聖刃伝唱シンフォギア -語り紡ぐ交響曲の果て- 【改訂版】   作:野鳥

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今回は響とまた別の視点。

多方面にて事件は動いてく───


第10章 1節 消える灯、燃える願い

 

 リディアン音楽院の地下駐車場には二課の関係者に用意された区画がある。

 現在は本部にて作戦行動中につき使われる筈のない場所だが、ここを本来いるべきでない人物が突き進んでいた。

 

「チッ……やってくれたな、物の怪風情がッ」

 

 件の人物───櫻井了子は誰もいない駐車場にて怒りに顔を歪ませている。

 何せ今回の作戦で彼女の予定は大幅に狂わされた。クリスの始末に失敗した事に始まり、よりにもよってメギドの出現位置が了子の根城であったのが最悪だ。

 カリバーもいるとはいえ人数は敵が圧倒的に有利。数に任せた人海戦術を使えば、いくら闇の剣士とて立花響への道を防ぎきれない筈。

 

 ───無理に出てきたが、あれでは自ら怪しんでくれというものだ。

 

 了子は二課の人員、特に弦十郎はその性格故に安く見積もっている。かといって今回の事態で自分の正体に勘付かない程間抜けとも考えていなかった。

 咄嗟に言い繕った方便は自分ですら怪しいという代物。加えて彼女の根城が暴かれる事態となれば、自ずと櫻井了子の正体は白日の下に晒されるだろう。

 

「オイオイ、随分な言い様じゃねぇか」

 

 ならばせめて立花響は確保しておかねばならない

 ───そう思案しながらの行軍は、頭上から振り下ろされた拳で中断される。

 

 驚愕を覚えつつも、ギリギリで転がって拳を避ける了子。

 彼女がいた地点には、コンクリートに深々と拳を突き刺す男の姿があった。

 

「貴様、どうやってここまで立ち入った…!」

「ついにボケが回ってきたか? お前はとっくの昔にオレ達に越されたろうが」

 

 ノースリーブから鍛え上げた筋肉を覗かせる相手は、嘲りを隠さない眼差しで了子を見据えている。

 彼はコンクリートから拳を抜き放つと、まるで爪で引っ掻くように掌を胸板になぞらせていく。

 

「今日までは泳がせてやっただけだ。

 だがお前の顔も見飽きたからよォ……ここで一回死んでおけェ!!」

 

 すると人の皮は剥がれ落ち、内に秘めた野獣の本性が顕わとなった。

 白い表皮に傷の如く蒼いラインが広がった肉体。身体の各所には拘束具が嵌められ、口枷の内には全てを噛み砕く凶暴な牙が封じられている。

 

 その名もズオス───生物のジャンルを司るメギドを束ねる魔人の一人。

 了子の命を奪わんと、その猛威が奮われんとしていた。

 

「ふんッ!」

 

 しかし、寸での所で割り込んだ腕がズオスの拳を受け止める。

 

「ナイスタイミングよ、弦十郎君…」

 

 背に隠れたのを良い事に、了子は声色とは真逆に三日月の如く口元を歪めた。

 そうとも知らずに弦十郎は心配する体で事の仔細を尋ね出す。

 

「どういう状況か、聞かせてもらえるか?」

「そうしたいのは山々だけど、この怪人の狙いは私みたいでね…。できれば助けを呼ぶ時間を貰えれば助かるわ」

 

 だが彼女が正直に答える筈もなく。ただの被害者を装い、状況を味方につけんと画策する。

 その様を憎々し気に見つめ、ズオスは盛大に舌打ちをついた。

 

「ババアのお姫様ごっこなんざ見たくもない…。気色悪いもん見せんじゃねぇ!」

「悪いがお前の機嫌をとる気はなくてな。全力で邪魔させてもらう!」

 

 対する弦十郎の啖呵を口火に二者の戦いが幕を開ける。

 まずは掴む手を振りほどくと共に、ズオスが返しの二撃目を見舞う。それに反応し、彼も迫る脅威へと己の拳をぶつける。

 

 瞬間、重圧が場を支配した。

 ビリビリと衝撃が空気を破き、二人の周囲には深い皹が刻まれる。

 

「へぇ…」

 

 これには不機嫌だったズオスも驚きを禁じ得ない。

 ズオスは人智を越えた魔人、それらを統べる長の一人なのだ。そんな彼と互角の打ち合いを生身の人間が行えるなど本来なら有り得ない事態。

 

 だがそのあり得ない状況がズオスの闘志に火を点けた。

 

「ならこれはどうだァ!!!」

 

 均衡する拳から間髪入れず、全身を駆使した連撃が叩き込まれる。

 その拳一つ一つが人体を破壊せしめる威力の凶器。それを彼は一欠片の動揺も見せず捌き切っていた。

 この流れのままに、弦十郎は攻撃に這わせて拳を打ち込む。

 カウンターに放たれた一撃はズオスの腹をしかと捉えていた。

 

「グ…ガッ……!?」

 

 瞬間、宙を舞うズオスの身体。

 地に手を付いた彼は大きく肩を上下させ、拳を受けた箇所を手で押さえていた。

 

 弦十郎の一撃は明確にズオスへと多大な負荷を与えている。

 了子も彼が人並外れた戦闘力を有しているのは知っていたが、まさか魔人相手に優勢に立ち回るレベルとは思ってもみなかった。

 これがいずれ敵となるリスクも計算しつつも、今は彼が自身を味方と見ている事を幸運という他ない。

 

「良い拳を持ってる…。人間の割にはやるじゃねぇかッ!」

 

 とはいえ相手は人の尺度で測れぬ存在。今の一撃でも決着とならず、短時間で戦闘を再開する。

 

「だがァ! まだ俺の力はこんなもんじゃねぇんだよ!!」

 

 ここからが第二ラウンドと言わんばかりにズオスは両手に一対の蛮刀を呼び出す。

 グウジとジドラ。自慢の得物であるそれを、彼は今回弦十郎へと投げつける。

 

 左右へと弧月を描き、弦十郎へと迫る刃。

 さらにズオスは地を蹴り上げる。そうして天井を蹴りつけ、頭上から彼に飛び掛かっていった。

 蛮刀に対処する間に一撃を浴びせようという魂胆だろう。

 刀に対処できてもズオスの到着まで一秒とない。しかもこれを避けようものなら、その軌道は了子を巻き込むように計算されていた。

 

 彼女を味方と見るのなら、絶対に蛮刀は避けられない。

 そんな目算を前提とした攻撃に、弦十郎は強制的に防御を選ぶ

 

「なっ───」

 

 ───事はなく、自ら了子のいる後方に刀を弾いていた。

 なんのつもりかと問う時間はない。このまま何もしなければ、蛮刀は彼女の胴体を貫くのみ。

 

「ッ……、そういう魂胆かよ…」

「……どうやら正解のようだな」

 

 生き残るには、最早自分で身を護らなければならなかった。

 咄嗟に腕を突き出し、掌から光のバリアを形成する。その光景を見たズオスは振り被った拳を敢えて外し、瞬時に弦十郎から飛び退いていく。

 

 居心地の悪い静けさが戦場に漂う。

 カラン…と床に落ちる蛮刀を踏みつけ、了子は忌々し気に瞳を鋭くさせた。

 

「貴様、いつから気が付いていた…」

「ネフシュタンの鎧が敵に回ってから内部犯の可能性は常に頭に置いていた。特に事件当時、アリバイの薄かったお前は容疑者の最有力だったよ」

「あの日のアリバイに仕込みはしていた筈。まさか防衛省に直接手を入れたと?」

「勿論。……とはいっても、そこまで踏み切る起点を作ったのは飛羽真君だ」

 

 一体何が正体を掴む切っ掛けとなったかを問えば、弦十郎は事も無げに真相を明かす。

 しかしその内容は彼女にとって俄かに信じ難いものだ。

 確かに神山飛羽真はこちらに探りを入れている素振りは見られた。ただあの時の了子はそれを踏まえた上で対話に臨んでおり、決定的な証拠は何一つ晒していない。

 

「彼曰く、お前だけが()()()()()()()()()()()()()ようだな。あの二人(ツヴァイウイング)に対しても、被害者に対しても、何一つ触れる事はなかったと」

 

 だというのに自身へ辿り着いた訳を知り、了子は理屈が判らず訝しんでしまう。

 

「それだけか……? それだけで、あの男は私に狙いをつけたと?」

「……お前にとっては、その程度の事なんだな」

 

 彼女の反応を見やり、彼は残念そうに懐から通信機器を翳す。

 

「それと彼は他に確証がなかった訳じゃない。

 ───かつて彼女に憑りつかれていた人間とお前のDNA鑑定。本来血縁もない人物と合致する遺伝子こそ櫻井了子がフィーネである何よりの証拠だ」

 

 そこには了子の遺伝子と比較されたDNAが表示されている。一見して類似点の見られないが、次々と表示される配列には必ず合致する箇所が見受けられた。

 本人だからこそ理解できる。あのデータは正確であり、映されているのは了子───フィーネが踏み台にしてきた者達に間違いないと。

 

「ブッ───ハッハッハッハ!

 隠れ蓑から叩き出された気分はどうだよ、フィーネ……!!」

 

 これまでも不快だったズオスの嘲りが、今は際立って耳障りに聞こえた。

 

「どいつもこいつも私の神経を逆撫でる…。

 大人しく私の筋書きに沿っていれば、苦しまずに死ねたものをッ!」

 

 湧き立つ激情に任せ、フィーネはネフシュタンの鎧をその身に纏う。

 

「聞いていた通り、お前の本性は随分とねじ曲がっているようだな」

 

 既に退路は断たれた。……そしてそれは弦十郎にとっても同じ。

 

「だったらその奢り、この拳で叩き潰すまでだッ!」

 

 掌に握るは彼の抱いた覚悟。

 必ずここに決着をつけるのだと、二課の司令はかつての仲間へ矛先を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鬱蒼と茂る草が足をとる。

 一秒でも早く先に進みたい。なのに身体中を蝕む倦怠感も合わさり、ちょっとした引っ掛かりで転びそうになる。

 

「ハァ……ハァ……」

 

 それでも踏ん張って一歩進む。

 進んでいけばいつかは望む場所に辿り着けると……そう自分を騙し続けて

 

「どこに、いるの…?」

 

 だけどやっぱり、心の奥底はこの状況に折れかかってる。

 今の状態じゃ歩くだけでも辛くて、どこに行くべきかも定まらないというのに。とても平静を保ってなんていられなかった。

 

 それにいつあの女が戻ってくるかもしれない。あいつの言ってた敵も……あの人達である保障はどこにもなかった。

 

「雁字搦めの檻の中に初々しい旋律と灯が燻ぶる匂い…。ここにいるのはオレとお前だけみたいだ」

 

 そんな不安は最悪にも的中してしまう。

 誰もいない筈の森で木霊した声。驚いて声の主を探せば、姿を見せたのは何度も目にしてきた異形のバケモノ。

 

「メギド…!?」

 

「一括りにすんなよ……オレにはデザストって名前があるんだ」

 

 髑髏の意匠が施された剣を担ぎ、黒い表皮に赤いマフラーを垂らしたメギド。頭は血塗られたように紅い骸骨に覆われていたバケモノが、ゆっくりとわたしの周りを一周して語り掛けてくる。

 

「お前が話に聞いてたシンフォギアって奴だろ?

 せっかくこうして会えたんだ。───戦ろうぜ、愉しい戦いをッ!」

 

 そして足を止めると、ニタリと擬音の付きそうな笑い声を上げて剣を向けてきた。

 突然の強襲。対して瞬時に横へ転がり、わたしは振り下ろされる刃を当たる瀬戸際で避けていく。

 連れ去られる前の特訓が活きたのかな…。

 今の動きで身体は悲鳴を上げているのに、死が迫る中で硬直せずにいられたのは運が良かった。

 

「結構動けるんだな。

 なら変身してみろよ。姿を変えたらどこまでの強さになる?」

 

 デザストと名乗ったメギドは、自分の攻撃を避けられたのを気にするどころか関心すらしている。さらに変身まで促す辺り、言葉通りのバトルジャンキーのようだ。

 

 これはチャンス……と言いたいけど、この身体で変身できるかは正直怪しい。

 それでもやるしかない。変身できなきゃ目の前のバケモノはわたしに牙を剥けてくるだけだろうから。

 

「───ケホッ……コホッ…!?」

 

 一縷の望みを掛けて聖詠を唄おうとして

 ───わたしの喉は一句も告げれずに咳き込んでしまった。

 

「……ん、お前唄わないのか?」

「───ッ、唄えるんだったら唄えてる!」

 

 "唄わないのか"

 その一言がネフシュタンの娘の言葉と重なって聞こえて、わたしは思わず声を荒げてしまう。

 そんな態度に相手も何かを察したんだろうか。怪訝な瞳でこちらを見つめては、困ったように空を仰いでいた。

 

「…お前が旋律を閉じ込めてるのはそういう事か? せっかく面白い相手に出会えると思ったんだけどな───」

 

 落胆混じりの声がわたしの心に刺さる。

 別にこいつの為になってやる気は微塵もないというのに。その態度がわたしの力が劣っている事実を嫌でも突き付けてくる。

 

 唄えなきゃダメなの? なんで唄わなきゃいけないの?

 ただ何も奪われたくないだけなのに、どうしてわたしのギアは何も応えてくれない…!

 

 そうして奴の言葉に気が向いていたのがマズかったんだろう。

 この戦場にもう一人の伏兵が迫っていたのを、わたしは見逃してしまって──

 

「……ッ!?」

「貴様ァ…」

 

 そして突然、眼前で二人のメギドが刃を交えだした。

 デザストがこちらの前に陣取り、相手───紫の表皮が目立つトカゲらしき怪人の攻撃を防いでいる。

 

「邪魔すんなよ。これはオレが目を付けた獲物だ……」

「それは貴様の方だ! 貴様もメギドならオレの綴る筋書きを邪魔するんじゃない!!」

 

 メギド達は言い争いながら剣戟を繰り広げ、互いに相手を斬りつけながら後退った。

 睨み合いとなった両者の様子を見比べれば、どちらも浅くない斬り傷が刻まれている。メギドは苦悶の声を上げるのと対照的に……デザストは見る見るうちに肉を繋ぎ、傷を癒してみせた。

 

「チッ、際立って再生の早い個体か…」

「この程度で苛立つなよ。この程度あの三人で見慣れてんだろ?」

 

 事も無げにデザストは傷のあった箇所を撫でている。

 とはいえあんな治り方は今までになかった特徴だ。わたしからすれば驚く他ないのを余所に、トカゲらしきメギドは目に見えて怒りを剥き出しにしていた。

 

「あろう事かお三方と比べるか。それは死に等しい愚行と知れッ!!」

 

 そして感情のままにデザストへ斬りかかっていく。

 ……状況が掴めなかった。なんでデザストがわたしを助けたのか読めないが、本気であの二人は味方同士じゃないみたい。

 ただこれはチャンスだ。二人共相手に集中している今なら、この場から逃げ出せるかも───

 

「逃がすか!」

 

 だけどトカゲのメギドはわたしを忘れてなんかいなかった。

 この場を離れようとした途端、メギドは背中から無数の棘を放ってくる。

 変身すらできない身では避けられず、わたしは服の至る所に棘が引っ掛かり地面に縫い留められてしまう。

 

「ウッ…!?」

「だからアイツはオレの獲物だって言ってんだろうが…」

「渡す訳があるか。オレも紡ぐべき使命があるッ!」

 

 トカゲのメギドは掌を棘で覆い、ボクシングスタイルでデザストに殴り掛かる。

 対する彼は剣を盾代わりに攻撃を弾く。けれど間髪入れずに奮われる拳の勢いは殺し切れなくて、最後には空へと打ち上げられてしまう。

 

「ッ、クソ……」

「戦うだけならオレに寄越せ……こいつは主に捧げる贄とする!」

 

 相手が体勢を立て直す間にメギドはこちらへ駆け寄ってきた。

 乱雑に持ち上げられて服の裾が破ける。つい顔を顰めてしまうもののメギドが気にする筈もなく、そのまま一跳びで木の上に跳び乗った。

 

「ガ……あ、グっ……!?」

 

 空へ急上昇する衝撃は凄まじく、ガクンと揺さぶられて一気に首が締まる。

 息が詰まる中で見えたのはメギドの顔。

 大きな顎からはさらに別の顔面が垣間見えて、差し込んだ影の奥からは鋭い眼光がわたしを値踏みしていた。

 

「はな……し、て…ッ」

 

 間違いない。この目はわたしを殺す気だ───

 急いで抜け出さないと。

 そう思って藻掻いても、絞められた首からどんどん息が抜けていく。

 

「こいつが例の装者か。贄には申し分ないが、暴れられても面倒だ」

 

 メギドはまた棘のグローブを創り、鳩尾を狙って腕を振り絞る。

 

 ……あぁ、結局ダメなんだ。

 やっと逃げられると思ったのに、どの道ここで殺されちゃうみたい。

 自分の置かれた状況を呑み込む。すると瞳の奥に見えてくるモノがあった。

 

 お母さんにお婆ちゃん、二課の連中、未来、芽依さん───

 これまで出会ってきた人達が。身近な人達の顔が次々と浮かんでは消えていく。

 

 これって走馬灯なのかな…。こんなものが見えるって事は、わたしはもう生きる事を諦めてしまってるんだろうか?

 

「み……ん、なッ」

 

 …………やっぱりイヤだ。

 死にたくない。もう一度皆に会えずに終わりたくなんてない。

 死の淵に立たされたからこそ抗いたかった。もう投げやりになれる程、わたしの心は孤独じゃないんだって気付いてるから。

 

「……あッ」

 

 でも現実は待ってなんかくれない。

 メギドはトドメを刺そうと、振り絞った拳を突き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうして死が迫った矢先の事。

 戦場に轟く騒音に、メギドの拳がピタリと止まった。

 

「なんだ───」

「ハアァァァァァァ……!」

 

 音の根源を確かめようと顔を背けた瞬間、誰かの跳び蹴りがメギドの顔面に直撃する。

 たたらを踏んだメギドは足場を踏み外し、わたしも巻き込んで木の下へと身を投げてしまう。

 

「しまっ……」

「掴まって!」

 

 ふわりと宙に投げ出されたわたしに、跳び蹴りをかました誰かが叫んでくる。

 その声が誰なのか確かめる暇もない。なのにわたしは不安を覚えず、声の主へとすぐに手を伸ばせた。

 

《ブレイブドラゴン》

 

 続けて開かれる、聞き慣れた頁の詠唱。

 そこでようやく誰なのか悟ったのを余所に、召喚したドラゴンを軽やかに踏み越えて彼は地上へと降り立った。

 

「───いっ、てててェ…。この着地って足場があっても痛いんだぁ……ッ」

「囚われのお姫様の前だってのに、締まらねぇな…」

 

 ……ただし軽やかだったのはそこまで。着地した痛みで脚を抑えて、その悶えっぷりは跳び下りてきた少女にもツッコまれる始末。

 でもその姿にわたしは心にこみ上げてくるモノがあった。

 

「とうま、さん───」

 

 だってこの状況でも彼はいつも通りで

 どんな時だって頼りになる、頼りたいあの人のままだったから───

 

「お待たせ」

 

 わたしの視線に気付くと痛みに歪みつつもこちらを振り向き

 まるで自分の事のように。喜びに溢れた笑顔を飛羽真さんは浮かべていた。

 

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