ゴッドイーターになれなかったけど、何とか生きてます。   作:ソン

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戦闘シーン無しっていいなぁ。
更新不定期な作品ですが応援の程、よろしくお願いします。


こんなことになったけど

 

 今、僕ことセン・ディアンスはロビーで本を読んでいる最中である。読書なら本来、僕の研究室ですればいいのだが、生憎今は設備のアップデート――要するに改装中だ。電源を全て落とす必要があるため、部屋の灯りが無い。そのため、本を読むには面倒だがロビーへ降りなくてはならないのだ。

 

「さて、と」

 

 読んでいた本を閉じる。そろそろ終わった頃だろう。システムは再起動するようにしてあるし。

 

「おぉ、セン博士。ここにいたか」

 

 見れば、グレム局長が僕のところへ来ていた。やけに声が上機嫌である。微かに臭う葉巻の香りは、余り僕は好きじゃない。

 

「どうかしましたか、局長」

「いや、博士に合わせたいお方がいるんでな。こちらです」

 

 ロビーの階段を下りて来たのは一人の少女。亜麻色の髪と言うだけで、一体誰なのか。僕ですらすぐに分かる。

 極東で大人気の歌姫、葦原ユノ。確か僕の先輩の娘だっただろうか。

 

「ユノさん、彼がセン博士。フライアの中では最年少の研究員です」

 

 ? 何故、僕にユノさんを……?

 まぁ、とりあえず挨拶しておこうか。

 

「初めまして、セン・ディアンスです」

「あっ、父さんから話は聞いてます! 葦原ユノです!」

 

 余談ではあるが、僕の先輩は入学当初から大分年配だった。今でも職員から士官学校を経て整備士などに転職する人もいると聞く。

 だから学生時代によく娘の事を話してくれていたのだ。多分、僕の年齢と重ね合わせていたからだろう。

 

「ん、知り合いなのかね? セン博士」

「友達の友達のような関係です。顔合わせは今回が初めてですよ」

「ぬ、そうか。それは安心したぞ」

 

 一転して笑顔を浮かべるグレム局長。その腹の中では何を考えてるのか分からないが、悪く言えば僕をユノさんとの関係づくりに使おうとしているのだろう。うん、最初に悪い言い方が出るのが、僕らしい。

 

「ユノさん、お仕事は多忙と聞いていますがお時間は?」

「今回は合間に来てるので何とか時間はあります。それに――」

『そう思うと僕は、いても立ってもいられなくなったんだ!!』

 

 上、うるせぇ。

 そういえば、今日極東からゴッドイーターが一人派遣されてるって話だったなあ。

 猫を払うより魚を除けろと言うし、先にそっち済ませようか。

 

「少し失礼します。すぐに戻りますので」

『人類の勝利は、約束されているッ!!』

 

 

 そうして僕が階段に足を掛け、前を見た瞬間――文字通りの人間大車輪が突っ込んできた。

 ちなみにその場面の記憶はほとんど無い。強いて言うならネルちゃんが上の階から飛び降りて来たところくらいだ。

 

 

 

 

 

 私、ネルティスがギルやジュリウス隊長と一緒に任務から帰投した。任務は徐々に慣れて来たし、もうすぐジュリウス隊長曰く“ブラット専用道具”の説明と実演がある。

 何でもセンさんが直々に作成したアイテムで、隊長もかなり愛用していると言う。かなり使い勝手がいいのだろう。

 やはり隊長とセンさんの間には強い絆がある。あの二人がもしもゴッドイーターのコンビとして任務に出ていたら――うん、無敵だ。見てないけど、多分そう思える。

 

「さて、ネル。現実逃避の所すまないが戻ってきてほしい」

 

 ですよねー。

 そんな私達の前にいるのは金髪の少年。ジュリウス隊長の服装と同じように育ちの良さを感じさせる出で立ちではあるが、何というか装飾に溢れている。

 エミール・フォン・シュトラスブルク。少年の名前はそういうらしい。

 人付き合いが少し苦手な私だが彼の事で一つだけ分かる事がある。嫌でも分かる事がある。

 

「さぁッ! 共にこの箱舟の道しるべとなりッ! 人類の活路となろうではないかッ!」

 

 

 うるさい。

 

 

「あー……。賑やかなヤツはキライじゃないが……」

 

 ギルも少し戸惑ってるし。当然かもね。

 こうしてみるとセンさんはフライアの面々の中でもかなり落ち着いている。年齢は私より二つ上であり、まだ成人では無い。だけど、精神面はもうかなり上だ。まるで時を遡った人みたい。

 

「人類の勝利は、約束されているッ!」

 

 私達を見ながら左腕を振り上げつつ歩き去っていくエミールを見て、私は思わずため息を吐いた。

 フェンリル士官学校でも彼のような人間は見た事が無い。

 

「……あれ」

 

 下を覗くと階段を上ろうとしているセンさんの姿と、何故か体を回転させながら階段を落下していくエミールの姿が映る。どうやったらそう転ぶの!?

 そうして私が飛び降りると同時に、エミールの体がセンさんに激突して、彼の体は二転三転しながら、柵へと向かっていく。

 

「センさん!」

 

 彼の体はゴッドイーターではない。あれほどの衝撃でも骨折しかねないのに、柵へ激突すればもう――!

 

「フフッ、賑やかですね」

 

 と柵へ激突する寸前で、誰かがセンさんの裾を掴んだ。

 ――ラケル博士。まさかあんな細腕一本でセンさんの体を止めた!?

 思わぬ光景の連続に周囲の空気は完全に凍っていた。足音一つ聞こえない。

 しかし、人を止めたに関わらずラケル博士の車椅子は微動だにしていない。ブレーキってレベルじゃないよね、アレ。

 何か胸の辺り触っているのは、怪我をしていないか確認しているんだろうか。

 そうして何やら満足げに頷いて、私達の方を見た。

 

「いつからここは、劇場になったのかしら?」

 

 そういって微笑むラケル博士の姿は、すごく怖かった。

 

 

 

 

 

 僕が目を覚ましたのはそれから三十分後の事だった。

 医務室――ではなく、僕の研究室のソファに寝かされていたらしい。何でも検査はラケル博士がしてくれたそうで、身体に外傷は無く軽い擦り傷で済んだそうだ。うん、それはよかった。とてもよかった。本当によかった。

 頭を下げてラケル博士へお礼を言う。わざわざ手間取らせたし。

 

「構わないわ。検査らしい検査なんてしてないもの」

 

 そう言ってラケル博士が何かを指さす。そこには折れたボールペンが机に乗っていた。

 ……コレ、僕の使っていたボールペン?

 

「これがどうかしたんですか?」

 

 ラケル博士は微笑を絶やさぬまま、何食わぬ顔で言った。

 

 

「だってコレ、貴方の心臓に刺さってたのよ」

「あぁ、道理で今も少し痛む訳ですね」

 

 

 うん、納得。それは痛いし、心臓の細胞は再生能力に乏しいと聞く。僕じゃなかったら即死だろう。

 まだ血が足りない感じがするけど近い内に治るだろう。

 で、どうして博士は洗面器なんて取り出したんでしょうか。

 

「内出血で済んで良かったわね。ほら、とりあえず出しなさい」

「でも、そんなに気になりませんし……」

「出しなさい?」

 

 いつの間にか背後へ回ったラケル博士が僕の背中をはたく。瞬間、僕の口元から血が溢れた。

 少し固まりつつある血の粘土が洗面器へと零れ落ちる。鉄の味が口いっぱいに広がった。

 ハンカチでふき取る。今の外見なら見られても気づかれないだろう。うん、服の傷も治ってるから問題ないね。

 

「ほら、こんなにたくさん出たわ」

 

 そう言って洗面器の血だまりへ指先を入れるラケル博士。その様はまるで吸血姫である。

 まぁ、そろそろ話を進めようか。こんな事も慣れて来たし。

 

「……博士、皆は?」

「ロビーにいるわ。少し楽しそうだったわね」

 

 大体、博士がそういう時はロクでもない時である。

 そんな風に思ってしまうのも、博士の元で働く事に慣れたからだろうね。

 

 

 

 

 さて、そんな訳でフライアのロビーへ降りた僕の前では、こんな光景が繰り広げられている。

 

「頼む! 一度だけでいいッ! 腹を斬らせてくれ! これが僕の騎士道なんだァッ!」

「バカ! んな事すんじゃねぇッ!」

「いいから落ち着けって! あぁ、ホラ。お腹斬ったら痛いぞ?」

「待て、話せばわかる。ひとまず息を吐け。……誰か後で騎士道と言う言葉の意味を教えてくれないか」

「ほら、とりあえずおでんパン、食べよう!」

「落ち着いてください。確かに昔、侍と言う戦闘民族の方で腹切りと言う習慣がありますが……」

「エミール、落ち着いて! ロミオ先輩、お腹斬ったら痛いのは当然です! ジュリウス隊長、私にも後で教えてください! そしてナナはおでんパン食べたいだけだよね!? 後、シエルそれ習慣じゃないから、習慣だったら私達のご先祖様ほとんどいないから!」

 

 腹を斬ろうとする金髪の少年を全力で押さえるブラッドの男性陣と、何とかなだめようとする女性陣の姿があった。

 

 

「なんだコレ」

 

 

 そういった僕は悪くない。

 アレ? デジャヴ?

 後ネルちゃん、頑張れ。すごく頑張れ。

 

 


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