聖刃伝唱シンフォギア -語り紡ぐ交響曲の果て- 【改訂版】   作:野鳥

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『聖刃絶唱シンフォギア』再始動です。
まずは第1章までノンストップで投稿していきます。


序章

 

 夕暮れのステージ。

 大勢の観客に囲まれ、煌びやかな演出で場を賑わせていたであろうそこは、今や見るも無残な廃墟と化しつつあった。

 

 周りに見えるのは瓦礫の山。

 そこから風に煽られて、焦げた匂いを漂わせる灰が宙を舞っている。

 

 その中で瓦礫の山にあったのは、力なくもたれかかる少女の姿。

 

「‥‥‥ッあ」

 

 彼女の名は立花響。

 大人気ボーカルユニット『ツヴァイウイング』のコンサートにやってきた彼女に待ち受けていたのは、人々を熱狂させるツヴァイウイングの魂の歌────ではなく、人に厄災を与える絶望の権化であった。

 

 『ノイズ』

 触れた生物を炭素の塊へと分解する『特異災害』に認定された異形の化け物。

 低確率ながら世界各地で現れては人々に絶望を振り撒くこの怪物が大群を成し、不運にも彼女のいるコンサート会場へと姿を現したのだ。

 

 人々は我先にと逃げ出そうとしていた。

 誰かを押しのけ、囮にして自分だけ逃げようとする者達が群れを成す地獄。

 

 その群れをノイズは慈悲なく灰と化す殺戮を繰り返し、今や周囲に残る観客は響一人。

 

 そしてその彼女もノイズの余波に巻き込まれ、胸を貫かれてしまっていた。

 今も血を垂れ流し、響の身体は見る見るうちに力を失っていく。

 ノイズ本体に接触しなかった為炭化こそしない。だが命の灯が消えようとする中ではそれも大した意味はない。

 

 もう瞼を開いている事さえ苦しくて。

 視界がぼやけていく中で、彼女の意識を揺さぶる者の声が聞こえた。

 

「───生きるのを諦めるなッ!!!」

 

 声の主は『天羽奏』。

 今回のコンサートの主演であるツヴァイウイングの片割れ。

 人々を熱狂させていたステージ上の存在は、逃げるどころかノイズに果敢に立ち向かえる存在であった。

 

 その名も『シンフォギア』。

 歌で戦う力を得るこの装備にはノイズの炭化を無効化する力がある。

 このシンフォギアを用いて、彼女は相棒であるもう一人のツヴァイウイング『風鳴翼』と共に戦場で戦っていた。

 

 だが、奏は既に限界が近い。

 響は預かり知らぬ事であるが、奏が戦える時間は限りがある。

 彼女に声をかけた時点で装備は所々罅が入り、今にも脆く崩れ去ろうかという有様だ。

 それでも、奏は自分より響の身を案じていた。

 響の状態が解らぬ訳ではあるまい。

 だとしても生きていて欲しいと。諦めないでほしいと願いを込めた叫び。

 

 そこから伝わる暖かさは確かに届き、力を失いかけていた心に火を灯していく。

 そして彼女の想いが響の意識を繋ぎ止め、そこから先の光景を見届けさせた。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

「待って、奏!!」

 

 唄おうとする奏を止めようと、腹の底から叫びを上げる翼。

 今すぐにでも止めに走りたい。けれど大群を成すノイズとの交戦は、彼女の力も大幅に削り取っている。

 今や身に纏う装備は鉛のように彼女の動きを阻んでいた。

 

 奏がやろうとしているのは、自身の命を犠牲にした自爆。

 その名も『絶唱』────彼女達が身に纏うシンフォギアに搭載された絶大の威力を誇る殲滅奥義。

 しかし自爆の名の通り、この唄は装着者への多大な負荷を強いる。

 特に奏は投薬により無理矢理シンフォギアへの適正を得ており、その分正規の装着者である翼より負荷は何倍にも膨れ上がっている。

 戦いによる疲労が貯まり、活動限界も近い現状で放てば彼女に待っているのは────"死”あるのみ。

 

 しかし、奏に唄わない選択肢はなかった。

 

 彼女の後ろには響がいる。

 自分の不甲斐なさで傷つけて、今まさに死の瀬戸際に立たされてしまった少女。

 彼女を守るには、今の自分達では時間も力も足りないと奏は結論付けていた。

 

「一度心も体も空っぽにして、思いっきり歌ってみたかったんだよな‥‥」

 

 眼前に広がるのはノイズの大群。

 相当数撃破したにも関わらず未だ湧き上がる大群は、今にもこちらへ押し寄せ三人を呑み込もうとしている。

 

「今日はこんなに聞いてくれる奴がいるんだ。‥‥‥だから、とっておきのをくれてやる」

 

 本当はこれだけは使いたくなかった。

 

 後悔もある。未練もある。

 もっと歌っていたかったと、心が今も叫び続けている。

 

 けれど、これしか手はない。

 自分達以外にノイズを倒せる人間はいないのだ。ならば自分がやらなくて誰がやる。

 後ろにいる少女。そして大切な相棒の命を守れるなら────この後悔も、胸にしまって果てていこう。

 

「絶唱───」

 

 ごめんな、と。

 彼女の唄を止めようと叫びを上げる相棒へ心の中で謝りながら、奏は今生最期の歌を紡ごうと大きく息を吸い込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───いいや、お前が命を輝かせるステージはここじゃない」

 

 しかし、その覚悟に待ったをかける者がいた。

 

 突如かけられた声に、紡ごうとした詩は塞き止められる。

 誰だと反射で振り向こうとして。身体を向けた奏の真横を、目にもとまらぬ速さでナニカが駆け抜けていく。

 

 行き先はノイズの大群。

 まるで一筋の稲妻の如し。誰にも認識させぬ迅雷の走りにより放たれる一撃の名は、全てを背に追い越した後に告げられる。

 

 

「トルエノ・デストローダ」

 

 

 瞬間。ノイズの大群に大きな風穴が開く。

 

 数にして二百。

 大群の約3割が雷の如き一撃により斬り伏せられ、ノイズの残骸である灰が風に舞い空を黒く染め上げていった。

 

「なっ‥‥」

 

 果たしてそれは奏と翼、どちらの声だったのか。

 会場を呑み込まんばかりの大群にあれだけの打撃を与える一閃。

 それだけでも驚くべき事だが、何より今の技の使い手はノイズに触れても灰化する気配は見られない。

 

 つまり今の技の使い手は、奏達と同じノイズと戦える存在である事を示していた。

 

 彼女達は自然とその使い手へと視線を向かわせていく。

 黒い灰に隠れた空は、たった一人を見つけるにも困難な暗黒そのもの。

 しかしその中でも鮮明に把握できる程、彼の姿は鮮烈で強烈な印象を放っている。

 

 彼は稲妻を模したエンブレムの剣を携えし一人の剣士。

 

 身に纏うのは闇の中でも光を失わぬ、白を基調とした鎧。

 そこに左肩に装備されたランプを模した肩当てから、黄金に輝くマントが日の光を反射している。

 そして頭部は鋭き剣を生やし、雷鳴の如きバイザーに彩られた仮面に覆われていた。

 

「誰なんだ、お前は‥‥‥」

 

 剣士の姿を見て、奏はふと疑問を溢す。

 自分達以外にノイズと戦える存在は見た事がなかった。

 

 何故自分の絶唱を止めたのか? 何故この場に現れたのか?

 

 いくらでも湧き上がってくる疑念。それが集約された一言を聞き、剣士は彼女と視線を合わせる。

 はぐらかす気も、隠す気もないと。

 そう示すかの如く、剣士は二人に向けて堂々とした口調で言い放った。

 

「仮面ライダー」

「かめん‥‥らいだー?」

 

 オウム返しな奏の呟きに、剣士は頷いて肯定する。

 

「人の自由と平和を脅かす者と戦い、世界を守る剣士の名だ」

 

 世界を守る───

 言うのは簡単で、実現するにはあまりに重い言葉。

 

 されどこの剣士の言葉には、それを実現しようとする強い意志が宿っている。

 その言葉だけではない覚悟の程を、奏達は確かに感じ取れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてその光景を見守る響の下にも、一人の剣士の姿があった。

 誰、と尋ねる力さえない響を慮ってか。剣士は膝を下ろし彼女の目線に合わせる。

 

「大丈夫、君は助かる」

 

 彼女にかけられた剣士の言葉は酷く穏やかだった。

 

 彼女の状態を見てそんな自信は持てない筈なのに。

 確証はないと思われる中、剣士は彼女は生きられるとどこか確信している様だった。

 

「‥‥‥けどこの先、辛い事がたくさん待ち受けているかもしれない。

 泣きたくなる事も、逃げたくなる事もきっとあるかもしれない」

 

 何を言っているのか、と疑問が浮かぶ。

 だけど、不思議と彼の言葉は聞き流してはいけないと思う自分がいた。

 

「だけど忘れないでほしいんだ。

 いつか必ず生きていてよかったって思える日が君にもやってくる」

 

 それは彼の言葉に奏と同じ想いが込められていたから。

 響の身を案じ、諦めず命を繋いでほしいという願い。

 誰かを労わる優しさが心に響き、灯った火をさらに燃え上がらせていく。

 

「その時まで諦めずに生きていてほしい。

 辛かったり悲しくても、君を助けてくれる人は現れるから」

 

 そして剣士は語りながら彼女の胸元の傷へと手を翳し始める。

 するとその手より炎のように揺らめく光が傷へと降り注いでいった。

 

 光は傷を埋めるように響の中に入り込み、彼女の傷ついた体を癒していく。

 流れ続けた血は止まり、破れた皮膚は瞬時に新たなものが生成させる。

 

 さらに響は、己の内に暖かいナニカが駆け巡るのを感じ取った。

 

 段々と熱を帯びていくそれは、しかし不快感を感じさせない。

 この暖かさもまた、彼や奏がくれた火と同じ慈しみを持っていたから。

 

 それはまるで心に灯された火へ炎という形を持たせ、彼女の身体に行き渡らせているような───

 

「君の力になるように、俺の炎を君に託す。

 この炎は絶対、これから歩いていく道を照らす光になってくれる。────約束するよ」

 

 だがその炎が一体なんなのかを考える前に、彼女の視界は次第にぼやけていく。

 

 ずっと生きなきゃと意識を保ち続けて。

 けれどもう大丈夫だと、身体に宿った炎が告げてくれているようで。

 心が張り詰めていた響は安心を覚え、段々と意識が緩まり始めていた。

 

 そしてそれに不安は覚えない。

 剣士がくれた言葉は、これから先への希望を与えてくれていた。

 本当に辛いことが待ち受けているのかもしれない。

 

 だけど不思議と、響は彼の言うように諦めたくないと。目の前の優しい剣士の言葉を信じてみたくなっていた。

 

 そうして彼女は最後に笑みを浮かべ、穏やかなに意識を手放していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これは歌を纏いし姫達の物語であり、仮面を纏いし剣士の物語でもある。

 

 ───歌と本。

 言葉を司りし二つの戦士達が交わりし時、物語は神さえ知らない新たな歴史を紡ぎ出す。

 

 では読み上げていこう。

 まずはこの事件から二年後。

 物語の第一章である───炎の剣士と撃槍の奏者が目覚める時を。

 

 

 

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