聖刃伝唱シンフォギア -語り紡ぐ交響曲の果て- 【改訂版】   作:野鳥

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今回はクリスの視点と、ようやく捕まった響の視点。
あれから一週間。フィーネのアジトで響はどうなっているのやら?


第9章 1節 罅割れる撃槍、届かない声

 窓から日差しが差し込み始めた朝。十字架のような装置に繋がれたわたしの絶叫が屋敷に響き渡った。

 

 

「ガ……アァァァァァァァァァァァァァァ!!?」

 

 途方もない電流が身体中を駆け巡る。

 いたい………いたいイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイッ!!!

 それは血液の一滴まで焼き続ける拷問。

 弱音を吐きたいのに、痺れる舌はまともな言葉一つ喋らせてくれない。そんな様子を目の前の女は愉しげに眺めていた。

 

「ほう、この電圧にも耐えてみせるか」

「ハァ…ヴ、ウォ……ェ…」

「驚異的な耐久力だ。やはり理論値以上の結果を引き出している…」

 

 何かの装置を動かして、フィーネは今の様子をデータに落とし込んでいる。

 ……今ので死ねたのなら、ここまで苦しむ必要はなかったんだろう。

 その数は軽く二十を超えている。もう数日は飲まず食わずの中、今日まで数多くの実験に晒され続けてきた。

 

「思えば不可思議な点ばかりだった。

 歌を介さずに戦えるだけのフォニックゲインを生み出し、その高まりはネフシュタンさえも砕く数値を叩き出す。いくら融合症例とはいえ原因をガングニールの破片のみとするのは、過去の研究に唾を吐くのと同じだ…」

 

 こいつは死に至るギリギリのラインを見極めて実験を行っている。

 そうまでしてわたしの力に興味があるのか…。それは何故と考えようにも、電流で頭を搔きまわされて息をするのもやっとだ。

 

「調べてみれば、お前というサンプルは貴重どころでは済まない価値があった。

 まさかその身にあのようなモノが育っていたとはな…。

 完全体になればネフシュタンすら凌ぐ脅威になるやもしれんが……我が手中にあればそれも意味を成さない」

 

 ───さらにフィーネの瞳がわたしの思考を凍らせる。

 こいつの眼は"人"を見ていない。体のいい実験動物……或いはいつでも使い潰せる家畜だと他人を見下している。

 そんな奴に命を握られているという事実が、ゾワリと背筋に冷たい感覚を走らせた。

 

「……ッ」

「フフ、恐れが見えるぞ…。いくら人並外れた力を手にしようと、心はか弱き少女のままだな」

 

 いざ命の危機が迫れば、どれだけ解放されたくても恐怖が勝る。

 いつになったら終わるんだろうか。自分では答えに辿り着けないなら、知る術は一つしかなかった。

 

「何が…じたい、の。ごんな、真似を…じてまで……」

 

 教えてくれるとは思えない。

 ただ少しでも、次の実験まで時間を引き延ばせればと問い掛けて

 

「本来答える必要はないが、今の私は気分が良い……だから特別に教えてやろう。

 現在の人は醜く見るに堪えない世界を創り上げている。だからこそ私があるべき姿に戻すのだ」

 

「ぜがい、を……?」

「だが剣士共といいメギドといい目的を達するには障害が多い。故に貴様のデータを足掛かりとし、全てを滅する力を手に入れるのさ」

 

 すると意外にもフィーネはすんなりと目的を明かしていった。

 ただわたしを足掛かりに全てを滅する、というのはあまり要領を得ない。今までの実験だってわたしを痛めつけるだけだったのに、これで何を手に入るっていうの……。

 

 ───と、上機嫌なフィーネの表情は一瞬苛立たし気に変わる。

 広間にはアラームが鳴り渡り、朝の実験の終わりを告げていた。

 

「そろそろ出る時間ね……仕方ない。

 奴の始末を命じる必要もあるし、残りは私が帰ってからにしましょうか」

 

 とはいえそれもすぐに切り替え、奴はまるで人の良さげな仮面を被って部屋を跡にする。

 残されたわたしは十字架に繋がれたまま、あいつが戻るのを待つ他に無い。

 

 ……こんな時が一体どれだけ続いてるんだろう。

 もう時間の間隔すら曖昧だ。一日の感覚も実験が行われるか、行われないかの差しか感じられない。

 だからといって逃げようにも、実験は毎回わたしの体力を根こそぎ奪っていく。変身しても待ち受けているのはフィーネかカリバー。どちらも一人で相手取るのは無謀な奴ばかり…。

 

「め、いさん…───とうま、さん……ッ」

 

 弱音を吐きたくても、あいつはそれを嘲笑ってくるだけ。

 だから誰かに届いてほしい声(SOS)も、独りきりの牢獄で吐き捨てるしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「改めて俺が尾上亮、土の剣士『バスター』をやってる。よろしく頼むぜ」

「さっきは助けてくれてありがとうございます」

「いいってことよ。丁度ソフィアからも救援要請が来てたしな……っと!」

 

 あたし達の前に現れた土の剣士は、変身を解いて仮面の下を晒していた。

 青のロングコートに隠れながらも、戦う者らしく引き締まっていると判別できる身体。さらに巨大な剣を背中に担いで体幹がぶれない辺り、あの剛力は聖剣だけじゃなくこいつ由来なのが見て取れる。

 

「ちちうえ~!」

 

 そうして土の剣士を観察していたが、突然小さな子供がこちらへ走り寄ってきた。

 

「「ちちうえ…?」」

「おぉ、そら! 見てたか俺の活躍?」

「うん、ちちうえかっこよかった!」

 

「あ、あれ……あいつの子供か?」

 

 そいつを抱き上げ、土の剣士は豪快に笑いかける。

 会話の内容で二人の関係性は察せられたが、衝撃が大き過ぎて思わず雷野郎へ問い掛けてしまう。

 

「あの子は尾上さんの一人息子でそらと言うんだ」

「…つまり子連れ剣士ってか? 戦場に子供を連れてくるなんざ……」

「今日は一緒に墓参りへ行った帰りに急いで来たんだ。あんまり目くじら立てないでくれよ」

「どうだか…。万が一があったらどうする気だ?」

 

 …こいつの評価は若干落とすべきか? なにせ子供を戦場に近付けるなんて、不慮の事態を思えばやっていい訳がない。

 あたし自身の経験もあって自然と語気も荒くなってしまうが、当事者の子供はこちらの態度がご立腹のようだ。

 

「ちちうえをわるくいうな~ッ!」

「ほれほれ怒んなって…。

 ま、嬢ちゃんの言う事は最もだが、俺の傍で万が一は起こさせねぇよ。なにせ俺はソードオブロゴスじゃ、最強の子育て王で通してんだからな」

 

 あたしに怒る子供を宥めて、土の剣士は自信を以てそう宣言してみせた。

 …一応の自覚はあるらしいな。

 カリバーの強さを知ってる分、『最強』という称号には胡散臭くはあるが……万が一を起こさせないという言葉に嘘がないのを祈るばかりだ。

 

 そこでふと隣から反応が飛ばないのに気付く。どうしたのかと振り向いてみると……炎の剣士は何故か顔を俯かせて唸っている。

 

「…? おい、炎の剣士……?」

 

「世界を守るベテラン剣士の実態は、常に子供と共にある最強の子育て王。

 ……面白い題材になりそうだ…けどッ!!」

 

「悩むな! 話なんていつでも訊けるだろ!?」

 

 そしたらこいつ、好奇心に心惑わせてやがった…!

 何してんだこいつは……今は自分の興味よりあいつの話だろうが!?

 

「いや、こんな面白そうな話は頻繁に転がってこないよ。

 だから今すぐ話を訊きたい。でも響ちゃんも助けたい………心が二つあるッ!!」

「残念そうに言うな! はっきり助けると言ってやれッ!?」

 

 怪人と戦う前はバッチリ決めてた癖に、ちょっとでも興味が惹かれるとこの様か…。今になって信じたのは間違いだったかと、自分の選択を後悔しそうになる……。

 

「おい賢人、こいつ大丈夫か…?」

「これでも凄い一面もある奴なんです…。何でもフィーネに目覚めた人物を突き止めたようですから」

「……あの様で?」

「あの様でです」

 

 あたしらの会話を見守る二人もこの言い様だ。……ったく、助けるって言ったんだから終わりまで筋を通せっての。

 

「あんなに呆れられてちゃ話を聞くもねぇだろ…。さっさとやる気出して名誉挽回しとけ」

「そう言われたら立つ瀬が無いな………んっ?」

 

 気を引き締めるよう苦言を零して間もなく、土の剣士から奇怪な着信音が流れてくる。

 

「ソフィアか。どうした?」

『バスター、突然ですが新たにメギドの結界が確認されました』

「なに? 今二体も倒したばっかだぞ?」

『こちらも確認はとりましたが、出現したのは間違いありません。救援に出向いたばかりで申し訳ありませんが、再び対応願います』

「しょうがねぇな…。場所はどこだ?」

 

 どうにも剣士の総本山かららしく、新しい怪人への対処を土の剣士に頼んでいた。

 ついさっき倒したばかりでまた現れたってのか…。詳しい生態は知らないが、奴らは剣士共を休ませるつもりがないらしい

 

 ───なんて、どこか他人事のように考えていたが……

 

「俺は尾上さんに着いていく。飛羽真はフィーネの件を対処してもらって…」

「……その必要はねぇよ」

 

 続けて通信から流れてきた情報を耳にし、反射的にそう呟いていた。

 怪人共が現れたというのは、あたし達を取り巻く状況に一番相応しい場所だったから。

 

「メギド───怪人が現れたってのはフィーネのアジトだ」

「なに?」

「いいの? 喋りたくなかったんじゃ───」

「……ここまでされといて、何もしませんで済ませたくねぇんだよ」

 

 助けるつもりはなかった筈だ。それにフィーネや……カリバーと向き合う勇気はまだ定まっていない。

 けれど今日だけで三回。……あいつの事も含めれば、こいつらには四回もの借りがある。

 最初は知らんぷりを決め込んだ身だが……ここまで素知らぬ顔でいられる程、あたしは白状になれない性分らしい。

 

「さっさとあいつを助けるぞ。それでお前らとの借りもチャラだ」

 

 まずは融合症例を助け出す。

 奴らとの因縁も、こいつらを信じるかどうかも。全てはそれをやり切ってからだ───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 同時刻、二課の本部にて。

 司令室は新たなメギドの出現を感知し、臨戦態勢に突入していた。

 

「場所の特定完了しました。画面に表示します」

 

 オペレーターの調査によりメギドの起こした結界の位置が表示される。その情報を元に作戦を組み立てる中、流れを遮って了子が発言した。

 

「…弦十郎君、少しこの場を離れるわ」

「どうした? これから作戦を纏める必要があるが」

「本部の設備強化で纏めなきゃいけない資料が多いのよ。

 ここから時間が潰されると残業になっちゃうし、第一あなた達なら私が抜けても問題ないでしょ?」

 

 そうして申し出た発言というのが自分の仕事を終わらせたいという旨のもの。

 これから戦いという場面には似つかわしくないと、傍で聞いていた翼は眉を顰めてしまう。

 

「櫻井女史、これから戦闘だというのにそれは……」

「……構わん。行ってくるといい」

「マジで言ってんのか、ダンナ?」

「了子君は何も仕事を抜ける訳じゃない。ただ必要があれば司令室に呼び出す……それでいいな?」

「もちろんよ。じゃ、早めに資料を纏めておくわね」

 

 彼女等の態度を踏まえつつも、弦十郎は了子にGOサインを出す。そうして了解を得られたからと了子は司令室に背を向けた。

 

「弦十郎さん、よろしいんですか? 些か対応が甘いのでは……」

「聖遺物の専門知識を要しない範疇でなら俺達でも対処は可能だ。

 それに彼女の本分は研究職。司令室に引っ張りだこになるよりは、自分の領分に精を出せた方がいいさ」

「そうかもしれませんが…」

 

 彼女を見送る装者達には不満げな心情が見え隠れしている。それを慮っての倫太郎の苦言も、弦十郎は憮然とした態度で受け流すのみだ。

 

 そうした態度を貫ける訳も、彼女の独断を許す理由も周囲の人間は理解できなかった。

 まず了子は作戦行動中、聖遺物研究の観点から敵を分析する役目も担っている。彼は専門知識を要さない範疇ならと零したが、二課の存在理由からして()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。

 

 司令たる身でそれを理解していない筈もなく、ならば今回の行動の意図とは?

 室内に疑念と困惑が漂う中、一本の着信音が弦十郎のポケットから鳴り出した。

 

『弦十郎さん、神山です』

 

 発信元は飛羽真からだ。彼は二課ではなく、弦十郎の通信端末へ直接通話を掛けた。

 それが公に聞かれたくない話である合図と勘付き、彼は内容を悟られぬよう注意を払う。

 

「…どうした? そちらにも結界の出現は通達されていると聞いたが」

『フィーネのアジトが判りました。場所はその結界が張られているエリアです』

 

 するといきなり飛び出したのは今回の作戦の重要度を決定づける情報だった。

 

「一体どこでそれを?」

『例のネフシュタンの娘です。彼女の証言で場所の特定が出来ました』

「あの娘か……」

 

 イチイバル───響が連れ去られた戦闘で見られた聖遺物の波長から、例の少女が飛羽真達と戦いを共にしたのは周知されている。

 一時的な協力態勢を築いたと見ていたが、そこから情報を訊き出すまでに彼らは信用を得ていたようだ。

 

『俺は必ず彼女を助けます。だから弦十郎さん、貴方にも全力を尽くしてほしいんです』

 

 この時点で飛羽真達は十分な成果を上げたと言える───が、まさか自分に忠告を入れてくるとは予想できていなかった。

 

「手を抜いてるつもりは、ないんだがな」

『ですが気付いてる筈ですよ。あの人がフィーネなんだと』

 

 返事が詰まり気味になのも気付かぬまま、続けて放たれた話に弦十郎は返答を窮してしまう。

 

『弦十郎さんなりの考えがあるのかもしれません。ですが動くべき時は……響ちゃんを助けられるのは今しかないんです』

 

 飛羽真にとっては身近な存在の命が危ぶまれる状況。解決を急ぐのも当然で、そこに他者の思惑を考慮する必要はない。

 そんな単純な事実を弦十郎は、自分でも気付かないまま頭から追いやってしまっていた。

 

『今、ソードオブロゴスから入手したデータを送りました。貴方が誰かの為に戦える人だと信じて……それを託します』

 

 話の内容からして、彼も弦十郎の抱える矛盾に気付いている筈。

 それでも飛羽真は責めたりはせず、逆に自分へ決定的な証拠を添えて通信を切った。

 

「……言われてしまったな」

 

 弁明をするのなら、彼は決して決着をつけないつもりはなく。

 しかし……ここまでフィーネを泳がせてきた事が、事態を延ばしていないかと問われればNoとは言えない。

 

「司令?」

 

 様子を訝しんだ翼達の顔を見やり、釣られて自嘲気に笑みを浮かべる。

 そして気合を入れ直すべく───次の瞬間、彼は自分の両頬を思いっきり引っ叩いた。

 突然の奇行にどよめく一同に、彼は改めて今回の指令を言い渡す。

 

「今回の作戦は大捕物になるぞ。各員、気持ちを引き締めていけ」

 

 そこに先程まで皆が感じていた違和感はない。

 彼らの瞳に映る風鳴弦十郎は、自らの心に覚悟を灯していた。

 

 

 

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