聖刃伝唱シンフォギア -語り紡ぐ交響曲の果て- 【改訂版】   作:野鳥

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第9章 2節 見えぬ思惑、歩み寄る勇気。

 

 ……あれから何時間経ったのだろう。

 消耗した体力は未だに回復しきらず、重い倦怠感が身体に付き纏っている。フィーネは未だに帰っては来ないが、ここから逃げ出す機会は見えないままだ。

 

 考えてもしょうがないのに自分を取り巻く状況に思考を割いていた。

 そんなわたしへ近付いてくる一つの影が視界に映り込む。

 

「何の、用…? あんたも……わたしに、何かする…気?」

『強がっても意味はない。目に恐怖の色が浮き出ている』

 

 ───影の主、カリバーのバイザーが妖しく光る。

 感情を読めないこちらに対して、こいつはわたしの心を正確に読み取っていた。

 

「ッ……」

 

 ……そうだ、わたしはこいつらが怖い。

 何日にも渡って実験体にされた恐怖はすっかり心を覆い尽くしてる。カリバーはその間手を出してこなかったが、それは何もしない確証になり得なかった。

 誰かを傷つける奴が『やめて』と言って止めた試しはない───身を以てそれを知っているからこそ、頭を過ぎる憶測で身を震わせてしまう。

 

 カリバーは腰にぶら下げた聖剣に手を翳す。

 嫌だ………イヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだッ!

 目前に迫る死へ心が悲鳴を上げる。けれど相手の放つ威圧感に、喉すら掠れて声を上げられない…!

 

 そうして奮われる刃(自分の末路)を直視できず、わたしは思わず目を閉じてしまう───

 

「えっ……」

『お前の物だ。私が出た後に着るといい』

 

 次に感じるのは血が抜け落ちていく自分の感触。

 そう考えていたのに───実際に感じたのは、手足を封じていた鎖が飛び散る感覚だった。

 

「なんで……わたしを、助けて…?」

『屋敷の近辺に敵が来ている。逃げる機は今しかないだろう』

 

 顔を上げればカリバーは既に刃を収めている。しかもわたしの傍には、()()()()()()()()()()()()()()()()()が置かれていた。

 まさかと目の前の光景を否定しそうになる。こいつがわたしを助ける理由が思いつかなくて、だけど口にした疑問に彼は答える様子を見せない。

 

『理由を話す気も味方をする気もない。

 次に会った時はまた敵同士。私から言う事は、また鎖に繋がれたくなければ屋敷を出ろというのみだ』

 

 一方的に要件だけ告げて、闇の剣士は部屋を去ってしまう。

 相手の意図はさっぱり解らないままだ。わたしを助けてあいつが得をするとは思えない。

 

 でも───ここから逃げられる。その事実が恐怖に竦んでた心を奮い立たせた。

 戻れるんだ。また前のように、あの人達と笑える日々に…。

 そう思えばやる事は一つしかない。わたしはすぐに目の前の服へと手を伸ばした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 かがり市街から離れた山奥に一冊の本が出現する。

 開かれた頁が光り輝けば、そこから飛羽真達四人が飛び出していった。

 

「ここにフィーネのアジトが…」

「ああ、山に向かって進めば湖の傍に屋敷がある」

 

 クリスの説明を受けて飛羽真・賢人・尾上の三人が山を見据える。

 その先に目的の場所───響が捕えられた屋敷があるのだ。

 

「……飛羽真、俺はお前達とは別の道を行く」

「ここまで来て急に何言ってんだ?」

「…お前、まさか一人でカリバーを追う気か?」

 

 しかしそこで賢人が別行動を宣言する。

 クリスは訝しむ横で、尾上はカリバーを探すつもりかと問い詰めた。

 

「倫太郎や装者達と合流するつもりです。

 尾上さんがこちらにいる以上、俺があちらにいく方が万が一に備えられる筈だ」

「…任せていいんだな」

「ああ。信じてもらっていい」

 

 賢人は真っ当な理由を告げるも、尾上の顔は尚も優れない。クリスも半信半疑で見守るといった体で、形勢は彼に不利かと思われる中───飛羽真は一人、彼の言葉を信じた。

 それを楽観的過ぎると尾上は忠告しようとしたが、次の瞬間賢人は足早に森の奥へ走り去ってしまった。

 

「おい、賢人!」

「待ってください。今は賢人を信じて先に進みましょう」

「…ここまでの顛末は聞いてる。お前も、あいつがカリバーと因縁があるのは分かってんだろ?」

 

 尾上は賢人がどんな理由で剣士を志したか知っている。故に今回カリバーと出会った事で彼を一人にはできないと踏んでいた。

 

「賢人と約束したんです。今のあいつならきっと無茶はしませんよ」

 

 しかし飛羽真は自信を持って彼に太鼓判を押す。

 不審げに尾上が眉を顰めるのと対照的に、クリスは彼の発言に思い至るものがあった。

 

「そういや店での雰囲気から様変わりしてたが、それもお前との約束が原因か?」

「ああ、君が飛び出してから賢人と話し合ったんだ。その時約束したのが───」

 

 彼女の問いに飛羽真は賢人に変化が起きた経緯を語り始める。それを語る彼の瞳は、賢人が消えた木々の先へ向けられていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───同時刻、彼らがいるのとは別の地点で激しい剣戟の音が鳴り響く。

 

「オリャアアアアアアア……!」

 

 挑むのは倫太郎・奏・翼の三名。

 立ちはだかるのは、屋敷を守るカリバーただ一人。

 

「ふんッ!」

「ッ……!」

 

 ただ数の優位を以てしても、闇の剣士に拮抗すらできていなかった。

 奏と翼が連携による絶え間ない攻撃を繰り出すも、彼の剣技は鈍る事なく全てを打ち払っている。

 

《ライオン、フムフム》

 

 これを良しとしない倫太郎がライオン戦記を流水に読み込んだ。

 

「そこッ!!」

 

《習得一閃!》

 

 そこから放たれる水の斬撃は一直線にカリバーへと突き進む。迎え撃つカリバーは何ら技を用いずに斬撃へと刃を奮う。

 すると衝突した水流は急激に勢いを落とし、一刀の下に両断される。

 水飛沫を浴びるカリバーの鎧には傷は一つとして付いていない。

 

「これすらも捌くか……」

『数で来ようが、お前達に私は止められない』

 

《ジャアクリード。ジャアクイーグル

 

 たじろぐ三名を余所に彼は必冊ホルダーから新たなライドブックを取り出す。

 空を往く鷹を描いた赤い表紙のライドブック『STORM EAGLE』。これを読み込んだ闇黒剣暗闇から炎の竜巻が倫太郎達へと放たれた。

 

「がぁ……ッ!」

「くっ…」

 

 防御する間もなく竜巻に呑まれ、身体を焼く炎の乱気流に苦悶の声が上がる。そうして竜巻の消え去った後には、身体中から煙を噴き上げる三人の姿があった。

 

『お前達に用はない。命を失いたくなくば立ち去れ』

「そうは、いかないッ。お前達から……まだ立花を取り戻していないからな…」

 

 スーツの防護は抜かれていないが、全身を焼かれる感覚は彼らの体力を大幅に削り落としている。

 玉のような汗が流れる状態。徐々に劣勢が見えながらも闘志は未だ健在だ。

 

「それに僕はソードオブロゴスの剣士として、貴方と決着をつけなければなりません……」

「負けたままでも終われねぇよ…。あんたに勝って、仮面の下を覗かないとなッ」

 

 彼らはそれぞれに覚悟を決めてこの戦場へと乗り込んでいる。故に刃を下ろすのは勝敗を決した時以外にあり得ない。

 

「なら、俺も手伝わせてくれないか」

 

 ただこのままでは苦境のままでしかなく。そんな状況を打破すべく戦場に乱入する者がいた。

 

「賢人…!」

「お前、あいつらと一緒にいたんじゃないのかよ…?」

「援軍に来たんだ。少しは喜んでくれていいんじゃないか」

 

 冗談を飛ばしながら歩み寄ってくる賢人に、奏は胡乱な目を浮かべる。

 彼女が危惧しているのはデュランダル護送での一幕だ。あの戦いで彼はカリバーへ暴走といえる独断専行をしていた。だから以前の二の舞いになるのではと、彼の登場を素直に喜べないでいる。

 

「言っとくが、一人で突っ走ってもカバーできないぞ」

「安心しろ。もうあの時のような無様は見せない」

 

 しかし彼に以前のような焦りは見られない。その様はまるで初めて会った時のように、穏やかながらも確かな戦意を覗かせたものだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───これでいいんだよな、飛羽真。

 

 賢人の脳裏に浮かぶのはメデューサと戦う前の出来事。カリバーの行方を追うあまりクリスを問い詰めようとした彼へ、飛羽真はその理由を問い質さずにいた。 

 賢人とて自分が突っ走っている自覚はある。目の前の奏や尾上のような態度をとられても仕方ないと頭の片隅には置いていた。

 

 だから何故以前のように自分の行動を追及しないのかと、その時の彼は逆に飛羽真へ問い返したのだ。

 

『今でも気になっているよ。賢人がカリバーへ執着する理由は俺も知りたいと思ってる』

 

 関心が無くなったという訳ではない。寧ろ本心では明らかにしたい気持ちは強いのだろう。

 

『だけど訊かない…。いつか賢人が話していいと思える日まで待つ事にする』

 

 それでも彼は賢人を待つ選択をした。

 

『…気になるのは変わらないのに、か?』

『改めて賢人と再会した日にお前は辛そうな顔をしてただろ。

 そういう顔をした人は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()んだ』

 

 飛羽真の言う事は言い得て妙だ。確かに賢人は十五年前から組織にいる者以外に自身の抱える事情を話した事はない。

 それは本当の事を伝えたとして、自分を見る目がどうなるか判らないからだ。

 

『だからいつかお前に頼られるようになってみせるよ。

 まだ皆に頼ってばかりの俺だけど、その時がくれば賢人も勇気を持ってくれるかもしれないから』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな心情を察して飛羽真は彼に時間をくれた。さらに自分達が隠し事なく話せる時がくるのを信じてくれている。

 

『…以前とは佇まいが変わったな。だがそれだけで私に敵うと思わない事だ』

「勝つさ。俺を信じてくれるあいつの為にも」

 

 自分の選択を尊重してくれる、待ってくれる友の有難さ───その実感が彼の心に余裕を与えてくれた。

 

「今の俺に迷いはない」

 

《ランプドアランジーナ》

 

 敵は強大。一人で戦って敵う相手ではなく

 

「変身!」

 

《雷鳴剣黄雷!》

 

 しかしその姿に奏が思うような未来は滲ませない。

 心に友との誓いを刻み、賢人はカリバーへと果敢に挑んでいった。

 

『無駄だと言っている!』

 

《ヒッサツリード! ジャアクドラゴン!》

 

 向かってくる賢人に、カリバーはライドブックを聖剣へ読み込ませて解き放つ。

 

 賢人の道を阻む三日月の斬撃。

 このまま進めばその身を斬り裂かれるのみ。そう理解しながらも賢人は進路を変えず───斬撃に触れるスレスレで斜めに跳び込んだ。

 

「ハァ!」

『なに…ッ!?』

 

 鎧越しに斬撃の余波を感じながらも前に踏み込み、さらに勢いを乗せて距離を詰める。

 彼の誇る稲妻の脚と合わさり、その速度はカリバーをして反応に遅れる程。そこから放たれた突きは彼の鎧を正確に捉えてみせた。

 

『ウォォ……!!』

 

 一歩後退ったカリバーは襲い来る二撃目に剣を振り上げる。

 

 全てを黒く染め上げる漆黒を閃く雷光が照らし出す。

 対極の剣がぶつかり合い、可視化された力のうねりが戦場に荒れ狂った。

 

『グゥ…!』

 

 他が介在する余地のない攻防の最中、賢人は戦況を動かすべく剣を押し込む。

 これに先とは打って変わりカリバーは微動にしない。そして重心を乗せて刃を薙ぎ、彼との距離を離しにかかる。

 

《ランプドアランジーナ!》

 

 ならばと賢人は吹き飛ばされながらライドブックをタップ。空中に魔法の絨毯を召喚し、これを足場に再度カリバーへと飛び掛かった。

 

『貴様…』

「そこッ!」

 

 そうして放たれた蹴りに今度は大きく態勢を崩すカリバー。ここで畳み掛けんと、ようやく回復した翼が技を決めにかかった。

 

《逆羅刹》

 

 脚部に刃を展開。逆立ちからの回転で自ら旋風を巻き起こす。

 咄嗟に闇黒剣を盾に対応するも、間髪入れず叩き込まれる刃にカリバーは徐々に後ろへ押し出されていく。

 

「まだだ…」

 

 しかし、カリバーに焦燥は見られない。

 柄を握る手に力を込めると闇黒剣から闇が迸った。暗紫に染まった刃は翼の脚を受け切り、ピタリと回転を止めてしまう。

 

「ガッ…!?」

 

 そのまま一閃。薙ぎ払われた翼は大きく後ろへ吹き飛ばされるが、そこに空飛ぶ絨毯が滑り込む。

 

「……ッ、すまない」

「気にするな───天羽奏、カバーを!」

「ッ……おう!」

 

 絨毯がクッション替わりとなって衝撃を逃がせた翼。彼女は謝辞を述べるも、悠長に返答する間のない賢人は手短に奏へカバーを指示する。

 すると返ってきたのは間の抜けた鈍い反応。その態度を訝しむも、指摘する前に奏は技の構えに取り掛かる。

 

《LAST∞METEOR》

 

 アームドギアの穂先を回転させ、敵を呑み込まんと放つ竜巻の暴威。対してカリバーは刃に纏った闇を増大させて真正面から気流に挑む。

 一見無謀な対峙は、闇黒剣の切っ先が風に触れた途端に逆転した。

 彼を呑み込んだ竜巻は急速に一点へ集束し、やがて霧散した気流の向こうに風の幕を掃うカリバーの姿を覗かせる。

 

「こいつも吸収しちまうか…」

「ですが、連続で畳み掛ければ…!」

 

 いつかの戦いを思わせる展開だがこれで一つはっきりした事がある。 

 奏の技は全て霧散するのではなく一点に集束していた。すなわち闇黒剣には敵の攻撃を吸収する能力があるのだと。

 どこまで吸収できるのかは判らない。とはいえ吸収した力を吐き出す暇もなく攻撃を叩き込めば、流石に相手も限界を迎えるのではないか?

 

《天ノ逆鱗》

 

「レオ・カスケード!」

 

 その天望を現実に呼び起こそうと、倫太郎と翼の二人が跳び上がる。

 倫太郎は水の力を脚に集約。続けて翼は剣を樹木を越える巨刃に変化させ、同時に柄を蹴りつけてカリバーへと突き進む。

 

「ッ……、グッ…!」

 

 これに吸収した竜巻を刃から展開し、カリバーは再び真っ向から立ち向かう。

 二人の技に闇黒剣は互角に衝突していた───が、時間を経る毎と徐々に綻びが見え始める。

 竜巻の気流が緩み、闇黒剣の刀身が震えだす。

 それに釣られてカリバーの体勢もブレを見せて一歩、後ろへと後ずさっていた。

 

「やはり限界がありますかッ」

「ならばここで決める…!」

 

 奏の技は彼の予想以上に闇黒剣の要領を圧迫していたらしい。

 そこに限界を見た二人はここしかないと、より力を込めて自らの技に磨きを掛ける。

 

『ここで、終われん…ッ!』

 

《ヒッサツリードォ!》

 

 カリバーも負けじとライドブックを読み込み、足りない力を補填しに掛かった。

 その一点で戦況はまた五分に引き戻される。どちらかに傾かず、両者のぶつかり合いが戦場へかつてない負荷を与えていく。 

 

 ───それこそ、眼前の敵以外に意識を避けない程に。

 

《必殺読破!》

 

 聖剣の起動音が周囲に響く。 

 カリバーも己の失策に気付きながら、その対応に意識を裂く事は出来ない。

 なにせそうした瞬間、闇黒剣で塞いでいるこの剣がこの身を穿つだろう───

 

《SAGITTARIUS∞ARROW》

 

「トルエノ・デストローダ」

 

 そうして何もできないままにカリバーの鎧を二条の閃光が斬り捨てた。

 走る火花に鎧は悲鳴を上げ、防備を抜けてダメージを装着者に齎してしまう。

 そして防御の体勢すら保てなくなった彼を、空から降り注ぐ巨刀が突き飛ばした。

 

『ガアァァァァァァ……ッ!』

 

 木々を突き飛ばして森に消えるカリバー。そのまま姿を消した次の瞬間、森の奥から天に昇る火柱が彼らの勝利を伝えてきた。

 

「倒せた、のか……?」

「確認するべきでしょうが……今はまず響さんを優先しましょう」

「そうだな。……二人もそれで構わないか?」

 

 木々に姿を隠された為、本当にカリバーを倒せたかは疑わしい。しかし今回の目的を考えれば、彼の安否の確認に回す時間は惜しかった。

 故に先を急ごうと残りの二人へ翼が投げ掛ければ、どちらも深く頷いて見せる。

 

「あんたはいいのかよ。カリバーと因縁があるんだろ?」

「よくはないが……奴に俺達の剣が通じた、今はそれで十分だ。

 それより君の方こそどうなんだ。そちらもカリバーに怒りを抱いてるように思えたが…」

 

 意外だと奏が賢人を見やれば拳を深く握り締め、彼は勝利を噛み締めている。加えてあちらの方から意表を突かれる問いを返され、彼女はキョトンと目を見開いてしまう。

 

「…もちろんいずれは決着をつけるさ。でも今日は戦利品があるから勘弁しとくよ」

 

 だがすぐに飄々とした態度に切り替え、掌からある物を取り出す。

 そうして見せ付けられた物に賢人は今の質問も忘れて動揺を覚えてしまう。

 

「まさかあのタイミング盗ったのか?」

「そういうこった。さ、次はあいつを助けに行こうぜ」

 

 奏の手にあるのはストームイーグル。カリバーが使っていたライドブックを、彼女は先程の一撃で掠め取っていたのだ。

 その手際の良さは賢人は関心を抱き───だからこそ注意を逸らしてしまった。

 

 一体、彼女が呆けていた理由は何だったのか。

 あの時、その訳に気を配れていれば……今の言葉が本心かどうかもすぐに見抜けていたろうに。

 

 先を急ぐ奏の顔には、行き場のない猛りが漏れ出していた。

 

 

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