聖刃伝唱シンフォギア -語り紡ぐ交響曲の果て- 【改訂版】 作:野鳥
────飛羽真達が光に呑まれる少し前。
彼らがいる広場を眺める位置に存在する雑居ビル。その屋上で品定めをするように街を見据える男の姿があった。
「場所はあそこがいいだろう」
男は懐より一つのアイテムを取り出す。
それは飛羽真の不思議な本と似ているが、表紙にあたる部分は焼け焦げたように穴が点在していて、どこか禍々しい雰囲気を漂わせている。
その名も『アルターライドブック』。
それは飛羽真の本の対となる代物。人々を脅かし、世界を侵食する本の魔人『メギド』のコアとなる本だ。
表紙が開かれると錆びれた声が題名を読み上げ、本が光を帯びていく。
すると中の
やがて全ての岩が積み重なり出来上がるのは、怪人と呼ぶに相応しい異形の存在。
その身体は岩の如き堅牢な鎧を纏い、左腕部は力を象徴するように肥大化している。
すり鉢状の頭部には二つの手が掴みかかっていて、頭部の中央には厳つい眼光の人面が張り付いていた。
これこそアルターライドブックより解き放たれた岩石王の名を持つ本の魔人。
名を『ゴーレムメギド』という。
「ゴーレムメギド。やるべき事はわかっているな?」
「オォォォォ‥‥‥」
ゴーレムメギドはゆっくりと頷き、男より差し出された白いライドブックを受け取る。
男はそれを見届けると、屋上より見える一つの場所───飛羽真達のいる広場へと目標を指し示した。
「派手に暴れてこい。あの場にいる人間共はお前の好きにしろ」
「オォォォォォォ───!!」
GOサインを受け、メギドは雄叫びと共に街へと飛び降りていく。
少しすると彼が見据えていた広場は光に包まれ、ある一つの物を模した結界を創り上げた。
その模した物体とは本である。
あれこそがゴーレムメギドが行動を開始した合図だ。
これで間もなくあの広場はワンダーワールドに書き換えられ、代償に消えた世界を元に新たなアルターブックを生み出す。
今回、ゴーレムメギドが起こす事態を止められる者はいないだろう。
日本にはメギドと戦いうる戦士自体はいるものの、その中に結界へ侵入できる者はいない。
また、メギドの怨敵たる者達も今はほとんど国外に出払っており、アルターブック完成までにメギドを討伐できる可能性は限りなく0に近かった。
「これで目次録へとまた一歩近づく‥‥」
今度こそ完全なる勝利を我が手に───。
これよりメギドが引き起こす惨劇。その先に出来上がる新たな一ページを想起し───人の皮を被った魔人。幻獣のジャンルを司るメギド『レジエル』はほくそ笑んでいた。
「スッゴーイ、なにこれ! ドッキリや特殊効果じゃないよね!!?」
状況は判らない事だらけの真っ暗闇だ。
外は突然不思議な場所に変わって、俺達を初め人々はこの事態に混乱してしまっている。
……そんな中でも芽依ちゃんだけは平常運転でこの光景を満喫し、写真まで撮ってみせる胆力を見せていた。
「芽依ちゃんの好奇心は相変わらずだなぁ。それも良いところの一つなんだけどさ」
「言ってる場合じゃないよ! ここから戻れるかわからないし、亮太くんだって…」
響ちゃんはそれに難色を示してるし、不安げに視線を揺らしている。
その気持ちは俺も同じだ。……けれど不謹慎ながら、芽依ちゃんの姿を見てたら不安が和らいじゃったんだよな。
「もちろん忘れてないよ。安心して」
一体どうやったら元の世界に戻れるかは判らないまま。
でも俺達そのものが何か変わった訳じゃなくて。なら不思議と、この状況もどうにかなる気がしてくるんだ。
ただ皆が皆、そうは思えない。特に幼い亮太くんは俺達よりも強い不安に襲われてるだろう。
だから安心させる為に彼の下へ向かった俺は、視線を合わせようとしゃがみ、互いの顔を付き合わせた。
「…とうまお兄ちゃん。パパとママ、どこ行っちゃったの……?」
亮太くんは巻き込まれた建物で膝を抱え、その目に涙を溜め込んでいる。
その様は彼が抱えてる怖さが痛い程に伝えてきた。
もしかしたら下手に動かさない方が、この幼い少年には反っていいのかもしれない。
それでも……たとえ困った時にできる事がなくても。泣いて蹲っていたら見えない事もある。
「亮太君のパパとママは、亮太君がいなくなって不安がってると思う。もしかしたら亮太君が心配で泣いちゃってるかもしれない」
俺の話に亮太くんが顔を上げたところで、彼の抱えていた本に手を添えた。
本の題名は『家なき子』。
この本の主人公も、今の亮太くんのような不安を抱えて生きていたのかもしれない。
「でも、だからこそ亮太君がしっかりしないといけない時だ。
この本の主人公も亮太君みたいにママとはぐれちゃった子なんだ。けれど勇気を振り絞ってママを探しながら、色んな怖いことや苦しいことに立ち向かっていく」
それでも勇気を持って進んだこの本の主人公みたいに、亮太くんには前を向いてほしかった。
当然危ない目に遭わせるつもりはない。
その上で彼が勇気を振り絞れば、きっと元の世界に戻った時、今日の出来事も『あの時は凄かった』と懐かしめる筈だから。
「僕も……その子みたいにがんばれるかな?」
「大丈夫だよ、だって俺達もついてるんだから。
皆で手を取り合えば、必ずパパとママの所に戻れるさ」
最後まで俺の話を聞き終えた亮太くんは、今までよりも強い意志の籠った目をしていた。
彼は腕で涙を拭うと、俺の目を真っすぐ見て決意を口にする。
「…じゃあ、がんばる。パパとママ、いまごろ泣いてるかもしれないから」
「偉いぞー。じゃあ一緒に探していこうな!」
「うん!」
心を決めてくれた事に嬉しさから頭を撫でていると、後ろに誰かが駆け付けてきたのに気付く。
振り向けばそこには響ちゃんがいた。
多分心配で見に来たんだろう。俺達を見る彼女は今も不安げな表情を崩せていない。
「言ったでしょ? 安心してって」
「……みたいだね。この状況でも飛羽真さんは変わらないな」
響ちゃんの顔はどこかホッとしたように俺を見つめていて、そこに俺は違和感を覚えた。今の言い様は単に亮太くんの心配をしていたにしては変だ。
……もしかして響ちゃんは、この状況で俺が心変わりしないか不安だったんだろうか?
危機に陥ったり周囲の空気に流されれば、人は容易くその心を変えてしまう。
何を馬鹿なと人は思うかもしれないが、響ちゃんは身を以てそれを知っている。だからこの異常な事態に、彼女は俺が流されないか見ていたのかもしれない。
だとしたらまだ響ちゃんの心は────と、思考を巡らせようとした時だった。
公園の端の側から、突如として爆発音が響いてきたんだ。
「爆発音‥‥? 今度はなにが───」
「飛羽真! 響ちゃ~ん! 大変ーーッ!!?」
何事かとそちらへ意識を向けると、爆発の方向から芽依ちゃんが駆け寄ってくるのが見えた。
どうやら事情を知っているらしいと耳を傾けると、彼女は息も絶え絶えに何が起こったかを話し出す。
「あ、あっちの方に‥‥‥怪人が出た!!」
「「怪人ッ!?」」
怪人ってこう……Xソードマンみたいなアメコミやヒーロー番組に出てくる?
この不可思議現象とはいえ、芽依ちゃんの言う話を俺達は一瞬呑み込めなかった。
すると異常はあちらの方から俺達の下へ足を運んできたんだ。
「ほ、ほんとに……怪、人?」
そうして響ちゃんの困惑する声と共に、俺はその異様を目の当たりにした。
そこにいたのは逃げ惑う人達を嘲笑い、悠々とこちらへ歩み寄る石の魔人。
擂り鉢のような頭から一対の手を撃ち出すと、それは公園の建物を次々と壊して瓦礫に変えていく。
壊された建物もまるで焼け焦げた本みたいに形を変えて。そこからは腐食していく破れた
「何なんだお前は………人を襲って何をするつもりだ!!」
「新たな本を創造するのに人は不要。だから俺がこの手で消し去っている」
まるで理解の追い付かない光景だ。
これを起こした犯人はよく解らない話を口走っていて、さらに俺達の混乱を誘ってくる
「本を創造? 一体何を言ってるんだ……?」
「この場所をワンダーワールドへと書き換えれば、力を持つ新たな本が完成する。それを使い、世界を我等のものへと変えるのだッ!!」
さらに謎の話を続けると、怪人は懐から一つのアイテムを取り出した。
「あれが、本……? しかもそれって飛羽真さんが持ってるのと同じ!」
それを見た響ちゃんの言葉で、俺もまたすぐにポケットから例のアイテムを取り出す。
あいつが持っているのは白紙のような白いアイテム。
……その形は嫌が応にも関係があると言わんばかりに、俺の紅いアイテムと瓜二つだ。
「まさかワンダーライドブック! それは我らが持つべき物ッ!!」
「ッ!? 皆、下がって───!」
それを見た怪人は、急に血相を変えてこちらへ襲い掛かって来た。
奴の狙いは明らかに俺だ。咄嗟に下がるよう叫ぶと、怪人の正面へと一歩庇い出る。
「飛羽真さんッ!」
当然そんな事をすれば格好の餌食で、俺はあっさりと怪人に首を掴まれてしまう。
「お前には無用の物だ。さっさと寄こせ!!」
「こと……わ、る…。
本は、だれかをかなしま……せる、ために…あるんじゃないッ!」
息が………くる、しい。
こいつは俺のアイテムを欲しがってるみたい、だけど……。明らかに今、みたいな悪事に使、う気だ……。
なら渡すものかと…強がってはみるけど、首を絞める力に……押されて、段々と意識が遠の、いて────
「……やめろ」
そのとき、こえがきこえたきがした。
「やらせない……」
ききなじんだこえで、けれどみにあまるいかりをのせたような、そんなこえが。
「わたしの陽だまりは……奪わせないッ!!!」
そして彼女の叫びが轟いた瞬間、青空に眩い光の柱が立ち昇った。
「ウェェェ!!?」
「響、お姉ちゃん……?」
光の放つ衝撃は凄まじくて、俺を掴んでいた怪人はそれに押されて後ろへ吹き飛ばされてしまう。
その拍子にこの首を掴んでいた手も離れて、咳き込みながらも俺は彼女の姿をこの目に焼き付ける。
雄叫びを上げた響ちゃんは、背中から機械のような突起を生やして変貌を遂げていく。
闇のような黒い影に覆われて、その瞳は妖しい緋が輝きを放つ。
まるでそれは理性のない獣で、このままじゃ彼女が人ならざる何かになるんじゃないかと。俺や芽依ちゃん達は気が気じゃないまま見守る事しかできない。
けれど次第に影は静まり、響ちゃんは確かな理性を宿して落ち着いていく。
影の消えた彼女の姿はオレンジを基にしたアンダースーツの上から、白と黒の軽装な鎧を身に纏い。
頭には突起の生えたヘッドホンを付けていて、その口元はくすんだ色のマフラーで覆われていた。
「なに……これ?」
どうにも本人さえ事態が呑み込めてないらしい。
誰しもが状況を把握できない中、一足先に怪人が立ち上がっていたようだ。
「貴様、なんだそれは────ガッ!?」
彼女の変化を問い質そうとすれば、一陣の風があいつの懐へと飛び込んでいく。
それは変身した響ちゃんその人だ。
誰にも気取らせずに懐へ潜ると、拳を握りしめて怪人を殴り飛ばしてしまう。
不意の一撃を喰らい、怪人は後方の瓦礫へと沈み込む。
……呆然とそれを眺めていると、振り返った響ちゃんと目があった。
これは……一体どういう事なんだろうか?
彼女も理解していないのを知っていても、俺は詳しい話を聞かずにはいられなかった。
「響ちゃん、その恰好は……」
「わからない……。けど───」
響ちゃんは怪人の方を見据える。
瓦礫は蠢いていて、どうやら怪人はまだ生きているらしい。何も解らないまでも、その瞳は自分が何をすべきか見定めていた。
「アイツが皆を傷つけようとするなら、戦うよ」
「戦うって……響、ちゃんッ!?」
言うや否や、響ちゃんは一足飛びで怪人の下に駆け出してしまう。
手を伸ばしても、彼女の背を掴む事すらできなくて。俺の手はただ空を切るだけだった。
「ハァァァーーー!!」
「グッ、貴様……」
響ちゃんが力任せに殴り、蹴り飛ばすと。それだけで怪人はよろめいて呻いてみせる。
明らかに人の範疇に嵌らない化け物相手に、彼女は悠然と立ち向かっていた。
「グゥ……」
「おぉりゃああああ!!!」
怪人がたたらを踏んだ瞬間に、響ちゃんは一歩踏み込んで怒涛のラッシュを叩き込んだ。
右ストレート、アッパー、跳び上がってからの踵落としに足払い。
まるで本能に任せたような連撃を浴びせ、怪人に反撃の隙を与えさせない。
「しまっ───」
やがて怪人はついに、自らの胴体を彼女の前に晒してしまう。
「吹き、とべぇぇぇぇぇーーー!!!」
大きく振り抜いた拳は見事に胴体を打ち抜き、相手を勢いよく吹き飛ばしていく。
一瞬倒せたか!……と叫びそうになったけど、怪人はまだ動けるようだ。膝をつきながらも、再び彼女と戦おうとしている。
「調子に乗るな、人間!」
これに響ちゃんが突撃しようとした時、怪人は頭にくっついていた手を彼女へ目掛けて解き放った。
当然彼女は避けようと身体を捻らせる。
でも、その動きは素人の俺から見ても隙だらけだ。怪人が飛ばした手を操作して、再びUターンさせたのに彼女は対処できなかった。
「がはっ……!」
「そんな大振りがいつまでも当たると思ったかッ!」
「響ちゃん!?」
飛ばされた両手は脇腹に直撃し、大きく身体を揺さぶられる。
思わず手を伸ばすも届く筈もなく。俺はただ彼女が痛めつけられる様を見ている事しかできない。
「ガ──あァ……」
怪人の思うように殴られ続け、やがて響ちゃんは膝をついて倒れ込んでしまう。
それを嘲笑い、怪人は形勢が逆転した事に気をよくしている。
かといって油断せずに彼女を突き飛ばすと、操っている両の手で建物の屋上を破壊した。
「冷や冷やさせおって……消えろッ!」
間髪入れずに瓦礫を飛び回る手で一纏めにし、巨大な塊に変える。
まるで五トントラックのように巨大なそれを、怪人は容赦なく響ちゃんへと投げつけた。
あの姿にどれ程の防御力があるのだろう。果たして瓦礫に埋もれて平気なのだろうか?
───いや、無事で済む筈がない。
このままではあの子は死ぬと確信めいた予感がした。
だがいざ動こうにも、指先一つ動かすだけで震えが止まらない。
さっき首を絞められたダメージが未だに響いているのか、身体は一歩でも踏み出すだけで転びそうな始末だ。
「………アァァァァァ!!!」
────ダメだ、駄目だ駄目だ!
痛みが引かないからなんだ? 震えが止まらないからなんだ?
今も戦ってるあの娘の方がもっと痛い筈。なのに大の大人が根を上げて、響ちゃんを見殺しにしていい筈がない!
「ッ───飛羽真、さん!?」
震えが止まらなくても、血が滲むくらい力を込めて歩き出す。
転びそうになっても、それより先に一歩前に踏み出る。
瓦礫が響ちゃんに落ちるまでもう時間がない。持てる全てを注ぎ込んで、俺は響ちゃんを庇うべく覆い被さる。
そうして瓦礫が視界の全てを覆った時────俺の懐から、炎のように赤い煌めきが闇を照らし出した。
「飛羽真ァ! 響ちゃんッ!」
瓦礫の塊が崩れ、当たれば簡単に人を潰せる凶器の山が二人を覆い尽くしてしまう。
どう考えても即死。助かる可能性は思い描けない。
それを目の当たりにした芽依の悲痛な叫びが木霊し、亮太は瞳に涙を溜めて芽依にしがみつく。
「馬鹿が。自ら死に急ぐとはなぁ!!」
これがゴーレムメギドの笑いを誘った。
あの少女は未だ知れぬが、あの男は確実に死んだと確信したが故に。
無駄な事をしたものだと鼻を鳴らし、滞っていた人間の間引きを再開しようと。メギドは次なる標的に芽依達を選ぶ。
「……間に合わなかったか」
一方で人一人が収まる巨大な本が出現し、開かれた
戦場を見渡して、彼は自分の突入が遅かったのを察して眉根を歪める。
それでもせめて芽依達だけでも守ろうと、男は懐から剣のようなナニカを取り出すが……
「なにィ……?」
しかし彼らの視線は、もう一度瓦礫の山へと向く。
積み上がった瓦礫から、何やら赤い光が漏れ出していた。
謎の現象に動けずにいると、瓦礫は瞬く間に弾け飛び、中から潰された筈の二人が現れる。
彼らに大して傷を負った様子は見られない。
やがて重い足取りながらも飛羽真が立ち上がり────その手には、彼の赤きライドブックが光を放っていた。
本から溢れていた光はやがて炎を経由し、確かな形を持って地面に突き刺さる。
形を変えたそれは、炎を纏う一振りの剣。
剣が発する熱波は少し離れた位置にいる俺でも火傷しそうで、まるで誰も寄せ付けないように肌を貫いてくる。
本当なら触るべきじゃないんだろうけど、俺はまた確信めいた予感を覚えていた。
この剣を抜けば、俺はあの怪人と戦う力を手に入れられると───
「ダメ、だ…飛羽真さん。もう、無茶はしないで……!」
その時、俺を引き留めようと響ちゃんが声を上げた。
彼女の表情は自分も苦しいだろうに。俺を心配してくれているのがありありと伝わってくる。
「ゴメン。それはできない……」
彼女から見れば、俺は命を投げ出しているように見えるんだろう。
実際赤い本の力が無ければ、今頃瓦礫の衝撃で死んでいたに違いない。それでも俺は、彼女の言葉に従えはしなかった。
「あいつは本で人を不幸にしようとしてる。
それを小説家として放ってはおけないし、何より───」
ここで俺が引けば、君はまたきっと無茶をするだろうから。
突然そんな力が芽生えて混乱しただろうに、君は誰かを守る事を選べるくらいに優しい娘なんだ。
いつもはむすっとした顔で本音を隠すけど、この土壇場で君の優しさに応えられない人間で俺はありたくない。
「君を守るって約束したんだ。だから俺だけ見てはいられない」
それに俺は一年前の約束を。出会って間もない頃……この世の全てに絶望していた彼女に誓った事を、忘れた時は一度もない。
だからその約束を守る為に。俺は怪人を倒して、皆が笑える結末を掴み取る。
「う───うおォォォォォ!!」
誓いを胸に剣を掴むと、掌から感じた事のない膨大な熱量が俺を襲う。
この身体を全て焼き焦がすんじゃないかという炎が、柄を通じて俺の身体を蹂躙していく。
思わず手を離しそうになる。痛みに負けて、叫びが悲鳴に変わってしまいそうだ。
……だとしても逃げるものか。
あいつを倒す術がこれ以外にないのなら。どんな痛みだろうと越えて、この剣を掴み取るだけだ……!
『───覚悟を越えた先に、希望はあるッ!』
そうして熱に耐えて、柄を握る手にさらなる力を込めた瞬間───頭に一つの光景が浮かび上がった。
目の前の怪人のような異形に立ち塞がる剣士の姿。まるで誰かを守るように立つ背中に、俺は何故か懐かしさを覚えて……
そのビジョンから意識が戻ると、俺の手には不思議なアイテムが握られていた。
「ベルト? ……巻けって書いてあるのか」
視線を移せば、目の前にあった筈の剣はない。
あの剣がこれに変わったのだろうか。まるで納刀した西洋剣みたいなそれには、どこかで見覚えのある文字がびっしりと刻まれている。
「解る。これの使い方が……!」
世界のどの文字にも当て嵌まらないそれを、俺は何故か読み取る事ができた。
文字の通りに宛がえば、アイテムはベルトになって腰に嵌る。
《聖剣!ソードライバー!!》
するとより明確なビジョンが頭に浮かぶ。
それに従って赤い本に手を掛ければ、今まで開く事のなかったそれはいとも簡単に
《───かつて、全てを滅ぼすほどの偉大な力を手にした神獣がいた 》
伝承を読み上げると同時に
これが力を解放する一連の手順だ。気持ちを落ち着かせ、一気に剣をソードライバーから抜き放つ。
《烈火抜刀!》
そして次に叫ぶべき言葉は自然と浮かんできた。
自分を変える言葉。強い自分を身に纏う呪文。
───そんなとびっきりの合言葉を、俺は高らかに叫んでみせた。
「変身!」
《ブレイブドラゴン!》
振り下ろす剣でクロスを描き、放たれた炎は俺を包み込んで鎧に変わる。
《烈火一冊!
───勇気の竜と火炎剣烈火が交わる時、真紅の剣が悪を貫く》
《火炎剣烈火!》
こうして俺は聖剣に選ばれ、炎の剣士としての資格を得た。
その時は知る由もなかったが、鎧に身を包んだこの姿はこう呼ぶべきだろう。
赤き龍の力を宿す、炎の聖剣を振り翳す仮面の剣士。
その名も───仮面ライダーセイバーと。