聖刃伝唱シンフォギア -語り紡ぐ交響曲の果て- 【改訂版】   作:野鳥

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「ボンヌレクチュ~ル! 僕はタッセル」

 ワンダーワールドの見届け人、タッセル。
 彼は今日とて飛羽真と響の活躍を見守っていた。

「響は友達である未来と約束をして、一緒に流れ星を見に行くと誓ったんだ。
 だけどノイズが現れちゃって、未来の下には行けなくなっちゃった」

 残念そうな表情を見せるタッセル。しかし一転して、今度は咲き誇るような笑みを見せて語りを再開する。

「そこを飛羽真と倫太郎が機転を利かせて大勝利! ノイズをスゴイ早さで倒しちゃって、響を友達の所へ送り出そうとしたんだ」

 が、またもや彼の表情は曇った。
 今度は本気で心配そうに。彼らの行く末を案じているのが伝わる雰囲気で。

「その時現れたのは完全聖遺物を纏った銀髪の少女。
 バットタイミングで現れた敵と戦う事になったけど、彼らは大丈夫かな?」



第5章 1節 青銅の蛇、纏う少女が戦を呼び

 

「テメェ、何でネフシュタンの鎧を持ってやがる!!」

「事と次第に寄っては只では済まさんぞ……!」

 

 白い鎧の少女にツヴァイウイングの二人は敵意を剥き出しに武器を構える。

 対する彼女は怯むどころか、不敵に笑ってみせていた。

 

「へぇ、知ってるんだな。この鎧の出自を」

「当たり前だッ!

 忘れるものか…。二年前、私達の不手際で失われた数多くの命を……!!」

 

 ───待って? 二年前に、不手際……数多くの命。

 まさか、あの鎧がこいつらの言ってた完全聖遺物なの?

 

「これ、一体どういう状況なの?」

「……済まないが詳しく説明している暇はない」

 

 説明を求めても、相手を見据えたまま二人は応じる素振りがない。

 

「迷っている時間はありません。……飛羽真君も、いいですね?」

「やるしかないか……!」

 

 ……せっかく未来の所に行けると思ったのに。

 ここから抜け出すには、どうあってもあの少女を越えるしかないようだ。

 

「相談は終わったか?」

「そっちこそ。こっちは五人であんたは一人。降参する準備はできたかよ」

 

 わたしも続いて戦う構えをとる間に、少女とツヴァイウイングは一触触発の空気を作り出していた。

 互いに煽り合う中で、戦力差が明白なのに余裕を保つ少女。

 

「ホント甘ちゃんだなぁ、お前らは」

「あ?」

 

 にやりと口角を吊り上げたその表情に、わたしはイヤな予感を覚えた。

 

「アタシのどこが一人に見えんだよ」

 

 果たしてそれは正解で───わたし達の周囲を囲み、突然ノイズの群れが現れたんだ。

 

「なっ、ノイズ!?」

「このタイミング、まさか貴様が呼び寄せたのか!」

「ハッ、自分からタネを明かす訳ねーだろ。このままあたしらでじゃれ合おうや!」

 

 少女の動きに合わせてノイズの集団も一斉に動き出す。

 飛羽真さん達とわたしは対応せざるを得なくなった中、ツヴァイウイングは少女と戦い始めた。

 

「なめんじゃ……ねぇ!」

「よっと。ほらっ、こっちだこっち!」

 

 最初の攻撃を何とか弾いて、二人は少女に息つく間もなく刃を叩き込む。

 けれど少女は未だに余裕のままでこれを躱してる。鞭で器用にいなしては仰け反らせて、刃は鎧を掠る気配もなかった。

 

「クッ、敵ながらよく鍛えている…!」

 

 攻めあぐねてるようだが、こっちはあの戦いに手を出せそうにない。

 個々のノイズはわたし一人でも対処できる強さだ。でも奴らは絶妙なタイミングと統率された動きで、こちらの攻撃を邪魔しては戦いを長引かせてる。

 前も動きがおかしいと倫太郎が言ってたけど、これはそれよりも明確に人の手が入っていた。

 

 まさか本当にノイズを操る方法があるとでも……ッ!

 

 戦いつつもそう邪推した時だ。

 気を散らしてたわたしは背後から飛ばされた攻撃に気付けなかった。

 それはトリモチのように纏わりついて、身体を縛り付ける粘液だ。

 

「飛羽真君、急いで響さんを!」

「分かってる!」

 

 捕まったわたしを助けようと二人が駆け寄ってくるも、残るノイズ達がその道を塞ぐ。

 さらに周囲もノイズ達に囲まれて、完全に逃げ道を消されてしまった。

 

「おぉりゃあああ!!」

 

 トリモチは全く外れそうにない。それでもと苛立ちながら抵抗する内に、わたしの目にまた三人の戦いの模様が映り込む。

 怒涛の連続攻撃を繰り出したツヴァイウイング。さらにそこから風鳴翼の肩を踏み越え、天羽奏が大振りの上段斬りを見舞う。

 

 けれど少女は鞭をクロスさせてこれを受け切ってしまう。

 意表を突いた上にかなりの威力に思えたのに、相手からすればまだ焦る範疇にないらしい。

 

「こちとら完全聖遺物。欠片のおこぼれしか使えないお前らとじゃ馬力がちげぇ……!」

 

 シンフォギアは聖遺物の欠片が材料だって聞いたけど、完成品の前じゃここまで差があるものなんだ。

 目にした光景に歯噛みしてしまう。これじゃあ飛羽真さん達が加わっても戦況が良くなる未来が見えない……。

 

「なにっ? ────ッ!?」

 

 ただ、まだあの二人は諦めないようだ。天羽奏はそこから鞭を足場に後ろへと飛び退いていく。

 彼女は怪訝な表情を浮かべていると……そこへ上空から膨大なエネルギーが地上へと振り下ろされる。

 

「ハァァァァァ───!!」

 

《蒼の一閃》

 

 風鳴翼による、自分の身長程もある大太刀から繰り出される斬撃が襲い掛かった。

 少女も流石に驚いたようで目を見開いてる。これは直撃するか……と思ったところで、彼女は再び鞭をクロスさせ、エネルギーを一点に集約させた。

 

「あれは……ッ!?」

 

《NIRVANA GEDON》

 

 黒い稲妻を走らせる白い光弾。

 これを衝突させると斬撃が光に取り込まれ、力を増してあいつらへ向かっていく。

 

「させっか!」

 

 このままじゃ逆に二人がやられる。そうはさせないと、天羽奏は槍の穂先を回転させて竜巻を生み出した。

 

《LAST∞METEOR》

 

 二人の技は拮抗して、辺りに地鳴りを起こす程の強風を巻き起こす。

 だけど互角だったのは最初だけ。次第に竜巻は押し込まれ、最後は突き抜ける白い光弾によって打ち消された。

 

「ガァ───!」

「グウッ……ハッ!?」

 

 諸に直撃した二人は吹き飛ばされて地面を転がってしまう。

 鎧には皹が入って、身じろぎする度にボロボロと崩れ始める。立ち上がろうにも身体は震えていて、それを見た少女は興味なさげに視線を移した。

 

「くそッ、まだ、あた…し等は、戦えるぞ……」

「とっくにボロボロで何言ってやがる。

 あんたらには興味ねぇんだからすっこんでろ。アタシの狙いは最初から、融合症例と炎の聖剣だからな」

 

 その目の矛先はわたしと、未だ戦い続けてる飛羽真さんに向けられている。

 わたし達が、狙い…。一体何が目的で……?

 

「ッ! 彼女達に何をする気だ!!」

「誰が言うかよ。お前らは負け犬らしくそこで這いつくばってりゃいい」

 

 少女は答える気が無いみたい。二人の剣幕を冷めた視線で流して、わたしの所へ足を進めようとする。

 

「負け犬、か。……確かにその通りだな」

 

 ……それが風鳴翼の心を突き動かしたらしい。

 

「翼……?」

「私の弱さでネフシュタンの鎧は失われ、目の前で多くの人々が消えていき……この二年、ずっと生き恥を晒してきた身だ」

 

 剣を支えに、あいつは儚げに笑みを浮かべて立ち上がった。

 ただその態度に何か違和感を覚える。纏う雰囲気がまるで────死の瀬戸際にあるような……。

 

「だがこの後悔も……鎧を取り戻し、幾ばくかは注がせてもらおう」

 

 あちらも不審に思ったか向きを翻して、鞭を伸ばしてあいつを貫こうとする。

 対して風鳴翼は一瞬早く一本の小刀を造り出して投擲。それが少女の影へ突き刺さると……鞭はあいつの顔の間際でピタリと止まった。

 

「オイ、なんだこりゃ───」

「影縫い。これでお前はそこから動けまい」

 

 そうして鞭を越えて一歩。また一歩と少女に近付いていく。

 進み続けるあいつの顔はどこか強い意志が汲み取れて……間違いない。あいつは本気で自分を犠牲に決着をつけようとしている。

 

 でもどうやって? 今にも倒れそうなあの身体じゃ、まともに剣も降れやしないだろうに…。

 

「翼、まさか絶唱をッ!?」

「ぜっ、しょう…?」

 

 その疑問を慌てふためく声が解消してくれた。

 絶唱───聞くからに奥の手らしきそれは、あいつらにとって使いたくない技のようだ。

 止めようと天羽奏は手を伸ばす。けれどあいつもまた戦うにはもう身体がボロボロで、風鳴翼の歩みを見ている事しかできない。

 

「見せてやろう。防人の生き様とその覚悟を───」

「テメェ、さっさと離せ!」

 

 やがてあいつは少女の下に辿り着き───自らを滅ぼす終わりの歌を紡ぎ始めた。

 肌を斬るように、心の底まで凍てつかせる歌声が戦場に響き。

 敵を倒す為に。全てをかなぐり捨てるからこそ唄える旋律が、あいつの覚悟を嫌でも伝えてくる。

 

 そして全てを唱え終わった時………風鳴翼は眩い閃光を周囲に発していた。

 

「皆さん、伏せて!」

 

 倫太郎の忠告が届いて、その場の全員が自分を護る為に身を縮ませる。

 わたしはノイズが壁になって無事だったけど、飛羽真さん達を襲っていた群れと一緒に、そいつらは衝撃に呑まれて塵になっていく。

 

 凄い威力だ…。

 巻き込まれれば一たまりもない。同時にこれだけの力を出すのなら、中心にいるあいつも決して無事でいられない筈。

 なんで……なんでそんな真似ができるの?

 自分が死ぬかもしれないのに、何があいつをあそこまで駆り立てるんだ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 理由が解らない。解らないからこそ目が離せなくて……戦場から目が離せずにいたわたしは見てしまった。

 煙を突き抜けて、白い影が飛羽真さんと倫太郎へ駆け抜けていくのを。

 

「二人共、後ろッ!」

 

 咄嗟の叫びが届いて、二人は間一髪で後ろからの奇襲を避けられた。

 

「良い反応してんじゃねぇか。聞いてた話よりもやりそうだ…」

 

 ネフシュタンの少女は、傷一つ負わずに鞭を彼らへ向けている。

 

 どういう……事?

 まさかあの歌を間近に受けて、自力で防いでみせたっていうの?

 

「なんでこっちに……翼ちゃんの一撃を避けたのか!?」

「ああ、かなりギリギリだったけどな」

 

 飛羽真さんも動揺して問い質すと、少女は煙の方角を指さす。

 そこはさっきまで少女とあいつがいた地点。風に乗って煙が晴れると、そこには……

 

「………翼ァアアア────!!」

 

 血だまりに倒れ伏した、風鳴翼の姿があった。

 

「どうやってあの状況から抜け出したんだ…!」

「オイオイ、睨まなくてもいいだろ。そうおかしな話じゃない。

 あのカゲヌイってのが封じられるのは身体の動きだけみたいだ。なら、仕込みがあれば対処はできるんだよ」

 

 自分への視線が厳しくなる中で、少女は事も無げに掌へエネルギー球を創り出す。

 ふわふわと浮かぶそれは、威力は然程高くないようで自由に弾道を操れるようだ。それを見て取ったわたしは、あいつが絶唱を躱した方法に行き着く事ができた。

 

「まさか、最初から空に飛ばしてたの……!?」

「正解。こいつで小刀をぶっ壊せば、あいつを引き剥がすのは簡単だったぜ」

「だとしても彼女の決死の一撃。こうも容易く凌ぐとは……」

 

 信じられない、という風な倫太郎を少女は呆れている。

 

「あたしにだって戦う理由がある。いくら覚悟を乗せようと、そう易々と喰らう気はねぇ。

 それに────」

 

 そして合図に指でスナップを効かせた。

 

「しまった! まだ上に─────」

 

 すると数十に及ぶ光弾が空から降り注ぐ。

 今度は気付くのが遅れた二人は直に当たってしまい、火花を散らして地面に倒れてしまう。

 

「他人の心配なんざしてる暇ねぇぞ」

「飛羽真さん! 倫太郎さん!」

 

 呼び掛けても二人は呻くのが精一杯だ。

 それを一瞥して少女はわたしに視線を合わせてくる。

 

「……わたしを連れて、何する気」

 

「教える気はねぇな。教えてもお前は抵抗するだけだろ?」

 

 わたしもまた何も出来ない。抵抗する術がなく、あいつが一撃でも入れてくればその瞬間に全てが終わりだ。

 だとしても受け入れられるか。そう睨みを利かせていると……誰かの立ち上がる音が鼓膜を震わせる。

 

「なに、おわったきで……いる」

 

 それは天羽奏が少女へ槍を向ける音だった。

 

「まだやろうってのか?」

「決まってんだろ……あたしも翼と同じ想いなんだ」

 

 あいつも身体はボロボロで、押せば簡単に崩れ落ちそうなくらいに脆い。

 

「それにさ………ライダーどころか後輩まで取られちゃ、翼に顔向けできねぇんだよッ!!!」

 

 なのにあいつは……あいつはそんな事を叫んで、少女へと突き進んでいった。

 どうして、とか。なんでわたしをって想いが心の中を木霊する。

 あれだけ辛辣にしてきた相手をどうして守ろうとするのか───それを訊く暇もなく、あいつは少女の拳に容易く沈められた。

 

「グフッ!」

 

 やはりあの身体で戦うのは無茶が過ぎたようだ。

 最早立ち上がる事もできず、そこに少女はトドメを刺そうと動く。

 

「悪いが付き合う義理はないんでな。……しばらくそこで寝てろ」

「奏さんッ!?」

 

 体勢を整えた二人が飛び出す。けれど今からでは間に合いそうになくて。

 振り下ろされた拳が、容赦なくあいつの腹を捉える

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ガハッ!?」

 

 ───かに思われた時。二人の間に割って入り、雷が白い少女を吹き飛ばした。

 

「ゲホッ…ケホッ! ……なんだ、あいつ?」

 

 白い少女に場を取って代わったのは、雷を纏った黄色い魔人。

 和風にも洋風にも当て嵌まらないあの風貌は、例えるなら『ランプの精』……なのかな?

 天羽奏を護るように浮かぶランプの精。その傍らにまた空から何かが降りてくる。

 

「ま、魔法の絨毯……!?」

「君は……!?」

 

 飛んできたのは魔法の絨毯。その上には、倫太郎と似た衣装を身に纏う青年が佇んでいた。

 誰もが衝撃が強くて目が離せない中、彼は絨毯から降りて少女と対峙する。

 

「雲一つない満天の夜空。小さくとも、誰にも負けない輝きを見せる数多の星達。

 こういう日は野原で寝転がって、この星空を眺めるのが一番いい」

 

「……ハァ? 詩人か何かかお前?」

 

 するとその人は急に詩的な事を呟き始めた。これには少女もドッと肩を落とすも、彼は全く気にする素振りがない。

 

「なに、そんな高尚な者じゃない。

 俺はただこんな戦いなんて止めて、星を見ていた方が清々しいと感じただけだ」

 

「こんな戦い、だぁ……?

 勝手に出しゃばって何かと思えば…。星が見たけりゃ余所に行ってろ!」

 

 それどころか戦いなんて止めろと言外に言って、少女の勘を触ってしまう。

 

「そうもいかない。今、一番星を見たいのは俺じゃないからな」

「あぁ?」

「あの子には約束があるらしい。

 君が出しゃばって邪魔をするのなら、俺はそれを止める必要がある」

 

 鼻で笑って少女は鞭を握る。

 バイザーで目元は見えないけど、今の笑いが可笑しさからくるものじゃないのは一目で見て取れた。

 

「安い挑発…。

 あたしを止めるって……? だったら言葉じゃなく腕ずくでやれ!」

 

 正体がどうあれ敵と認識したようで、鞭をしならせて彼女は青年を威嚇する。

 

「もちろんそのつもりだ」

 

 対する青年は全く怯んだ様子もなく、懐から何かを取り出した。

 それは飛羽真さん達と同じ───聖剣ソードライバー。

 

「聖剣!?」

「彼もまた組織の一員です。雷鳴剣黄雷を受け継いだ、今代の雷の剣士…」

 

 納刀されているのは雷のエンブレムをあしらった聖剣。

 倫太郎の解説を横目に、彼はソードライバーを腰へ巻き付けた。

 

「────あんた、まさか」

 

 後ろでそれを見守るあいつは呆然と彼へ視線を注いでいる。

 ……やっぱり、そうなんだ。

 どこかで見覚えがあると思った。あの聖剣は二年前と同じもの……!

 

《ランプドアランジーナ》

 

《とある異国の地に、古より伝わる不思議な力を持つランプがあった》

 

 取り出したライドブックはランプに隠れた魔人を描いたもの。

 伝承を読み上げた後に左側のスロットへ挿し込み、収まっていた聖剣が解き放たれる。

 

「変身」

 

黄雷抜刀! ────ランプドアランジーナ!》

 

 天に向けて振り抜いた刀身から雷が瞬いて、青年の身体を包んでいく。

 その姿は白い鎧へと変わる。

 左肩にはランプを模した肩当てとマントを靡かせて、仮面は三日月のようなバイザーが煌めいていた。

 

《黄雷一冊!

 ランプの精と雷鳴剣黄雷が交わる時、稲妻の剣が光り輝く───

 

 夜空に映えるその剣士は二年前と同じ。

 聖剣を翳し、雷を纏って天羽奏を護っていた───

 

 

 

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