ、キュウビから得られるレトロオラクル細胞が必要なんだよな?」

「えぇ、そうよ」

「キュウビが作戦開始地点に到達するのは二日後。つまり今、決断を下したところで二日間は何も出来ない。まぁ、言いかえると最低でも一日は猶予があるって事だ」

「そうね、なら返事は明日聞きましょう。――私は、研究室にいます」

 

 そう言って、ラケルはラウンジから出ていく。

 僅かな沈黙の後、リンドウが手を叩いた。

 

「ほら、お前ら。まずは飲めるモン頼め。空腹じゃ、回る頭も回らんだろう」

 

 

 

 

 ラケルが見る先は、全身をチューブに繋がれたセンの姿だった。人工呼吸器から呻き声が漏れていて、彼の額には無数の汗が滲み出ている。

 心電図には不規則な波形が表示されていて、その都度彼の胸部に装着されたAEDが自動的に起動し、心臓を無理やり正常に戻している。

 

「……」

 

 ラケルはただ彼を見つめている。

 その手を握りしめると、いつも感じていたはずの温もりはどこにも無い。

 

「セン……」

 

 呼びかけには誰も応えない。

 長く続いていた沈黙。それが彼の一際大きな呻き声で、掻き消される。

 心電図が大きく乱れ、AEDが幾度となく作動する。

 その額に、ラケルは自らの額を密着させた。

 

「――安心して。私はずっと、貴方の傍にいる」

 

 ラケルが鼻歌を歌いながら、彼の頭を撫でる。

 その声と共に、彼を食い尽くしていた異常が徐々に収まって行く。乱れていた波形が、元に戻っていく。

 

「……母……さん」

 

 彼の声が、小さく漏れた。

 

 

 

 

 ラウンジでは、空腹を満たしたゴッドイーター達が互いを見つめている。

 ――沈黙の空気を、掻き消すようにリンドウが手を叩いた。

 

「さて、まず俺達クレイドルの見解だ。隊長、頼むぜ」

「うん。僕らクレイドルとしては――セン博士を助ける道を選ぶ。理由は極めて単純だよ。

 セン博士にはクレイドルも助けられた。だからその借りを返す。

 それに何よりも、彼がいなければレトロオラクル細胞の研究は進まない。例え、レトロオラクル細胞を手にしたとしても、セン博士がいなければ何も変わらない。クレイドルはその見解で一致した」

 

 その言葉に誰もが息を呑む。

 センがいなければ、レトロオラクル細胞の研究は進まない――確かにその通りだ。彼の技術力は、世界と比べても見劣りしない。

 オペレーター、開発者、研究者。これらを同時にこなす事が出来るのは、彼くらいしかいないだろう。

 

「私達ブラッドも同じです。何よりセンさんはチームの一人だから、見捨てるなんて出来ない。

 ――何が何でも、絶対に助けます」

「ふむ、クレイドルとブラッドの意見は一致か。他に意見は」

 

 再度訪れる沈黙。

 ――不気味な静寂が、ラウンジを漂う。

 

“……妙だな”

 

 ジュリウスはそう感じていた。螺旋の樹が出現して以降、この極東支部に配属となった者達も多い。少なからず、反対意見も出るとは思っていたのだがここまで出ないと言うのはかえって何かが引っかかる。

 

「……」

 

 心の底にある言いようも無い気味悪さを、ジュリウスはどうする事も出来なかった。

 

 

 

 

「……セン、さん」

 

 話し合いの後、ネルは病室を訪れていた。

 センの容態こそ聞いていたが、実際に見るまで想像する事しか出来なかった。だが現実は想像よりも過酷だ。

 ――あの時、どうして気づけなかったのだろう。誰よりも彼の傍にいたはずなのに。

 

「……無茶ばかり、するからですよ」

 

 その手を握る。

 いつも感じていたはずの温もりが無い。

 心地よい声も無く、ただ機械が奏でる甲高い音しか響かない。

 

「……傍にいて欲しい、って言ったじゃないですか」

 

 彼は答えない。

 返って来るのは呼吸器から漏れる息の音だけ。

 

「――私からも約束させてください。私が、私達が必ず助けます。

 だから、もう何があっても、どんな未来が待ち受けていようとも――私を貴方の傍にいさせてください」

 

 その手がそっと、握り返されたような気がした。

 

 

 

 

 深夜、既に答えを告げて来るべきキュウビとの戦いにそれぞれが体を休めている頃。

 極東支部の地下室に二人はいた。

 

「……そう、彼らが間違いないのね」

「えぇ、ラケル博士。拘束した際に、高濃度のカリウムを注入した注射器を所有していました」

 

 ラケル。そしてシエルの二人の前には椅子に括りつけられた研究員の姿がある。

 事前にジュリウスから通告を受けていたのだ。

 

“――センに何らかのアクションを起こそうとする者がいる”

 

 センを暗殺し、レトロオラクル細胞を得ようとする者或いはそれを扱う事で名声を高めようとする者。

 その事を踏まえ、ラケルはシエルに依頼をしていたのである。

 ブラッドでも群を抜いて対人格闘の心得がある彼女へ、センの護衛を任せたのだ。

 結果として掛かったのが、二名の研究員。これから彼らへ行われるのは尋問である。既に一名は尋問が行われた。

 

「すみません、ラケル博士。……中々口を割らず、思うような情報は引き出せませんでした」

「いいのよ、シエル。――彼の下へ行ってあげて。ここからは私がしましょう」

「……お気を付けて、ラケル博士」

 

 ラケルは牢屋へ入る。扉の開く音に、研究員である男は小さく悲鳴を挙げた。余程シエルに手酷くやられたらしい。

 今は覆面を被せられていて、何やらガソリンかそれに類する液体を全身に掛けられたようだ。呼吸に合わせるように、覆面が鼓動を繰り返していた。

 ラケルは、傍にあるラジカセにカセットテープを入れる。――いつもの時代も人間の感情に変わりはない。恐怖は恐怖のまま残り続ける。

 錆びついた音色がラジカセから響く。

 

「……いい曲でしょう。私と彼の好きな歌よ。歌の意味は冤罪で殺された二人の青年の鎮魂歌。二人は覚え無き罪によって社会から殺された。けれど、自らの死を以て人々へ証明をしたの。『罪なき人間を殺す社会がここにある』と」

 

「きっと今まで貴方はこう思っていた。『自分にとって最適な選択こそが、全てにとって最適である』。そして『世界は私を助けてくれるように出来ている』。それは違う。社会は貴方にとって最も最悪な選択を選ぼうとしている。そしてそれが全てにとって最適であると思っている。つまり今世界は、貴方を殺そうとしている」

 

「今から貴方は社会によって殺される事になる。何と説明しようとも、それは決して免れない。貴方は捕まってしまった。もうどうする事も出来ない。今まで助けてくれた筈の物が皆、貴方を陥れようとしている。なんて、理不尽でしょう」

 

「だから、取引をしましょう」

 

「貴方の組織の話を全て打ち明けてくれたら、貴方はこのまま本部に返しましょう。言い方は何とでもなる。私も協力する。だから、貴方は自白してくれれば必ず本部へ帰る事が出来る」

 

「けれど、貴方の仲間が先に打ち明けてしまった時は、貴方を司法の場に掛ける。もう二度と日の光を拝む事は無いでしょう」

 

「理不尽? そんなことは無いわ。二人とも黙秘すれば、二人とも本部に返しましょう。二人とも自白してしまえば、二人とも裁きを受けなくてはならない」

 

「――選択は全て、貴方の自由。そうでしょう? だって」

 

 その顎に手を当てて、ラケルは低い声で呟いた。

 

 

「貴方の最期の瞬間は、貴方だけの物なのだから」

 

 

 寂びれた音を出すラジカセが、ずっと音楽を流し続けていた。

 

 

 

 

 一夜が明け、作戦開始地点近くにキュウビが確認された。偵察班の情報によるとアラガミの捕喰により新たな獣道が構成されたため、猶予が大きく早まったと言う事だった。

討伐メンバーは凡そ四名。

 ユウ、ソーマ、リンドウ、ネル――短期決戦を仕掛けるために選ばれた攻撃特化のパーティ。

 既にフィールドへ潜入しており、キュウビへの待ち伏せを行っていた。

 

「……っと、そろそろ作戦開始時刻だ。始めるか、お前ら」

「そうですね……。出来れば思い出話にでも浸りたい所ですけど、状況が状況ですから」

 

 センの命運がかかっている。下手を招いて任務失敗など笑い話にもならない。

 気を引き締め直す。

 

「ブラッドの隊長さん。お前さんの力、頼りにしてるぜ」

「……はい。任せてください」

「……フッ、力は適度に抜いておけよ」

「よし、作戦開始!」

 

 ユウの声と共に全員が物陰から飛び出す。

 ネルは咄嗟に神機を銃へと切り替える。狙うは頭部。

 変形した直後の射撃は、吸い込まれるようにしてキュウビの頭部へと命中した。

 

“……あまり効いてない?”

 

 ユウが正面から間合いを取り、リンドウとソーマが背後から斬りかかる。

 キュウビの咆哮に四人は怯む事も無ければ足を止める事も無い。常に動き回りながら敵を攪乱する。

 そこから気が付けば、幾ばくかの時が過ぎていた。

 思った程、キュウビは厄介な攻撃が無い。攻守をしっかり切り替えられれば、苦戦程度で済む相手だ。

 

“けど、一撃が重い……!”

 

 スタミナの管理が出来ていなければ、防戦一方に強いられる。しかも攻撃からの離脱が早い。

 小さく息を吐く。

 

「焦るなよ! 確実に、一撃ずつ決めていけ!」

「ソーマ! 両翼から!」

「分かった!」

 

 ユウとソーマがキュウビを挟むように移動する。

 ――瞬間、ネルは咄嗟に神機を銃形態へ切り替えた。弾丸となるオラクルは斬撃によりしっかりと貯蓄されている。

 

「当たれ!」

 

 レーザーが直撃。キュウビの頭部を削り取ると共に反動によってその巨体を釘付けにする。

 その致命的な空隙を、彼らが逃すはずがない。

 

「貰った……!」

 

 ソーマの神機からオラクルが溢れ出し、巨大な刀身を形成する。

 肩に担がれた状態から一気に振り下ろされた一撃はキュウビのみならず、その地盤まで破砕した。

 ――再度、ネルによる狙撃がキュウビの頭部へ命中し、その内部組織を露出させる。

 

「叩き込め!」

 

 キュウビが旋風を起こそうと体を捩る。

 ――だが、その猶予ですら回避には惜しい。

 

「らぁっ!」

 

 リンドウの一撃が、頭部へと直撃。確かな手応えが神機越しに伝わる。

 が、キュウビの視線が確かに彼を捉えた。

 

「っと!」

 

 反射的に装甲を展開。空中での防御のため、大きく吹き飛ばされ、体勢を崩される。

 ネルが援護射撃に移ろうとしたが、トリガーを引き着弾するよりも先に、キュウビの攻撃がリンドウを襲うだろう。

 ――が、そんな事すら彼にとっては予想の範疇でしかない。

 

「ユウ、ぶちかませッ!」

 

 リンドウの影に、ユウがいた。

 神機を腰だめに、大きく構える。狙いはキュウビの頭部。結合崩壊を起こした箇所。

 振り抜かれた一撃。大気を切り裂くその一撃が、キュウビのいた空間ごと引き裂く。その一撃でキュウビが大きく吹き飛ばされ――再び起き上がる事は無かった。

 

「……よっしゃ、さっさとレトロオラクル細胞取って帰るぞ!」

 

 良かった。これで、これでようやく助けられる。あの人の声をもう一度聞く事が出来る。

 その想いがネルの胸を満たす。

 キュウビ討伐作戦は完遂。レトロオラクル細胞の入手も完了。

 万事が上手くいった――はずだった。

 

 

 

 

 

 翌日――極東支部のラウンジには全てのゴッドイーターが集っていた。

 榊は俯いたままの口調で、有りのまま真実を告げる。

 

「――セン君は未だに回復しない。いや、はっきり言おう。彼の余命は以て三日。症状はさらに重篤な段階へ進んでいる。人で言う終末期だ」

 

 誰もが言葉を失う。ラケルの言う通りならば、レトロオラクル細胞があれば、センに何らかの変化が現れる。――だが、それすらないと言うのは一体どういう事か。

 

「投与したレトロオラクル細胞は、暴走した彼の細胞によって貪食された。――これで分かった事があるわ。

 彼を救うためには、純粋なレトロオラクル細胞では無く『既に何かに染まった』レトロオラクル細胞でなくてはならない」

「……つまり、キュウビ種の亜種を探せと言う事か? だがそんな時間は……」

「いや、それがね。ユウ君。君達は昨日、キュウビからレトロオラクル細胞を入手した後、どうした?」

「討伐したアラガミは無数のオラクル細胞に霧散します。それに加え今回は緊急性が高いと判断したため、今まで通りコアを摘出した後、帰投しました」

「――それだよ。実は昨日、偵察班がキュウビ種に似た存在を確認している。それも頭部が結合崩壊した状態で、らしい」

 

 あのキュウビはコアを摘出されても自力で再生し、再び動き出したのだ。

 そんなアラガミをユウ達は知っている。

 

「そのキュウビは現在、極東支部へ向かっている。恐らくは報復のためだろう。それに加えて、中型種のアラガミを引き連れている事が確認された」

「……! 防衛戦、ですか」

「あぁ、そうだ。しかもキュウビ種は体色が大きく変化しているらしい。私達はこれを『マガツキュウビ』と名付けた。

 ――防衛範囲の到着は明日の正午と予測されている。獣道は無いから、確実な筈だよ。

 このマガツキュウビの撃退或いは討伐を以て、作戦を完遂とする」

「……セン、さんは……」

「……すまない。彼の体に何が起きているのか私達にも分からない。

 彼の容態は極めて深刻だ。彼の死を表示する時計があるとするのならば、それは55分を示しているに違いないだろう。

 彼の強靭な意志が、その体と魂をかろうじて繋ぎ止めている。私はそう思っている」

 

 ネルは祈るようにつぶやいた。

 ――或いはそれは、星へ掛ける願い事のような物だろうか。

 

「……助かるんですよね」

「何?」

「そのマガツキュウビを倒して、『染まった』レトロオラクル細胞を入手すれば――センさんは、セン・ディアンスは助かるんですよね」

「……ラケル博士」

「……確信は持てないわ。けれど、通常のレトロオラクル細胞が彼の体内で増殖をしていたのは確認できた。だから――」

「――倒します」

 

 彼女は澄んだ声で、そんな言葉を口にした。

 

「私が、マガツキュウビを倒します」

「隊長……!」

 

 榊は、頷く。

 そうして彼はゴッドイーター達を見渡した。

 

「明日、防衛作戦『ターミナル・フェイズ』を発動する。

 目標はマガツキュウビの討伐、そしてセン・ディアンスの救済。

 だが強制では無い。逃げたい者は逃げて構わない。追わないし責任追及もしないよ。

 丁度、今日。何名かの研究員が消息を絶っているからね。――はっきり言って可能性、つまりコイントスに運命を委ねるような物だ。

 だから――」

「榊博士、ここから先は言わなくても決まってます。僕達はもうずっと前に答えを決めましたから」

 

 ユウの言葉に、榊は呆れるように笑って再び顔を上げる。

 その隣で、ラケルが小さく頭を下げた。

 

「――センの事を、よろしくお願いします」

 

 

 


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