聖刃伝唱シンフォギア -語り紡ぐ交響曲の果て- 【改訂版】   作:野鳥

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祝・劇場版ギーツに龍騎オリキャス出演決定。
本編から20年後だからこそ見れる渋い変身に想いを馳せつつ投稿です。


第8章 2節 指し示す掌、煌めく雷なりて。

 街を一望できる位置にある、雑居ビルの屋上。

 カリバーはそこで佇み、ある一点を見つめ続ける。

 

 視線の辿る先は雪音クリス。彼は逃亡を続ける彼女を追跡していた。

 

『クリスはソードオブロゴスと二課、どちらにも合流させるな。

 何なら息の根を止めても構わん。

 シンフォギアも所詮悪戯に造った玩具とはいえ、道でうろちょろと飛び回られては鬱陶しい事この上ないからな』

 

 通信機からフィーネより指示が下る。

 クリスに力を与え、都合の良い手駒と扱ってきたが最早その存在に価値を見出していない。寧ろ情報が洩れるリスクを考慮し、カリバーに始末を命じる。

 

『言っておくが情など掛けるなよ?

 立花響の功績があるとはいえ、奴の行方次第では全てが水の泡となる』

「分かっている。私が一人の女すら斬れん男だと思うか?」

『どうだかな…? まあ、今はその言葉を信じておくとしよう』

 

 不遜な含み笑いを最後に通話は切られる。

 

 ……言われずとも、元よりクリスに情をかけるつもりはない。

 彼女の力はフィーネに下って数年。長きを共にした自身が一番よく知っている。

 クリスの実力なら、生半可な手では打破されるのが自明の理。ならば持ち得る手の中でも、ぶつけるのは最上級の代物がいい。

 

《メデューサ蛇伝》

 

 懐より開くのは、幻獣を司るアルターライドブック。

 開かれし本より現れるのは、神話に名を轟かす怪物と同じ名を持つ蛇の魔人。

 

「────あら、ワタシを目覚めさせたのはアンタ?

 このワタシを呼び出して、一体何をさせようっていうのかしらァ?」

 

 蛇の顎を髪として纏め、鱗と牙でその身を着飾る魔性の女───メデューサメギドは己を呼び起こした者に不服そうな視線を投げつける。

 

「……この少女を誘き寄せて始末しろ。方法はこちらで指定する」

 

 カリバーは蛇の視線にも動じず、目標を示すべくクリスの写真を取り出す。

 

「へぇ…。透き通るように輝く髪に、初々しい虚勢に覆われた可愛いお顔。そして若さが凝縮された、張りの乗って弾力ある肉質。

 ───ワタシにピッタリの極・上、ねぇ……」

 

 メデューサメギドはそこに映った標的をじっくりと吟味し───達した。

 

「いいわよォ……この娘なら文句なし♪ ご要望通り相手をしてあげるわァ。

 ただここまでの一品。せっかく堪能するのなら自由に暴れたいんだけど───」

 

「勝手な真似は許さん」

 

 獲物への執着が昂ぶり、己の思うが儘にしたくなったメデューサ。

 そうして欲をかいた途端、煌めく黄金色の刃。

 瞬きの間に抜刀した闇黒剣が彼女の首元に添えられていた。

 

「おぉ怖い怖い。この娘はそんなに強いわけ?」

「策を練らずに勝てる相手ではない。お前がメギドであろうとな」

「へぇ、言うじゃない?

 もし力も見た目通りなら好きに暴れるけど、いいわよね?」

「その余裕があればの話だ」

 

 条件付きながら従う意思を見せた事で、カリバーはゆっくりと剣を収める。

 ようやく喉元が自由となり、メデューサは可笑し気にくつくつと笑い出した。

 

「ああ、楽しみ! まさか目覚めてすぐにこォんなご馳走に出会えるなんて♪

 この娘は最期の時、どんな顔でワタシの口に入ってくれるのかしら!!」

 

 くるりくるりと踊り回り、来たる時を待ち焦がれるメデューサ。

 カリバーはそれを冷めた視線で流しつつ、街の中にいるクリスの姿を思い浮かべた。

 

 

 

 

 

 

「……お前の征く道に果たして"先"があるのか、私に見せてもらおう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 逃げ惑う人並みが視界を嫌でも占領する。

 戦いなんて無縁な日常を送っていた筈なのに。『ノイズが出た』という一報だけでそんな何気ない時間はあっけなく崩れてしまう。

 

 その悲劇を生み出したのは誰だ? 町の連中から日常を奪ったのは誰だ?

 たとえ事を起こしたのがフィーネ達だとしても───その引き金を用意したのは、ソロモンの杖を起動したのは間違いなくあたしだ。

 

「……?」

 

 突き付けられる現実に痛みながらも、この脚は迷う事なく現場まで辿り着く。

 けれど目の前に広がっていたのは、ノイズが出たにしては異様過ぎる光景だった。

 

「どこ行きやがった…。時間切れで消えるにしても灰が残る筈だろ……?」

 

 ノイズは活動時間に制限がある。

 犠牲者が出なかったにしろ、必ず現場には灰になった奴らの遺骸が残ってなきゃおかしい。

 

「なんだ、これ…?」

 

 だというのに真っ新ぴんな街並みに違和感を覚えつつも、やがて開けた交差点に差し掛かる。

 そして道の先を占領していたナニカにあたしは目を釘付けにされた。

 

「石像……? 何だってこんな道に───」

「石像じゃあなくて人間よ? 今は動けない木偶の坊だけどねェ♪」

 

 途端、耳に木霊した声に反応してその場を飛び退く。

 そんなあたしの対応さえも嘲笑い、声の主は石像の間を縫って姿を見せた。

 

「一体何なんだ! 出てきたのはノイズじゃねぇのかよ!?」

「あの不細工な人形?

 アナタが来たから全部消し飛ばしたわよ。いても邪魔なだけだしねェ」

 

 そいつは蛇のような怪人、と言うべきだろう。

 ノイズを消し飛ばしただの耳を疑う事ばかり抜かす奴だが、何より気にかかる情報は一つだ。

 

「……お前、この石像を人間だと言ったか?」

「そうよォ。ここにあるのはみーんなワタシの眼を見た人間達♪

 ワタシの眼にはねェ、眼と眼が合った者を石にする力があるの。素敵だと思わなァい?」

 

 冗談だろ?と言いたいが、こいつの話は真実味があった。

 なにせここまで精巧な石像を何十体と用意するメリットがどこにある。そんなもん造る位なら、ノイズを嗾けられた方がよっぽど心にくるってもんだ。

 

「さっさと変身なさいな。

 でないとその人間共と一緒に────食べちゃうわよォォオ!!!」

 

 とはいえ推察する暇はないだろう。

 涎を垂らして襲い掛かる怪人を前に、あたしは聖詠を唄い上げる。

 

「Killter Ichaival tron───」

 

 イチイバルのギアを纏った瞬間、後ろへ跳躍。着地と共にアームドギアを展開するも、怪人は何故か追撃せずにあたしを観察していた。

 

「それがシンフォギアっていうの?

 綺麗なお肌を大胆に出した良い恰好じゃなァい。スーツからはみ出たお肉が食欲をそ・そ・る……♪」

「ざけんなッ! ギアはロールキャベツの葉じゃないってんだよ!!」

「いいわァ…。ここで言い返せるところもまた好いィ……♪」

 

 マジかよ…。こいつ、あたしを見て興奮してやがんのかッ!!?

 

 ───そう認識してしまい、頭に過ぎったのは幼い頃の(忌まわしい)記憶。

 あたしみたいなガキを牢屋にぶち込んだ大人の中には、労働力じゃなく目も憚る欲の捌け口と見る奴が何人もいた。隣で泣いていた子がそいつらに連れていかれ、二度と帰ってこないなんて珍しくもない。

 あたしもいつ餌食になるものかと、毎晩泣きながら怯え続けて……

 

「…クソッ、そんな目で見るのはやめろッ!!!」

 

 敵の視線に耐え切れず、あたしは激情のままに引き金を引こうとする。

 ………けど、奴の後ろに垣間見えた石像が引き金を引くのを躊躇わせた。

 

「気付いたかしら。ワタシがわざわざ人間を置いた、意・味…?」

 

 こいつ、人を石像にしたのはそういう事かよッ!

 射撃の腕に自信はある。とはいえ万が一にも矢が外れれば、その威力は容赦なく像を粉々にするだろう。

 この状況でそんなもんを気軽にぶっ放せやしない。つまりこの石像達は、奴を有利に置く人質ってこった…!

 

「さぁさぁ! 可愛い声で鳴いてちょうだァい!!」

 

 ……舐められたもんだ。あたしが離れて敵を狙うしか脳がないとでも思ってんのか。

 だったら教えてやる。伊達にカリバーの下で鍛えられてないって事を!

 

「へぇ、お弾きだけじゃないのねェ。ますます面白い娘♪」

「お前はいい加減、その卑ったらしい口を閉じやがれ!」

 

 奴が奮う鞭に対し、ボウガンを逆手に持ち替えたトンファーの要領で受けに回った。

 未だに怪人はほくそ笑んだままだが、すぐにそんな余裕もすぐに奪い取る。

 

「おらっ!」

 

 鞭を弾き、がら空きの胴へすかさず拳を打ち込む。

 息つく暇も与えない怒涛のラッシュ。

 最後に重い一発をと腕を振り抜く……が、相手もそう甘くはないようだ。

 

「チィ…!」

 

 当たるかという瀬戸際で奴は上空へと逃げた。

 そのまま頭上を通り過ぎ、落下の重力を活かして再び鞭を叩きつけてくる。

 

 だが反応できない速度じゃない。攻撃の予兆を読み取り、反射的に引き金へ指を掛ける。

 

「んゥ!」

 

 逆向きの銃口は見事に奴の脚を撃ち貫き、痛みに悶える間に続けて回し蹴り。

 頭に直撃したのを肌に感じた瞬間、こちらもまた宙へ舞う。

 

「んぎュ…!?」

 

 そして飛びついた拍子に肩へ乗っかり、脚でその首を締め上げた。

 ギアの力を以てすれば、常人じゃ出せない力も駆使できる。

 だから怪人の首も一思いにへし折り───流れるようにその脳天へ鉛り弾をぶち込んでやった。

 

「……ハァ、ハァ。これで、いけるか…?」

 

 飛び退いて奴の状態を観察する。

 怪人は倒れ込み、そのままピクリとも動きやしない。……でもそれで石像が人間になる気配はなく、居心地の悪い静けさに場は支配されていた。

 

 まさか、まだ生きてるのか…?

 流石にそれはないと思いたいが、一向に変化がない死体からあたしは目を離せない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────流石に騙されてくれないかァ。すぐに気を緩めないのは良い判断よォ」

 

 そしてその違和感は最悪にも的中していた。

 あらぬ方へ曲がっていた首はぐるりと回転し、あたしの瞳を見据えてきたんだ。

 

「マジかよ…。首を折って頭も撃ち抜いたんだぞ!?」

「痛みは感じるけども…。ワタシ達(メギド)はその程度じゃ死なないの」

 

 ボキリ、と首の位置を直して怪人はゆっくりと起き上がる。

 その動きに全く淀みは感じられず、とても痛みがあるとは思えない。

 

「ンフフ、貴女の脚、しなやかな筋肉と玉のようなお肌がマッチして極上の感触よォ♪

 ……けど、ここまで戦えるのならもうちょっとギアを上げないとねェ?」

 

 相も変わらず下衆な視線を寄越し、怪人は一足でこちらとの距離を詰めてくる。

 

「まだ終わらないわ───よッ!!」

 

 速い…ッ!? さっきとは比べ物にならない速度に反応しきれず、強烈な蹴りがあたしの肺を抉った。

 そこから続けて連撃を叩き込まれ、最後はミドルキックで後ろへ吹き飛ばされる。

 

「まず……いッ!?」

 

 蹴りの重みに意識が消えかかるが、飛ばされる先───石像の佇む交差点を目にして意識が覚醒した。

 

 石像の強度はわからねぇが、下手すりゃ激突と同時に粉々だ。

 途中で着地しようにも、手持ちの装備に姿勢制御の類は皆無。

 だったら他で代用をと頭を捻り……あたしは博打同然の結論を出した。

 

「こん、のッ!」

 

 地表へ矢を放つ。するとコンクリートが弾け、衝撃で姿勢が上向きに直される。

 さらに間髪入れずミサイルをぶっ放し、撃ち上げた弾の衝撃で身体を無理矢理コンクリートへ打ち付けた。

 

「ぐッ────ウゥゥゥゥゥ!!!」

 

 あと十メートル……一メートル…五十センチ、十センチ。

 止まろうにも威力が強すぎる。だとしても衝突してたまるかと、火花を散らしながらボウガンを地表へ突き立てる。

 

「はぁ…はぁ、グブッ……はぁ…!」

 

 ようやく止まったものの、石像との距離は残り1センチも残っていなかった。

 

 この力……あの怪人、今までは様子見で本気じゃなかったのかよ。

 こっちは無理矢理ブレーキをかけた衝撃も合わさって最悪のコンディションだ。それに比べて、奴はグルグルと鞭を弄ぶ余裕さえある。

 

 それすらも見透かしてか怪人は嘲笑う。

 ……ホント、分の悪い戦いだ。今日のあたしは見事に貧乏くじを引いちまったらしい。

 

「ヌゥゥゥン!?」

「……はッ?」

 

 それでも頭の中に石像を見捨てる選択肢は無くて。

 ではどうやって勝つ?───と自問自答していたところに、一陣の稲妻が真横を通り過ぎていった。

 

「ハアアアアアア!!」

 

 さらに斬り捨てられた怪人に、真紅のマシンが突っ込んでいく。

 

「吹き飛べッ!」

 

 機首に刃を生やしたそいつは奴の胴体へ衝突し、怪人を明後日の方へ突き飛ばしてしまう。

 

「お前ら、何で……?」

「さっき上がっていたミサイルがここの位置を教えてくれたんだ」

「そういう訳だ。ここからは俺達も助太刀に入る」

 

 ……あたしの眼前にいたのは、炎の剣士と雷野郎。

 仮面に隠れてはいるが、二人共もさっきみたいにバカな事を考えているんだろう。

 

「本気で言ってんのかよ?

 特にお前は、あたしから融合症例の事を聞き出そうとしてたろうが…」

 

 フィーネの正体を突き止められる以上、あたしに情報を聞き出す必要はない。

 そう解っちゃいても、さっきのひと悶着といい今の手助けといい。訳の分からない事が多すぎて、つい食い気味に突っかかってしまう。

 

「やってくれたわねェ……。もう少しなのに最悪のタイミングで邪魔が入っちゃった」

「ならとことん邪魔するよ。お前はここで倒して…!」

「あらコワ~い♪ だったらワタシも仲間を読んじゃいましょうか~」

 

 一旦怒りの漏れた怪人だが、すぐに立て直して指をスナップさせる。

 

「ほらほら、お姉様のお通りよ!」

「そして次女はこの私~!!」

 

 するとそれを合図に石像達を掻き分け、現れたのは全く同じ姿の怪人達。

 

「同じメギドが三体…!?」

「まだいやがるってのか? まさかアイツ等姉妹だとでもッ!」

「姉妹……そうか、こいつらはメデューサのメギドだ!

 メデューサは元々女神の三姉妹。あいつもそれに倣って三姉妹のメギドになっているんだよ!」

 

 一気に数の有利をリセットされ、怪人改めメデューサ共は連携して襲い掛かってくる。

 餌食にならない為には必然と背中を合わせる他なく、それが無性にあたしの心を搔き乱す。

 

「ここで助けたところで、あたしの態度は変わらねぇぞ。

 カリバーの事だって答えないし、お前に何の得もないって判らないのかよ…!」

「……今の君と俺達は同じだ」

 

 つるむ気は無いと言外に告げるが、雷の剣士は問いに答える気が無いらしい。

 

「得がないというのなら、君もあの人々を守る必要はなかった筈。

 それでも君はその身を傷つけてまで彼らを守り切った────違うか?」

 

 それどころか逆に問い返されて、あたしはまたも言葉を紡げなかった。

 

「とはいえ言葉を重ねても信じられはしないだろう。だから言葉ではなく行動で示す。

 俺の想いに懸けて、背中を預けるに足る剣士だと証明してみせる……!」

 

 ここに来るまでの経緯は知らないが、こいつは損得関係なくあたしを助けるという。

 信じられるか……と言いたいところだが、確かにあたしは石像を守っていた。

 損でしかなくとも……誰も死なせたくなかったのだから。

 

「……だったら合わせろよ。ここで足引っ張ったら承知しないぞ?」

「君こそ、無理をして隙を突かれないようにな」

 

 ……一旦追及するのは止めだ。

 言葉にされたって過去がちらついてしまう。ならこいつの言う通り、これからの行動で真実かを見定めてやる。

 

「協力したところで、アタシ達三姉妹に勝てる訳────」

 

 そうしてようやく態勢を整えた段階で敵の一体が攻めてくるが、そこへ炎の剣士が割り込みを掛けた。

 

「俺の事も忘れないでくれよッ!」

「妹に手ェ出すな!」

 

 二刀の個体と斬り結ぶ炎の剣士にまた別の個体が攻撃に移る。

 奴は周囲の瓦礫を、蛇の髪で掴んでは投げ付けてきた。

 

「だったらしっかり戦ってみな!」

 

 だがそんなもん、あたしの弾に比べちゃ豆鉄砲みたいなものだ。

 

「やっと解禁のミサイルパーティー。存分に喰らいな!」

 

 解き放ったミサイルは瓦礫に誘爆し、その爆炎すらも突き抜けて二体のメデューサに落ちた。

 舞い上がる爆風に呑まれて転がる個体を余所に、最初の個体は尚も立ち上がって鞭をしならせる。

 

「ガッ……! いいわねェ…やっぱり貴女のお弾き、良い刺激になりそう♪」

「……真正面から見るなよ! あいつは眼が合った奴を石にする!」

 

 奴に対して剣を奮うのは雷の剣士。

 

「肝に銘じる…!」

 

 咄嗟に助言すれば、手短な返事と共に戦場を駆け抜けていく。

 一秒と経たずに距離を詰め、メデューサの胴へ一突き。

 そこから振り上げた二撃目に続けて、左回りの蹴りを浴びせてみせる。

 

「やるじゃない…。────だけどォ!?」

 

 流石に今のは堪えたらしい。

 それでも食い下がろうとするメデューサだが、そんな奴へ不意のお届け物が投げ付けられる。

 

「ギャアアアアア……!?」

「ドラゴンワンダー!」

 

 炎の剣士が呼び出したドラゴンに運ばれ、二体のメデューサは激突。

 あっけなく体勢を崩された奴の隙を、雷野郎は見逃さなかった。

 

《必殺読破!》

 

 剣を抜刀したあいつはとったのは居合の構え。

 

《アランジーナ・一冊斬り!》

 

「トルエノ・デストロータ」

 

 一連の流れは動きすら捉えさせず───メデューサが起き上がった瞬間、勝敗は決していた。

 

 ほんの一瞬を突き抜けて、稲妻の一閃が奴を斬り捨てる。

 足を止めた雷野郎は相手を見る事すらせず、残心の後に剣を掃った。

 

《サンダー!》

 

「────これで話は終わりだ」

「ワ、ワタシの獲物がァァァァア───!!?」

 

 一文字に刻まれた傷から盛大な炎が巻き起こる。

 何をされたかも判らないまま、最初の個体はその身を砕けさせた。

 

「ど、どうなったんだ俺達…」

「確か、ここで何か変な物を見た気が…」

 

 すると程なくして石像が輝き、その姿を人間に変えていく。

 ……本当に人が石になってたんだな。

 一発も流れ弾が当たらずに終わった事に、あたしは思わずほっとひと息ついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ば、化け物ォ!!?」

「いやァァァ! 何よあれェェェ!?」

 

 だがその安心も、目覚めた一般人の反応に一発で掻き消される。

 あいつらは揃いも揃って、半狂乱を起こし始めたんだ。

 

「ダメだ。あいつら逃げようとしないぞ…!?」

「先に奴を倒したのは失敗だったか…!」

 

 石にされた間は記憶も飛んじまってるらしい。

 あいつらにすればいきなり化け物が出てきたようなもの。パニックのあまり叫ぶどころか、脚も竦んで逃げられずにいる…!

 

「……そうだ。どうせならアイツ等をもう一度利用してやろうか」

「ヒッ!」

 

 そして追い討ちを掛けるようにメデューサが一般人達を睨みつけた。

 幸いにもまた石化される事はないが、相手の眼光にビビっちまって余計に逃げられそうにない。

 

「ほゥら喰らいな!」

 

 二刀を携えたメデューサがあたしらに斬りかかってくる。

 相手取るのに苦労はしないが、もう一体は何を……ッ

 

「フッシャァァァ……!」

「なにっ!?」

 

 嘘だろ……あいつ、巨大化なんてできたのか!?

 その全長はビル4階分はある。ただ二体で来るだけなら防ぎきれるが、あの巨体じゃ進路を塞ぎきれない。

 

『おぉおぉ、ガタガタ震えて。そんなにアタイが怖いかい?』

「く、くるな…」

『言う事を聞いてやる気はないねェ。

 他に手を出すのは小娘を始末するのが条件だなんて言われたが、こうなれば知った事じゃない』

 

 案の定たった数歩で一般人の下に辿り着いた上、よりによって特に怯えていた双子の兄妹を標的に定める。

 

「い、いやぁぁ…」

「クソッ、そこを退けよ!」

 

 すぐにでも助けに行かなきゃマズい。だが二刀のメデューサは一体でも上手く立ち回り、巨大な姉妹への攻撃を的確に塞ぎやがる。

 

『決めた、まずはお前だ。

 精々泣き叫んで、血を撒き散らす様を奴らに見せつけるんだよ』

 

「やめろォォォオ!!」

 

 炎の剣士が叫ぶもそれで奴が止まる筈もなく。怪人の魔の手が小さな少女へと伸ばされ───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だらしがねぇぞ。お前ら」

 

 ───寸での所を、一本の腕が塞き止めていた。

 

『な……にィ…?』

「俺の前で子供に手を出すとは、舐めた真似してくれるな……!」

 

 そいつは岩のように無骨な鎧を身に纏い、仮面はオレンジのバイザーを剣がかち割ったような意匠だ。

 見るからにパワータイプといった見た目だが、そこに秘められた力は見かけ以上。

 なにせあの巨体に押されるどころか互角のまま、腕一本で幼い兄妹を守り切りやがった……!

 

「吹っ飛びな」

 

 さらに背中に背負っているのはあたしの身の丈もある重量級の大剣。

 それをもう片方の腕で握り締め、メデューサへと一思いに振り回す。

 

「ガァ───!?」

 

 あの贅力で繰り出される一撃がどれ程のものか。それは怪人の様が示していた。

 途轍もない光景にあんぐりと口を開けてしまうが、驚く暇もなくその剣士はあらん限りの声を張り上げる。

 

「いつまで腰抜かしてやがんだ! 死にたくなければさっさと逃げろッ!!」

 

 鼓膜が裂きかねない怒号に、狼狽えてた連中も流石に気を持ち直したようだ。

 すると徐々に悲鳴が上がり、やがて幼い兄妹以外の全員が脇目も降らず逃げていく。

 

「あ、貴方は……」

「お前がソフィアの言ってたセイバーか。

 悪いがお前らの相手は後だ。まずはメギド達をぶった斬らねぇとな───!」

 

《玄武神話。土ゴーン!》

 

 それを見届けた剣士はライドブックを読み取らせ、重厚な音楽をBGMに剣を大振りに構える。

 そうすれば奴を中心に、聖剣をさらに巨大化させたようなオーラが刀身を包んだ。

 

「大・断・断!!」

 

 そして技の名と共に、一気に振り抜く。

 この過程を見ていた雷野郎は、何やら慌ててあたしの肩を掴んで

 

「まずい、伏せろ……!!」

「うおッ!?」

 

 そのまま自分と一緒に地面へと伏せさせる。

 いきなりの事に文句を言ってやりたかったが、直後に瞳に映った光景にあたしは二の句を告げられなかった。

 

「あ……アァァァァ!!!」

 

《会心の────激土乱読撃! 土ゴーン!》

 

 巨大なオーラの刃を喰らい、二体の怪人は一たまりもない。

 射程も威力も桁違い。あれだけ苦戦した連中を、あの剣士はその技だけで消し飛ばしていた……。

 

「尾上さん、すいません。助かりました…」

「今回は詰めが甘かったぞ、賢人。

 へっぴり腰のあいつらも情けなくはあったが、これじゃあ危なっかしいたらありゃしないぜ」

 

 起き上がった雷野郎は剣士へ礼を言い、粛々と忠告を聞き入れている。

 見た感じあいつの方が先輩なのか…。

 確かにあいつは一撃の重さならカリバーにも匹敵……いや、越えてるかもしれない。そんな相手なら相応の経験を積んでておかしくねぇ。

 

 そうして剣士達の会話に耳を澄ませていると、例の兄妹が不安げに大剣の剣士を見上げているのが目についた。

 どうするつもりかと見守っていれば、あいつは二人の視線に気付き、腰を下ろして目線を合わせてやる。

 

「もう大丈夫だ、怖い怪人は俺が倒してやった。だからそんな怖がらなくて平気だぞ?」

「ほんと…?」

「ああ、何たって俺は最強の剣士だからな。俺に掛かればあんな奴らイチコロよ!」

 

 そのまま二人の頭を撫でて、不安を取り除こうと快活に語り掛けていた。

 

「賢人、あの人は一体誰なんだ?」

「あの人は尾上亮。土の剣士『バスター』である俺の先輩だ」

「……あいつが土の剣士」

 

 ……剣士ってのはどいつもこいつもお人好しなのか。人のよさそうに子供へ語り掛ける姿は、大人への不信感が残る身でも思うところがある。

 少なくともあの光景に嘘はない。

 初対面でもそう思いそうな説得力をあの剣士は漂わせていた。

 

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