ゴッドイーターになれなかったけど、何とか生きてます。 作:ソン
でも、更新は早くなりません……。時間が欲しいぜ。
僕達の顔合わせから凡そ三日。丁度候補生二人の訓練も終わって実戦の日である。
本来、研究者―自称―である僕にはあまり関係の薄い話だ。……と思っていた僕の思考は、すぐさま裏切られる事になった。
余談かもしれないけど、僕も学生の頃お世話になっている先輩がいた。その人は僕を無能と言いながらも、何だかんだで面倒を見てくれてたし、研究を手伝ったりもしてくれた人だから頭が上がらない。大のフェンリル嫌いなのに技術を学ぶためだけに士官学校へ来ると言う、何とも変わった人だったけど。
まぁ、それはさておき。
「んー、まぁ問題は無いと思うけど。……フランちゃんなら大丈夫じゃないかな」
『ですが、念には念を入れておきたいのです。どうか、よろしくお願いします』
その言葉に僕は考え込む。場所は僕の研究室で、眼前にはモニターがある。そこには現在、実戦へ出ているブラッドの四人が映っていた。
フライアのオペレーターであるフランちゃんは、新人である。確か年齢はネルと変わらないくらいだっただろう。曖昧だけど、そこは深入りしない方がいい気がする。うん、しない方がいい。
どうやらブラッドの臨地実戦が、彼女に知らされていなかったらしい。そこでフランちゃんが僕に要請を出したのである。
要請ではあるが、そこまで難しくはない。何故なら僕が行うのはフランちゃんのサポートだからだ。緊急時の部隊の動きやオペレート、連絡などをどうすればいいのかを学びたいらしいが、僕もそこまで精通している訳ではない。
何よりオペレーターは苦手なのだ。だからと言って、それが理由になるわけじゃないけど。
「……分かった。じゃあ心構えくらいでいいかな」
『はい、ありがとうございます。セン博士』
博士なんて僕には誇大過ぎる飾りだ。だけど何も言わない。きっとその呼び方が、彼女にとって落ち着くのだろう。なら、それでいい。
僕はヘッドセットを付けて、ゴーグルを目に掛ける。深呼吸を繰り返して、モニターを見つめ直す。
うん、いつも通りいつも通り。これが僕の出来る事だ。
さて、じゃあオペレーターになりますか。
「やぁ、皆。聞こえる?」
壁の外へ出れば、旧世代の名残がアラガミに貪られつつある光景が見れる。
私こと、ネルティスはゴッドイーターとなってから初めての実戦に少し緊張していた。ナナはそんな欠片を少しも見せていないようだけど……。
ジュリウス隊長の言葉も終わり、いざ戦場へ出ようとしていた時ふとヘッドセットから声が聞こえた。オペレーターであるフランさんとは異なる男の声。
それに少しだけ戸惑って、ようやくその声に気が付いた。
「センさん!?」
『うん、感度良好。機器に異常はないね』
「! お前が出たという事は何か起きたのか?」
ジュリウス隊長の声が切羽詰る。見れば、体調の顔が僅かに険しくなっていた。
そういえば自己紹介の時、センさんはオペレーターも兼ねていると言っていたけど……。
『フランからのお願いでね、緊急時の訓練として今回は僕がオペレーターをして――』
「――手本になるわけか。フッ、贅沢な実戦だ」
一転して、苦笑するジュリウス隊長。傍にいるロミオ先輩もほっとしている。
その様子から、センさんと二人の間に強い信頼があるのだと分かる。私もいつか、あの中に加わる事が出来るようにならなくちゃいけない。
「セン、今回は二人の動きを見たい。目標はオウガテイルとドレッドパイクだ。今の所、生きている大型アラガミの姿は見られない。こんなチャンスは滅多に無いぞ」
うん、だって目の前でオウガテイルとドレッドパイクに食べられてるのヴァジュラだもん。
弱肉強食……と言うよりも、無常な世界だと私は思う。
『了解。それじゃあ二人の神機の構成は……』
「はい、私はロングブレードとスナイパー、シールドです」
「えーっと、ハンマーにタワーシールド……ショットガン!」
私の神機の構成は、ロングブレードで斬りつつ防御。隙があればスナイパーで狙撃すると言う戦術である。多分、近接メインになるかなと思いながら構成したけど、これでいいのかな。
後、ナナは何でショットガンの時、元気そうなんだろう?
『分かった、ありがとう。それじゃあ二人とも、好きなように動いて欲しい』
「えっ……?」
それだけ? 何かこう、もっと戦術とか陣形とか無いの?
見ればナナもポカンとしている。
『いざとなったらジュリウスとロミオが入るから心配はいらないよ。たまーに、上から降って来るアラガミとかいるから、頭上に注意してね』
最後の最後にとんでもない台詞を残していってくれました!
でもセンさんの言う通り、頭上から襲われて殉職したゴッドイーターは数知れないと聞く。ルーキーでもベテランでも、それは同じだそうだ。
落ち着いて落ち着いて……。習った通りに戦うだけ。
「ネルティス、行きます!」
「……うん、僕は
僕ことセン・ディアンスが見るモニターの前では、オウガテイルとドレッドパイクが二人の少女と対峙している。
少女は斬り撃ち、特に防ぎ。自身に出来得ることを精一杯しながら戦っている。と言うか、かなり様になっている。これなら、僕は何も指示を出さなくていいだろう。
『セン、お前から見てあの二人はどう思う?』
ジュリウスの言葉に、僕は少しだけ笑う。
彼女達はゴッドイーターだ。命を賭け、日常を磨り潰す戦士達だ。それに、僕のような力無き者が評価を下せるわけが無いだろうに。
まぁ、でも率直な感想を言おう。多分、それが彼らのためだから。
「伸びるよ、二人とも。特にネルちゃんの方は」
『お前もそう思うか』
「うん。何て言うか……動きに迷いが無い。攻撃のテンポがはっきりしてる」
僕とてたくさんのゴッドイーターを見た。時には、ブラッド以外のゴッドイーター達もオペレートしたりしたから、その動きははっきりと目に焼き付いている。
ネルちゃんの攻撃は素早いし無駄が無い。攻撃を欲張らず、一撃離脱を繰り返しながら、上手く間合いを取っている。まだどこかぎこちないけど、あの様子ならばすぐに慣れるだろう。
『あぁ、鍛え上げればかなりの戦力になる』
「かもね。……そういえば、博士の話だと、後二人だっけ」
『候補者の事か?』
確か聞いた話によるとギルバート・マクレインにシエル・アランソンの二人だった。
ギルバート……まぁ、長いからギルと呼ぼう。ギルは『上官殺しのギル』と呼ばれていたらしい。それが原因で、彼は単独任務を中心とした任務を受け持っていてブラッドに呼ばれたとの事だ。
上官殺し――なんて、僕からすればどうでもいい話だ。それは他人の言った評価であって僕の下した評価では無い。
無関係な連中程騒ぎたがると言うのは、世の常だ。世界はそうして周っている。それがこの世界で生きてきて分かった事の一つだ。
まぁ、僕の立場で彼の評価を変えることは出来ないだろう。ここから先は彼の問題だ。僕が肩入れ出来るところでは無い。
それに僕は研究者だ。だからあまり人の意識に踏み込むようなことはしない。と言うか後始末が出来ない。散らかるだけ散らかして後は人任せ、なんて事になりかねない。
「っと、いけない」
つい、思い込みに意識を向けてしまっていた。今はネルちゃんの動きを見ないと。
改めて僕はモニターを見直す。
そこにはオウガテイルとドレッドパイクを同時に斬り捨てて、ドヤ顔を決めているジュリウスの姿が映っていた。
背後には茫然とするネルちゃんとナナちゃん。そして苦笑いするロミオの姿がある。
「なんだコレ」
そういった僕は悪くない。
ちなみに実戦は何事も無く終わりました。良かったよかった。