聖刃伝唱シンフォギア -語り紡ぐ交響曲の果て- 【改訂版】 作:野鳥
僕は今、小説家の神山飛羽真に彼と仲のいい少女、立花響に注目してるんだ」
ワンダーワールドに建てられた一軒家の中。タッセルは相変わらず活き活き……とはならず、どことなく落ち込んだ様子で言葉を紡ぐ。
「彼らは先史文明の遺産・ノイズと戦う装者達に出会うけど、彼女達が過去に起こした事件が原因で足並みは揃わないままだ。
飛羽真もピーターファンタジスタに振り回されちゃって、あわや大ピンチ!」
「けれどそこを飛羽真の痛快な機転で大逆転を飾ってみせた……。
まさかあのライドブックから海賊船を出すなんて、素晴らしい想像力の持ち主だッ!」
彼らの活躍を語るタッセルは、まるで我が事のようにはしゃいでいる。
けれど一つ引っ掛かりがあるようで、その喜び様もまたすぐに収まってしまう。
「でも彼らを眺めていた謎の人影。あれは一体誰なんだろうね~?」
第4章 1節 友と紡ぐ、流星の誓い
「───では二課の装者達の反応は」
「はい。飛羽真君が二年前の剣士ではないと知り、苦い顔をしていました」
倫太郎の報告を聞き終わり、ソフィアさんは悩まし気に顎へ手を置く。
自分から二年前の剣士ではないと二人に明かして翌日、俺はノーザンベースに足を運んでいた。
あの後に仮面ライダーが二年前の件に関わっていない事も倫太郎の口から説明されたのだが、奏さんは到底受け入れ難いといった顔で戦場から立ち去ったんだ。
翼さんはそうでもなさそうだったけど、今の俺に対する印象は最悪だろう。……それこそ協定を結べたとしても心から喜ばれない程度には。
「すいません、俺の勝手でますます協定を結びにくくなってしまって……」
「顔を上げてください。いずれは先方にも話さねばならない事ですし、貴方の決断を我々は尊重します」
ソフィアさんは俺の行動に理解を示してくれているようだ。それに倫太郎も続いてみせる。
「どちらにせよ響さんの件もあります。彼女が賛成しない限り、僕らも話を進めるつもりはありませんから」
「……その辺りは、やっぱり待つしかないのかな」
自ら招いた事とはいえ、どんどん関係が悪化していく状況だ。
せめて響ちゃんから二課への心象だけでも改善しないか───と頭に過ぎったところで、ミーティングルームの吹き抜けにある扉が唐突に開く。
「無理に協定を結ばなくてもいいだろう。ソードオブロゴスだけでも、お前達の支援は十分に可能だ」
そこから出てきたのは響ちゃんと、オーバーオールと後出に結んだ髪が特徴的な男性だった。
「響ちゃん……と、貴方は?」
「彼は大秦寺哲雄。ノーザンベースで聖剣の鍛冶師をしています。
またその知識も高じて、聖遺物についても知見の深い一人なんです」
へぇ、聖剣の鍛冶師か…。
どんな人なのかと視線を向けると、彼……大秦寺さんはこちらと目が合った途端に、何故か手で目元を隠してしまう。
「頼まれていた検査は医療チームと共に済ませておいた。どうやら聖遺物の破片が内部に食い込み、体内に疑似神経を張っているようだ」
「疑似神経…」
「とはいえ数値は安定している。経過観察は必要だが、今のところ彼女の命が脅かされる事はない」
「なら異常はないんですね。良かった……」
教えられた結果に俺はほっと一息つく。
ただ改めて大秦寺さんを見ると、相変わらず彼は俺と目を合わせないまま。すると不思議がる俺を見て、響ちゃんがこちらに歩み寄ってくる。
「人見知りみたいだよ? わたしの顔も全然正面から見ないし」
「……次は火炎剣烈火の点検だ。一旦私に預けろ」
あぁ成る程。それは初対面なら避ける筈だ……。
と内心納得していたら、大秦寺さんが割って入り火炎剣を催促してくる。
そういえば火炎剣烈火は長い間所在知れずなんだっけ。
なら一度も点検なんてしていないだろう。鍛冶師ならば当然の要求で、倫太郎達も信頼している以上、この剣を預けるのに迷いはなかった。
「十五年ぶりの帰還だ。今のお前をじっくりと私に聴かせてくれ…」
「えっと……聴くって何を?」
「大秦寺さんは聖剣の声を聞く事ができるんです。信じられないかもしれませんが、それが鍛冶師としての力量にも繋がっているんですよ」
言われた通りに聖剣を預けると、彼は刀身を見つめながら怪しげな事を呟き、奥に消えてしまう。
聖剣に意志があるなんて初耳だけど、倫太郎達からすれば周知の話のようだ。
聖剣の声、かぁ。
烈火にも心があるなら俺も聞いてみたいな……。
「とにかく今後の方針を決めるにしろ、全員の意見を合わせる必要があるでしょう。
これを機に一度、皆さんで話し合われてはどうでしょう?」
そう呑気に考えていると、ソフィアさんが俺達にそう促してくる。
……確かに今の俺達には必要な事だろう。二課と協力するにしろ、しないにしろ。意見を合わせない事にはいつかきっと不和が起きてしまう。
そんな事を望まない身としては、たとえ響ちゃんの心が固くとも話をする以外に道はない。
「飛羽真さんは、どうしてもあいつらと一緒に戦いたいの?」
そしてノーザンベースから移り、ファンタスティック本屋かみやま。
倫太郎も交えた三人で早速話を始める中で、響ちゃんは少し不機嫌そうに語り掛けてくる。
「そうだね…。真実がどうあれ、彼らが悪い人だとはどうしても思えなかった。俺だけなら、きっと二課の申し出を受けてたと思う」
分かってはいたが、彼女は二課と協力するのに乗り気じゃない。
当然といえば当然で。だからといって放っておけば今までと何も変わりがない。
「…彼らを許せないのなら、それはそれで構わない。
だから聞かせてほしいんだ。響ちゃんは二課を事件の元凶としか思えない?」
「それは……」
一歩踏み込んでみれば、彼女はそこで言い淀んでしまう。
…響ちゃんはやっぱり優しいよ。
今だって悩む必要なんてないだろうに、俺の問いかけに即答しないんだから。
「彼らは彼らなりに自分の過去と向き合っています。
軽々しく許せとは言えませんが、一度見定める機会があってもいいんじゃないでしょうか?」
倫太郎も続けて諭してくれるが、響ちゃんは一向に口を開かない。
俺達の言葉で傾く程、彼女の怒りは浅くないって事だろう。でも決して拒絶しないその態度が、二課の皆へ怒り以外の感情が芽生えてる証になる。
ならこの話し合いもここで終わらせちゃいけない。そう思ってまた話そうとした時だ。
「やっほー! 二人共げんきーー?」
勢いよく開かれた玄関から芽依ちゃんが飛び出して、場の空気を一気に吹き飛ばしてしまった。
「…なんか暗いね? しかも倫太郎もいるし」
「えっーーと、芽依ちゃんこそどうしたの…? もしかしてまた原稿の催促?」
「違・い・ま・すーッ! 今回は別の用事で来たの!!」
と、とんでもない場面で来たなぁ~~。原稿の催促でもないなら、一体用事ってなに!?
俺だけじゃなく二人も芽依ちゃんの目的に怪訝な顔をしていると、彼女は玄関の奥から誰かを手招きしている。
一体誰かなのかと目を凝らせば───先に隣で響ちゃんが真っ先に動揺を見せていた。
「えっと、あの日ぶりだね。……響」
小刻みに口元を震わせる彼女に遅れて、俺と倫太郎も思わず目を見張ってしまう。
なにせその娘は、昨日話題に出たばかりな響ちゃんのかつての友達。
「み、く……───」
小日向未来ちゃんがうちの店に足を踏み入れていた。
「ハイハイ、二人とも固まってないで話してきなって。飛羽真、響ちゃん借りるよー」
「ちょっ、芽依ちゃん!?」
疑問を口にする間もなく、芽依ちゃんはテキパキと響ちゃんへ近付いていく。
唖然として彼女は芽依ちゃんのされるがままで。あっという間に未来ちゃん達と一緒に店を出てしまった。
「な、なんて急な事を……」
「倫太郎、驚いてる場合じゃないって! 俺達も後を追おう!!」
「え、えぇ……」
昨日の今日だよ? なんでこんな短い間に彼女を連れてこられたんだ!?
それに今の流れで俺達の話も有耶無耶になっちゃったし……ああもう急ごう!
未だに衝撃の抜け切ってない倫太郎を連れて、俺は芽依ちゃん達の後を追いかける。
幸いにも三人の行方はそう時間を掛けずに見つけられた。
響ちゃんと未来ちゃんは近場の公園に腰かけている。それを木陰から見ていた芽依ちゃんはこちらに気付き、今度は俺達を手招きしていた。
「ほら、こっちこっち」
「芽依ちゃん、何だっていきなりこんな真似を……」
「響ちゃんがあんな態度だからだよ。
あれじゃあ自分から会いに行こうとはしないでしょ? だからうちの方から噂の子を引っ張ってきた訳」
「だとしても一度も会っていない相手をよくこの短時間で……」
「ふっふっふっ、いやぁ運が良かったよ。
行きつけのお好み焼き屋の店主さんがあの娘を知っててさ。いきなりお目当てに辿り着けたって訳」
どうやら俺達に話を聞いてからすぐに探していたようだ。だとしてもたった一日で見つけるなんて、あの娘は意外と近場で暮らしていたんだろうか?
「何でもリディアン音楽院に通ってるらしいよ。
ずっと会いたい娘がいるって店主さんに話してたみたいで、うちの話を聞いてすぐにピンと来たって」
リディアン音楽院……隣町にあるあの学校か。
確か翼さんが通う学校なのでも有名で、そこの生徒なら目につくのも頷ける。
疑問が解消したので、改めて響ちゃん達に視線を戻す。
予期せず降ってわいた前進のチャンスだけど、果たして響ちゃんは何を告げるのか。
あの場に自分達が邪魔なのを察せられるだけに、歯痒くても俺は見守る他なかった。
なんであの人はこんな真似をするのかなと、一度問い詰めてやりたい気分だ。
正直わたしは、この娘と会いたいとは思っていない。
飛羽真さんに言われた事は忘れてないから、いずれは…と考えてはいた。でもそれは大分先の予定。まさか昨日の今日で引き合わせられるなんて想像してなくて、お陰で外面も取り繕えそうにない。
「……ここには芽依さんに案内してもらって来たの?」
「うん、私の事探してたみたいで。響の事が気になるならここに案内してあげるって言われたんだ」
「そう……」
回答は予想通り。ただ話してる自分の口調が刺々しいのに、わたしは我が事ながら溜息を吐きたかった。
やっぱり心の整理なんてついてない。
ちょっと話しただけでもすぐにボロが出てしまう。……隣に座る、この娘に対する苛立ちが。
「あの人達と、仲いいの?」
「うん…。一年前からお世話になってて、今ではあのお店でバイトもしてる。
二人共変な人だし騒がしいけどさ。……居心地は良いし、退屈しない毎日を過ごせてる」
「そっ、か……」
この娘はおどおどとした態度でわたしに質問しては、こうして返す答えの一つ一つに打ちひしがれていた。
……話す度にそんな態度をとるのは勘弁してほしい。
言いたい事があるのならちゃんと言って。わたしは早く本題に入りたいんだから。
「聞きたい事が一つある」
「うん…」
「……なんで、連絡の一つも寄越さなかったの?」
なので痺れを切らして、わたしの方から本題を切り出した。
わたしがあの惨劇の傷から快復した時、この娘は何の言葉もなく地元を引っ越していた。
どこに引っ越したかも分からないから連絡のし様がなくて。あちらからも全く連絡はない。だから互いの縁もそこで切れた。それで話は終わりだった筈なのに……今更、わたしの前に現れて何のつもり?
そうして言葉を待てば彼女は小さな声でゆっくりと、わたしの問いに答えだした。
「…うちのお父さんとお母さんに止められてたんだ。
手紙はポストに入れた後に持ち帰られてて、電話もずっと繋がらないままで……」
理由はたったそれだけ。
でもそれを告げた彼女の肩は酷く震えていて……まるで何かを堪えるように、スカートの裾を握りしめる。
「ごめんね。響…」
「ん?」
やがて声が震え出したのに気付くと……彼女は俯いたその顔から、一筋の涙を流していた。
「響が大変な時に引っ越しちゃって…。
ずっと響はあそこで酷い目にあってたのに……私、何の力にもなれなかった」
零れ落ちたのは、あの頃への懺悔。
それで堪えていたものが決壊したのか、彼女はとめどなく涙を溢れさせる。
……ああ、ホントに。ホントに腹が立ってしょうがない。
「別に謝んなくていい」
「でも…ッ!」
今更来ないでほしかった。後悔する姿なんて見たくもなかった。
もう終わった話で良かったんだ。
……そうすればわたしに資格がないなんて、思わずに済んだろうに。
「未来がここに来たのは、ただわたしに謝りたかったから?」
だから問い掛ける。せめて、自分が許される為に来たとでも言って。
そうすればわたしは……何の迷いもなくこの話を終わらせられる。
けれどその願いも虚しく───彼女から返ってきたのは「違う」という、絞り出すような声だった。
「確かに謝りたかった、けど…。でも、私はもう一度……響ともう一度、あの頃みたいに友達でいたかった……」
「うん」
「今更、何で会いに来たって言われるかもしれない。自分が苦しい時にどこかに消えたのにって……。
そう、言われるかもしれないって怖かった。だ、けど…わたし……わ、たし……ッ!」
言って彼女はまた涙が溢れて言葉を詰まらせる。
もう諦めるしかないみたい。
なんでそこまでわたしに構うかな…。そんな風に想われたら、こっちも応えない訳にいかないじゃん。
内心文句を言いつつ、ベンチから立ち上がる。
絶対に顔は見せなかった。今のわたしの顔をこの娘に───未来に見られたくないから。
「……未来はリディアンに通ってるんだよね。
通ってる学校は違うけど、また時間見つけて遊びに行こうよ。……昔みたいに、さ」
「ひびき…」
わたしの返事に未来はほんのちょっとだけ声を明るくさせる。
けれどまたすぐに声を曇らせて、何か言うのを迷っている様子だ。
「でも、また……あの時みたいに戦いに行くんだよね?」
「そうだね…。あんな奴らの思うようにさせたくないから、わたしはこの拳を奮う。
でもこの先どんな事が起こるかはわからない。だから案外何も起こらずに、遊べる一日だってあるかもしれないよ?」
心配しているのか。不安なのか。
それでもわたしは戦いを止める気なんてなかった。この娘の言葉一つで変わる程、あの時の誓いは軽くない。
だったらせめて不安を和らげようと語り掛けると、未来は何か意を決して自分のスマホを取り出し始める。
「そう、だよね。これからの話なら………だったら、こういうのはどうかな」
そうして見せてきたのは、とあるネットニュースの記事だった。
「こと座流星群。来月に見られるらしくて、もしその時響が戦いにいかなくてもいいなら……一緒に見に行こう?」
───彼女の誘いに、わたしは思わず吹き出してしまう。
だって記事を出すまであまりに手際が良かった。
これを最初から言いたかったんだと察するのは簡単で、随分回り道したなとおかしくて笑えてしまったんだ。
「もしかしてそれ、最初から誘う気だった?」
「もし響が許してくれるなら、行きたいなって期待してました…」
「抜け目ないね。でも遊びに誘うのに緊張し過ぎじゃない?」
「こっちは気が気じゃなかったの! ……って、そんなに笑う事ないでしょ!?」
どうにも必死なのがツボに入り、ますます笑いが止まらなかった。
ただまあ、いい加減止めておくべきだし。……何よりここまで真剣なら、わたしの勝手で無碍にするのもなんだ。
「じゃあ約束しよう。必ず一緒に流星群を観に行くって」
仲直りも込めて、わたしは未来に手を差し伸べる。
一瞬目を見張った彼女だけど……やがて手を握って来たその顔は、ずっと背負ってた重荷を下ろしたみたいに晴れやかだった。
「あとお店の皆を紹介しておくよ。ちょうどあっちで見てるみたいだしさ」
「……ちょ、こっち見た!?」
こちらも笑みを浮かべて返しつつ、木陰からこっちを見てるあの人達に視線を移す。
バレてないと思ってたみたいだけど、ずっとわたし達の話に反応してたんだから嫌でもわかるよ。
苦笑いを浮かべる未来と一緒に、三人の所へわたしは向かう。
この娘がいる日々もいずれは当たり前の日常になるんだろうか?
ならいつかは胸に掬うこのしこりも消えていけばいいと、前向きに見つめ直して───