ゴッドイーターになれなかったけど、何とか生きてます。 作:ソン
色々な事は後書きにて。
マガツキュウビ討伐。囮用に作成された防衛地区にてマガツキュウビを誘い込み、極東支部が持ちうる最高戦力で討伐する。それが今回の作戦だ。
メンバーは、ネル・ジュリウス・ユウ・リンドウの四名。紛れもなく極東支部の中で最強に最も近い四人。他の人員は皆、避難誘導及び他アラガミの撃破に向かう。
「……あれ、リンドウさん。いつもと神機違いませんか?」
「ん? あぁ、コイツか」
リンドウが持つ神機は金を基調とするモノでは無く、赤と黒で構成されたシンプルな神機だった。旧世代型のロングブレード、リンドウが操るその名をブラッドサージと言う。武骨な輝きには、相応の年期が込められているように感じた。
「今回は本腰入れにゃならんだろ? そういう時はいつもコイツと一緒に戦ってるんだ」
「……」
今のリンドウの言葉に、ネルはどこか違和感を覚えた。
まるで、神機を人のように扱っている。否、彼は神機を人と見ている。
「神機には精神が宿っている。――だから、俺達神機使いはコイツと心を通わせなくちゃならない」
「……心」
「そうだ。……よっし、行くか隊長さん」
まもなく作戦開始時刻に迫る。
オラクル反応から間違いなくマガツキュウビはここに来るだろう。オペレーターはフランとヒバリの二名によるサポート。他のメンバーは外部にて迫る中型種への対処に当たる。
「――!」
ネルの直感が何かを捉える。第六感が、確かに何かを嗅ぎ取った。神機を強く握りしめる。息が詰まる。
――来る。強大な力を持つ何かが来る。
弾かれるように頭上を見上げた。
「!」
黒の巨体と紅装飾が施された体。目にした途端、其れが禍々しいモノであると分かる。
張りつめた空気を吹き飛ばすかのように、その巨体は唸り声を挙げた。
『緊急連絡! 中型種のアラガミが作戦領域に侵入します!』
「――私が、アイツをやります」
「俺も同行する。連携で攻めた方が確実だ」
ネルとジュリウスが神機を構えた。ユウとリンドウが中型種を抑えるべく同時に左右へと走り出す。
中型種の各個撃破。未知の相手こそ、セオリー通りに攻めていく――きっと、セン・ディアンスならばそう指示する筈。
マガツキュウビが跳躍し――その途端、体を回転させ旋風を巻き起こす。
“以前よりも動きが早い……!?”
背後へ跳び、その巨体が一気に加速する。先ほどまで開いていた間合いが、既に近接戦闘へ移行出来るまでに縮んでいた。
ブリーフィングの際、ラケルが話していた言葉が脳裏をよぎる。
“マガツキュウビは言わば暴走状態にある。今のセンと同じ状態よ。
彼の血の力は“生存”。生き延びる力に長けている。けれどそれは裏を返せば“誰よりも殺す力”に長けていると言う事なの。まだキュウビとセンの共通点にはレトロオラクル細胞と言う事以外無いわ。
つまり、マガツキュウビは今までのアラガミよりも、ただ“殺す”と言う意志に染まっていると言ってもいい。
――決して油断を見せないで。その瞬間、間違いなく殺される”
あの時のラケルの目は極めて真剣だった。
その意味を今、思い出す。
「カバー!」
隙を埋めるようにジュリウスが斬りかかる。今の段階では、まだユウとリンドウが分断しての撃破を狙っている。ここで押し切るのは得策では無い。
ならば、時間稼ぎ。だがセンの限界が迫っている以上無理に引き延ばす訳にも行かない。
何とかマガツキュウビを刺激しないほどまでに、体力を徐々に削って行く。それを狙う。
ジュリウスが背後へ飛び退く。それと共に巻き起こされる旋風。
だが、キュウビとの戦いではそれが致命的な隙であると分かって――。
“――違う”
目の前にいるマガツキュウビはあの時と同じ個体だ。自身の敗因を省みない事など在り得るだろうか。
――そこまでの思考に到達した瞬間、ネルは反射的に装甲を展開した。
「っ!」
マガツキュウビの尾から、黒いオラクル細胞が散弾銃の如く射出され、その尽くを受け来る。
ジュリウスも咄嗟に防御が間に合ったようだが、その両足は地面に長い平行線を刻んでいた。
ガードしてもここまで押される攻撃など、滅多に無い。否、在り得る筈がない。
“全く見えなかった……!”
神機を変形させた時、また一つの変化に気づく。
いつも手に感じていたはずの、神機の反応が――鈍い。
『! 神機の偏食因子が低下しています!』
「……! まさかっ」
見ればジュリウスもネルを見て頷いていた。
マガツキュウビの攻撃を防御すれば――その分、神機の性能が低下する。
つまり、被弾も防御も決して許されない。
「まずい……!」
何としてもコイツをここから動かす訳にはいかない。
二人がかりでも、何とか抑えられる程度だと言うのに他のアラガミと連携を取られては――。
「ネル、来るぞっ!」
ジュリウスの声に意識を引き戻す。見れば、マガツキュウビが跳躍しようとしていた。
それらの行動と今までの攻撃。それら全てを組み合わせて、この先を予測する。
「跳べ!」
二人が同時に背後へ跳ぶ。
同時に、マガツキュウビの尾から放たれたオラクル弾が二人の立っていた地盤を木端微塵に破砕した。
「――強い……!」
一瞬たりとも気を抜けば、途端に押し切られる。
その不安を増長させるかのように、マガツキュウビは唸り声を大きく上げた。
ユウが対峙していたのはハガンコンゴウだった。あの防衛網を潜り抜けて来たのか、或いは組まれた時にはもう突破していたのか。
上空から飛来する雷撃を躱しながら、着実に一撃を入れていく。
『ユウ、そっちはどうだ?』
「いつも通りです、リンドウさん」
『おう、大変だな。こっちは三人でやり合ってるから気が楽だぜ。あれ、二人だっけか』
「またレンに数も数えられないような馬鹿って言われますよ」
『はっはっはっ、最近物忘れが酷くてなぁ』
「自分で部屋の整理しないからでしょう」
リンドウは確かセクメトを相手にしていたはず。耳を澄ませれば、声に交じって爆音が聞こえて来る。
現在、通信が来ているのはリンドウだけだ。マガツキュウビを抑えている二人からは未だに通信は無い。余程熾烈を極めた激戦になっているに違いない。
「っと!」
頭を屈めた途端、剛腕が髪を掠める。――返す刃で、がら空きの胴体を斬り捨てた。
このハガンコンゴウ、同種に比べてかなり耐久力が高い。通常種のコンゴウならば既にここで事切れている頃だと言うのに、まだ活力に溢れている。
『サポートいるか?』
「えーとっ、出来ればっ」
『よっしゃ、少し待ってな。すぐに行く!』
「連れてこないでっ、下さいよっ」
雷撃と格闘、次々と繰り出される連撃を捌きながらユウはハガンコンゴウの動きを捉える。
基本中の基本。アラガミにだろうと何だろうと、必ずモーションと言う物が存在する。全ての攻撃はそこが原点だ。
だと言うのならば、そのモーションを全て読み取ればいい。その上でこちら側のスタイルに合わせていく。それがユウの戦い方だ。
ブラッド隊隊長のネルとは正反対。ネルは超攻撃的な戦闘スタイルだ。ユウが見て来たゴッドイーターの中で彼女のような戦い方をする者は一人もいなかった。理由は言うまでもない。そんな無鉄砲な戦い方をすれば、すぐに死ぬからだ。それも新兵の時に、必ず。
“天性の才能――だろうね”
ユウから見ても、ネルは異質だ。けれどそれ故に彼女の評価は極東支部でも高いし、実力も相応の高さまで伸びている。
だが、どこか胸騒ぎがする。
マガツキュウビ――名づけの元となった九尾の逸話では、殺生石が有名だろう。ユウも幼い頃から知っている。
近づく者を死に至らしめる――もしマガツキュウビが本当に九尾の特性を持ったアラガミだと言うのならば。
「今回ばかりは、そうはいかないだろうね」
背後へ跳躍し、着地する直前に前方へ飛び込む。追従するようにダイブしてきたハガンコンゴウとすれ違うような体勢――繰り出す連撃。
拳が振り上げられるよりも早く、その斬撃が急所へ直撃し、巨体をふらつかせる。
「――だから、さっさと終わらせようか。早く助けに行きたいから」
「とった!」
烈火の一撃が、マガツキュウビの体勢を崩れ、地面へと叩き付ける。そこからさらに追撃を加えた後、後方へ下がった。
回復錠を口に入れて、噛み砕く。仄かな苦みと共に緩んでいた体が瞬時に引き締まる。
マガツキュウビは身を起こすと、その場で足をそろえた。――その行動に思わず体が止まる。
途端、本能が警鐘を鳴らした。額を流れ落ちる冷汗が止まらない。心臓の鼓動が鳴りやまない。
――来る。
マガツキュウビが咆哮を上げると共に、その頭上から禍々しい球体が出現する。
「あれは……っ!」
かつてセン・ディアンスが見せた虹色の球体。けれどその色は全く異なる。
そうして言葉を口にしようとした途端、地面へ片膝を着く。
「なに、これ……」
『これは……。偏喰因子が低下している……!?』
彼らの状態を嘲笑うかのように、マガツキュウビは咆哮を上げた。
アラガミと戦っている誰もが唖然とした。
頭上に出現した黄色の球体。それによって偏食因子が機能不全に陥り、神機の性能が低下していく。
防衛戦では持ちこたえる事が何よりも重要だ。だと言うのに、このままでは戦闘を維持する事すら困難だ。
徐々に戦況が押されていく。
その場にいた者の脳裏に、破滅と言う想像が過ぎった。
「――!」
何度目になるかも分からないマガツキュウビの猛攻。何とか回避しようとはするが、体がそれについていかない。
神機とゴッドイーターの体力は直結する。神機の性能が低下する事は、ゴッドイーターとしての能力が低下する事を意味するのだ。
つまり体は瀕死寸前の領域にまで到達している。それでも倒れないのは、たった一つの想いがあるから。
『総員、撤退してください! 偏食因子が枯渇寸前です!』
「撤退……?」
ここで撤退したら、どうなる。
確実にマガツキュウビを抑えられない。リンドウとユウならばともかく他の中型種と乱戦になれば、勝機はかなり低い。
――死ぬ。極東支部の皆が、ここで死んでしまう。
違う。それは少しだけだが怖くない。もっと怖い事がある。
助けられなくなってしまう。あの人が本当に、届かない人になってしまう。
「――いやだ」
『今ならまだ間に合うかもしれません! すぐに撤退を!』
「ネルっ! 俺が援護する。お前は撤退しろ!」
助けるって、助けるって決めたんだ。
そう、約束した。
“力を、神々を討つ力を”
そのためなら私は何だってする。
必ず、必ず私が助ける。
“誓いを――あの人の約束を、守るために”
途端、神機が仄かな光を帯びた。
『この反応は……! ネルさん、何を!?』
「誓約を、立てます」
何をすればいいのかは体が分かっていた。
理屈は分からない、理由は分からない。けれど、どうすればいいのは分かる。そして、神機自身が力を貸してくれている。
まずは背後へ回る。そのまま体を捻るようにして捕喰――そこからバースト状態へ移行する。
『こ、拘束フレームパージ!? 一体何を……!』
輝く閃光――背後でジュリウスがスタングレネードを使ってくれたらしい。
そこから反撃を開始。幾度となく、絶え間なく、尽きる事なく刃を振るう。
マガツキュウビと視線が合った。僅かに体が強張る。
“動け、動け――!”
一瞬でも捉われれば負ける。防御に移れば押し切られる。今の状態を、何とかして繋ぎ止めるしか。
「忘れて貰っては困るな、隊長」
マガツキュウビの巨体が地面に沈む。フォールトラップ――センの作成したオリジナルトラップがその動きを封殺する。
だが前足を器用に使い、その巨体を穴から脱出させる。捕縛出来た時間は僅か数秒。だが本来のペースへ持ち直すには充分すぎる。
体を屈ませ、姿勢を低く。その頭上をマガツキュウビの尾が掠める。
“ここ――!”
紅き光を帯びた刀身で、マガツキュウビの頭部を薙ぎ払う。
一際高い悲鳴を挙げて、仰け反った。頭部を保護していた骨格が砕けていて、組織が露わになっている。
『これは、神機拘束フレーム全パージ! オラクル反応が急上昇……一体!?』
――途端、ネルが吼えた。
獣の如き唸り声を上げて、天まで届くかのような咆哮を上げる。
彼女の体を、蒼い光の奔流が包み込んでいった。
誰もがその日を言う。あの時、もう死ぬのだと思ったと。
押されていくゴッドイーター。削られていく体力、心もとないアイテム。そして増え続けるアラガミ。そして次々と体力を奪う謎の球体。
マルドゥークをも凌駕する力を持ったアラガミ、マガツキュウビ。それは確かに極東支部が緊急事態を強いられた。それに加えて、セン・ディアンスが床に伏した。最早絶対絶命も同然。
そのような事態を打ち壊した一人の少女。彼女の名は、忘れられることは無い。
意志一つで、文字通り戦況を変えてしまった少女の姿を。
そしてネルは今、己の願いが果たされた事を知った。
力が溢れて来る。見れば肩にオラクル細胞が黒き奔流となって渦巻き続けている。神機を、蒼く光るオラクル細胞が覆っていく。
「――!」
マガツキュウビへと肉薄する。開いていた間合いなど、最早無い。残像を残しながら疾走。刃先を突き出しながら前進――瞬く間にトップスピードへとギアを上げたその一撃はマガツキュウビを大きく仰け反らせる。
神機を逆手に持ち替え、自身の体ごと上空へ打ち上げるように斬り上げる。
背後へ跳躍するマガツキュウビへさらに追撃すべく、宙を蹴って、さらに刻む。
「逃がさない……っ!」
尾がネルを捉えた。あの黒弾が、再び射出された。
――途端、神機を振るう都度、斬撃が飛来し相殺する。
神機に力を込める。紅と蒼の光が集っていく。そこから弾きだされるようにして繰り出された急降下の刺突は、漆黒の螺旋を描きながら、マガツキュウビの体を削り取る。
ほんの僅かな間を置いて、双方の視線が交錯する。以前なら飲まれていた。硬直してしまう程のプレッシャーに押されていた。
だが、今は違う。その視線にすら抗える。
マガツキュウビが身を翻す。旋風を起こす際の動作であると予知した瞬間には、刀身を盾のように構えていた。
神機越しに伝わる衝撃――瞬間、神機から膨大なオラクル細胞が溢れ出し、巨大な刀身となって具現化した。
強大な刃となった神機。触れただけで何もかもを圧殺するような質力を持つ一撃がマガツキュウビへ炸裂する。
『……凄い』
刀身へさらにオラクル細胞が注ぎ込まれ、刀身はさらに密度を上げる。
駆ける。――躊躇う事無く、マガツキュウビへ一直線に。
「っ!」
頭上から飛来するコンゴウが高らかに雄叫びを上げる。このままだとネルの進行ルートと重なる。
蹴散らしても良いが、その場合マガツキュウビへ炸裂する一撃は大きく威力を殺されるだろう。
「――行けっ!」
背後からリンドウとジュリウスが飛び出し、コンゴウへ斬撃を見舞いつつ、ネルとコンゴウを結ぶ視線を遮る。
一瞬でも注意が逸れればいい。その隙間を縫って、さらに加速する。
地面から現れるコクーンメイデンと、物陰から飛び出すオウガテイル。突破出来ない数ではないが、減速する訳にはいかない。最高の威力を、最高の状態で繰り出さなくてはならない。
「――進んで!」
ユウが現れ――まるで独楽のように回転或いは反転しつつ小型種を刻んでいく。
時間にして一秒足らず。ネルの前にいた小型種は全て殲滅された。
見えた。マガツキュウビが、届く。この刃がようやく届く。
マガツキュウビが構える。極限までオラクル細胞を練り上げられた蒼色の刃は金色の輝きとなっている。これならば、仕留められる。
「――――!」
極めし一撃、神々を討つ。
振り下ろされた刃を受けたマガツキュウビはか細い断末魔を上げて、ゆっくりと崩れ落ちていった。
僕ことセン・ディアンスはただ歩いていた。どことも知れない世界を、ただずっと歩いていた。
何も見えない。と言うか、そもそも何もない。どうやって来たかも分からない。
けど、体は動くからただ歩くしかないのだ。
「君とは、初めましてか」
声が聞こえた。背後を振り返ると、白衣をまとった金髪の男が立っている。
金髪の男性は僕も知っている。榊博士から、ずっと聞いていた名前だから。
「ペイラーから私の事は聞いているだろう。私は――いや、済まないが時間が無い。君に尋ねておきたい事がある」
「えっと、何でしょうか」
「――人類は、今どうなっているのかな。少しばかり気になってね。こうして反則技を使って君に会いに来た。
かつて私が見限った筈の人々。私には果たせなかった答えを選んだ彼らは、今どうしているのかとね」
「……生きてます、迷う事無く。誰もが皆、明日を迎えるために生きてます。
そして人類は少しずつ、少しずつですけど、未来に向かってますよ」
「……そうか。安心した」
男性は小さく息を吐く。
「そろそろ時間切れだ。君は、君の生きる場所に帰りたまえ。まだここに来るには早すぎる」
視界が霞んでいく。見えていた物が少しずつ見えなくなっていく。
「ペイラーに伝言を頼む。――君は君のままでいいと。全て私自身が始めた事だ。全ての責任は私にある。だから、貴方は何も気にしなくていい。
そう、伝えてくれ」
消え行く世界の中で、その言葉は僕の耳に確かに残った。
「愚息を、ソーマの事をよろしく頼む」
目が醒める。体中が変な感覚だ。どうやらベッドに寝かされていたらしい。
口元の酸素マスクを外して、ベッドから起き上がると、全身にチューブが繋がれていると分かった。
少し頭がぼんやりとするのは眠っていたからなのだろうか。
そこまで考えてふと、右手が誰かに握られていると気が付いた。
「……ネルちゃん?」
布団へもたれかかるようにして眠っている。
見れば時刻は朝だ。そろそろ仕事もあるだろうし、起こさないと。
――と言うか、僕はどうしてチューブへ繋がれていたのだろうか。病気に罹るなんて僕の体質上在り得ない事だと思うんだけれど。
そこまで考えているとネルちゃんが目を覚ました。
最初は茫然としていたけど、僕を見ると顔をじっと覗き込んで来る。
「ネルちゃん、どうかした?」
「夢じゃ……無いんですよね?」
「……多分、夢じゃないよ。僕もさっき起きたから」
突然、ネルちゃんはポロポロと涙を溢し始めた。
そして大声で泣き始めた後、ブラッドの皆が一目散に駆け寄ってきて、病室から出ると、外には極東支部の人達がたくさん集まっていた。
――で、その後僕はラケル博士の研究室で事の詳細を聞いたのだ。
まず僕の体にあるレトロオラクル細胞が暴走を開始していた事。それによって僕がショック状態に陥っていた。それも心室細動とか頻発したり、多臓器不全症候群を発症する程だったと言う。
マガツキュウビから入手したレトロオラクル細胞を僕の体内へ入れた所、古いレトロオラクル細胞を食い尽くすような形で体内に広がっていったと言う。
そして新しいレトロオラクル細胞は僕の中で定着し、僕の持つ血の力『生存』の特性を保持したため、体が再生を開始して目を覚ましたと言う訳だ。今も体内で普通の細胞と同じように増殖を続けている。
で、マガツキュウビから入手した細胞を使用した弊害からか、僕の瞳の色は金色に変化した。視界は何も問題無いけれど、鏡を見ると少し驚く。
――それともう一つ。ネルちゃんがマガツキュウビとの戦闘で覚醒した能力だが、これはブラッドアーツでは無いらしい。何でも力が発動した瞬間、作戦領域にいた全てのゴッドイーターの体力が回復かつバーストレベルが最大にまで上昇した。
これを僕達はブラッドレイジと名付ける事になった。リッカさんによって、ネルちゃんの神機にはブラッドレイジをコントロールする機制が作られたため、条件さえ満たせば規模は小さくなるが、いつでもブラッドレイジを発動することが出来るとの事だ。
僕も訓練やマガツキュウビとの戦闘映像を確認したけれど、その力は凄まじいの一言だった。極東支部でもようやく研究が開始されたばかりである。
……で、本部もさすがに黙ってはいないとの事らしい。まず僕がオラクル細胞を宿した普通の一般人である事、そしてネルちゃんがブラッドレイジの発動者であると言う二つの情報は、フェンリル関係であれば喉から手が出る程欲しい研究材料だろう。
だが、ラケル博士がまた上手くやった物で、僕とネルちゃんをクラウディウスの養子として引き取ったのだ。つまり、これからはセン・ディアンスではなく、セン・クラウディウスそしてネル・クラウディウスと言う名前に変わる。
クラウディウス家の関係者となった以上、フェンリルはまずそこで迂闊に手出しできなくなる。そして何故かラケル博士を見る都度、本部関係の人間は顔色を変えて逃げ出すのだ。……一体何をしたんですか、博士。
「でさぁ、そん時センが」
「フッ、アイツらしい」
僕とブラッド、そしてクレイドルは極東支部の屋上で螺旋の樹を見ながら談笑していた。まぁ、俗にいう親睦会と言うモノである。
と言いながら、僕の過去話するのやめてくれませんかねお二人。
ユウさんも苦笑いしてるし、リンドウさんはビール飲みながら大笑いしてるし。
「セン博士、無事回復されて何よりです」
「皆のおかげですよ、僕一人じゃない」
ユウさんの目は極めて真っ直ぐだ。人を責める事を知らない、そして決して折れることの無い、本当に真っ直ぐな。
この時代を考えると、彼のような人は貴重だ。戦力としても、そして人格者としても。極東支部にその人有り、と呼ばれる理由もわかる。
「セン博士、僕とリンドウさんも本日付で、螺旋の樹調査に参加します」
「願っても無い事です。信じられる人が多い事にこしたことは無いですから」
神薙ユウ、雨宮リンドウ。この二人が加われば、螺旋の樹調査はさらにペースを上げる事が出来るだろう。
これなら出来る。本当にアラガミのいない、人々が笑顔で暮らせる場所が。
「――僕、セン・ディアンス……違った。セン・クラウディウスもサテライトの調査に参加します。またブラッド管理者権限の下、ブラッドもまたクレイドルの活動に全力で支援を行います」
僕の言葉は、遥か彼方まで広がる青い空へ飲み込まれていった。
ネルのブラッドレイジですが、原作より強化しています。
「近接神機の種類に関わらず、全てのブラッドアーツが最高レベルで使用可能」
今話ではロングブレードで、まずエヴォリューション→ライジングファング→スカイフィッシュ→ダンジングサッパー→エリアルキャリバー→アストラルダイヴ→ラストリベンジャー→CC・チェイサー(繰り出す直前で次のブラッドアーツに)→CC・ジエンドで〆と言う流れです。
ゲーム中の仕様だと、物語上どうしても締まらない性能になるんで……。
ちなみに「仲間の全体力回復+バーストレベルLV3」の誓約ですが、マジであります。「英雄達の決意」です。しかし発動すると味方全員のHPが99%減少とか笑えない。
しばらくは短編続きです。ようやくリンドウさんが来たんで、飯テロ回が書けますやったぜ。
短編を書いたのちレイジバースト編に移ります。……来年になるかもしれませんが。