聖刃伝唱シンフォギア -語り紡ぐ交響曲の果て- 【改訂版】   作:野鳥

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第7章 3節 撃鉄起こす、紅き魔弓。

 

 ───屋上での一幕より時間は遡る。病室に残った奏と倫太郎はようやく部屋の整頓を終えた頃合いだった。

 

「やっと片付いた…」

「難関でしたね……。奏さん達はいつもこれを?」

「翼は私生活が壊滅的だからな。放っておいたら部屋に埋もれかねないんでやるしかねぇんだ…」

 

 疲れ気味に、しかし本気で嫌がってはいない声色で奏は語る。

 彼女にしたら最早嫌がる段階も過ぎて、今や恒例行事と呼べる程に慣れ親しんだ事なのだ。

 

「それにしてもお前も物好きだな。ロクに話した事もない相手の見舞いに来て、掃除までやるんだから」

「共に戦う者同士、交流は大切ですよ。それに『部屋の乱れは心の乱れ』と教わりましたから、これは性分のようなものです」

「だからってこんな時にそれができるのは関心するよ。あんたの組織だって大変なんだろ?」

 

 ひと段落したところで、奏は倫太郎へ問い掛ける。

 彼女はソードオブロゴスの事情に明るくはないが、あちらもまた今回の事件に浅からぬ因縁があると見ていた。

 特に先日の戦いで現れた剣士・カリバーが倫太郎達の関係者なのは明白だ。

 

「カリバーが発見できたのは寧ろ喜ばしい事です。ようやく過去の因縁に決着をつける機会を得られたのですから」

 

 これに対する倫太郎の反応からして、やはり彼らにも一連の事件に掛ける想いがあるのだろう。

 

「…差し支えなければ聞いてもいいか? あいつも一応……仮面ライダー、なんだろ?」

 

 ならばそのカリバーとは一体何なのか。少し間を置くと、倫太郎は徐々にその詳細を語り始めた。

 

「彼はかつて組織に属していた剣士です。本来は使命に忠実な聖剣に選ばれるに相応しい人物だったと聞いていますが……」

「……裏切った?」

 

 "かつて"というフレーズに奏は反応する。

 なにせここに来る前に内通者の話をしたのもあって、カリバーの立ち位置は想像に難くない。

 そうして彼女が察したのもあり、倫太郎はゆっくりと首肯してみせた。

 

「今から十五年前、カリバーは前触れもなくソードオブロゴスへ刃を向けました。

 その際に組織で封印していたメギド達を解放し、多くのホモサピエンスを巻き込んで戦いを引き起こしたのです」

「十五年前に? そんな戦いがあったなんて聞いた覚えがないぞ?」

「メギドさえ倒せば結界内で起きた被害も消えますから、表に出なくとも不思議ではありません。

 ……ただ、命を落とした者は例外ですが」

 

 彼の語り口調からはその戦いで起きた犠牲の程を想起させる。

 奏も耳を傾ける内にごくりと、緊張から唾を呑んでしまう。

 

「一般のホモサピエンスだけでなく、対処に当たった多くの剣士達もその命を奪われました。

 そして当時ノーザンベースで任に就いていた雷に風……僕の水勢剣の前任者も亡くなり、先代の炎の剣士も事態の収拾後は行方が知れなくなっています」

「なら、今の雷の剣士は……」

「彼……富加宮賢人は一年半前に聖剣を受け継きました。

 あの事件から多くの聖剣が担い手が不在のままで。けれど今はようやくその席も埋まり、カリバーを追うだけの力を取り戻しつつあるんです」

 

 ……ソードオブロゴスも過去より背負いし因縁があり。ならば奏としては返す言葉は一つだった。

 

「なら、そん時はあたしも呼べよ」

「えっ、ですがこれは僕達の話で……」

「そっちだって二課の問題に手を貸してくれてるだろ?

 今更組織の違いなんて言いっこなしだ。……何より、あたしもカリバーには言いたい事があるからな」

 

 互いに決着をつけるべきだからこそ、力を合わせるべき局面。

 故に差し伸べられた手に、倫太郎もまた応えようとして

 

 ───返事を出そうとした瞬間、病室の扉が勢いよく開かれた。

 

「翼さん? そんなに慌ててどうしたというんです!?」

 

 扉を開けた翼は怪我が開く危険も省みず、息も絶え絶えにここまで戻ってきている。

 そこから火急の事態と察した倫太郎が問い質せば、彼女は乾いた喉を何とか震わせた。

 

「……ネフシュタンの使い手が、病院に現れた…。今は立花と共に森へ向かって戦いをッ」

「なんだって!?」

 

 伝えられた情報に二人は目を剝いてしまう。

 完全聖遺物相手に一人で挑むなど無謀でしかない。彼らの頭には響に迫る危険がありありと浮かび上がっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 病院から近い森の奥深くでわたし達は対峙する。

 対面しているネフシュタンの少女はギラリとこちらを睨み、周囲へ数多の光弾を出現させた。

 

「今日でお前との戦いも終いだァ!!!」

 

 一斉に放たれた光弾を縦横無尽に飛び跳ねる事で回避していく。

 続け様に放たれる鞭も握り潰し、そのまま一気に距離を詰めにかかった。

 

「これくらいでッ!」

 

 けれどこちらの動きは読まれていたようで。勢いのまま振り抜いた拳は掴まれ、睨み合うまま動きを封じられる。

 

「そんな拳が当たるかよ。やっぱりあの剣女もいた方が良かったんじゃねぇか?」

「そっちこそ。カリバーとノイズを呼べばいいのに、なんで一人で向かってきたの?」

「……あいつに付いてもらわなくとも、お前なんてあたし一人で十分だ。そういうことは勝ってから言え!」

 

 こちらの言葉に怒りを覚えてか、語気を荒げた彼女は膝蹴りを浴びせてきた。

 お腹に生じる衝撃に思わず息が詰まりそうになるが、逆にその威力に身を任せて回転。少女を投げ飛ばして体勢を整えた。

 

「だったらその鎧ごと叩き潰すッ!」

 

 鈍い痛みを堪え、少女の動きを捉えるのに専念する。

 彼女は着地するともう一度接近。その過程でまたもや光弾を放ってきた。

 ただそれは何回も見てきた技───この三度目の戦いでようやく、弾の動きも読み取れそうだ。

 

「こいつ、前より戦えるようになって───」

 

 迫る弾を紙一重で躱して瞬く間に少女へと肉薄。

 やがて眼前に届こうかという地点で彼女の蹴りがこちらの脇を狙う………が、当たる寸前で腕を回して脚ごと相手を極めてしまう。

 

「て、めぇ……」

「最短で最速で、一直線に……」

 

 想像しろ、こいつを倒せる戦い方を。

 思い出せ、あいつの下で学んだ全ての力を拳に乗せる流れを。

 

 大地をしかと踏み締め、腰を深く落としていく。

 ドクンと跳ね上がる鼓動を伝えて、膨大な熱が拳に力を宿す───

 

「届けェェーーーッ!!!」

 

 反撃の間を与える前に。雷の如く素早い一撃は少女の鳩尾を抉る。

 

「ゴブッ……ガァ!?」

 

 ハンマーパーツから溢れる蒸気を浴びながら、わたしは吹き飛んだ彼女を見据えた。

 木々を薙ぎ倒していった少女は一際大きな木に皹を入れ、最後はもたれ掛かって座り込む。すぐに立ち上がろうとするけど、妙な音と共に彼女は苦悶の表情を浮かべた。

 

「クソッ…! ネフシュタンの欠片か……ッ」

 

 見れば甲冑が吹き飛んだ腹部には食い込むように鎧が肌を突き破り、内側に根を張ろうとしている。

 彼女に何が起こってるの…? 見るからに苦し気だけど、あれもネフシュタンの力だというのか。

 

「……ぶっ飛べ。アーマーパージだ!!」

 

 ───やがて少女は逡巡する様子を見せると、自ら鎧をバラバラに弾き飛ばしてしまう。

 何のつもり!? 鎧の破片が飛んでくるも、その程度は難なく防ぐ事ができる。

 万が一にもこれでわたしが倒せる訳もないだろうに、どういう意図でこんな真似を……

 

「───Killter Ichaival tron」

 

 すると困惑に苛まれる中、わたしは耳を疑う旋律を聞いてしまう。

 まさかと思い目を見張ると、彼女を球体上のエネルギーが覆って今までとは全く違う姿へと変貌させていく。

 

「唄わせたな……あたしに歌を唄わせたな?」

 

 彼女が新たに纏ったのはメタリックな装甲を装着した真紅のスーツ。

 胸元にはわたしやツヴァイウイングと同じペンダントが、夕陽に照らされ輝きを放っていた。

 

「あたしは歌が大ッ嫌いなんだよ!

 これを使わせた以上、お前は必ずぶっ潰す!!」

 

 あいつもわたしと同じシンフォギア装者……!?

 そんな驚きを口にする間も与えてくれず、彼女は両手にボウガンを創り出して光の矢を放ってくる。

 

「勢いがさっきよりも増して……!」

 

 矢の速度はネフシュタンの比じゃなかった。弾くどころか避けるのが精一杯で、さっきのように肉薄する隙が見出せない…!

 

「あたしだけに唄わせてお前は唄わないってか? どうやらさっきの話は本当のようだな!!」

 

 そして弾幕に圧倒される中、少女は戦場に歌を轟かせていた。

 鳴り響く旋律はロック調の闘争心を前面に乗せた激しいもの。休む間もない弾幕にはお似合いの曲だが……それに合わせて紡がれる詩に、わたしは妙な違和感を覚えていた。

 

「……これが、あの娘の本音?」

 

 聞こえてくる詩は誰も信用ならないと叫び、人を拒絶する弾丸のような苛烈さがある。

 ただよく耳を澄ますと拒絶には思えないフレーズが紛れていて。それがまるで、誰かの温もりを求めるSOSのように聞こえてしまう。

 

「何をブツブツとッ。よそ見してりゃ死ぬだけだぞ!!」

 

《MEGA DETH PARTY》

 

 そんなわたしに苛立ちを覚えたらしく、業を煮やした彼女は腰からミサイルハッチを展開。そこに詰まった全弾を撃ち出してミサイルの雨あられを見舞ってくる。

 

 歌に気を取られていたわたしは対処が間に合わず、まんまと爆発の嵐に巻き込まれていく。

 

「……ここまで追い詰めても変化は無し。なら、そういう事か」

「なんの、話…?」

「気付いてないみたいだから教えてやるよ。

 ……お前とあたしは似てるんだ────お前、ホントは歌に関わりたくねぇんだろ?」

 

 倒れ込んだ姿を見下ろし、彼女は不思議そうにわたしを見つめている。

 何をつもりかと耳を立てれば、あいつが口にしたのは訳の分からない言葉だった。

 

 わたしが…歌を避けている? 何を根拠に、そんな……

 

「ギアの歌は嫌でも装者の心を反映してくるんだ。それを唄えないってのは、自分から心を閉ざす以外にありえねぇ」

 

 心を反映………心を、閉ざす…。

 確かに風鳴翼も彼女と似たような事を言っていた。なら自覚がないだけで、本当にわたしは……歌を避けて───

 

「だからといってやる事は変わらねぇ。精々唄えない自分を呪って果てろッ!!」

 

 果たして何が唄う事を遮っているのか、答えを見つける前に少女はこちらへ銃口を向けてくる。

 防ごうにもまだダメージが抜け切らなくて動けない。何もできないまま、わたしは引き金が引かれるのを見届けるしかなく

 

 撃ち出された矢は、甲高い金属音と共に弾かれた。

 

「ボーっとし過ぎだ」

「間一髪……お怪我はありませんか?」

「あんた達……」

 

 眼前に現れたのは天羽奏と倫太郎の二人。

 間一髪のところを救われたわたしは、差し伸ばされた手を掴んでどうにか立ち上がった。

 

「あいつがギアを纏ってるのは驚きだけど、まずは勝たないとな…」

「響さん、まだ戦えますか?」

「……大丈夫」

 

 未だにさっきの言葉は頭の中を渦巻いている。それでも相手が下がらない以上、今はこの迷いは横に捨てなきゃならない。

 

 敵が増えたのにも動じず、少女は再び屋の弾幕を創り出す。

 対してこちらも散開し、それぞれに矢の雨を掻い潜って彼女に接近していく。

 

「そんなもの!」

 

 ここで少女は武装をマシンガンへと変形。二丁の弾倉が回り出し、さっきまでとは比較にならない物量を浴びせてくる。

 

「下がってろ!」

 

 即座に対応したのは天羽奏だ。

 あいつは一番前に躍り出ると、槍を回転させて盾代わりに。強度は十分らしく何十発もの弾丸は後ろへ突き抜ける気配はない。

 

「これは僕が引き受けます!」

 

《ライオンファンタジスタ───

 

 ならばと今度はミサイルが襲い掛かるが、そこは倫太郎が弾道上に渦を生成。ミサイルを呑み込ませて、その中に自分も跳び込んでいく。

 何となく次の一手は読めた。ならばとわたしも彼に続き、渦の先へと足を踏み入れる。

 

「この感じ……まさかッ!」

 

 次の瞬間、少女の周りを渦がずらりと囲い込む。

 続いて中からミサイルが解き放たれ、途端に彼女を巻き込んで起爆した。

 

「ガァ……ッ!?」

「これで、落ちろ!」

 

《必殺読破!》

 

 爆風で上空に打ち上げられる姿を捉え、こちらもまたトドメの準備に入る。

 片や腕のハンマーパーツを引き絞り。片や脚に水の力を蓄えて、わたし達は空へと舞い上がっていく。

 

「レオ・カスケード!」

 

「はあぁぁぁぁぁぁぁーーー!」

 

 これで決めると今出せる最大級の力を注ぎ込んだ一撃。

 

「……なめんじゃ、ねぇぇぇぇ!!!」

 

《MEGA DETH FUGA》

 

 だけど相手はまだ対抗する余力を残していた。

 少女は武装を二丁の巨大なミサイルへと変え、両方とも肩へ担ぎ上げる。そうして狙いを定めた弾頭はわたし達と真正面から衝突。

 

 結果空中で大爆発を引き起こし、三者共に地面へと叩きつけられた。

 

「大丈夫かお前ら!?」

「ゲホッ、ゴホ……ッ」

「完全聖遺物を捨てても、ここまでの強さを持っているとは…」

「……ケッ、あたしの強さが鎧頼みだと思ってたのか?

 笑わせる。この力は得物に左右されねぇ、根から端まで叩き上げの一点ものだ!!」

 

 地面から起き上がった少女は自信を持って啖呵を切ってみせる。

 その堂々とした態度通り、彼女はあれだけの攻撃を受けてまだ戦える余力を残しているようだ。

 わたしなんて今の衝撃で身体の節々が悲鳴を上げている…。

 三人掛かりの筈でこの有様。少しは届いたと思えたのは幻想で、彼女と実力の壁は未だ高く積み上がっている。

 

 それでも負ける訳にはいかないと拳を握りしめた瞬間───少女の背後を槍状のノイズが襲い掛かった。

 

「ノイズ…!? まさか────」

 

 これを咄嗟に転がって躱した彼女は、強襲の出処を探して視線を彷徨わせる。

 

「残念ながらカリバーではないわよ」

 

 するとこれを嗾けた下手人は自らその姿を晒した。

 声の主は純黒のドレスを身に纏い、金に煌めく髪を靡かせる女性。

 一言で表すなら妖美という雰囲気を漂わせる彼女に、少女は目の端を吊り上げて怒りを顕わにした。

 

「フィーネ…ェ!」

「フィー、ネ……?」

 

 フィーネという単語には聞き覚えがある。確かイタリア語で「楽曲の終焉」を意味すると、雑学の本で読んだ事があった。

 そういう名前なだけなら珍しいとしか思わないのに。相手の容姿も合わさってどこか不吉な感覚を覚えてしまう。

 

「タイムアップよ。もう貴女の出る幕はないわ」

「ついにあたしを捨てる気か…。散々使ってきて、ここに来て用済みだと!!」

「察しのいい子は好きよ。ただその聡明さ、もう少し早く拝みたかったものねぇ」

 

 話を訊くに、こいつはこの娘に指示を出していた人物……この事件の黒幕と見ていいかもしれない。

 

「…本気でこの娘を捨てる気?」

「いらなくなったモノは捨てる。誰しもやってる事でしょう?」

「人と物を同列に語るなよ…。そいつはテメェの仲間じゃないのか!」

「物さ。世界の真理すら理解できぬ凡愚を人と扱う訳がない。それに仲間など、私にとって最も縁遠い言葉……」

 

 なのに奏の激昂すら流し、情の欠片も見当たらないフィーネにわたしは思わず口元を歪めてしまう。

 少女とあいつがどんな関係なのかは判らない。だとしてもあの娘は今まで味方で、あいつの指示にずっと従い続けてきた筈。

 なのにそんな彼女を物と、いらないから捨てるなんて吐き捨てられる性根に。

 

 

 

「いい加減お前達の青臭さにもうんざりしていたところだ…。どれ、試しにこの力の実験台と使おうか」

 

 注目の集まる中、フィーネは手の平から光を発し始める。

 明らかに良くない事態になるのは見えていた。ならばとすぐに止めようとするが、道中をノイズが遮ってあいつの下に辿り着けない。

 

《NIRVANA GEDON》

 

 そうして一秒と満たずに相手は準備を完了させる。

 次にわたし達を襲ったのは、ノイズごとわたし達を吹き飛ばす禍々しい力の塊。

 

「それって、ネフシュタン……」

「……ハァァァァァ!!」

 

 わたしとの戦いで少女が破壊した鎧を、奴はどうやってかその身に纏い直している。

 威力も使い手が変わろうと全く変わらず。ギアや仮面ライダーの比じゃない力をこちらへ向けてくる。

 とはいえ戦わなければいけないのに変わりなく。

 奴に対して先陣を切ったのは、いち早くノイズの隙間を掻い潜った倫太郎だった。

 

「終わりの巫女…。文献の通り、貴女はメギドと同じ悪しき魔物だ!」

「……あのような物の怪と私を同列に語るか。相も変わらず愚かさは変わらんな、ソードオブロゴス」

 

 ただしそれも難なく受け止められ、フィーネが腕を振るうと容易く投げ飛ばされてしまう。

 やっぱり完全聖遺物じゃ備えてるスペックが桁違いだ。

 この事実にほくそ笑むフィーネは品定めをするようにわたし達を見渡すと───その瞳を少女のところで固定した。

 

 その時のわたしはあの娘は敵だとか、庇う理由もないのが頭から吹き飛んでいて。

 奴が鞭を奮う予兆が見えた途端、わたしの脚は少女の下へ駆け出していた。

 

「お前、何の真似を……!?」

 

 そのまま間一髪のところで鞭の軌道から退いて。

 訳が分からないと寄越される視線に、わたしは返す言葉を持ち合わせてなかった。

 

「……身体が勝手に動いた。ただ、それだけ───!」

 

 何しろ理屈なんて抜きに動いたんだ。説明になってなくとも、こう口にするより他ない。

 それよりもまずはあいつの相手だと、跳び起きた勢いのままにフィーネへと構えをとり

 

「…馬鹿め、その甘さが貴様の命取りとなる」

 

 ───握った拳は、敵を捉える事なく空を切った。

 

「ガッ……」

「カリバー…!?」

 

 突然後ろから凄まじい痛みが刻み込まれる。

 さらに今のでここまで溜め込んできたダメージが一気にぶり返し、変身が解けてしまう。

 逃れようにも抵抗する力はない。難なく担ぎ上げられたわたしは、自分を倒した相手───カリバーをここでようやく認識した。

 

「上出来だカリバー。闇黒剣の担い手だけはあるな」

『…御託はいい。すぐに引き上げるぞ』

「待てよ……カリバー」

 

 視界が、霞む…。

 他の皆がどうなっているか判らない状況下。わたしが見れたのは間近に見えるカリバーの仮面と……こちらへ銃口を向ける少女の姿だけ。

 

「本気で……本気でフィーネに付いていく気かよッ…」

『………』

「答えろよ、カリバーッ!!」

 

 仮面の剣士は無言を貫く。何の感情も伺わせないままに、相手取る気も無いのか少女へ背を向けてしまう。

 それに震えながらも彼女は引き金を引こうとするが……戦場を蔓延るノイズがカリバーへの射線を遮っていく。

 

「ガ……アッ!」

 

「鬱陶しい。知らぬ間に随分と女々しくなったものだが、それでこの男が靡く事は有り得んよ」

 

 くつくつと愉快気な声が耳に障る。動けないわたしを担いで、カリバーは空間に闇のような穴を切り開いていく。

 

「さらばだ機動二課。この少女は貴重なサンプルとして使わせてもらう」

「待てよ……て、めぇ…」

「響さんッ!」

 

 わたしを呼ぶ声が聞こえる。それに応じる気力どころか、最早意識が途切れかかっていて……。

 最後に見えたのはノイズに阻まれる二人の人影と。

 ……自信の仮面が剥がれ落ち、涙と嗚咽で顔を歪ませる少女の姿だった。

 

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