聖刃伝唱シンフォギア -語り紡ぐ交響曲の果て- 【改訂版】 作:野鳥
やがて指定されたポイントに辿り着き、敵の出方を待ち構える。
そうして備えていれば、工場のタンクを飛び回る見知った顔が視界に映りこむ。
「こんな場所を選ぶとは、あたしの動きを封じるつもりか?」
ネフシュタンの少女───未だに顔の判らない誰かはこちらを見下ろし、相変わらず自信のある態度を崩さない。
「まさか! 他に被害を出さねぇ為に決まってんだろ。
街のど真ん中で戦ったらどれだけの人が傷つくか分からないしな」
「お前はあたしを何だと思ってんだよ。……とはいえ、あれを見たらそうも取られるか」
けれど彼女の発した言葉は、先程の襲撃者にしてはおかしなものだった。
「あれを見たら…? さっきまでの妨害はあんたがやったんじゃないの?」
「…喋り過ぎたな。
だがそんな事気にしてどうするよ。あたし等は結局戦うしかない敵同士なんだ」
響ちゃんの問いもはぐらかすが、今の違和感は拭えないままだ。
彼女は人の命を奪ったばかりとは思えない程に情緒が安定している。ならば俗にいうシリアルキラーかといえば人を殺す事を、延いては今の戦いすらも忌避しているにも見える。
俺の思い違いかもしれない。
それに判断しようにも彼女については知らない事だらけで。そして話し合おうにも戦いは避けられない。
「…何の目的で俺達を狙うのかは知らないけど、今度こそ君を倒す!」
向かってくるのならばと、俺はソードライバーを腰に巻き付ける。
「───Balwisyall nescell gungnir tron」
「Croitzal ronzell Gungnir zizzl───」
「「変身!」」
皆が一斉に変身を遂げた後、後方に陣取る了子さんを見やった。
彼女とデュランダルを乗せた車両は未だ無事だ。
恐らく少女はまたノイズを召喚してくる。俺達は了子さんに被害がいかないよう、護りながら戦わなきゃならない。
「じっとしててください。了子さんとデュランダルには指一本触れさせませんから」
「お願いねぇ。研究職は研究職らしく専門家の戦い様を見守ってるわ」
手を振りながら了子さんはこちらの様子を見守っている。
じっとしててくれるなら有難い。後は彼女と戦うだけだと、俺達は自分の武器を構えて
《読後一閃!》
瞬間、凄まじい衝撃が俺達の背後を斬り裂く。
気付けもせずに直撃してしまい、転がった俺達は地面を這い蹲る。
「ぐぅ……がぁ!」
なん、だ…? なにがおきた……?
鎧越しに感じる痛みに悶えながらも、何とか攻撃の出先へ顔を上げる。
「か、仮面ライダー……?」
するとそこには見た事のない仮面の剣士がこちらを見据えていた。
紫を基調にしたスーツにそれを覆う白銀の装甲。
右肩には龍の肩当てを置いていて、その姿はまるでセイバーに似た印象を覚えさせる。
『シンフォギア装者にブレイズ。お前達に用はない』
けれど相手の仮面はセイバーとは正反対の、血の気を通わせない鉄のバイザーに覆われていて。
その手に携えるのは、これもまた火炎剣に似つつも禍々しい造形な一振りの剣。
『セイバー、お前の火炎剣烈火とブレイブドラゴンを渡してもらおう』
「烈火とブレイブドラゴンを……?」
「まさか、あの子が飛羽真さんも狙ってたのは…!」
思えばおかしな話ではあった。
あの少女には仮面ライダーとも渡り合える鎧がある。なのに自分で使える保障もない聖剣を狙うメリットはあるとは思えない。
しかしそれも、彼女とは別に聖剣を求める人物がいるのなら辻褄が合う。
この事件は彼女が全ての糸を握ってる訳じゃない。その裏にはあの剣士が……いや、もしかしたらさらに別の人物が潜んでいる可能性まである。
『…応じる気がないのなら、力ずくで奪うまで』
反応がないと見て、剣士は聖剣を構えて臨戦態勢に入る───かと思いきや。
突如虚空に現れた闇から不思議な形状の杖を取り出す。それを俺達へ向けると、杖の水晶が輝いて次々と何かを呼び出した。
「ノイズを召喚した……!?」
『ソロモンの杖。先史文明期より伝わるノイズの制御装置だ』
召喚されたのはノイズの大群。それを操るソロモンの杖は、二課の予想通りノイズを召喚する術を備えている。
あっという間に周囲を囲まれた。
数の差が逆転する中で、ここまで沈黙を貫いていた倫太郎が口を開く。
「カリバー……ノイズを操るなどと、貴方はそこまで堕ちてしまったのですか!?」
『何とでも言うがいい。私は目的の為ならば手段は選ばん』
「……カリ、バー?」
倫太郎が知ってるって事は、奴もソードオブロゴスの関係者なのか?
疑問が湧いて出るも問い返す暇はなく、カリバーは会話を断ち切った途端に俺達へ斬りかかってくる。
「はやっ───」
動きを捉えられなかった……!?
振り下ろされる刃に構える間もなく、四人共無防備な身体を曝け出した状況。俺はまたも痛烈な衝撃を覚悟する────
「……君はっ!」
が、奴の剣は俺達を捉えはしなかった。
刹那の間に雷鳴が閃き、俺達の間に誰かが割って入る。
現れたのは前回助けてくれた雷の剣士。
頼もしい援軍の登場に俺の彼を呼ぶ声も自然と弾んだものになる。
「カリバー……あんたは俺が倒す!!」
「何言ってるんだ? ここは一緒に戦って───」
「これは俺の問題だ。邪魔を……するなァ!!」
だが、彼の様子は前回と打って変わり精細さを欠いたものだった。
俺の呼び掛けも切って捨て、彼は力任せにカリバーへと刃を押し込めようとする。
その剣は簡単に弾かれて、続け様に一閃。たたらを踏んだところに容赦なく三撃目の蹴りが叩き込まれた。
「あいつ、勝手に突っ走りやがって……!」
その間もノイズの攻撃が差し込まれて助けに向かえそうにない。
それでも何とか大群を掻き分けようと皆で戦った結果、僅かな隙間を抜けて奏さんが突撃していった。
「あんたは一体何をする気なんだよ!?」
『お前達に用はないと言った筈だ』
「あたしにはあるんだよ!!
あんたも仮面ライダーなら……なんでそいつと組んで! ノイズを使って戦ってんだッ!!?」
ただし感情の昂ぶり様は雷の剣士と似たり寄ったりだ。
彼女も冷静さを欠いた状態でカリバーと対峙してしまっている…!
『…剣士に幻想を抱いているようだが所詮はただの力。使う者によって在り方などいくらでも変わる』
対してカリバーは動揺もない。
鍔迫り合いは一見互角に見えるが……どちらが優勢かは、奏さんの表情からして明白だった。
「問答するより手を動かしな! あたしもあいつも容赦なんざしねぇからなッ!!」
そこで入れ替わりに飛び出し、少女は奏さんへと斬りかかる。
火花が散って衝撃波が戦場へ行き渡った。後ろへ下がりつつも着地し、再び仕掛けようと互いに探り合っている。
仕掛けるならここだ…! 瞬時にブレイブドラゴンを召喚し、少女へ差し向ける。
「「ハァァ!!」」
そこに意図を汲み取った響ちゃんも合わさり、炎の龍と拳から放つ拳圧がノイズを吹き飛ばして突き進む。
この展開に意表を突かれたのか、少女の動きは鈍い。これは決まったと必中を確信し─圭競─
『フンッ!!』
割り込んだカリバーの剣がそれをぬか喜びに変えてしまう。
この間に彼女も調子を戻し、光弾の雨あられが俺達に襲い掛かる。
「ガァ───グ、フッ…」
「お前らッ!?」
直撃を受けて地面に転がった俺達は、ふらつく頭を抑えながら膝を付く。
「ワリィ…」
『礼を言う必要はない。次が来るぞ』
相手は何か言葉を交えつつ背中を預け合う。
すると二人の周囲を何十もの水流の渦が包囲。その中から倫太郎と雷の剣士が飛び出していく。
「ハアァァァァ!!!」
「落ちろォ!」
「……フンッ!」
上と横からの挟み撃ち。水と雷を纏った剣が二人へ迫る───が、これもまた見事に防がれる。
「二人共、そこをどけ!」
《LAST∞METEOR》
これに業を煮やした奏さんは、火力で一気に決めようと仕掛けた。
二人はそれを聞いて即座に退避しようとし
「ッ、これは…!」
「逃がすかよ! カリバー、やっちまえ!!」
……駄目だ、手足を縛られてしまってる!
彼女の剛力に引っ張られ、二人は奏さんの軸線上で激突していく。
「ガッ…」
「しまっ───」
《月闇居合!》
ここでカリバーは聖剣をベルトの必冊ホルダーへ納刀し、闇の斬撃を彼らへ解き放つ。
斬撃は倫太郎達を捉え、さらに二人を突き抜けて奏さんの槍と真っ向から衝突する。
その威力は獲物を捉えようが尚も減衰する素振りがなく、互角のままに戦場で大爆発を引き起こした。
「が、あぁ……」
「く───うゥゥ…!」
「倫太郎! 皆……ッ!?」
巻き込まれた三人は傷だらけで這いつくばり、倫太郎と雷の剣士に関しては変身すら解けてしまっている。
「……形勢は不利ね。いっそデュランダルを渡して見逃してもらう?」
「何言ってるんですか! それじゃあ任務が───」
「といっても差は歴然よ。命令も大事だけど、命はそれ以上に大事でしょう?」
「それは……」
降参を提案する了子さんへ俺は言葉に詰まってしまう。
傷だらけで半数が満身創痍。対して埃の一つすら被っていないカリバー達とでは、圧倒的な差があるのは目に見えているから。
それにノイズに囲まれた中、生身の倫太郎達は奴らの炭化能力に抵抗できない。
今すぐにでも戦いを終わらせないと、彼らを見捨てる事になる。
「………いいや駄目だ」
「あら、彼らを見捨てる気?」
「そんな気はないですよ…。
それでも敵が人の命を奪える連中だからこそ渡せない。死んでいった二課の人達は、きっとそういう奴らから人を守りたかった筈だから」
震える身体に鞭打って力を振り絞った。
立ち上がったところで勝てる可能性は低い。
物語のような窮地にパワーアップする展開なんて、望んでも訪れないのは百も承知だ。
「だから必ずデュランダルは守り切る。人の命を弄んで創られる結末を、俺は認めないッ!」
それでもここで負けられはしない。
ここで諦めたらきっとこの先、胸を張って人を守ると誓えなくなるから───
「…そうだ。こんなところで負けてられない」
心を奮い立たせて剣を手にした時。俺の啖呵に釣られて響ちゃんが立ち上がる。
「わたしの日常をお前達が奪うなら絶対に膝を折るもんか。
お前達には何も奪わせやしない───ッ!!!」
彼女もここで折れる気はさらさらないようで。同じ想いを共有できる事実が、さらに俺の心を燃え上がらせてくれる。
だから必ず勝つ。俺達の力を合わせようと呼びかけようとして
「これは可視化する程に高出力のフォニックゲイン……! 唄わずにここまでのエネルギーを創り出したか!!」
───突如響ちゃんの身体から空にまで駆け巡る光が溢れ出す。その光景を見て、了子さんは興奮して何事かを呟いていた。
フォニックゲインって確かシンフォギアに使われてるエネルギーだよな。
それがいきなり何だってあそこまでの高まりを…?
「ほぉ……?」
その疑問を口にする間もなく事態はさらに急変する。
彼女の力に呼応して、車両の天井を突き破って一振りの剣が姿を現す。
「あれは、デュランダル…?」
「嘘だろ? 触れもせずに起動させたってのかよ!?」
宙に浮かんだのは俺達が守るべき完全聖遺物・デュランダルそのものだ。
剣は独りでに動き出し、吸い込まれるように響ちゃんへと向かっていく。
「ッ、響さん! デュランダルに触れてはダメです!!」
「倫太郎?」
倫太郎の慌て様に中てられて響ちゃんを見やれば、彼女は虚ろな瞳でデュランダルを見つめていた。
まるで心ここに在らず。
倫太郎の制止も耳に入っていないのか、覚束ない動きでデュランダルの柄へ手を掛ける。
この時は事態の深刻さを想像できてなくて。
だから唯一彼女の傍にいながら、俺はここまでの流れを見守ってしまったんだ。
そうしてデュランダルを掴んだ彼女から凄まじい衝撃波が走る。
不意を突く事態に対応できず、俺は響ちゃんから大幅に引き離されてしまう。
「ひびき……ちゃん…」
眩い光の奔流が天に昇る。
剣が発する極光は空気を震撼させ、伝わる熱が周辺を炎で満たしていく。
あまりにも危険なその力は眼前の敵───カリバー達へと向けられようとしていた。
「……させ、ないッ!」
《必殺読破!》
目の前の光景に確信を覚えたんだ。あの力を奮えばカリバー達の命は失われるって。
「火炎十字斬!」
そして命を刈り取る剣を奮うのは、他でもない響ちゃんだ───
そう思えば自然と立ち上がり、俺は真っ向からデュランダルに立ち向かっていた。
「あいつ、なんで……」
身体が悲鳴を上げる。光の熱は鎧を貫通し、俺の全てを焼き尽くそうと全身を駆け巡った。
今にも膝を折ってしまいそうだ…。
視界もぼやけ出したが、それでもなけなしの力で剣を押し留める。
《ヒッサツリード!》
「カリバー…」
『合わせろクリス。───やれるな?』
「ッ! ……おう!!」
とはいえ一人では破壊の光を消し去る力は引き出せず。徐々に柄を握る手も緩まり出している。
そんな時………後ろで眺めていた筈の二人がこちらへ矛先を向けた。
《月闇必殺撃! 習得一閃!!》
《NIRVANA GEDON》
彼女を止める事に必死で考慮していなかった事態。
考えてみれば俺を倒すには絶好の機会ではあったのだが……
放たれた技が俺を捉える事はなく、二色の斬光はデュランダルの刃とぶつかり合う。
「オオオオオォォォォ!!!」
……力を、貸してくれた?
理由を問い掛ける余裕はない。ただ確かなのは、これで彼女を止められる可能性が強まった。
勝負を決めるならここしかない…!
俺は限界を告げている身体に鞭打ち、今持てる全てをこの一刀に注ぎ込む。
すると迸る光に亀裂が走り始め───拮抗を崩したフォニックゲインは、俺が倒れ込むのと同時に砕け散った。
目の前に広がるのは既視感を覚える光景だった。
舞い落ちる
一人は倫太郎達に似た衣装を身に着けた、火炎剣烈火を握りしめる壮年の男性。
「と……さ………とうま……」
そしてもう一人は、烈火に似た剣を奮う紫の剣士。
あれは……カリバー? まさかあいつもあの光景の中にいたっていうのか?
しかも烈火を持っているのはきっとソードオブロゴスの誰か。その誰かはカリバーへ向けてあらん限りの叫びを上げている。
『■■■■、何故裏切ったァ!!!』
カリバーが裏切った…? あいつはやっぱり、元は倫太郎達と同じく組織にいたのか。
何故こんな戦いが起こっているのか、この先にどんな結末が待ち受けているのか。
疑問を呼ぶ中で全てを見届けたくて、俺は二人の姿から目を離せずにいた。
「飛羽真さん!」
けれど夢はいつかは醒めるもの。
名前を呼ぶ声に揺り動かされ、二人の姿はプツリと途切れてしまう。
そうして瞼を開けた俺の瞳に飛び込んだのは……今にも涙の零れそうな目をした響ちゃんの顔だった。
「響ちゃん……良かった。元に、戻ったんだね」
起き上がって話そうとすると、身体の節々から痺れるような痛みが走る。
いたた……ッ、何だ。この傷……。
そうか、確か俺はデュランダルを。響ちゃんを止めようとして───
「これって……」
身体を起こそうとした俺の目に飛び込んだのは───俺達が戦っていた化学工場だった場所の惨状。
そこは今やあちこちから火の手が上がり、幾つかの建物はまるで抉られるように崩れ去っている。
周囲には消防車のサイレンが鳴り響き、こうしている間にも消火に努めているのが見て取れた。
「デュランダルの力よ」
「了子さん……」
……俺が気を失っている間に一体何が?
この疑問に了子さんは顔色一つ変えずに答えた。
「貴方がデュランダルの暴走を止めた後、その余波でこうなったのよ。
これで十分被害は抑えられた方なんだから、あんまり気にしないのが身のためよ?」
「これで抑え込めたっていうんですか…?」
「そうよ。もし貴方達が立ち向かってなかったら、今頃工場自体が無くなってたかもね?」
彼女の話に俺は思わず言葉を失ってしまう。
この状況だけでも既に酷い有様だ。なのに下手をすればこれ以上の惨事になっていたという話に、俺はデュランダルの恐ろしさを改めて認識した。
あの剣は絶対に使わせちゃいけない。
制御する方法がない以上、今回のようにまた全力で奮われればどれだけの犠牲が出てしまうのか……。
「ま、そう辛気臭い顔しないで後は専門家に任せなさい。奏ちゃん達も向こうで治療を受けてるし、心配はナッシングよ♪
……それにもう終わった事より、まずは大事な娘の心に目を向けなさいな」
大事な娘…。
その言葉で隣へ視線を移せば、響ちゃんはずっと工場を眺め続けていた。
「響ちゃん、今回の事は…」
「……わたし、何の戸惑いもなく剣を向けた」
彼女の声からは眼前の光景にショックを受けているのが伝わってくる。
「デュランダルの力だとしても、あれはわたしがやった事なんだ。
これだけの事を起こしてしまう力を、あの二人を倒して……殺す為に、使った」
…やっぱり彼女は誰かの命を奪える娘じゃない。
こうして戦いに身を投じても、心の奥底にあるものは何一つ変わっていないんだ。
その証拠に彼女の手は自分のやった事に怯えていて。そんな様を見てしまえば、何の言葉を掛けないではいられなかった。
「…もしあの子達に勝てる力を最初から持っていれば、デュランダルになんて頼らなくてよかったのかもしれない」
彼女の感じている責任を全て背負う事は流石にできない。
それでもこのまま心を折ってほしくないし……何より響ちゃんは一つ勘違いをしている。
「ただそれは俺達全員に言える事なんだ。
響ちゃんだけじゃない……誰もあの二人には敵わなかった。
だから一人で背負う必要はないよ。皆でこの事実を受け止めて、強くなっていけばいい」
先に言った通り、俺達に力があればデュランダルが目覚める事もなかった筈。
だからこの結末は全員で分かち合うべきなんだ。独りで自分を責めて、苦しむ必要はどこにもない。
響ちゃんは何も言わずに俺の話を聞いていた。
それもやがて微かに震える身体が沈黙を破って───俯かせた顔からは一筋の雫が零れ落ちていく。
「少しだけ…少しだけ、隣にいて。
そうしたら、またいつものわたしに戻る…から……」
「うん、待ってる」
そして俺の言葉を皮切りに、響ちゃんは声も憚らずに泣き出した。
……今はそっとしておくべきだろう。だから胸の内で約束する。
もうデュランダルに頼らなくてもいいように。もう響ちゃんに悲しい想いをさせずに済む、大切なモノを守れる力を必ず手に入れてみせる。
未だ火の手の上がる工場に、そして傍らで涙する響ちゃんに。俺は密かに誓いを胸に刻んだ。