ゴッドイーターになれなかったけど、何とか生きてます。   作:ソン

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RB編も多分後二話程で終わります。
……来年までに終わるといいなァ。

後、GE3発表されましたね。ストーリーどうなるかなぁ。


RB編8 あの人

 

 初めて夢を抱いたのはいつだったか。

 

 ゴッドイーター、神機使い。人類の捕喰者であるアラガミと命懸けの死闘を繰り返し続ける者。

 成りたかった。誰かを守ると言う事に、強く憧れていたから。

 目指したかった。こんな無意味な自分でも、誰かを守る事が出来るのなら。

 辿り着きたかった。そうすれば、自身の生涯にも意味はあると思ったから。

 

 けれど、それは全て叶わなかった。ゴッドイーターになれなかったから。

 彼の心は酷く、強く求めていたけれど。彼の体がそれに応えられなかった。

 心はいつまでも渇いているけれど、それをどうするべきかずっと分からないまま。問題だけを無視し続けていた。

 

“――無能”

 

 そう言われても、何も感じない。だって事実なのだから。

 けど、空っぽの心なら、いつまでも耐えて行ける。何も、失う物なんて無いのだから。

 

 

“本当に?”

 

 

 どこかに小さく、亀裂の入る音がした。

 

 

 

 

 僕には生まれたころの記憶はない。正確に言うのならば、両親の顔も覚えていない。

 そんな僕の始まりの記憶。

 名前も場所も知らない施設の中。多くの人達が、そこで死んでいく。人類の未来のために、名も知らぬ者の土台となるべく死んでいく。

 そんな場所で僕は生きていた。――アニーリング計画。人であったはずの僕の体を不死に変えたモノ。

 僕はずっと独りだった。

 

“本当に?”

 

 ずっと、独りだった。

 

“誰かが、傍にいた”

 

 ――誰かが、僕を支えてくれた。僕に愛を教えてくれた。こんな僕を、守ろうとしてくれた。

 それは、誰だった?

 

「セン」

 

 聞き覚えのある声。僕があの時、救えなかった家族。伸ばせば届くはずの手を、伸ばせなかった。

 

「ごめんね、本当ならここから貴方と一緒に逃げ出したかった。どこか遠い場所で、静かに過ごしたかった」

 

 泣いていた。まだ年端も行かなかった頃の僕を抱きしめている。

 知っている。この光景を知っている。ここで僕は何かを託された。

 

「……私が生きてたら、貴方は殺されてしまう。けど私は貴方のいない世界の方が辛い。

だから、貴方を一人にしなくちゃいけない。守ってあげられなくて、ごめんなさい」

 

 やめてくれ。泣かないで。

 助けたかった。貴方を助けたかったんだ。

 誰よりも、貴方を。あの時、手を伸ばしてさえいれば。

 

「お願い、約束をしてほしいの。最後の私の我が儘を、聞いて欲しい」

 

 ようやく、思い出せたのに。遠い記憶を。失くした色を。

 なのにどうして。

 

「私との約束。貴方と一緒にいてくれる人を、大切な人を。どうか守り抜いて」

 

 ――そうして、貴方は途切れてしまった。僕の、目の前で。

 僕は出来なかった。貴方を、独りにさせてしまった。

 約束を、僕は最初から守れなかったんだ。その罪を隠すように僕は生きてきた。オペレーターとして、研究員として。ただずっと、誰かの為に尽くしてきた。

 けど、それに本当に意味はあったのか。僕のした事は、全部無意味だったのか。

 

“それは違う。

 貴方のした事に意味はある。けれど、貴方自身には価値が無い”

 

 何かが壊れる音がした。

 

「なら、僕がここにいるのは? 僕が生かされたのは?」

 

“その答えならほら、今貴方の目の前に在る”

 

 世界が変わる。風景だけが、塗りつぶされるように消えていく。

 目に映るのは、ブラッドの隊員達。皆が、楽しそうに笑っていた。僕が一度も見た事が無い程。

 そこに、一人足りない。

 僕が全て押し付けてた、誰かが。

 

「……あ」

 

 ふと、目の前にゴーグルが落ちている。

 前まで首に掛けていて、そして誰かに渡したモノ。

 ――それを、拾ってくれたのは。

 

「ネル……ちゃん」

 

 僕の傍で、最も身近な人。まるで妹のようにすら思える程、身近に感じているくらい。

 そっと、手を伸ばす。

 けれど、その手はまるで風のようにすり抜けて。

 

「――」

 

 届きそうなのに、届かない。

 その先で、彼女達は笑っている。僕が見た事もない程、穏やかな微笑みを。

 彼女は一人で大丈夫。ずっと、強く生きていける。そして彼らも。導きなど必要ない。

 そして彼らの背後にいる沢山の人達は。

 

「――」

 

 僕が救えなかった、ネモス・ミュトスの人達。

 目の前で死んでいった人達が皆、平和に生きている。

 胸が、苦しい。膝が震える。視界が揺れる。

 

「あ……あぁ」

 

 僕がいなければ、この結果があった? それとも間違わなければ?

 ただ一つだけ確かな事がある。

 この目に前にあるこの光景こそが、僕の罪。そして裏切り。姉さんとの約束を、果たせなかった事。――僕の過ち。

 消えない。冷たい闇が、消えない。

 どこだ。どこで間違えた。

 終わりを定めなかった事? 誰かのために生きようとした事? それとも、自分が出会ってしまった事? 約束を、してしまったから?

 

“貴方が、自分を信じてしまった事。

 貴方にとっての最善が、ただ最悪な結果を招いた”

 

「――あ」

 

 何かが、砕ける音がする。

 崩れ落ちるソレを、何とか繋ぎ止めた。

 

 

“何て、意味のない旅路。

 ただ苦しいだけの過程に、待ち受けるのは孤独な破滅。

 なら、その旅を続ける事に何の意味があるの?”

 

 

 その言葉が、心を揺さぶる。

 何か一つでも間違いを犯せば、それをずっと背負わなくてはならない。この命が尽きるその時まで。

 分かってる。そんな事はとっくに分かっている。

 けど、僕にはこれしか無いから。この道しか残っていなかったから。

 

 

“いずれ訪れる滅びなら、ここで終えてしまえばいい”

 

「――」

 

 息が止まる。もうこれ以上、僕が旅を続ける必要なんてどこにもない。だって、もう僕が報われる事なんて無いのだから。

 なら、もうここで止めても。きっと。

 

“そうよ。貴方は既に必要ない。だって、貴方は自分の役目を果たしたもの。だから、ここで眠っても誰も貴方を責めない。

 さぁ、足を止めて目を瞑って。そうして静かに心を、沈めなさい。

 そうすれば、貴方はもう何もしなくていい”

 

 その声は僕にずっと語りかけて来た。僕の本質を。僕のナカを。この声には何故か納得してしまう。

 でも、何か。違う気がする。

 誰かを、間違えているような気がする。それだけは、あってはならない。あの人を、忘れちゃいけない筈なのに。

 

『セン』

 

「……誰、だっけ」

 

“大丈夫、力を抜いて。そうすればずっとここで貴方は――”

 

 見えるのは青い蝶の群れ。数えるのも億劫になる程。

 瞬く間に僕の体はその波に呑まれて、繋ぎ止めていた意識は解けるように、遠のいていく。

 

 

 

 

 

 センが行方不明となってから凡そ一週間。

 ブラッド隊は再度、編成を立て直し螺旋の樹突入を図っていた。ロセルの手により解き放たれたアラガミの数は凄まじく、防戦一方を強いられる戦い。――何とか討伐を繰り返し、その数を抑える事が精一杯であった。

 少数精鋭で班を立て直し、それで再度螺旋の樹に突入。元凶たるロセル・エンミティを捕縛或いは殺害し、アラガミ増殖の根源を断つ。

 一時的にアラガミの目を背けさせるために、ノヴァの残滓を用いて、フライアや他の支部を囮として使用。効果は長く見積もって二日。言葉通りの短期決戦である。

 ――それが、今までの流れ。

 そしてネル率いるブラッド隊は、螺旋の樹中枢と思われる場所まで辿り着いていた。

 無論、容易な道のりでは無い。ブラッド隊の班員ではないが、少なくない犠牲も払ってきた。所有している回復錠もたかが知れている。

 それでもようやくたどり着けた。そこはまさしく大空洞。その奥には螺旋の樹を構成するであろうオラクル細胞が、光の粒子として収束されている。

 

「余裕たっぷりってワケ? 舐めてくれるわね」

 

 ネルの前――ロセルとラケルはそう遠くない距離に立っていた。

 ロセルに至っては、前回の邂逅で瞬時に全滅させられたのだ。幾度となく訓練もシミュレーションも積んできたが、付け焼刃程度でしかない。

 一発勝負。負ければ文字通りの終わりである。

 

「……いや、さすがにそこまで時間を持て余している訳でもない。

 君達の相手は、彼と彼女に任せよう」

 

 降りてくる。巨大な球体と、女神の像のようなアラガミが、頭上からゆっくりと。

 息が詰まる。全身が、僅かに硬縮してしまう程。

 

「っ! アルダノーヴァ!? 面倒なのを……!」

「そいつには少々改造を加えている。並大抵の神機使いでは数秒と持つまい。

 ――だが、命を燃やせば対等か。或いは斃せるかも知れないな」

 

 最早ロセルの声には耳も貸さない。ラケルに至っては目を閉じて、ただじっとうつむいている。

 どちらにせよ、倒されなければ人々に明日は無いのだ。

 ならば世界が終わる前に、ただこの命を燃やし尽くすのみ。

 

 

 

 

 声が、する。呼ぶ声が、聞こえる。

 それは少し小さくて、余りにも儚げで。けれどどこか温かい、母の様な声。

 知っている。それを知っている。だから少しだけ目を開けた。

 相変わらず見えるのは、青い蝶の群れ。見ているだけで、意識が溶かされていくよう。

 そしてずっとあの声が頭の中に響いて来る。臓腑まで染みていく声はまるで毒だ。

 だと言うのに、その声ははっきりと聞こえた。それまでの全てを、打ち消していくかのように。

 翠緑色の蝶が一匹――。それはまるで、あの人の瞳のよう。

 

『セン』

「……!」

 

 その蝶が僕の肩に止まる。

 それと同時に、手に力が灯った。そして、意識が徐々に形を作って行く。

 懐かしい声。僕の知る中で、一番身近にいた人。その名前を、思い出す。

 

『貴方の道が苦しい理由は一つだけ。それは他人のために生きると決めたから。

 貴方は、自分では無く誰かの為に生きていく道を選んだ。ならその道は苦しくて当然の筈。自分よりも他人を優先するのだから。普通の人なら、余りの苦しさに途中で諦めてしまう』

 

 ――。

 

『でも、貴方なら大丈夫。私が保証する。だって、貴方は私の誇り。私を、深い闇の底から救い出してくれた。長い孤独から、私を連れ出してくれた。

 そんな貴方と出会えて、貴方と共にいられて私はずっと幸せ。私の人生は貴方が傍にいてくれるだけで、意味がある』

 

 ――。

 

『貴方の強さを、私が誰よりも知っている。だから、ずっと信じている。

 そして途中で膝を着く事を、きっと貴方自身が許さない。

 さぁ、前を向いて。真っ直ぐ進みなさい。セン』

 

 

「――はい、ありがとうございます。博士」

 

 

 目元を拭い、静かに息を吐く。

 もう、迷わない。

 

 

 

 

 見えたのは黒い世界。その中に一人、少女がいる。

 黒のベールに長い金色の髪。そして赤い瞳。

 ――だが、断じて博士では無い。ただ姿が似ているだけ。余りにも酷いハリボテだ。

 ただ見ているだけで、嫌気が差す。

 

「……本当に予想外の事です。まさか、途中で邪魔されるなんて」

「その声で喋るな」

 

 多分初めてかも知れない。ここまで、人に嫌悪と憎悪を覚えるのは。

 誰かをこんなにも、取り戻したいと思う事も。

 

「お前が、あの人の名を語るな。それは僕の場所だ」

「――あら、まだ意志があるのね。せっかく、貴方の過去をほどいてあげたのに」

「……なら姉さんは本当に」

「えぇ、そうです。貴方の目の前で、首を切って自害する道を選んだ。

 そうでもしないと、貴方が不用品として処分されるから」

 

 あぁ、そうか。

 僕は本当に姉さんの弟だったんだ。そして姉さんも僕と言う誰かの為に、その道を選んだ。

 ――この生き方を僕は、姉さんから託されたんだ。

 なら、尚更ここで止まっている訳には行かない。

 

「どうするのですか? 貴方にもう神機はありません。そしてブラッドはもうすぐ螺旋の樹と一体となる。貴方のように」

 

 つまりここは、螺旋の樹の中。

 僕はロセルに連れ去られた後、その螺旋の樹の核となった訳だ。そして恐らく奪還のために、ブラッドが来ている。そして、目前まで迫っている。

 

「僕は一つ勘違いをしていた。そしてお前もだ。本当に、僥倖だった」

「……何がでしょう」

「僕はゴッドイーターになったと思っていた。……けど、どこか引っかかってた。

 適性が無かった僕に、神機なんて使える訳が無い。例え世界が違っても」

 

 血が繋がっていたとしても、それは同様だ。コウタさんの妹はゴッドイーターの適性が無い。だから、姉さんに適性があるからと言って僕にあるとは限らない。

 そして僕の異常な生存力。崩壊するネモス・ミュトスからの脱出、あの赤いサリエルとその後のアラガミの集団との戦闘。前者はともかく後者ははっきり言ってどんなゴッドイーターでも切り抜けるのは無理だ。あのユウさんだって、アラガミの集団と交戦して手一杯だった。それを、日の浅い僕が実力で切り抜けられる筈がない。――余程死ににくい体にでもなっていない限り。

 元々不死に限りなく近い僕の体は、この世界に来てからそれが不安定になっていた。だから傷を負う事もあるし、血も十分に吹き出る。けど、それが徐々に安定していた。だからネモス・ミュトスを生きて切り抜けられた。あの赤いサリエルとアラガミ達を屠る事が出来た。

 それは、つまり――。

 

「……何が、言いたいのですか」

「僕はゴッドイーターじゃない。

 ただ……神機を振るえるだけのアラガミに成り果てただけだ」

 

 それが本当の絡繰。道理でずっと引っかかっていた。何で僕がアレだけゴッドイーターになってから戦えたのか。

 理由は単純な事。僕の体はもう、人では無い。アラガミだから、神機の適性もすり抜けられた。

 細かく言うなら、ゴッドイーターもアラガミに分類はされるけど、彼らは人間だ。人として、これからも生きていける。

 けど、僕は違う。もうすぐ化け物になる。世界を喰らう獣に、少しずつ呑まれていく。

 だからその前に、ケリを付けよう。

 腕輪を握りしめる。

 これが、僕を抑え付けていたモノ。アラガミ化しつつあった僕を、人で引き留めていた。

 けどもう、これはこの先必要ない。

 人である証を、断ち切ろう。そして、誰かの未来のために。僕は化け物になる。

 

「もう、お前達の好きにはさせない。

 付き合うのはもう最後だ。これ以上、人を弄ぶなよ」

 

 その腕輪を、引きちぎる。脳裏に過ぎるのは駆け抜けた記憶。

 それと引き換えに、僕は――。

 

 

 

 

 激戦の最中で誰もが足を止める。

 まるで、ガラスが砕け散るような音がして――一人の少年がそこに降り立つ。

 ネルは名を呼ぼうとして、それを飲み込んだ。

 その総身には数多の赤い線が刻印のように走っており、体の所々にはまるで埋め込まれたかのように、黒い装甲が張り付いている。

 黒かったはずの髪は白く、その先は薄い紅色を灯っていた。

 

「……セン?」

「あぁ、これでようやく対等だ」

 

 その瞳は血のように赤く、その声は記憶の中よりも重い。

 これではまるで――。

 

『……! そこから強力なアラガミ反応。センさん、アラガミ化しています!』

「元々だよ、フラン。大丈夫、まだ、意識はあるから」

「……本当にヤメてよ。それ、終わったらちゃんと戻るのよね。まだ借りは返せてないんだから」

「……うん。何とか、するさ」

「セン、貴方……。いや、いいわ。まずはさっさとコイツをぶちのめしましょう。後はあの本体だけ。おまけはもう叩きのめしといたわ」

 

 見えるのはツクヨミのような姿をしたアラガミと、その傍で倒れている巨体。

 二体一対のアラガミとは珍しい、とどこか片隅で考えた。

 センは見据える。本能と殺意が渦巻く中、何とか残った理性を絞って敵を認識する。

 真の敵。ロセル・エンミティと人間のなり損ない。

 ――彼らを倒さなければ、人類に未来はない。

 

 

「お前達は、はしゃぎ過ぎたんだ。全て終わらせよう」

 

 

 




GE3では主人公がアラガミ化して攻撃できるゾ!(妄想)

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