聖刃伝唱シンフォギア -語り紡ぐ交響曲の果て- 【改訂版】   作:野鳥

19 / 30
第7章 2節 暗雲立ち込み、不和は広がり

 

 二課本部を立ち去り、俺はかがり市へ戻っていた。

 行く先はとある雑居ビル。その屋上に目的の人物がいるという。

 

「…飛羽真」

 

 入ってすぐに彼の姿は見つけられた。

 独り屋上からの景色を眺めていた彼は、こちらに気付くと真っ先に俺の名を呼ぶ。

 

「…ノーザンベースで聞いてきたのか?」

「ああ、ここによくいるって訊いた。

 色々と訊きたい事があるんだ。……えっーーと、エスパーダでいいのかな?」

 

 やっぱり雷の剣士は俺の事を知っている。なのに俺は未だに彼の名前さえ知らない状態だ。

 以前にもソフィアさん達に彼の事を尋ねてみたものの、あちらは本人に会えば分かると一点張り。

 お陰で彼に失礼な状況が続く中……雷の剣士は気にした様子もなく、唐突に微笑みを投げかけてきて

 

「…懐かしいな。あの頃はよく集まって遊んでいた」

「あの頃?」

「昔、物語の世界を旅したろ?

 例えば一緒に空を飛ぶ列車に乗っては、金剛石のように輝く星の海を冒険したり……な」

 

 続けて語られる話に、俺の中でビシャリ!───と稲妻が走る。

 

 ……次の瞬間には、俺の目の前には夜空に光る数多の星々が輝いていた。

 僕は不思議な列車に乗っている。

 銀河を進む列車。遍く星を眺める内に、僕の隣には昔馴染みの彼が顔を出していたんだ。

 

「ジョバンニ、久しぶりだね」

「……僕の親友だ!」

 

 ───そう、思い出した!

 彼とは昔会った事がある。いや、会ったなんてものじゃない……俺は何度も彼と遊び、物語の世界を旅しては一緒に想像を膨らませ合った仲。

 

「ジョバンニ!」

「カムパネルラ!」

 

 感極まった俺達は示し合わせもなく、互いに抱き着いて喜びを顕わにする。

 

 その名前は───富加宮賢人!

 小さい頃、俺は毎日のように物語の世界に飛び込んでは想像を膨らませる日々を過ごしていた。

 賢人と出会ったのはその頃の話だ。

 ずっと独りで物語を読み込んでいた俺は、同じ想いを共有できる賢人とすぐに仲を深めていった。

 

 それから親友と呼べる間柄になるのは時間が掛からなくて、俺達は大人になってもずっと一緒にいられるものと信じていたんだ。

 

 けど、ある日を境に賢人は俺の前から姿を消した。

 

 別れも無しにいなくなって。心の整理がつけられない俺は当時、悲しみに暮れるしかなかった。

 

「ちゃんと言ってくれればよかったのに…。久しぶりだな、賢人!!」

「昔はあんなに遊んだんだ、少しは思い出してくれるのを期待してもいいだろ?」

 

 久しぶりの再会に即興劇も弾み、俺達は自然と昔について語り合う。

 

 ……突然いなくなったのも、賢人なりの理由があるんだろうな。

 でもまさか親友が会わない内に剣士になってるとは想像もつかなくて。次に尋ねる内容は一つしかなかった。

 

「だって最後に会ったのは十二年前なんだぞ。一体今までどうしてたんだよ?」

「…剣士になる為に修行に積んでたんだ。それでこの街からも離れる事になってな……」

 

 俺からすると何気ない会話だったのだけれども。

 賢人はそれを訊いた途端、バツが悪そうに目を逸らしたんだ。

 

「そんなに前から?」

「ああ。剣士になる……ならなきゃいけない理由が俺にはあった」

「……それってもしかして、カリバーが関係してるのか?」

 

 思い当たる節はカリバーの事。賢人はカリバーを見るなり冷静さを欠いた戦いを見せていた。

 あの荒れ様は余程の理由がなければ起こり得ないだろう。……そうなった訳を俺は知りたいと思う。

 

「…知ってどうする。これは俺の問題だぞ」

「関係あるさ! 小さな頃の話でも、あの時の俺にとって賢人はたった一人の親友だったんだ!!

 そんなお前がずっと何か抱えてたのなら、再会できた今だからこそ力になりたい」

 

 もしかして俺の前からいなくなったのも、カリバーの件が関係してるんじゃないか?

 だとしたら何の助けにもなれなかったのが悔しいし、再会できた今だからこそ力になりたい。

 

「……お前は全部忘れてるんだな」

 

 その想いをぶつけて、返ってきたのはよく解らない呟きだけだった。

 

「賢人?」

「…お前が剣士になってくれたのは心強いよ。

 けど、これは俺の問題だ。飛羽真を関わらせる訳にはいかない」

 

 そのまま彼は顔を背け、俺の前から離れようとする。

 咄嗟に肩を掴もうとするがこちらの手を掃い、賢人は真っすぐに俺を見つめる。

 

「お前は守るべきものがあるんだろう?

 俺にかまけてないで、あの子の方を気にかけた方がいい」

「待ってくれ、まだ話は……」

 

 待ったを掛けようとして……彼の瞳に思わず気圧されてしまった。

 

 深い悲しみと憤りが綯い交ぜになった、見てるこちらが悲しくなる程に悲痛な訴え。

 きっと原因は俺にあって、ぶつけようと思えばいくらでもぶつけられた筈なのに。

 ……賢人はそれ以上何も言わず、静かに屋上から立ち去ってしまったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何も知れず仕舞い、か…」

 

 賢人から話してくれれば、それが一番だったんだけど。

 

「……やっぱりこのまま、何も知らない訳にはいかない」

 

 一番彼の事を知ってるかもしれない賢人があの状態なら、カリバーはこの際後回しだ。

 

 そうなると優先すべきは───やはりあの人だろう。

 

 開いた手帳には、これまで取材した二課の人々の情報が並んでいる。

 外れてほしい気持ちはあるが、現時点で条件に合致しているのは一人しかいない。

 

 もし俺の想像が正しければ、あの人の抱えている動機は相当のものだろう……。

 

 それを暴いた時はきっと、二課という組織は今のままじゃいられない。

 自ら描いた未来予想図に、俺はこの時恐怖にも似た感情を覚えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───邸宅から数時間後、わたしは天羽奏に連れられて病院までやって来ていた。

 その立地がリディアン音楽院の隣。何でも私立病院に偽装した二課お抱えの医療施設らしい。

 

「お見舞いならあんただけで良かったんじゃないの?」

「そう言うなよ。緒川さんもよろしく言ってんだし、報告も兼ねて顔ぐらい見せてやってくれ」

 

 奏の苦言にわたしは思わず口を曲げてしまう。

 何しろここまで来た要件が風鳴翼のお見舞いというのだから喜べる筈もない。ただわざわざ名指しで頼まれたというのもあり、仕方なく付いてきてるだけだ。

 

「翼、いるか?」

「すいません、今は手が離せないんです!」

 

 やがて風鳴翼の病室に辿り着いたが、何故か聞こえてきたのは別人の声だった。

 

「今のって……倫太郎?」

「なんであいつが入ってんだ? おい、ちょっと開けるぞー」

 

「待ってください! 今入られては───」

 

 しかもその声は聞き覚えのあるもので。訝しんだ天羽奏が扉を開けるとそこには……

 

 床一面に散乱したゴミの山と、それを片付けている倫太郎の姿があった。

 

「……何これ、泥棒にでも入られた?」

「ああ、そういう事か…」

「奏さんも覚えがあるんですね……」

「ちょっと何の話? 勝手に納得しないで説明してよ」

 

 倫太郎がやったとは思っていないが、足の踏み場もない惨状に下着まで散乱してるのは、流石に詳細を訊き出さざるを得ない。

 

「……翼の奴、昔から部屋を片付けられないんだよ」

「………は? これってあいつがやったの?」

「ええ、僕も驚きました…。

 ただ最初はもう少し足の踏み場があったんです。でも僕が来た段階で翼さんが片づけようとしたら……このようになってしまって」

 

 そうして話を訊けば、なんとこれをやったのは風鳴翼本人だという。加えて翼本人が片付けた結果がこの惨状というのだから、わたしは思わず頬をひくつかせてしまった。

 

「だったらあいつ、部屋の掃除は普段どうしてるの?」

「こんな風に一人で任せるとマズいんで、あたしか緒川さんの持ち回りだな」

「…あいつって女の恥じらいはないのかな」

 

 風鳴翼は世間ではクールビューティな印象を持たれているが、実際はこの様を見るにかなり抜けたところがあるらしい。

 しかもよりによって異性に掃除を任せる辺り、女としての意識もあるのかも怪しく見えてしまう。

 

「止めましょう! 僕に任せる時だって今にも切腹しそうだったんですから……」

「こんな状態なのにそう言われても…。で、当の本人はどこに?」

「気まずいので一旦屋上に行くと」

「…じゃ、わたしが様子を見てくる」

「いいのか、そんな事やってもらって?」

「掃除の方が面倒でしょ? そっちは二人に任せるからわたしは楽な方を選んどく」

 

 顔を見合わせる二人を尻目に、わたしは屋上へと足を進める。

 元からあいつの為に何かする気はない。こんな有様の部屋を掃除するのは嫌だし、これを口実に時間を潰させてもらうとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから数分後、屋上に辿り着くと確かに入院着を着た風鳴翼の姿がそこにあった。

 

「……立花、どうしてここに?」

「掃除が終わるまでの時間潰し。

 あんたこそ恥ずかしいからってこんな所にいて、傷に障るんじゃないの?」

「グッ、あれを見たのか…。

 ……その、昔から片付けは苦手でな。それに心配せずとも傷は快復に向かっている。多少外に出る程度は何ら問題もない」

「傷の痛みより気まずさが勝つんだ…」

「…世の中にはどんな傷よりも痛いものだってあるんだ……」

 

 強がって屋上に来ている様には溜息しかでないが、わたしも傷を抉りに来たつもりはない。

 この話はここで打ち切る事にして、わたしは不承不承にこいつと話に興じる事とする。

 

「報告にあった通り、共闘するようになっても態度は変わらないな」

「変える理由もないよ。自覚はあるんでしょ」

「…そうだな。君からすれば我々を憎みこそすれ、今更好かれるとは思えない」

 

 ただ自分と話しているのが不思議とばかりに、風鳴翼はわたしに対して問いを投げ掛けてきた。

 

「だから差し支えなければ聞かせてほしい。どうして二課と共闘する気になったんだ?」

 

 ……さて、どう返そうかな。

 二課との関係を考え出したのは飛羽真さん達の話があったから。でもこいつらへの認識を改めた切っ掛けは主に二つ。

 

「…あんた達の想いをどれだけ知ろうと、あの事件を忘れるなんてできない。

 それでも今の形になったのは、ネフシュタンの娘と初めて戦った日のあんた達と……去年の記者会見を見てたから、かな」

 

 バッシングが盛んに行われていた一年前、ツヴァイウイングは世間に向けて自分達の意志を公表した。

 『あのライブを生き残った人々は何も悪くない。世間での風評は全くの見当違いである』───と。

 

「世間では生存者の風当たりも強くて、表に出さないだけで誰もその流れに逆らわない。

 そんな中で堂々とわたし達を擁護してるのを見て……あんた達は信じられる人なんだってあの時は思えてた」

「…事件の発端としてやるべき事をしたまで。

 寧ろあのタイミングまで何も出来ずにいた事を責められて当然の身だ…」

「それでも口だけの連中とは大きく違う。

 あの時あんた達が会見を開いてなかったら、わたしはあんたと話をしようとすら思ってないよ」

 

 最悪な事に報道はこぞってその発言を煽った結果、彼女達に対する批判の声も殺到した。それでも生存者を擁護する声が掻き消される状況下で、果敢に自分の意志を叫んでいた二人をわたしは直に対面する日まで信じていたんだ。

 それが真っ赤な嘘で騙されていたのか。答えが知りたかったからわたしは見定める気になった。

 ………それが誰が望んだ訳でもない、わたし自身の理由。

 

「やはり君は優しいな」

「…今のを聞いて何でそうなるの」

「君は拳を向けるどころか、こうして話せる程に歩み寄ってくれている。これを優しさと呼ばぬなら、他に言い表す言の葉を私は持たない」

 

 けれどそれを風鳴翼は『優しさ』だと呼んでくる。

 どこが優しいというのか。見当違いな解釈をされるのは腹が立って仕方がない…

 

「今は見定めてるだけ…。あの時のような事があれば、わたしは容赦なく二課をぶっ倒すッ!

 これでもあんたは、優しいだなんて口にするの……!?」

「もちろん」

 

 本当に優しいのなら今もこんな態度をとってないだろうに。それでも彼女は意志を曲げないつもりで、わたしの睨みに真っ向から対峙してくる。

 ……一度決めたら簡単に折れない質なのかな。だとしたらあの会見を開けたのも頷ける。

 

 ここで言い争うのも馬鹿らしくなって一息つくと何が可笑しいのか。風鳴翼は微笑を浮かべてわたしを眺めていた。

 

「君はどうにも自分の心に素直でない面があるようだ」

「そんな事……」

「経験則で言っている。私も胸に秘めた想いを今も抱えているからな」

「あんたが…?」

 

 彼女は想いを口にするのに尻込みしない、例えるなら剣のように頑強な心の持ち主だと思ったのに……実は勘違いだったんだろうか?

 

「曝け出してしまえればと何度も思ったよ。それでも機会も踏ん切りもつかず、抱えたままに今日がある」

「…わたしはそんな風に思った事はない」

 

「他人から見てわかる事もある。

 それに何の確証もない訳じゃない。現に君は報告を見る限り、今も唄えていないようだからな」

 

 自分の事を明かす風鳴翼はさっきとは打って変わり弱々しくて。今にも折れそうな儚さすら感じさせる。

 そんな雰囲気に気を取られたわたしは、反論する間もなく彼女の言葉を聞いた───聞いてしまった。

 

「……歌?」

「シンフォギアは唄う事でその力を増す。君も戦う中で聞いた事はなかったか?」

 

 言われてみてそういえばと思い出す。こいつらの戦いを初めて見た時も急に揃って唄い出した事を。

 当時は何のつもりかと首を捻ったけれど、あれが力を高める為ならあの行動にも納得がいく。

 

「戦いの歌は櫻井女史曰く、装者の深層心理を反映して生み出されるという。

 私や奏も唄う時は胸の奥から歌詞が呼び起こされる感覚があるが、君にはそれが一切ない」

「……それは」

 

 翼の話からするにわたしも歌が浮かぶのが道理な筈。なのに今まで浮かんでこなかったのはなんでだ? これまでの戦いで思ってきた事は幾つも浮かんでくるというのに。

 

 ならまさか本当に───わたし自身も気付かない内に心にしまい込んだ想いがあるの?

 

「そりゃあそいつが唄いたくないだけじゃないのか?」

 

 その時、わたし達の耳にいる筈のない声が届けられる。

 咄嗟に振り向けば、そこにはいたのは……

 

「あんた、なんでここに…!」

「決着をつけに来た。……いい加減お前を連れていかせてもらうぜ、融合症例!」

 

 わたしに敵対心を燃やす、ネフシュタンの少女だった。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。