聖刃伝唱シンフォギア -語り紡ぐ交響曲の果て- 【改訂版】   作:野鳥

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第5章 2節 月夜に輝く、雷の剣士。

 

「新しい、仮面ライダー……」

 

 新しい仮面ライダーを前に少女は改めて鞭を握りしめて構えている。

 警戒しているみたいだけど、余裕の表情はまだ崩れていない。

 

「ハッ! 今さら一人増えたところでこのあたしを倒せると思ってんのか?」

「いいや、違うな。

 必ず倒す……あの子に約束を果たさせる為にも」

 

 完全聖遺物の力はここまで嫌という程見せつけられた。だから見守る側からすれば不安は残る。

 それでもあのライダーは堂々と彼女を倒すと宣言してみせた。

 

「言ってろ! あいつらをここから帰らす気はねぇんだよ!!」

 

 これを皮切りに少女が飛び出す。両手の鞭を剣のように固めて、二刀流の要領でライダーへ斬りかかった。

 対するライダーは聖剣で受けに回る。

 ただパワーは少女の方が上で、拮抗すらせずに押し込まれてしまう。やはりあの人が不利か…と思わせたところで、ライダーは敢えて体勢を崩して剣を滑らせた。

 

 そのまま彼は距離をとって居合の構えになる。少女もすぐに振り返って追撃しようとして

 

「グゥ!? ……クソッ、速ぇ!」

 

 ……一瞬だった。ライダーは雷のような速さで少女に一撃を与えてたんだ。

 

「だがなぁ、速いだけで気圧されるあたし様じゃねえんだよ!!」

 

 続けて彼が二撃目を入れようとした段で、少女は光弾を地面に弾けさせて空に跳ぶ。

 そこから地上へ向けて光弾を連射。間髪入れない攻撃に、ライダーも動きを止めるしかない。

 

「ッ……!」

「これが、締めの一発ッ!」

 

 そして彼女はツヴァイウイングに使った一撃を放つ。

 

《NIRVANA GEDON》

 

 着弾した光弾は地面を抉り、周囲に途方もない爆風を巻き起こした。

 あの人は、どうなった…!? 巻き上がる煙のせいで彼の状況が全く見えない。

 また不安が生まれていく。今のが直撃したのなら、あいつらのように……

 

「いない…?」

 

 ……けれどその不安は、煙の晴れた着弾地点を見てピタリと止まる。

 そこにはライダーの姿がどこにもなくて。

 一体どこに……と辺りを見渡せば、パタリと手足を縛っていた圧迫感が無くなった。

 

「な…えっ……?」

「気をしっかり持て。態勢を立て直すぞ」

 

 傍らを見れば、ライダーは聖剣からノイズの残骸を振り払っている。

 ……ちょっと待って。あんたはさっきまであの娘と戦ってた筈でしょ?

 まさか、今の一瞬でここまで移動してノイズを倒したっていうの…?

 

「ッざっけんな! ここまま逃がすものかよ!!」

 

 彼がわたしを解放したのに気付いて、少女は目の色を変えてこちらに迫ってくる。

 そこへ復帰した飛羽真さんと倫太郎が壁となって道を阻む。

 

「こっちこそ、このまま通す訳にはいかない!」

「ええ、やりましょう!」

 

 ベルトの横にあるホルダーへ聖剣を挿し込み、一気に抜き放つ。

 

《烈火居合!》《流水居合!》

 

《読後一閃!》

 

 すると炎と水が刀身へ迸り、斬撃に変わった力が少女を襲った。

 二対の斬撃は交わって彼女の目の前で爆散。そうすれば濃い霧が出来上がり、少女の視界を覆い尽くしてしまった。

 

 あれなら一発打ち込めるかもしれない…。

 そう思って仕掛けようとした途端、ライダーは手を突き出してわたしの進行方向を遮った。

 

「えっ?」

 

《ランプドアランジーナ》

 

「クソッ、またお前か。邪魔だッ!」

 

 何のつもりかと思えば、彼はライドブックから魔人を呼び出して少女に嗾ける。

 どうして邪魔をしたんだ。あいつを倒すのなら、わたしも手数に入れた方がいいだろうに…。

 

「君は今が何時か把握していないだろう?」

 

 不満から視線を投げると、彼はガトライクフォンの画面を見せてくる。

 ……そこには『6:32』という時間が鮮明に示されていた。

 

「もうこんな時間……!?」

「ならこのまま戦っていては、時間に間に合わなくなってしまいますよ!」

 

 まだ余裕はあると思ってたのに、ここまで時間が迫ってたなんて……。

 とはいえあの娘はそう簡単に通してくれないだろう。それにこんな戦いの最中、自分だけ場を離れる訳にもいかない。

 

「響、だったな。君はすぐに約束を果たしに行くんだ」

「……だけど」

 

 そう悩んでいると、ライダーが未来の所へ向かうよう促してくる。

 ……無理だ。こんな状況で全てを放っていくのは───

 

 思わず抵抗感を抱くわたしに、彼はそれでも頑なに説得を続けてくる。

 

「星を見るだけなら機会はいくらでもある。

 けれど君にとってその約束は簡単に代えが効くものなのか?」

 

「────」

 

 替えが効くのか、か……。

 ホント嫌な言い方をするなぁ。そんな風に聞かれたら、答えは一つしかない。

 

「…違う。未来と交わした約束は、そんな軽いものじゃない……ッ!」

 

 あっさり割り切れるなら、ノイズと戦う前にあんな気持ちにならなかった。

 だからあの娘との約束を守りたいんだ。たとえ状況が許さなくても、あの日の涙に嘘で返したくないから。

 

「お前も行け、飛羽真」

「えっ…?」

「この子の約束を守るんだろう。だから、ここは俺達に任せて行ってこい」

 

 そうして決意を固めていると、ライダーは飛羽真さんにも着いていくよう促す。

 ただその際に飛羽真さんへの話しぶりが引っ掛かった。

 まるで友人のように気安い口調で、当の本人も覚えがなくて不思議そうにしている。

 

「……分かった。行こう、響ちゃん」

 

 それでも飛羽真さんは何も聞かず、わたしと一緒に来てくれるみたいだ。

 時間も迫る中、あのバイクを使わせてくれるのは有り難い。

 飛羽真さんがバイクを召喚するのを待つ間、わたしはふと天羽奏の姿を見る。

 

「────」

 

 …あいつはこちらを複雑そうに見つめていた。

 当然だ、わたしは私情で戦場を離れようとしてる。いくら二年前の事で罪悪感があったって、こんな事見過ごせる筈もない。

 

「……いいから行ってこい。急ぐんだろ?」

 

 ───だと思ってたのに。あいつは最後に吹っ切れて、わたしの事を送り出していた。

 ……何なんだ、何でわたしを止めようとしない。呼び止めようとさえしないんだ。

 あいつの仲間も倒れてるのに、わたしは勝手にこの場を離れようとしてるんだよ……ッ。

 

「…ズルいじゃん、そんなの」

 

 言葉に出来たのはたったそれだけ。

 後はもうまともに見るのも嫌で。……逃げるようにわたしは飛羽真さんの後ろに座り、バイクの推進力に身を任せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「逃がすか!」

 

 ようやくランプの精を振り払い、少女は飛羽真達に向けて光弾を撃ち放つ。

 弾道に割り込みはなく、支障のないまま光弾は二人を狙い突き進む。

 

「飛羽真君! 響さん!」

「いや、これでいい」

「これでいい? 一体何を言って───」

 

 倫太郎はすぐに二人を助けに行こうとするも、雷の剣士───エスパーダはそれを肩を掴んで抑えた。

 

「よし、これで─────ハッ?」 

 

 エンジンが掛かったばかりのマシンでは弾速を越えられない。

 今度こそ命中したとほくそ笑む彼女はしかし、そこに信じられないものを見た。

 爆炎が晴れるとそこに二人はなく───代わりに現れたのは、飛羽真達の幻影から飛び出るランプドアランジーナ。

 

「幻……」

「ランプドアランジーナならこんな芸当もできる」

 

 『アラジンと魔法のランプ』の如く、ランプの精に秘められた魔法の力を用いた攪乱戦法。

 では本物の二人はどこかと見渡せば、視界の端にマシンを走らせるセイバーと後ろに乗り込んだ響の姿が映り込む。

 

「もう間に合わねぇ……テメェ、よくも───!」

 

 幻影に騙されている間にかなりの距離が離されており、今からではとても追いつけそうにない。

 

「言った筈だ。君が出しゃばるなら、俺がそれを止めると」

「抜かせやァ!!!」

 

 まんまと二回も騙された事実に腹を立て、少女はここ一番の形相でエスパーダ達に襲い掛かる。

 少女は自身の周囲に光弾を生成し、二人に向けて一斉射。

 対する二人は片や空を舞い、片や地を滑りながら弾幕を掻い潜って少女に接近する。

 

 そして三者の距離が0になった時───甲高い金属音を鳴らして剣戟が開始された。

 

 少女は再度剣に見立てた鞭で二人を攻め立てる。

 倫太郎は鞭を弾き返し、エスパーダは見切りつつ何とか防御に徹していた。

 

「クゥ……!?」

 

 少女の一撃が倫太郎の防御を抜く。

 片方の鞭が聖剣を弾き、もう一方の鞭で少女は倫太郎の胴を斬り捨てる。

 

 大きく仰け反った倫太郎。少女はさらなる一撃をと踏み込むが、そのタイミングでエスパーダが後方より彼女へ斬りかかる。

 

「見えてんぞ、雷野郎!!」

 

 即座に少女は転回して鞭を掃う。

 軌道は胴を直撃する位置取り。このままでは倫太郎の二の舞になるが、それは読めていた展開だった。

 エスパーダは瞬時に構え直し、掃われる鞭に這わせるよう剣を滑らせる。

 そうして鞭を交わし切ると、叩き込まれるのは勢いを活かした側転蹴り。

 

「ガァ!?」

 

 顔面にクリーンヒットし、仰け反り返される少女。

 行き着く暇も与えず、エスパーダと倫太郎による二閃の剣撃が少女を襲った。

 

 火花を散らしよろける少女。さらにそこへ倫太郎はキャプチャーフックを投降。身体にチェーンを巻きつけ、動けないよう拘束していく。

 

「また封じ込めかよ、クソッ!」

「今です、賢人ッ!!」

 

 チャンスと叫ぶ倫太郎に賢人と呼ばれたエスパーダは首肯する。

 彼はこの戦いを終わらせるべく聖剣を納刀。必殺の力を溜める為に引き金を引いた。

 

《必殺読破!》

 

 脚に雷のエネルギーを集め、天高く跳び上がる。

 狙うはネフシュタンの少女。もう一度引き金を引き、エスパーダは脚に纏わせた力を解放した。

 

《アランジーナ一冊撃! サンダー!!》

 

「アランジーナ・ディアブロ―」

 

 瞬間、彼は雷そのものとなり少女目掛けて降り注いでいく。

 

 電光を放つ、必殺の名に違わぬ一撃。

 仕込みもなく、手足は完全に封じ込められた状況。

 今度こそ少女は成す術なく、迫る一撃を受け入れる他なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ!」

 

 ────少女の背後に突如として闇が広がる。

 

 何事かと顔を向ける倫太郎。

 だが彼が備える間もなく、闇より一筋の剣閃が少女を縛る鎖を断ち切った。

 さらにそこから手が差し伸ばされ、少女は闇の中へと引きずり込まれていく。

 

「お前───チクショオ…ッ」

 

 驚きに目を見開くも、彼女はすぐにその手を受け入れて闇へと消えていった。

 

 この間、数秒と掛からず。

 こうして全てが終わった時、エスパーダの蹴りは地面に炸裂した。

 標的を無くした一撃は地を抉り、場を覆いつくす土煙を生み出してしまう。

 

 即座に煙を掃うも、そこに少女の姿は見えない。

 

「彼女は一体どこに!?」

 

 彼女を呑み込んだ闇の気配も無くなってしまっている。

 あの闇の正体は不明だが、状況は明白。彼らは最後の最後で少女を逃してしまったという事だ。

 

 手掛かりがないかと必死に辺りを見回す倫太郎。

 だが最早何もないのを認めると、彼はすぐさま翼と奏を助けるべく走り出す。

 一方、エスパーダは未だに闇が生じていた地点を一人見詰め続けていた。

 

「……今のは、まさか」

 

 驚きのままに己の聖剣へ視線を移すエスパーダ。

 あの力が何であるか彼はよく知っている。なにせそれこそが彼の追い求めていた聖剣の有する力なのだから。

 

 強く確かめるように柄を握りしめる。

 その心は既に、ここにはない剣の在り処へと移りかけていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 AM 7:00

 私のスマホは、残酷なまでに今の時間を告げていました。

 

「……しょうがない、よね」

 

 山の麓でノイズが出たって連絡を本人から受けたんだ。そんな事になったら、響だって行かない訳にいかなくて……。

 改めて話が出来た時に戦いを優先するって聞かされてた。私もそれはしょうがない事なんだって納得したつもりだったけど……

 

「分かってた筈、なのになぁ……」

 

 ……でもやっぱり、いざとなったら胸にぽっかりと穴が空いた気分になる。

 

「なんで世界は、こうも残酷なんだろう」

 

 ようやく響と、友達に戻れたんだって思ってたのになぁ…。

 

 昔はそそっかしくて危なっかしい。だけど元気で周りを優しく包んでくれる『お日様』みたいな娘で。

 それが久しぶりに会ってみれば、響は昔と正反対の姿に変わっていた。───まるで心を閉ざしたみたいに。物静かで暖かみのない顔をする娘へ……。

 

 最初は只々ショックで。それだけあのライブの件で受けた仕打ちが堪えたんだと、ウ遣る瀬無さと罪悪感でいっぱいになった。

 

 でも、それは半分見当違いで。

 本当に奥の部分、心の中は何も変わってなんかなかったんだ。

 響は響のまま……私の大好きな『お日様』のまま、私の事を受け入れてくれて。

 

「流れ星なら……叶えてよ」

 

 また優しく包み込むような笑顔を向けてくれた時、本当に嬉しかった。

 あの頃のように二人で笑い合えるんだって、そう思えたから。

 

 ……なのに、こんなささやかな時間さえもノイズは奪っていく。

 たった一つの約束さえ、私達は叶える事ができない───

 

「友達と一緒にいたいって願い、かなえてよ……ッ!」

 

 言ったところでどうしようもないと分かってても、叫ばずにいられなかった。

 この想いを、どこにぶつければいいの……?

 誰か教えてよ…。私は、どうすればよかったのか………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 心がはち切れそうで。瞳から零れるモノを堪えようと、空を見上げた時

 

「……えっ」

 

 ───私の真上を見た事のあるバイクが軽々と飛び越えていった。

 やがて地面に着地したバイクは停車して、二人の人達が座席から降りてくる。

 

「ホラ、未来ちゃんが待ってるよ」

「押さないでってば……。────えーっと、間に合った…かな?」

 

 そしてこちらに歩み寄ってくるあの娘を見て……私は溢れるものを堪え切れなかった。

 

「あれ……もしかして、泣いてる?」

「な、泣いてなんか……」

「強がらなくてもいいよ。はい、ハンカチ」

 

 恥ずかしくて強がると、響はハンカチを差し出してくれる。

 ……いくら止めようと思っても、零れる雫は全然収まってくれない。

 仕方なしに目元を拭って、ようやく私は響に顔を向けられた。

 

「…でも、なんでここに来られたの? ノイズと戦いに行ったんじゃ……」

「そのノイズを全部倒して、急いでこっちに来たんだ」

「ぜ、全部…? 連絡貰って、まだ二時間くらいしか経ってないんだよ?」

 

 少し信じられなくて聞き返してしまう。

 響達は問題なく戦えるんだと知っていても、そう楽に終わらないと思える程度にノイズは世間で恐れられる存在だ。

 

「一人だけじゃ無理だった。

 ……でも、少しウザったい位に構ってくる人達が周りにいて。だからここまで来れたんだよ」

 

 ……響の答えを聞いて、私はまた溢れる涙を抑えきれなかった。

 私は勝手に、この娘の歩んできた時間は辛いものばかりと思い込んでたんだ。

 けれど違う。響の周りにはちゃんと、頼りになる人達がたくさんいて……幸せな日々を過ごせてたんだって、ようやく実感できたから。

 

「そんなに泣いてちゃ星が見えないよ? ……ほら、もうあんなに輝いてる」

「あっ……」

 

 響は私の肩を叩いて空を指さす。

 されるがままに見上げるとそこには───数えきれない位に降り注ぐ満天の星々が輝いていた。

 

「───私、今日の事絶対忘れない。どれだけ時間が経っても、絶対」

 

 あまりにも綺麗で。それに……響とこの時間を一緒にできたのが、何よりも嬉しくて。いつの間にか私はそんな事を口走ってしまう。

 

「絶対忘れない、か。……うん、きっと忘れない」

 

 ハッとして振り向けば、響は少し可笑しげに私の事を見詰めてた。

 ……急に恥ずかしくなって、思わず目を逸らしてしまう。

 でも、この気持ちに嘘はない。

 この先どんな事が起きても、私はこの日の思い出を忘れたりなんかしない。

 

 だから……お星さま。どうかお願いします。

 これからもずっと、響とこうして笑っていられますように───

 

 

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