聖刃伝唱シンフォギア -語り紡ぐ交響曲の果て- 【改訂版】 作:野鳥
響ちゃんはどこか安心した心持ちでこちらを見ていた。
その様子に思わず顔が綻んでしまう。でも当の彼女は急に顔を俯かせて、俺の胸板を叩いてきた。
「……ッ! 遅いよ、ばかっ!!」
一体どんな扱いを受けてきたのか。少なくとも何かしらの実験台にされてたのは察せられた。
憔悴しきっているのは一目瞭然で、この力無い拳に想像じゃ足りない程の不安を抱え込んでたんだろう。
……だからこそ今日まで待たせてしまった事が、どうしようもなく俺の力不足を感じさせる。
「ここまで待たせて、ごめんね」
「あたしと戦った時とはえらい違いだな。まるでホントにお姫様じゃねぇか」
不甲斐なさを覚えていた俺と違い、ネフシュタン改めイチイバルの娘は彼女の弱々しい姿に驚いているようだ。
「あんた、どうして……」
「……お前を助けた方がフィーネの鼻を明かせそうだった。それだけだ」
響ちゃんも響ちゃんで彼女が俺達に手を貸しているのが信じられないらしい。反射的に疑問を口にして、少女はフンっと不機嫌に返す。
ただその内容は真意を聞いた身からすればかわいらしいもので……俺の沈んでいた心もほんのり和らがせてくれた。
「助けてくれた借りを返すんじゃなかったっけ?」
「ッ、バカ! 何を口走ってやがんだ!!」
「素直に言っていいんだよ。何も恥ずかしい事なんてないんだから」
「そんなもんあたしの勝手だろ! ……ち、違うからな。こいつの言ってるのはデタラメで───」
ついちょっかいをかければ、少女はアタフタと響ちゃんに弁明し始める。
そんな慌て様もまた心を和ませてくれたけど、反対に響ちゃんはどんどん機嫌が悪くなっていった。
「…いつの間に仲良くなったの」
「仲良くねぇ!!」
流石に戦いの場で気を緩めすぎかな? でもこのムスッとした表情もまた、ここまで奪われていたモノを取り戻せた実感を湧かせてくれた。
そう、俺達がバカやってる時にツッコみを入れてくれるこの感覚。店で頻繁にやってきたこの流れが俺達を取り巻く日常の一頁なんだ───。
「貴様ら、俺を忘れるんじゃない…ッ!」
もう奪わせる訳にはいかない。
その決意を胸に。こちらへ怒りを振り撒くメギドを前に、響ちゃんへと再度向き直った。
「あとは任せておいて。必ずあいつを倒すから」
俺の言葉に彼女は眉間の皺を解いた後、じっとこちらを見つめてくる。
その瞳は不安げに揺れていて……それでも彼女は弱音を吐かず、ただゆっくりと頷き返してくれた。
信じてくれているのかな。俺が必ず勝つって。
……だったらもう不甲斐ない姿は見せてられない。
「変身ッ!」
《ブレイブドラゴン!》
火炎剣烈火を抜き放ち、この身に炎の鎧を纏いあげた。
そしてボウガンを構える少女の横に並び立ち、敵を見据える。
油断なんてできない。するつもりもない。
彼女に届けるのはただ一つ───メギドを倒して、日常へと帰る結末だけだ。
空に消えていくミサイルから降り立った二人を、木に凭れ掛かるデザストは興味深げに眺めていた。
「あれが今の炎の剣士か…」
彼にとって炎の剣士は因縁深い相手だ。
過去に出会ったそれとは使い手が変わったようだが、それでも気を引くには十分な存在となる。
さて、あちらはあのメギドと戦うようだが自分はどうするか?
いっそ乱入して今の使い手の実力を見るのもいいかと思案していると……
「おっと、女を守る為に身体を張るなんて男の大一番だ。お前に邪魔はさせねぇよ」
後方から新たな乱入者の声を彼は耳にする。
「お前の相手は俺だ」
その人物より香る匂いもまた見知ったものであり、デザストは心なしか頬をほころばせた。
「熟れた香りに豪快なパワーを感じさせるこの匂い…。あの時から変わりないらしいな」
「加齢臭みたいに言うな……って、俺ももうそんな歳か」
コロコロと笑いながら告げられた言葉に土の剣士───尾上はムッと眉を顰める。
思わず言い返すも、自身の年齢を考えればもうおじさんと呼んで差し支えない年代。
ここは反論できないと自嘲し、ならばと背に担いでいた土豪剣激土を握りしめる。
「ただ変わりないってのは間違いだ。
あの時よりも強くなったのを、この戦いで見せてやるよ…!」
そうして懐から一冊のライドブックを取り出して頁を開く。
読み上げられるのは、伝説に名高い頑強な甲羅を誇る神獣の伝承。
《玄武神話》
《かつて四聖獣の一角を担う、強靭な鎧の神獣がいた》
読み上げたライドブックを激土に嵌め込み、ゲキドトリガーを引いてから上段に構える。
「変身ッ!!」
『ブッた斬れ! 土豪!土豪!土豪剣激土───!!!』
そして一気に振り下ろすと、四聖獣の力が鎧となって尾上の身体に纏わりつく。
岩を割ったようなバイザーを輝かせるのは、強靭な装甲に身を包む土の聖剣に選ばれた剣士。
《激土重版!
絶対装甲の大剣が、北方より大いなる一撃を叩き込む───!》
仮面ライダーバスターの変身を見届けたデザストは、逸る心の高鳴りを抑えきれなかった。
「ならたっぷり見せてみろよ。お前の強さを……!」
タンッと一跳びで距離を詰めて斬りかかる。対する尾上も風の薙ぐ間に刃を構え切り、両者の剣が火花を散らしてぶつかり合う。
双方の力は互角に釣り合っていた。
微かでも気を抜けば崩れる均衡の中、デザストは刃越しに尾上の力量を計り終える。
「確かにあの時とはひと味違う…。衰えるどころかより深みを増してるな?」
「たりめぇよ。お前みたいなのがのさばるんじゃ、おちおち休んでもいられねぇからな…!」
軽口を吹きながらも尾上の構えに乱れはなかった。デザストとしては増々期待が高まるが、このまま変化がないのも面白味が無い。
「オラッ…!」
ならばと敢えて力を緩め、態勢を崩して土豪剣の刀身を振り切らせる。
そして柔軟に腰を逸らせて当たるスレスレで刃を躱してみせた。
意表を突かれて一瞬間を置く尾上。そこで脚を振り上げて聖剣ごと彼の腕を弾き上げた。
がら空きになる胴体。デザストは着地の後、すかさず一太刀浴びせるも
「……ッ、まだまだァ!!」
尾上は一歩も後退らずに耐えきってみせる。
鎧から火花を散らそうと動きは鈍らず。それどころか上に弾かれたのを利用して、勢いづけた上段斬りをデザストへ叩き込んだ。
「───カハッ、いいねぇ!」
全身を駆け巡る痛みが高鳴る闘争心へ薪をくべる。改めて柄を握り直したデザストは、さらに苛烈を極めて尾上との斬り合いに興じた。
しかし互いに負けじと競り合う剣戟は十、二十…と重なっても決着はつかない。
先行きの見えない決着に、二人は一旦距離を取って睨み合う形となる。
「……ったく、にしても今になってどうして現れた? 十五年前から音沙汰がなかったってのに」
「知りたいか? オレに勝てたら教えてやってもいいぜ」
両者は既知の間柄だが、最後に会ったのは十五年前。それが今になって姿を見せた理由が尾上には見当もつかない。
尋ねてもデザストは愉し気に煽り立てるのみ。しかしその返答は彼にとって好都合だった。
「単純でいい。要はブッた斬ってやればいい訳だ!」
《玄武神話》
すかさず彼は必殺の構え───短期決戦に持ち込もうと仕掛ける。
ここまで優劣がつかない以上、順当にいけば長期戦を視野に入れなければならない。
だが彼の本来の目的は響の救出。下手に戦いを長引かせれば、後に第二・第三の敵と戦うリスクも高まってくる。
ならばそれを回避する為にも、相手が乗ってくる可能性に賭けて尾上は刀身にライドブックの力を充填させ、目の前の敵へと一思いに振り下ろす。
「大・断・断ッ!!」
「カラミティストライク───」
対抗するデザストはこの誘いに───乗った。
望むところと笑い声を発し、愛刀・グラッジエンドを掲げて身体を中腰に構える。
そして迫りくる強靭なエネルギー刃へと回転しながら一蹴りで突撃。
そこから繰り出されるのは回転により気流を巻き込んだ連続攻撃。
まるで嵐の如く剣筋を読ませない技は聖剣の刀身へと叩き込まれ、純粋なパワーなら上回っている筈の土豪剣とデザストの剣を逆転させる。
「こん……のッ!」
彼の猛追で尾上の身体は徐々に押し返され、地面を抉っては跡を残す。
刃が震える。柄を握る指に衝撃が伝わり痺れが走る。
それでも負けじとデザストの刃を受け続け……彼は聖剣からライドブックを取り外す。
《玄武神話、土ゴ土ゴーーン!!》
すかさず二回リード。新たにライドブックの力を注ぎ込み、刀身の強度をさらに重増しする。
「なっ……」
グンッと肥大化した刀身は、今まで自身を押し出していた剣技を塞き止めてみせた。
この事態に狼狽えた声を漏らすデザスト。
だがそれでも技を止めず、両者の剣は周囲を震撼させて激しくぶつかり合う。
「オゥ、ラァァァァァァ……!!!」
《会心の、激土乱読撃! 土ゴ土ゴーーン!!》
火花を散らす激突。やがて肉体に伝わる衝撃が限界を超え、剣を振り切ったと同時に
それぞれ逆方向へ吹き飛んでいく。
「クッ……」
「ぷッ、ハハ……」
雑草が身体に纏わりつく。盛大に土を被って泥だらけになるものの、デザストは腹の底から可笑し気に声を絞り出していた。
「最高だ…。やっぱり戦いはこうでなくっちゃ……」
ふらふらと立ち上がる。尾上もまた土豪剣を支えに腰を上げるが、デザストは彼を一瞥した途端に構えを解いた。
「お前、まさかここで終わりにするつもりか?」
「楽しみはとっておくんだよ…。それにオレの用はもう済んだ」
「なに?」
彼からはもう殺気を感じない。あれだけ戦いたがっていた筈が矛を下ろされ、尾上は仮面の下で胡乱な目をつくる。
ただそんな疑念よりも、彼が視線を向ける先に尾上の関心は移っていた。
「まさかあの嬢ちゃんが……? ───って!?」
デザストの視線はもう一つの戦場───そこで戦いを見守る立花響へと向けられている。
一体彼女に何があるというのか。確かめようとするも、再び振り向くとデザストは姿を消していた。
役目は果たし、残るは飛羽真達の戦果次第だ。
だというのに残ってしまった謎。解き明かそうにも情報が足りず、尾上はドッと肩を落として柄頭に手を置いた。
目の前のメギドへと一直線に駆けていく。
相手は剣を握ってこちらの攻撃に備えていた。
「ハァ…!」
火炎剣烈火の刀身に炎が迸っていく。
メギドの奮う剣に合わせれば、聖剣の炎が刀身を弾いて敵の急所を丸裸にする。
けれど、刃がその身体を斬る事はなく
「このメギド、表面が滑る…!?」
「聖剣に斬られるオレではないッ!」
振り下ろした剣はメギドの身体をつるりと滑ってしまった。
どうなってるんだ…!? 理由を探ろうと聖剣を当てた箇所に目を向ければ……そこは光の反射した水面のように湿り気を帯びていた。
「炎の剣士、離れろ!」
それが何なのか思考を巡らせる前にイチイバルの娘から声がかかる。
即座に飛び退いて後ろを振り向けば、すれ違い様に二基のミサイルが猛スピードで真横を通り抜けていった。
「ちょ……えっ!?」
次の瞬間、盛大な爆発にメギドは呑み込まれる。
……あ、危なかったァ。
流石に巻き込む意図はないと分かってる。……分かってはいても、あんな間近にミサイルが迫れば慌てずにはいられない。
上手く避けられたのにほっと肩を落とすと、さらに少女はマシンガンの引き金を引いていた。
一点に集中砲火が続けられる。響き渡る弾丸の着弾音は、注ぎ込まれる威力の程を想像せざるを得ない。
まさかあれで無事とは思えないけど……
「貴様ァ…」
……嘘だろ、あの爆風を受けて動けるのか?
メギドは炎の中から姿を現して足を踏み出してくる。その姿は所々傷は見られるも、動きに不自然な点は見られなかった。
「メギドってのはどいつもこいつもしぶといもんなのかよ…」
「それに剣も通じない。何とか突破口を見つけないと…」
メデューサの時を思えば、彼女の力がここまで通じないのには理由がある筈だ。
俺の聖剣もそう。そもそもあいつは何故か剣を滑らせる肉体を持っている。
……もしかしてその身体に秘密があるんじゃ?
ならそのカラクリさえ解ければ、奴の防御を貫く事もできるかもしれない。
「そんな暇を与えると思うかッ!!」
だが相手も自分の秘密を掴まれる気は毛頭なく。俺達の会話を聞いたメギドが大きく上半身を振り上げると、身体から大量の針がこちらへ撃ち込まれてきた。
「グッ…!」
「なんだこりゃ……針を撃ってくるトカゲなんて聞いた事ねぇぞ!?」
「トカゲではない! オレは……ええい、とにかく沈め!!」
予想も出来なかった攻撃に意表を突かれ、二人共々直撃を喰らって火花を散らしてしまう。
その時引っ掛かったのは少女の言葉に対するメギドの反応。見た目はトカゲそのものなのにあそこまで否定する理由は何だ?
「……待てよ、あいつの身体って確か───」
続々と放たれる針を避けながら、奴の特徴を思い出す。
確かあいつの身体は妙な湿り気を覚えていた。あれが剣を滑らせたと考えると、あれは余程強力な粘性を備えているのかもしれない。
粘性のある湿り気とトカゲに近い生物。そんな生き物、どこかで聞いたような───
「───そうか!」
思い出した。メギドのモチーフがあの生き物なら、この防御力にも説明がつく…!
「おい……あいつの事、何か気付いたのか…ッ!」
「ああ。そして攻略法もね」
同じくメギドの針を避け続ける少女に俺は自信を持って答える。
「俺の事、信じてくれる?」
とはいえこの方法は彼女の協力が必要不可欠だ。俺の力だけじゃ、奴の肉体を突破するのに足りないものがある。
だからこその問い掛けに少女は逡巡する様子を見せた。
ここまで着いてきたものの俺達はまだ共に戦ったばかりの関係。それで信じられるか考えれば、悩んでしまうのは仕方ないだろう。
「……あたしの鉛弾、上手く使わないと承知しねーぞ」
「───ああ!」
でも彼女はこちらを見ると、強気な顔で発破をかけてくれた。
俺はもちろん即答してみせる。
きっとこの少ない時間でこれまでと今、二つを天秤に掛けたんだろう。その上で信じると言ってくれたのなら、応えてみせなきゃ勝てはしない…!
覚悟を決めて大地を踏み締める。
そしてあちらが再び針を撃つ動きを見せた瞬間、強く戦場を駆け出した。
「死に急ぐか、炎の剣士!」
メギドはこの行動をせせら笑い、撃ち出す針を俺に集約させる。
迫る針へ俺は聖剣を奮う事も、避ける事もしない。ただ一直線に走り続けてメギドへの距離を詰める。
当然そうなれば針は俺の鎧を捉えるだけだ。針の大群は今にもこちらを襲おうと迫る中───後ろから吹き抜けていく弾丸の層が次々と針を撃ち落としていく。
「小癪な……!」
この弾丸の量からして全てマシンガンを使った援護だろう。下手を打てばこちらも巻き込みかねないが、さっきと同じく彼女の狙いは寸分違わない正確さだった。
妨害を越えて向かってくる俺にメギドは目に見えて焦りを隠せていない。ならばと接近戦に臨む素振りを見せるが、そこに降り注ぐミサイルの雨が相手の道を塞いでいく。
《MEGA DETH PARTY》
「ガァ…!? 馬鹿の一つ覚えを───」
またメギドが炎に包まれる一方、俺は眼前の爆風によって上空へと吹き上げられる。
相手は彼女の攻撃を前と同じ事の繰り返しとしか考えていないようだ。
そう受け取ったのはありがたい。爆炎から出てこられる前に、ここで一気に畳み掛ける…!
《必殺読破!》
聖剣の引き金を引いた俺は真っ逆さまに落ちていく。
こちらの接近に気付いたメギドは今度こそ迎撃すべく拳を引き絞り、アッパーを打つ体勢に出た。けれど相手の一撃が放たれる前に、俺は今回の狙いを成就しにかかる。
「火龍蹴撃破ッ!!」
落ちる重力を利用し、身体を逸らして速度のついた回転に身を任せた。
続けて回転する身体が風を生み出し、乗じてメギドを焼く爆炎を回転に巻き込む。
回る火流は鎧を伝い、聖剣の力を受けた脚に集中していく。
こうして炎を強めた脚を振り切って、俺はメギドの胴体を蹴りつけた。
「ヌゥ、ガァァァァァ……!?」
ジュウ…と肉の焦げる音が耳に届く。
熱量を高めた炎が身体に広がり、メギドの持つ湿り切った肉体を蒸発させていた。
「オォォォォォォ───ッ!!!」
より力を込め、蹴りつけた足をメギドの身体へめり込ませる。
そうして熱を充満させた肉は次第に炎を吹き出して……メギドの肉体は木っ端微塵に爆発していった。
さらなる爆風に煽られて宙を舞う。
やがて風のままに地上へ着地すれば、敵の姿はもうどこにも見られはしなかった。
「ハハッ、本当にやりやがった…」
「お疲れ様。……ありがとう、俺を信じてくれて」
戦いの決着に乾いた笑みを浮かべる少女へ俺はここまでの協力も含めて感謝を告げる。
すると彼女は面食らった後に顔を赤くして、こちらを避けるようにそっぽを向いてしまった。
「お、お前がやけに自信満々だったからだッ!
にっ…にしても、よくもあんなゴリ押しで倒せたもんだな」
「あいつの正体に気付けたから、絶対に粘液を抜けるって思えたんだよ」
信じてはくれても、中々素直にはなってくれないな…。
変わらずの対応に苦笑しつつ、俺は話題を変えて彼女に説明する事にした。
あのメギドのモチーフは『サンショウウオ』。サンショウウオ上科に分類されるトカゲにも似た見た目を持つ生物だ。
サンショウウオは身体を粘膜で覆っていて、常に皮膚上の水分を保っている。このメギドもモチーフの生態に沿って身体を粘膜で守っていたんだ。
その粘性は人間大の基準まで引き上げられたのか、俺達の技を防ぎきるだけの湿り気を持ってる。
けれどそれまで攻撃が一切効いていなかった訳じゃなく、あの少女が放ったミサイルには多少ながら傷を残していた。
あいつの表皮はどんな攻撃も防げる訳じゃない。だったら互いの技を合わせればメギドの粘液を越えられるんじゃないかと考えたんだ。
「とんだ博打じゃねぇか…。成功できたのが奇跡に思えてくるぞ」
「奇跡じゃないよ。君と力を合わせたなら絶対倒せると信じてたからね」
この娘の力はこれまでの戦いでたくさん味わってきたんだ。
最早疑う余地もない強さを持つ彼女が味方になり。そこからさらに力を合わせた炎がメギドを倒せない筈がない。
「……よくもまぁそんな歯の浮く台詞を堂々と言う」
「えっ?」
「誰彼構わず言うんじゃねーぞ。お前の傍にはあいつがいるんだからな」
睨んでくる少女は顎でくいッと視線の先を見るよう促してくる。
その先にはずっと座り込んだままの響ちゃんがこちらを見つめていた。
「忘れてないよ。ちゃんと心に刻んでる」
響ちゃんの表情はどこか安堵と不安の入り混じったものに感じられる。
安堵はきっと俺達が勝てた事だろう。そこに不安が混じるとすれば……流石にこの娘の言うように、俺達が仲良くしてるからじゃない筈。
響ちゃんのそういう不満はこの一年で見分けがつくようになったから。
「あっ……」
傍に近寄れば、彼女はさらに迷子のような不安定さを曝け出す。
それでようやくその胸に何を秘めていたか察しがついた。
きっと今の彼女は張りつめていた糸が途切れてしまったんだ。この一週間、辛い環境の中で耐え抜いてきたからこそ。俺達という助けが来た現在、自分で歩き続けるのに身も心も疲れてしまってる。
……だったら俺は手を差し伸べよう。
また勇気を奮い立たせられる時はくる。だからそれまでゆっくりと傷ついた心を癒せるように
「帰ろう、俺達のお店に」
いつもの日常へ戻ろう。
そうして差し伸べた手に向けられたのは、一目を気にして素直になれず
───けれど人一倍の喜びが見える、仄かに華やいだ微笑みだった。