聖刃伝唱シンフォギア -語り紡ぐ交響曲の果て- 【改訂版】 作:野鳥
「なぁ、あのライダーっていつもあんな感じなのか?」
ノイズ達と戦い続ける最中、奏は唐突にブレイズへそう問いかけた。
「あのような……とは?」
「あんな頓智気な事やって失敗してるのかって意味さ。
二年前の剣士なら、もっと凄い技を見せてくれると思ってたんだけど……なッ!」
槍でノイズを斬り裂きながら、彼女は自身の所見を口にする。
彼女からすればセイバーこと飛羽真は二年前、自分を助けてくれた剣士という認識だ。それが先のような醜態を晒した事に驚き、疑問を抱くのは自然な反応と言えた。
「……確かに貴女から見て不甲斐ない姿を見せたかもしれませんが、これからですよ。
彼も仮面ライダー。聖剣に選ばれるだけの力を必ず発揮してくれます」
「随分と肩を持つね。仲間だから?」
「いえ、仲間だからと忖度するつもりはありません。
僕はこの目で彼の力を確かめたからこそ、自信を持って言えるだけです」
肩を持っているのかと思えば、それは違うとブレイズは語る。
数瞬悩んだ奏は、飛羽真への評価を一旦保留にすると決めた。
「なら、まだ期待は持っておこうかなっと!」
彼女としても命の恩人へ失望など抱きたくはない。それに彼の動きを見る度に感じる違和感が気のせいであってほしいと、心の何処かで願っているのも理由に含まれていた。
その懸念に蓋をして目を逸らした時、二人の会話へ合流した翼が割って入る。
「奏、相手も本気で来るみたいよ」
掛けられた忠告に二人は彼女の視線を追う。
その先には残ったノイズ達が一か所に集結し、自ら同胞達と結合していく光景が繰り広げられていた。
「巨大ノイズか。ビルみたいなデカさとはとんだ大物だ……」
「こちらも気を引き締めていきましょう。そちらもお付き合い願います」
「もちろん、望むところです!」
合体したノイズは全長40m程。大よそビルに相当する巨体に変わり果てる。
これには骨が折れると見やりつつも、彼女達の戦意は寧ろ高まり。三人でこの敵を攻略しようと刃を構えた。
だが───
「「「えっ」」」
突如流れ星の如く砲丸が降り注ぎ、巨大ノイズに付き従う大群を吹き飛ばしていく。
何事かと空を見上げるとそこには────火炎剣烈火のエンブレムを旗に掲げる、妖しい光で空を往く海賊船の姿があった。
「か、海賊船……!?」
「しかもあれは………お二人共、それは一体何ですか?!!」
しかも目を凝らせば船首にはセイバーと響の姿があり、セイバーの方など頭に海賊のような帽子を被っている始末。
疑問しかないこの状況に声を上げると、声を拾ったセイバーが真下へと視線を向けた。
「いいや、今の俺は飛羽真じゃない」
「はい?」
ただし、疑問に答えてくれるとは限らないようで。
「俺は今から────この海賊船の船長だ!!」
「「「はぁ!!?」」」
頓珍漢な回答で話を切り、セイバーは巨大ノイズへと進路をとっていく。
───スゴイところって、そういう……
誰しもが呆然とする中で、奏は小刻みに震えて口角をひくつかせていた。
「響、弾の装填急げェ!」
「なに呼び捨てで読んでんの! …ああもうッ!!」
俺が号令を掛けると、響は文句があり気に俺を睨んでくる。ただ睨むだけでこちらの指示には従い、大砲に次々と弾を装填していた。
何だかんだ俺のペースに合わせてくれて助かるな。お陰で心置きなく船長に徹してられる。
「ほらっ、全弾装填してよ!」
「よし、派手にぶちかませッー!!!」
準備が完了したと報告を受け、即座に舵を右に回転。
砲手がノイズの群れへ向くよう調整し、ありったけの声で合図を告げた。
「ファイヤーーーッ!」
瞬間、海賊船の砲丸がノイズへと一斉に解き放たれる。
地上のノイズは空中へ飛ぶ力はないようで、何もできないまま炎にまかれて焼き払われるだけだ。そうして巻き上げられた風が帆を煽って船に力を与えていく。
「面舵いっぱーーーいッ!」
この惨状に巨大ノイズは俺達を脅威と見たようだ。船に向けて腕を力いっぱいに振るってくる。
俺の船を見くびってもらっちゃあ困るな!
相手の動きに合わせて操舵輪を回し、腕に沿う流れで攻撃を躱してみせる。さらにその間に響が砲弾を装填。腕を振るい切ったタイミングで集中砲火を浴びせた。
「ヨォシ、トドメといこうかぁ!!」
『必殺読破!』
今の砲撃で巨大ノイズは大きく仰け反る。ここがチャンスだと俺は聖剣の力を解放した。
まずは左腕のチェーンを振り回す。それに釣られて海賊船のフックも回り始め、こちらがチェーンを投げるのと共にノイズへと絡みついていく。
藻掻くノイズを余所に俺は跳び上がる。脚に炎を灯して、獲物目掛けて自慢の海賊船を蹴り飛ばしていった。
「水勢・火龍一蹴!」
火が燃え移り炎の上がった海賊船が激突。ノイズはゆっくりと地面へ倒れ込み、あっという間に火達磨になってしまう。
そして俺と響が着地した途端に爆発。
爆風は周辺の群れを巻き込み、戦場からノイズを一掃していった。
「ハッハッハッ、見事にキマッたなァ!」
「いつまでやってんの…。いい加減戻りなよ」
見事なまでの勝利に酔い痴れていると、遠くから倫太郎達が駆け寄ってくる。
おっとそうだ。響───いやいや響ちゃんからもツッコまれたし、いい加減戻っておかないと。
「ちょっと、と………セイバー! あの船は一体───」
「あれはピーターファンタジスタの力。
といっても即興で考えた使い方だったんだけど、上手くいって良かったよ」
どうやら三人は説明が欲しそうなので、船長の役を抜きがてら話していく。
あの海賊船は響ちゃんの呟きからヒントを得たものだ。
ピーターファンタジスタの元であろう物語───『ピーターパン』には海賊のフック船長という敵役が登場している。
ピーターとフックは作中でも敵対する間柄だけど、ピーターファンタジスタの鎧を見る限り、この力には両方の要素が込められているようだ。
そして例の光の玉はピーターの相棒である妖精だろう。そんな妖精からすれば、フック船長の力なんて使っていれば邪魔してくるのも無理はない話だ。
「ではどうやってピーターファンタジスタを使いこなしたんですか?」
「言ってみれば簡単な話だよ。妖精に仲間だって認めてもらったんだ」
まぁ、そこそこ時間は掛かったんだけどね。
内心大変だったと思い返していると、肩にファンタジスタの妖精が乗ってくる。妖精はさっきみたいに好き勝手する様子もなく、安らぐようにその場に留まっていた。
「妖精相手に読み聞かせをしたんだよ。冒険ものだとか、ピーターが好きそうなのを選んで」
「読み聞かせ……ですか?」
「いつも子供達にやってるから、この人には慣れたもの」
次いで響ちゃんが妖精に認められるまでの過程を捕捉してくれる。
俺の店では近所の子供達に絵本の読み聞かせをやっていた。流れとしては俺が物語の登場人物になりきりつつ行うもので、子供達には好評なうちの催しとなっている。
「理由は分かりましたが、それにしても………船長になりきっていた意味は?」
「そりゃもちろん。海賊船に乗るんなら、気分も船長の方がいいからさ!」
「な、なる…ほど? それもピーターを使いこなせた秘訣なんですね……」
「いや真に受けなくていいから。そっちも変な理屈を振り回さないッ」
えぇ、こういうノリもいいと思うんだけどなぁ。ほら、倫太郎も納得して頷いてるし。
……と三人だけで夢中になったせいで、俺はついツヴァイウイングの二人を忘れてしまっていた。
「「………………」」
それに気付いて二人を見やれば、彼女達は黙って顔を俯かせている。
「ええっと、もしかして気に入らなかった……?」
二人は何も答えない。
…これはやってしまった、かな。放っておいた上にあの倒し方だし、真面目にやってないと思われでもしたら!
恐る恐る二人の顔を覗き込んでみる。すると奏さんの顔だけ見る事ができたが───その表情は怒るどころか、何故か堪えるように口角を震わせていた。
「ぷッ────アッハッハッハッ!!」
そしてもう無理だとばかりに盛大に笑いだす。
予想もしなかった反応で、俺だけじゃなく倫太郎と響ちゃんまで彼女に唖然としてしまっていた。
「か、奏。そんなに笑わなくても……」
「ヒィー……ヒィ……、そういう翼だって…夢中で見てたじゃん。意外と、ああいうノリもいける口なんだねぇ」
「そ、それはあっけにとられてたのであってッ。別にちょっと乗ってみたいなんて一言も……」
「あー、いつかあの海賊船に翼も乗せてやってもらえる? 乗ってみたいらしいよ」
「ちょっと奏ッ!?」
本当に予想外だ…。二人共、意外とあの海賊船に興味津々だったらしい。
「奏さん、彼の力は認めてもらえたでしょうか?」
「ま、こんだけ笑わせてくる豪快な奴だとね。前言は撤回させてもらうよ」
奏さんは笑って俺達へ気前よく接してくれる。
……ただ、これは俺が二年前の剣士だという誤解も含めてのものと見た方がいい。
今回倒したのは俺でも、彼女達なら自力で巨大ノイズに対抗できた───そう思えるだけの力量差は感じられた。
なのに勘違いで評価されるというのは……やはりその剣士達が貰うべきものを奪うだけでしかない。
「……本気?」
ふと、響ちゃんが声を潜めて俺に尋ねてくる。
……彼女にはお見通しらしい。
肯定を込めて頷くと、響ちゃんは何も言わずに目を瞑った。
好きにしろ、という事なのかな。
……そうだね、これは俺が決めるべき事だ。
「二人共、話があるんだ」
呼び掛けると、ツヴァイウイングの視線が俺に集中した。
その瞳は尊敬や信頼を滲ませたもので。彼女達の期待を裏切る事に心が苦しくなる。
だがこれで関係が悪化するにしても、彼女達……二課も二年前の真実を告げた。
なのに俺達だけが嘘を吐くというのは卑怯だろう。
「俺は二年前のライブには行っていない。……君達の恩人じゃないんだ」
だから、一から俺という戦士を認めてもらう為に真実を明かす。
それに対する彼女達の想いを表すかのように、戦場には冷たい風が吹きつけていた。
その頃、戦場を見渡す位置に存在するビルの屋上。
ここに戦いが始まってから今まで、彼らを観察していた者がいた。
「………なんだあれは」
その男はセイバーが見せたライドブックの扱いに眩暈を覚えている。彼にとっては眼下で起こった惨状は、可笑しな夢と言われた方がしっくり来るものとして映った。
あのワンダーライドブックから、あんな海賊船が飛び出すなど自分の知識にはない。何がどうなったらああなると、男は心労から目頭を揉む。
「まあ…いい。形はどうあれアレが目覚めたというのなら───」
言い聞かせるように独り言を呟いた時だ。彼の通信機器に一本の着信が入る。
『───私だ、要件は分かっているな?
ノイズは全滅したようだが、仮面ライダー共の見立てはどうだ?』
「……まだ粗削りという練度だ。装者と合わせても、今なら奴だけで一掃できるだろう」
通話の主は女性のようだ。
妖美で威圧感のある声を発しながら、淡々と彼に情報を催促している。
『ならばあの娘に行かせるとしよう。援護に杖も添えれば貴様の見立てには十分だろう?』
「そこまであの少女を欲するか…」
男の問いに女性は微かに喜色ばんで答えた。
『その少女は数少ない融合症例の実例。他に確保できない以上、彼女は貴重なサンプルとなり得る。
この価値を理解せずとも構わんが、それだけ私の欲する存在とは記憶しておけ』
「……いいだろう、実行の時になれば知らせろ。望む通りの支援はする」
そこまで言うと、両者は自然と通話を切る。
報告がメインとはいえ彼らの会話が弾む事はない。二人は利害の一致で動く協力関係でしかなく、それ以上に口を挟む必要はないのだから。
「奴を退ける事ができるか? ガングニールの少女よ……」
故に情け無しに牙を剥けるその男。
彼の手には、火炎剣烈火に似た暗紫の剣が握られていた。
■仮面ライダーセイバー ドラゴン・ピーター
今回の変更要素。
原作だと使いこなせないままに終わった形態ですが、こちらでは飛羽真が妖精に認めてもらう事で真の力を発揮。
ピーターファンタジスタの鎧にはピーター・妖精・海賊船の三要素が混ざっている事から、海賊船を召喚する能力が追加されました。
さらに妖精の力も借りて空を飛翔する事も可能。
海賊ならぬ空賊とでも言わんばかりに空中からの一斉砲火を得意としています。