聖刃伝唱シンフォギア -語り紡ぐ交響曲の果て- 【改訂版】 作:野鳥
タッセルは見守る事しかできない現状に、目に見えて狼狽しきっていた。
「大変なんですよ~~!
立花響がフィーネに連れ去られてしまいましたッ!?」
「彼女の知的好奇心は神の領域にも足を踏み入れる程だ…。このまま放っておけば、立花響に取り返しのつかない事をしたっておかしくない!?」
「本当なら僕が助けに行きたいところなのに…ッ。ああ、やはり見ている事しかできないんだ……」
傍観者でしかない彼に世界に介入する資格はなく。
そんな現実が遣る瀬無くて、どっかりと椅子に座り込んでしまう。
「僕が頼れるとすれば、あの二人だろうか…。
でも一人の少女の為に出張ってくれるかと言えば……」
「もしも彼女を助けられるとすれば……それは君だけなのかな、神山飛羽真?」
何もない虚空へ独り語り掛ける。
その矛先である男へ、タッセルは縋るように願いを込めていた。
「すいません、こんな朝早くから待ち合わせて」
「夜勤明けなので構いませんよ。それじゃあ聞かれないようにあの辺りで……」
空が白み始めた明け方、俺は街路地で待ち人と顔を合わせていた。
目的の人物……藤尭さんが指し示した路地へ行き、誰もいないのを確認しつつ足を踏み入れる。
「それじゃあ頼まれてた件ですが、当時の監視カメラや名簿に記録は残ってました。
ただ……微かに差し替えられた形跡が残っていた上に、あの人を目撃したという証言もとれなかったようです」
情報の交換に、俺はソードオブロゴスで手に入れたとあるデータを藤尭さんへ手渡す。
その内容に目を通し、彼はやっぱりか…と目元を伏せてしまった。
「先生の読み通りって事ですね。……できれば当たってほしくはなかったんですが」
「すいません、藤尭さんにこんな事を頼んでしまって…」
「いえ、俺の事より事件を解決する方が大事ですよ。それに響ちゃんの事もありますから」
彼からすれば仲間を疑う行為でしかなく、しかもその疑いが的中してしまった形だ。当然ショックも大きいだろうし、俺としても辛い頼み事してしまったと心苦しくある。
だが既に一週間……響ちゃんがカリバー達に連れ去られて、それだけの時が経つんだ。
今頃彼女の身に何が起こっているか判らない以上、下手に迷って時間を掛けるのは避けたい。
「炙り出す時はいつに?」
「司令からはまだ何も。ただ先生と同じ答えに行き着いてるのは間違いないです」
だから本心を言えば、一刻も早くあの人の正体を暴きたいところで。とはいえ二課の協力を得るには弦十郎さんが動く事が重要だ。
彼は話した限り、情を優先するタイプと見えた。
もし藤尭さんに返事を出さなかったのが、決着をつける事に迷っているのだとすれば………俺も彼に働きかけるべきかもしれない。
そうしてここからの動きに思考を巡らせていると、メッセージの着信音が路地裏に響く。
まだ眠っている人もいる時間に誰からだろう。彼に了承をとりつつ画面を見てみれば
「芽依ちゃんから…?」
「えっ、これって……」
発信元は芽依ちゃんで、俺達は揃って内容に目を見開いてしまう。
なにせそのメッセージには『銀の髪の少女を拾いました。至急かみやまにカモン!』と書いていて……俺の知る限り該当する人物は、一人しか思い当たらなかった。
────懐かしい光景を見ている。
これは夢だ。でなければもう終わった筈の思い出を今になって見れる筈もない。
『クソッ、当たれェ!!』
あれは確かフィーネに拾われて半年は過ぎた頃か。
戦う為の武器にイチイバルのギアペンダントを与えられたあたしは、まず真っ先に特訓の名目でカリバーに勝負を挑んでいった。
『だったら、これだ……!』
けれども撃った弾は悉く避けられて。たまに当たったと思いきや、そいつも剣で弾かれて終わるだけ。
いつになっても勝てない状況に業を煮やして、何度目かの勝負であたしはここでケリをつけようと畳み掛けた。
『……』
撃ったミサイルを囮にして、自分は空に跳び上がる。
そうして目標を見失ったところに上から襲い掛かる作戦だったんだが……
『何ッ!?』
あたしの狙いなんざ端っからお見通しで、あいつは突き付けた銃口を掴んでみせた。
そこから一本背負いを決められて、あえなくあたしは撃沈した訳だ。
『ハァ…ハァ……このッ』
『────ここまでだ。今日の修練は終了とする』
首元に突きつけられた刃は言い訳の余地なくあたしの敗北を示してる。
なのにこの時のあたしは納得できなくて、背を見せたあいつに声を張り上げていた。
『焦るな。まだ修練は始まったばかりだ』
『そんな悠長にしてられるかよ!
あたしは、一日でも早く力を手に入れなきゃならねぇんだ!!』
今思うと吐き捨てた言葉は幼さからくる焦りでしかない。
それでもあいつは子供の我儘と切って捨てずに、あたしの話を聞こうとした。
『理由はなんだ?』
いざ理由を聞かれると、夢のあたしは言葉に詰まって黙り込む。
自分でも聞かれるって思わなかったから。予想外の反応にどう答えようか迷って。
『言えないか?』
『……この世界にいる力を持った奴を片っ端からぶっ潰すんだよ』
……で、結局正直に話す事に決めた。
当時はとても勇気のいる事だっただろうな。ここは今でも変わりはないが、あたしは世の中にいる大人ってものを信用できずにいる。
その中で例外はフィーネだけってこのあたしは思っていて。それ以外に本心を語る時がくるとは考えてもみなかったんだ。
『パパとママの夢みたいに、言葉で分かり合おうなんて御伽話だ。
フィーネの言うやり方しか道がないんなら、あたしは早く力をつけて争いを消し去りたい。
……これが力が欲しい理由だよ。満足したか?』
ただ唯一信じてもいいのかって迷ってたのがカリバーで。そう思うだけの理由があいつにはあった。
『ならば、守る強さも身につけろ』
もしここで本心を話してなければどうなってたんだろうな……。
今になって考えちまうが、この時の教えはあたしの胸に刻み込まれている。
『なんだよそりゃ? 防御の術なんて今までも教わってきたじゃねえか』
『戦術としての話ではない。奪うだけでなく、奪われない力も身に付けろ。
戦いはいつ何時、何が起こるか分からない。
このまま力だけを求めては、お前はまた多くのモノを取り零す事になる』
最初は何の話かちっとも要領を得なかったが……
『多くのモノを取り零す』───この言葉があたしの心に強く響いた。
なにしろあの時、きっと力があればパパとママを失う事はなかった筈だ。
その場にいたあたしは泣いている事しか出来なくて。冷たくなった二人の身体へ必死になって呼び掛けるしかなかった。
あんな光景を二度と見ない為に力を望んだんだ。
なのにこのままじゃ同じ事が起こるなんて言われちゃ、聞き流せる訳もねぇ…。
『じゃあどうすれば守れるんだよ。何も、失わない為にはッ』
『……私からは教えられない』
『なんだよそれ。自分から言っておいて……』
『守る事の意味は、誰しも自分で答えを探さねばならない。
私の答えを示したところで、お前にも当てはまるとは限らないからだ』
この時のカリバーは、守る強さの意味を知っていたんだろうか。
……ただ答えはどうだったにしろ、もしかしたらあいつなりにあたしへ考えるチャンスをくれたのかもしれない。
『しかし、足掛かりなら教えられるだろう。
だからまずは自分の身を護れるようになれ。お前はどうにも守りが疎かになる傾向がある』
『……オイ。それってあたしが力不足だから言っただけじゃないよな?』
『どうだろうな。だが、いずれわかる時がくる』
あたしからすれば今の未来は想像できなかったし、ずっとフィーネの下にいるもんだと思ってた。
だから最後に残したこの言葉も、もしかして言葉を濁しただけなんじゃって考えたりもしたよ。
───なぁ、カリバー。あんたにとってあたしは何だったんだ?
結局この思い出も、あんたからすりゃ取るに足らないモノだったのか……?
「───カリバー!!」
……叫び声が室内に木霊する。起き掛けに飛び出した叫びに応じたのは、小さな模型から吹き出す汽笛だった。
「ここ……は?」
見た事のない場所だ。ど真ん中に変な置物はあるが、中の様子を見るに……ここは本屋か?
にしてもどうしてこんな所にいるのかが思い出せない。確かあたしはフィーネに捨てられて、そこから……
「良かったっ! 目が覚めたんだね…」
……とここまでの経緯を思い返そうとした途端、背後から二人分の声が聞こえてくる。
そこには髪を後ろで括った若い女と、あたしとそう変わらない歳な黒髪の女がこちらを見つめていた。
…クソッ、ここまで気付かなかったなんてあたしは何やってんだ───ッ!?
「ハイハイ暴れない~! 起きたばっかなんだから無理しないのっ」
戦おうとすれば鈍い痛みが全身に刺さる…。隙を見せてしまったと焦るも、目の前の二人はあたしを襲う素振りはない。
それどころかこっちを労わってさえいて……この状況にあたしは牙を剥くタイミングを失ってしまった。
「…あたしをここに連れてきたのはお前らか?」
「そうだよ。路地で倒れてるのを見つけて、心配だからここまで連れてきたんだ」
「病院に連れていこうかと思ったけど、君みたいな娘が倒れてるなんて訳アリでしょ? だから丁度合鍵を持っていたうちがここまで案内したのだよ~~」
路地で倒れてた…身体はどこも痛んでる……。
───そうか、こいつはノイズに追われていた時に負ったダメージだ。
あの後、あたしは追手のノイズを蹴散らしつつ各地を逃げ回っていた。
本来ギアの力があればノイズは敵じゃねぇが、ソロモンの杖があちらの手にある以上その数に際限はない。いくらギアを纏おうが、体力の限界まで粘られれば追い詰められもする。
それでも最後の一匹まで倒せたまではいいが、精魂尽き果てたあたしは意識を失った……という流れだ。
最後の最後でヘマを打っちまったが、幸いにも今のところこいつらに危害を加えてくる様子はない。
「ッ、この顔…!」
「ん? 飛羽真の事知ってるんだ?」
なら少しだけここで休むのもアリか……と思った矢先。あたしの視線は棚に置かれた本へ釘付けにされた。
なにせその表紙の帯にはあの優男───炎の剣士が映っている。
加えて反応を見るにこいつら、あいつの関係者…ッ!
「…助けてもらったのは礼を言う。ただここまでで十分だ」
そうと分かればここに居続ける訳にはいかなかった。
軋む身体に鞭打って立ち上がると、黒髪の方が咄嗟に肩を掴んでくる。
「危ないよ! 倒れた時の!?」
「ここにいる訳には…いかねぇんだよッ。早くしねぇと……」
「早くしないと、なんだ?」
そこで立ち往生している内にガチャリと扉の開く音が響く。
音の根源は店内奥にあり、どういう原理か扉の先は異空間に繋がり、見覚えのある人物が姿を見せた。
「テメェ、雷野郎…!」
「えっーーと、あなたはどちら様?」
「富加宮賢人、飛羽真の友人だ。
…事のあらましは聞いているが、カリバーと組んでいた君を逃がす訳にはいかない」
よりによってやって来たのは苦い記憶のある雷の剣士。
負けた経験を考えれば痛みに痺れている現状、戦うのは望ましくない。
「…戦るってんならここでおっぱじめても構わねぇぞ」
「望むところだ。君には訊き出さなきゃいけない事が山のようにある」
だが目の前で対面しておいて、戦わないという道が選べるものか。
辛くはあるが勝機がなくもねぇんだ。無理をしてでもこいつをぶっ倒して、ここからおさらばしてやる…。
「「待ったーーッ!!」」
そう意気込むも、あたしらに割って入った二人が戦いの狼煙を上げさせない。
「何の事か知らないけどお店で喧嘩とか止めてもらえますゥ? 後で飛羽真になんて説明するつもり~~?」
「あなたも、大の大人と喧嘩なんて無茶は止めようよ…」
「そんな話をしている場合じゃない!
…確かに店の中で暴れちゃ、こいつらにとって迷惑極まりないか。
こちらを咎める声に何も返せずにいたが、雷野郎はそうじゃないらしい。この機に乗じて一番バラされたくない事を凄まじい剣幕で叫びやがった。
「えっ……」
「……チッ」
……ほら見ろ、あたしの素性を少しでも知ったらこれだ。
確かにあいつはあたしを助けた。とはいえ逆にあいつを助け返せるかと問われれば、答えはNOだ。
もうフィーネに組していなくとも、あたしが二課や剣士共の敵だったのに変わりはない。なら借りがあるにしても、融合症例を助けてやる必要もない筈。
ただこいつらにそんな理屈は関係ないだろう。
フィーネに捕まった時点であいつがどんな目に遭ってるかも判らないんだ。仲間を助ける為に、それこそ拷問に掛けてきたっておかしくはねぇ。
……そうだ、他人なんて信用すべきじゃないんだ。カリバーに絆されてすっかり気が緩んじまったか。
まだ終わる訳にはいかないんだ。他の二人は兎も角、雷野郎は何をしてでもぶっ倒して───
「だとしても無理強いすべきじゃないよ」
───しかし火の付いた頭を冷やすように、新しい来客が足を踏み入れる。
…またしても敵が増えるなんざ、ようやくあたしにも天罰ってやつが降り注いできたんだろうか。
運のなさに思わず失笑してしまうが………現れた炎の剣士はあたしではなく、何故か雷野郎へ真っ向から対峙した。
「飛羽真…」
「賢人だってカリバーの事を言うのは渋ってただろ? なのに彼女から無理に聞き出すべきじゃない」
「…そんな話をしている場合か。
知っているぞ、お前がこの一週間色んな場所を駆け巡っていたのは。それは彼女の事が心配だからじゃないのか!?」
まさかこいつ、あたしを庇ってるのか?
どうしてだ? こいつらの交友関係は知りもしないが、よく連携してた辺り融合症例とは仲が深いと思ってたんだが。
「あ、あの…その娘が響の行方を知ってるって」
「そうかもしれないね。ただ未来ちゃん達も無理に聞き出そうとはしないでほしい」
不安げに表情を曇らせる娘にも、炎の剣士は事情を探らないよう念押ししている。
訳が分からねぇ…。そんな事して、お前には何一つ得なんてないだろ?
「だって君の顔に書いてあるよ。
フィーネとカリバー……どちらが引っ掛かってるのかは判らないけど、あちらでの話はしたくないんだろう?」
咄嗟に漏れ出てしまった言葉に応じて、奴は話していない筈の図星まで突いてきやがった。
……正解とは口に出来ないが、かといって否定もできない。あたしにできたのは苦し紛れに話題を逸らす事だけだった。
「…恩を売るつもりか? だとしてもあたしは……」
「そんなつもりはない、って言っても信じてはくれないよね…。
ならこういう言い方ならどうかな。
こちらの意図に気付いているのかいないのか。炎の剣士は目論見通りに話題を移して……あたしの事なんざ余裕で吹き飛ぶ情報を提示してみせた。
「本当か!? それにしてもどうやって…」
「いやフィーネって誰? うちと未来ちゃんを放って進めないでくれます?」
一気に全員の注目が炎の剣士へ移っていく。
ただ意外にも、この場にはフィーネを知らない人間もいたようで、代表して雷野郎が解説役に名乗り出た。
「……フィーネというのはここ一連のノイズ騒動に通じてる存在で、二千年前───ソードオブロゴスの創設期から存在する人類の敵だ」
「二千年…? あいつ人間じゃなかったのかよ!?」
「…君は知らなかったのか?」
「聞いた事もねぇよ。奴は聖遺物に通じてる研究者ってぐらいしか───」
ここに来ての新事実に余計な事を口走り、咄嗟に口を噤む。が、炎の剣士はあたしの反応さえも流して話を進めた。
「フィーネを見つけ出せれば響ちゃんがどこにいるか掴める。
そう思った俺はまず二課とソードオブロゴス、その両方を探る事にしたんだ」
「探る、だと? まさかこの一週間……いや、もっと前からノーザンベースに入り浸っていたのは」
「響ちゃんが攫われる前から、デュランダルを狙った襲撃がピンポイント過ぎるとは思ってたんだ。
だからどちらかの組織に内通者がいる可能性を考えたのが、聞き込みを始めた切っ掛け」
「…可能性で仲間を疑うのかよ。万が一読みが外れてたらどうする気だ?」
「可能性があるからさ」
ピンッと指を突き立て、炎の剣士は語り出す。
「『不可能なことがらを除くと、いかにあり得そうになくても残ったものこそが真実である』。
『白面の騎士』という作品で主人公の探偵が口にした言葉なんだけど、実際的を射てると思うんだ。
仲間だからと依怙贔屓していたら真実からは遠ざかってしまう。それで命が失われる結末だけは迎えたくないからね」
依怙贔屓、か…。
確かに偏った視点じゃ簡単に騙され利用されるだけだ。特にフィーネなんざそういった甘い連中をカモにする典型だろう。
「けど聞き込むにしたって曖昧な手掛かりじゃ効果ないし……一体なんて聞いて回ったの?」
「それは『聖遺物について』だよ。作家として興味を持った風に装って、両方の組織で取材をして回ったんだ。
少なくとも相手が完全聖遺物を扱えるだけの知識があるのは間違いない。それだけの知見があるのなら、言葉の節々に聖遺物へのスタンスが見えてくるんじゃないかって当りをつけたのさ」
それに目の付け所も間違ってない。あの女は研究成果の為なら犠牲を幾ら出してもいいってスタンスだ。
猫を被ろうが奴の場合、興味が惹かれる事へはすぐに化けの皮が剥がれる。ここまで推察できるのなら自ずと正体も見破れただろう。
「ノーザンベースはソフィア様の創った結界で守られている。
例え組織の人間がフィーネに乗っ取られても、すぐに結界の外へ弾かれるだけだ」
「この確証も得られたから残るは二課だけ。そして調べた結果……該当する人物が一人だけいた。
聖遺物の話をした時、その人だけが他と違う反応をとったんだ」
「違う反応…?」
一つ懸念があるとすれば容疑者の多さだが、片方については問題をクリアしているようだ。
となれば残るは最後の締めだけ。
だからあたしを頼る必要がないってのはわかった。……それでも
「わからねぇ……わからねぇわからねぇ!!」
理屈としてはそうでも、納得できない事は山ほどある。
「フィーネの正体を暴いたからって、あたしに助け船を送る理由にはなんねぇだろうが!
お前とは何度も戦ってきたんだ。あたしがフィーネの目的に手を貸してたのは解ってんだろッ!?」
「だけど、心から付き従ってはいないんでしょ?」
なんであいつも目の前の男も、敵であるあたしを助けられる?
助けたところで得なんか無い。寝首を掻かれるとはこれっぽっちも考えないのか?
「君とは今まで何度も戦ってきた。
ただその中で、俺は君を命を軽んじる娘には見えなくて…。だから戦いを抜きに話をしてみたいと思ってたんだよ」
さっきので冷徹に物事を見れる面もあるのかと見直したが、やっぱり大バカなのは間違いない。
心から従ってないならなんだよ? 嫌々やってたとしても、あたしのやってきた事は結局……
「…これまで敵同士だった奴の手を、今更取れるとでも思ってんのか」
「そうかもしれない。でもやる前から諦めてたら俺は剣士になれなかった」
手を払いのけようにもこいつの態度は一向に変わる気配がねぇ。
……ここまで言っても変わらないのなら、その言葉に嘘や含みはないのかもしれない。
でもあたしは既に二度も人に裏切られた。だから三度目の可能性を振り切れず、心は「信じるな」と囁き続けている。
「なんだ、この音は……」
「ノイズの緊急警報だよ。知らないの…?」
ノイズの警報……つまりこれが鳴ってるって事は、街にノイズが解き放たれたっていう意味でッ!?
サイレンの意味を悟ると、あたしは一目散に店の外へ飛び出していた。
「ちょっと、一体どこに───! …ーい……!?」
一種の興奮状態だからか身体の痛みより走ろうという意思が上回る。出だしに遅れた連中を振り払い、あたしの脚は街へと突き進んでいく。
日中の街は人に溢れてごった返している。そんな場所でノイズなんて放てば、一体どれだけの死人が出るか判ったもんじゃない。
無性に腹が立ってくる。
それを解ってこの手を使ったフィーネ達にも……今更自分のやってきた事を悔やんでるあたし自身にも。
最初にソロモンの杖を握った時、願った世界はこんなものではなかった筈なのに。
あたしのせいで誰かが苦しむ───その事実が容赦なくこの心を抉り取っていった。