聖刃伝唱シンフォギア -語り紡ぐ交響曲の果て- 【改訂版】 作:野鳥
夕暮れの街を一人歩く。
代わり映えのないいつもの風景。それが今日はやけに晴れやかに見えるのは気のせいかな?
「まさかね……」
……まあ、今日がいつもと違う一日になるのは間違いない。
未来と再会してから丁度二週間。今日は約束していた流星群を観に行く日だ。
天気は良好。集合時間もかなりの余裕がある。問題があるとすれば初めて行く場所なので、現在進行形で地図アプリと睨めっこしている事くらい。
「ええっと、集合場所までの道は────」
とはいえ方向音痴じゃないんだ。道に迷ったりはしない。
それにせっかく余裕もあるんだ。いつもと違って見えるこの景色を歩きながら、心地良く時間を過ごすのも悪くない。
そんな風に思っていたのに────わたしの思考を遮って、スマホの着信音が鼓膜を震わせた。
このタイミングでの電話。嫌な予感がしたけど、仕方なく通話に出る。
『響さん、ノイズが出現を確認しました。
お休みのところを申し訳ありませんが……対応していただく事は可能ですか?』
すると電話の主であるソフィアさんから伝えられたのは……わたしにとって最悪の一報だった。
「そっちだけじゃ対応しきれない数なの?」
『今回は複数箇所で同時にノイズが発生しています。セイバーとブレイズにも連絡を入れていますが、人々に被害を齎さない為には人手が必要でしょう』
「………わかった。すぐに行くから場所を教えて」
通話の後で送られた画像には、合計10にも及ぶ地点でノイズが発生した事が示されている。
これはわたしにも飛び火する筈だと、納得すると共に空を見上げた。
わたしの勝手で戦わないなんて事はしない。この状況下なら尚更……だけど胸に湧いてくる遣る瀬無さは何なんだろうか?
「約束、守れそうにない、な……」
さっきまで晴れやかだった筈の風景も、今は酷く寂しいものに感じられた。
まだ赤く染まる夕陽は山に沈みかけ、空も段々と黒くなり始める。
そんな空模様の下。地下鉄に乗る為の入り口に飛羽真さんと倫太郎は佇んでいた。
「……響ちゃん、確か今日は未来ちゃんとの約束の日だったよね。もしかして───」
「未来には、行けそうにないって連絡しておいた」
二人はわたしを見て動揺している。
今頃、未来の所に行っていると思ってたんだろうか…。
「ここにノイズがいるんだよね…」
「ええ、情報によれば駅構内に密集しているようです。
ですが、良かったんですか? 二人共今日を楽しみにしていたのに……」
倫太郎の返答を訊いて、わたしはすぐにでも駅へ向かおうとする。
けれど泣き言一つ言わないのを不思議にでも思ったか、彼はわたしを呼び止めた。
「……ノイズが出たのに、わたしだけ遊びになんて行けないよ」
「それは、そうかもしれませんが───って、響さん!」
理由がわたしを心配したからなのは伝わってくる。
でもその瞳にわたしは耐えられなかった。二人に抑えてたものをぶつけてしまいそうで……制止も振り切り、駅への階段を駆け抜ける。
「あれが……」
────ナニカが心の壁に亀裂を走らせた。
視界の先に広がるモノを見て、わたしの心を黒い衝動が蝕んでいく。
駅構内に広がるノイズ。足の踏み場もない程に集まって、何をするでもなくその場へ居座っている。
「わたしが怒る資格なんてない。だけど───」
ああ、そうだ。わたしに資格なんてない。二年間想い続けてた未来と違って、わたしは彼女を気にも留めないでいたんだから…。
それでも今になって解かった。わたしは……約束を壊された事に怒ってる。
───お前達さえ、いなければ……ッ!!
心の壁が決壊して、抑えていた激情が溢れ出す。
たとえ手を繋ぐべきじゃないって分かってても、思っちゃったんだよ。未来と、また一緒に笑い合えたらって……。
それをお前達は壊したんだ。あの時も、今日もそうだ!
お前達のせいで、誰かの日常が無くなってしまうんだッ!!!
黒い衝動はついに心の全てを支配する。
それに抗いはしない。……いいよ、好きにやろうじゃないか。
あいつらを壊せるなら、わたしがどウナッタッテカマワナイ……ッ!
「ダメだよ、響ちゃん」
だけど怒りのままに拳を振り抜こうとして、
またあの時のように、飛羽真さんがわたしの拳を止めていた。
「…離してよ。ノイズを、倒さないと……ッ!」
「分かってる。けどそんな苦しそうな顔してるのに、放ってはおけないよ」
「……そんな顔、してない」
「今にも泣きそうなのに?」
言われてハッと気付く。わたしの瞳はいつ溢れんばかりの涙で埋まっている。
それが無性に腹が立って、すぐさま強引に涙を拭う。
「未来ちゃんとの約束を守りたいんだろ? だったら自分に嘘をついちゃいけない」
約束を守りたい…? そんなの当たり前だ。
けど、何ができる?
これだけのノイズがいて、ここ以外にもまだたくさんの敵が待ち構えてるのに……
「………守りたくたって、もう間に合わない。
ノイズがこんなにいるんじゃ、倒した頃にはもう何もかも終わってる!!」
いつもなら胸に残る言葉も、今は無性に腹立たしいだけだ。
もう無理だった。我慢していたのに、わたしはカッとなって二人へ怒りをぶつけてしまう。
「ひ、響…さん?」
「………」
止めないでほしかった。あのまま衝動に身を任せたかった。
そうすればこの時だけは、苦しい気持ちから解放されただろうに……。
恨めしく思って睨みつけるけど、飛羽真さんは依然として態度を変えない。
「倫太郎、今日の流星群って何時頃に来るんだったっけ?」
「えっ……あ、はい。今年のこと座流星群は午後7時頃に見られると言われています。今からだと1時間44分後ですね」
「よし、それだけあれば十分だ」
それどころか倫太郎に話しかけて、流星群の時間を訊き出している。
何がしたいの…? そんな事したって、今から間に合いなんて……
───いや、まさか…
「まさか、時間までに倒しきるつもり……?」
「つもりじゃなくてやるんだ。必ず響ちゃんを未来ちゃんの所へ送り出す」
「…無茶だよ。この中に一体どれだけのノイズがいるか判らないのにッ!」
「確かに一人だけじゃ無理だろうね。
だけど俺達は三人だ。この三人でなら無茶だろうと絶対約束を守れる」
無理だって言おうと、飛羽真さんは断固として意見を曲げようとしない。
そしてそこで見せたのは初めて会った時から変わらない、彼のここ一番の顔だ。
頼りがいを感じさせる、決意を秘めた男の顔。
そうなった彼が必ず決めた事をやり遂げるのを、わたしは今まで何度も見てきたんだ…。
「……どこからそんな自信が沸いてくるの」
それでもできる筈ないって。まだ突っ撥ねようと意地を張るけど
彼は気にした様子もなく、そっとわたしへ手を差し伸べてきた。
「だって、響ちゃんと倫太郎の強さはこの目でちゃんと見てるからね。
……響ちゃんは俺達が一緒じゃ頼りない?」
……ああ、わたしの周りはほんとにズルい人達ばっかりだ。
「────ううん。とても……とても心強いよ」
そんな風に言われたら。そんな風に信じられたら。いつまでも意地なんて張ってられない……ッ。
差し伸ばされた手を、恐る恐る握る。
戦う前から手を焼かせるじゃじゃ馬だけど、この手にわたしは応えたい。
そして胸の想いを晴らす為に───わたしは頭を下げて頼み込んだ。
「やけになってて、ごめん…。
だけど力を貸して。わたしは───未来との約束を守りたいッ」
「「もちろん!!」」
返ってきた答えは一つだった。
……柄にもなく胸から何かこみ上げそうになる。
でもさっきみたいになるのは御免だ。だから両の頬を叩いて気を引き締め、わたしは戦場を見据える。
もう心の中から衝動は消え失せた。
ここからが本番だ。
ここで、そしてこの先も勝って……絶対に約束を果たしてみせる。
「───Balwisyall nescell gungnir tron」
「「変身!」」
聖詠を唄い、聖剣を抜き放ち、わたしと飛羽真さんは戦士の姿へ変身していく。
ただ倫太郎だけはソードライバーを巻くと、飛羽真さんへ何かを求め出した。
「飛羽真君、僕にピーターファンタジスタを。あれは本来、水勢剣流水と相性がいいんです」
「そっちが使うの?」
「ええ。それにあの海賊船は屋内で使うのに向きませんから」
「よし、なら頼んだ」
どうやらピーターファンタジスタを使うらしい。
彼からライドブックを受け取ると、倫太郎はその伝承を読み上げさせる。
《ピーターファンタジスタ》
《とある大人にならない少年が繰り広げる、夢と希望の
そこから二つのスロットを埋め、彼は新たな力を解き放った。
「変身!」
《流水抜刀!
輝く、ライオンファンタジスタ───!!》
相性が良いと音も全然違うんだ……。
そんな至極どうでもいい情報を知りつつ、わたしは変身した倫太郎の姿を眺める。
飛羽真さんと同じ装甲が追加された彼は、鎧から今までにない輝きを放っていた。
《流水二冊。
ガオー!キラキラ! 幻想の爪が今、碧き剣士のその身に宿る───!! 》
読み上げの通りなら『ライオンファンタジスタ』…かな?
パワーアップしたその姿で彼は早速先陣を切り、ノイズの群れへ跳び込んでいく。
「お見せしましょう。相性のいいライドブック同士の力を──!」
まずはライオンを召喚しながら鉤爪を投擲。
チェーンを回すと渦巻く水球が出来上がり、その中へライオンに跨って突入する。
すると水球が分裂し、ノイズを囲む包囲網を形成。水球を出入口に倫太郎が出現し、斬っては渦に飛び込むというヒット&アウェイを繰り替えす。
「そうか、ワープ戦法!」
飛羽真さんも彼の戦法を理解したらしく、拳を握りながらは興奮していた。
確かにあれは驚く程に手際よくノイズを倒せている。心なしか動きのキレも上がってて、相性が良いというのも目に見える形で確認できた。
これはこっちも負けてられないな…。
飛羽真さんと頷き合い、わたし達もノイズの群れに突撃していく。
「はぁ!!」
水球の包囲網に嵌ってない個体を中心に、わたし達は次々と攻撃を叩き込む。
あちらも反撃はしてくるものの、密集している分その動きは抑制される。このタイムラグでこちらが先んじれば、周囲も巻き込んで一気にノイズを倒せた。
「火龍蹴撃破!」
聖剣で大きく集団を斬り払った飛羽真さんは、必殺の体勢に移行。
脚に炎を灯し、蹴り込む勢いでノイズ達を奥へ奥へと押し込んでいく。
そして大爆発。炎に呑まれたノイズは指で数えられるまでにその数を減らした。
これならすぐに次の現場まで行けそうだ。そして本当に流れ星を観に行けるかも……
「マズい、一匹逃げたッ!」
だけどそう簡単に話は終わらないらしい。
飛羽真さんの声で気付くと、電車の停車ホームへ一体のノイズが向かうのを発見した。
マズい、ここで逃がすと街で暴れ回るかもしれない……!
「待て!」
急いで追いかけると、ノイズもすぐに攻撃を仕掛けてきた。
ホームに入った途端、ノイズはブドウのようにくっついていた球を投げつけてくる。弾こうと拳を奮うけど……そうすれば球は爆発してわたしの視界を塞いできた。
「ケホッ、ケホッ……一体どこにッ」
「上だ。天井に穴が空いてる!」
何とか煙を掃うと、ノイズは天井に空いた大穴を登って外に出ようとしている。
あれはわたしに投げたのと同じもので壊したんだ。このままじゃ本当にノイズが街で暴れ回る未来が現実になる……!
「逃がさない───」
「待って、響ちゃん」
わたしも穴を登っていこうとすると、飛羽真さんが肩を掴んできた。
状況は見えてるだろうに、一体何を…?
そう不審に見れば、彼はジャッ君と土豆の木を使おうとしていた。
《ワンダーライダー!ドラゴン・ジャックと豆の木》
再変身を済ませると、飛羽真さんは大穴の下を狙って土豆を撃ち込む。
すると土豆はぐんぐん成長し、ノイズが登り切る前に大穴を塞いでしまった。
「逃がしませんよ!」
ノイズは急に進行方向を塞がれ戸惑っている。その隙を突いて、倫太郎が例のワープ戦法でノイズの真横に飛び出す。
相手はまた爆弾を投げようとするも、彼はそれを身を逸らして回避。
続いて通り過ぎ様に鉤爪を投擲。身体に巻き付けてノイズをその場に拘束してしまう。
「響ちゃん、今だッ!」
飛羽真さんがわたしに呼び掛ける。倫太郎はやってくれと言わんばかりに相槌を打ってる。
……本当に、本当に心強いよ二人は。
ここまでされたら、絶対にあいつを倒さないとね。
「ハアォァァァァ……!!!」
籠手へ極限まで力を送り、わたしは天高く跳び上がった。
この拳に想いを込めて、狙うは頭上のノイズ。
渾身の一発を叩き込んで────真正面から討ち抜いたわたしは地上へと着地した。
……空はもう日が落ちそうだ。やがて夜空が差し込んで暗くなる。
ノイズはまだ暴れてるし、油断は禁物だけど……わたしはもう心の中で確信できていた。
この三人でなら、時間までに全て終わらせられる。未来の所へ辿り着けるって。
やがて各地のノイズを倒して回っていたわたし達は、とある雑木林であいつらと出くわした。
「お前ら……」
「どうやら今回も助けられたようですね」
ツヴァイウイング…。ノイズ専門とも呼べる二課なら出動するのは当然の話だろう。
とはいえわたしからすれば最悪の遭遇だ。まともに会話もする気はないので、一歩下がって飛羽真さん達の陰に隠れる。
「嫌われたものだな…」
「ゴメンね、こんな状態で。えっと……しばらくぶり」
「そうだな…。ま、元気そうで何よりだ」
……なんだその会話は。気まずいにしたって他に言う事はないの?
飛羽真さんの危惧した通り、天羽奏は先日の件に折り合いをつけられていないらしい。
まぁ、こうしてあんた達を目の敵にしてる身で言うべきじゃないのは承知の上。
だとしても、決着もつけないのにグダグダと会話を長引かせられるのは御免だ。
「そういえばそっちもノイズを狩ってたみたいだけど、もう残りは終わったの?」
「ああ。先程司令よりノイズの反応は消えたと連絡があった」
「…そ、ならいいよ」
訊きたい事は訊けた。もうノイズの心配もいらないならここに用はない。
「おい、一体どこに行くんだよ」
「わたしも用事があるの。
戦う必要がないのなら、いつまでも残らなくていいでしょ?」
そうして踵を返そうとするわたしを、天羽奏は何故か呼び止めてくる。
…まだ何かあるの? 飛羽真さんから本当の事を話したっていうのに、一々難癖つけるんならこっちから歩み寄る気なんて起きない。
さっさと行かせてほしいと、そう言い放とうとした時だ
「戦う必要がない? 馬鹿言うなよ。戦いはまだまだこれからだろうが」
───雑木林の奥から誰かががこちらへ近付いてきた。
各所の鋭利な棘が特徴の、白い鎧を纏った謎の戦士。
その顔はバイザーで隠されて見えず、かろうじて声から女性……それもわたしと同じくらいの女の子だって事しか判らない。
「お前、その姿は……」
「ネフシュタンの鎧ッ!?」
警戒して睨んでいると、ツヴァイウイングはわたし達以上に敵対心を剥き出しで武器を握っていた。
ネフシュタンの鎧?
あいつらとあの娘の着てる鎧に何か関係があるの……?
何の事かさっぱりなわたしを余所に、少女は鎧から伸びた鞭を地面へしならせる。
バイザー越しの眼光は、真っすぐにこの場にいる五人を射抜いていた。
「あたしと踊ろうや。
再スタートを切った今作もようやくあの娘の登場。
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