ゴッドイーターになれなかったけど、何とか生きてます。   作:ソン

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戦闘無しでストーリーが進むなんて……! これが、研究職ッ!
すいません、冗談です。
しかし一人称で書くと、オリ主の性格がモロに出ますね。

お気に入りに入れてくださった方々及び評価を下さる方々、本当にありがとうございます。
まだまだ未熟な私ですが、最後までこの作品を応援して下されば幸いです。


出来る限りの事を

 

 色々な事があった実戦から一週間後。あれからネルちゃんは破竹の勢いで実力を挙げて行っており、とうとうシユウまでもほとんど一人で倒すようになっていた。

 しかもミッション後のレポートは回数を重ねるごとに洗練されていっており、その内容に慢心は無い。何この子素敵。

 もしネルちゃんが僕の作ったアイテムを使いこなせば、それはもう止められない。あの最強と言われる極東のゴッドイーターと並ぶことが出来るのではないのだろうか。今は、動きに慣れるための訓練だけど、もうそろそろ卒業の時だと思う。

 まぁ、今はその話題を置いといて。

 

「はぁ……」

 

 僕が手にしているのは、とある少女が考えたトレーニングプランである。

 訓練十二時間、座学八時間、睡眠四時間と言う何とも切り詰めたプランだ。僕らからしてみれば間違ってはいないのかもしれないけど、ゴッドイーター達からしてみればたまったもんじゃない。と言うかミッションはどこで行く。

 

「? 何かご不満な点がありましたか?」

「んなの、見た時に気づくだろ」

 

 僕の目の前にいる二人の男女。新しい候補生であり、首を傾げるシエル・アランソンと溜息を吐くギルバート・マクレインの二人だ。

 二人はラケル博士の研究室に向かったところ、そこで博士からパシリと言う仕事を押し付けられている最中の僕と遭遇したという事である。

 ちなみに二人とも、僕の事は一応知っているらしい。

 

「……うーん、余り現実的じゃないかなー」

「そうでしょうか……?」

 

 もっと首を傾げるシエルちゃん。確か、彼女はマグノリア・コンパスの出身だったはず。

 ラケル博士の言葉なら一瞬で聞くのだろうか。

 

「うん、休憩四時間はきつい。特にゴッドイーターはきついよ」

 

 精神と身体は関係する。精神が疲れ切っているならば、それは身体にも必ず現れる。これは僕の前の世界でも言われていた精神の考えである。

 要するに心が壊れる寸前ならばそのサインは必ず体に出て来るという事だ。

 つまりゴッドイーター達にとっては生存率を上げる訓練のはずが、シエルちゃんの訓練だと生存率を下げてしまうと言う結果になりかねないのだ。

 

「そう、でしたか。……私なりにシミュレートしてみたのですが……」

「……人や物事って言うのは時間で変化するからね。ずっと同じなんてあり得ない。だからその変化を視野に置いてスケジュールを考えるといいかも」

 

 うん、実は僕の言っている事かなりの理想論である。要するに都合のいい言い分に過ぎない。

 だけど今回はあえて言った。今後、シエルちゃんが人付き合いする時、多分重要なファクターがそこだと思うから。

 

「……で、博士は今どこに?」

「今、庭園にいると思う。ついでに、施設の中も案内しようか?」

「あぁ、頼む」

 

 

 

 

 

 ロビーまで降りて来ると相変わらず人が多い。フライアの内装が貴族的な事もありホテル感覚で訪れている者が多いからだろう。

 さすがに長い間、働いているので僕と言えども道を忘れはしない。しかしはぐれたら面倒である。

 

「しかし、スゲェ設備だな。さすがは移動要塞だ」

 

 ギルがあちこちに目を配らせ、感心したように頷いている。

 フライアの設備は確かに凄い。局と言われる事からフライア自体は施設である。しかしその人員や設備から生まれる戦力は凄まじい。早い話、支部一つ分に匹敵するのである。

 まぁ、ブラッドや博士達がいるなら当然だろうけど。

 

「うん、この施設自体が一種のアーコロジーなんだ」

「そうか、納得した。道理で施設にしちゃムダにデカいワケだ」

 

 だってトップがグレム局長ですし。

 

「“ムダに”と言うのはどうなのでしょう」

 

 聞き覚えのある声に驚きよりため息が出る。相変わらず気配を感じさせない人である。

 どこで学んだんですか、その技術。

 

「お疲れ様、セン」

 

 そう言って微笑む博士。楽しそうで何よりです。

 

「ラケル博士、お久しぶりです!」

「えぇ、元気にしているみたいねシエル。嬉しいわ」

「アンタがラケル博士か。ギルバートだ、ギルでいい」

「そう、よろしくお願いしますねギル」

 

 うん、これで一通りの挨拶は終了かな。

 後は――。

 

『ブラッド、まもなくミッションから帰投します』

 

 いいタイミングだ。後は僕の部屋で皆の顔合わせ、か。

 これでブラッドは全員揃った。後は舞台をちゃんと整えて。

 

 

 ――僕が、覚悟を決めればいいだけの話だ。

 

 

 

 

 ブラッド全員の顔合わせも終わり、僕とラケル博士が向かっているのは局長室である。

 理由は極単純で、今から話し合いがあるからだ。内容は神機兵に関する事。一応、ラケル博士とレア博士、そして僕とクジョウ博士も開発に加わっている。

 尤も、こんな話し合いなんてしなくても、用事が済んだら計画は凍結する予定なんだけど。

 

「失礼します」

 

 扉を開けて、ラケル博士を先に通す。僕なりの礼儀だ。それ以外に何もない。

 中には、中央の机に座ったグレム局長、右にはレア博士、左にはクジョウ博士。そして僕とラケル博士はグレム局長と向かい合った形になっている。

 葉巻を口から放し、息を吐いてからグレム局長が満足げに頷いた。少しレア博士が鼻を押さえているのは煙草の煙が苦手だからなのだろう。

 

「来たか、セン博士。遅いぞ」

「申し訳ありません、局長。少し物事に没頭していたもので」

 

 クジョウ博士は僕を睨んで来る。

 最初こそ何故なのか分からなかったが、今なら分かる。

 要するにクジョウ博士はラケル博士に恋心を抱いているのだ。それで、ラケル博士の部下である僕に嫉妬していると言う訳だ。

 うん、何かごめんね。

 

「では始めましょう。まずは神機兵ですが、現在八割まで進んでいます。大方の知能は完成済みで、センがシミュレートしています」

「ふむ、八割か、遅いな。で、その結果はどうなんだ?」

「えぇ、地形を把握した人口知能に、私から告げる事は何もありませんわ」

 

 神機兵――名目上は神機を使えない者でも神機兵に搭乗する事で、アラガミを倒す事が出来ると言うモノである。

 だが僕とラケル博士からしてみれば、それは副産物で本来の目的は生贄。神機兵は、僕らの目的を成就するためにはなくてはならないファクター。ただそれだけだ。

 ある意味冷徹な考えかもしれない。だけどこれが僕に出来る事。

 

「残り二割はアラガミの特徴に対して、応変に対処するパターンを考える事と実装するだけです」

「……」

「お姉様、どうしたのですか?」

「いえ……。ねぇ、セン博士。アラガミは今も新種が増え続けているのよ? 貴方の理論だと、それは永遠に完成しない事になるのだけれど」

 

 レア博士の言い分は正論だ。アラガミは今も増え続けている。例えば、ウコンバサラやガルムはその典型的な例である。

 

「新種に対しては、神機使いを頼りにする他ないでしょう」

「!」

「なっ……!」

 

 レア博士とクジョウ博士が唖然とする。それはそうだろう。ならば元々神機兵を作る意味が無い。

 だが、僕はゴッドイーター達から誇りを奪うつもりはない。彼らは自分の意思で力を得た。なら、僕はそれを尊重するだけだ。

 

「ふ、ふざけているのかお前は! 今の発言は私達どころかフライアを敵に回しかねないぞ!」

 

 まぁ、無視だ無視。構ったらもっと面倒臭い。

 

「神機兵は迎撃に特化させるつもりです。これらを野に放つのはアラガミを生み出す事と同意義ですから」

「……なら有人化の傾向に回すという事?」

 

 レア博士が少しだけ嬉しそうな顔になる。そういえば、彼女は有人化に賛成していた一人だ。例え誰であろうと協力してくれるなら、それは嬉しいだろう。

 

「いえ、それも難しいです。……僕としては自律制御システムによるサポート機能を持った有人型を完成形としています」

 

 出来なくもないが、余り現実的じゃない。何より僕は神機兵の稼働など目的としていない。それは、ただあるだけでいい。

 作り出すための母体でしかないのだから。

 

「ふむ……」

「心配はご無用ですわ、グレム局長。後は私とセンの二人で十分にやれますもの」

 

 うん、まぁ最初からそのつもりだけど。

 クジョウ博士は相変わらず僕を睨んで来る。ええい、そこまで羨ましいのか。

 ラケル博士の頬抓りとかかなり痛いんだぞ、アレ。

 

「では私達はこれで失礼します。さぁ、セン。貴方の研究室で続きをしましょう」

「はい、了解です」

 

 今はまだこれでいい。

 だけど、近い内にその時は来るだろう。

 

 

 

 だから、それまで僕に出来る限りのことをやらないと。

 

 

 


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