聖刃伝唱シンフォギア -語り紡ぐ交響曲の果て- 【改訂版】   作:野鳥

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長らくお待たせしまして、ようやくお出ししますクリスへの答え。
彼女が前を向くにはやはり手を繋いでくれる誰かが必要だと思う次第。


第11章 3節 繋いだ手が、温もりを。

 

「ここは……」

 

 光が覚めた先に広がっていたのは木々に囲まれた森の中。

 空中には見覚えのあるシャボン玉が漂っていて、俺達はアルターブックの結界に巻き込まれたんだと理解できた。

 

「シャボン玉…? しかも周りにも人が……」

 

 俺達は人一人が入れる巨大なシャボン玉にそれぞれ閉じ込められていて。周囲を見れば、他にも十数人もの人達がこちらと同じ状況に陥っている。

 

「どうしてそら君がアルターブックを?」

「少し目を離した時に、道端に落ちてたのを拾ったみたいで……ゴメン、響」

 

 これがメギドの仕業なのはともかく、このシャボン玉の意図は何か。それを調べる前に、響ちゃんがそら君達へ先程の一件について問い掛けていた。

 

「やっぱり本なんて開くんじゃなかった。本なんて……おもしろくない」

 

 ……もしかしてそら君は本へ興味を持ってくれたから、アルターブックを手に取ったのか?

 

「本が悪いんじゃないよ。悪いのは本の力を悪用する奴らなんだから」

 

 だとすれば本を勧めてきた俺にこそ巻き込まれた責任はある。なのにそら君が全てを自分や本のせいにしてしまえば、もう二度と本を好きになってくれる機会を失うかもしれない。

 そうなってしまう事が俺には耐えられなかった。

 

「本の、力…?」

「ああ。喜びや悲しみ、良いも悪いも描かれた物語に触れてもらって、読んだ人の心に訴えかける。

 そうして誰かの人生を豊かにしていく力が本にはあるんだ」

 

 実感は湧かないだろう。それでも彼に俺が感じてきた本の素晴らしさを語り掛ける。

 今は意味がなくとも、いずれは理屈じゃなく心で理解してもらえるように。

 必ず好きになってもらうんだと、俺は胸の内に誓いを立てた。

 

「まさか早々にリベンジの機会に恵まれるとは…」

 

 その為にもひとまずここから脱出しないといけない。

 だからシャボン玉をこじ開けようとライドブックに手を掛け───ページを開くよりも前に、今回の主犯が俺達の元へ姿を現した。

 

「……はっ?」

「お前は、あの時のメギド!?」

 

 ただそのメギドの容姿に俺達は思わず呆気にとられてしまう。

 だってそいつはこの前倒したばかりの怪人。サンショウウオと見られる、響ちゃんを襲っていたメギドだったんだから…!

 

「丁度いい。今度こそ勝利し、お前達をヌシの贄と変える…!」

 

 しかもそいつは肩から尻尾のような装飾、頭には角といった変化が生じている。

 見た目だけで判断するのは危険だけど、以前よりもパワーアップしたとでもいうのか? そもそも一度倒した相手が何で目の前にいるのかと、疑問が頭を擡げて……

 

 ───待てよ、今"ヌシの贄"って言ったのか?

 そのフレーズは聞き覚えがあった。サンショウウオに関連する本で、そら君に見せる本のリストにも上がっていたアレに……!

 

「ヌシの贄…。そうか、お前はサンショウウオでもあのハンザキか!!」

「ハンザキ…?」

 

 この本について知らないようなので、メギドの解説も兼ねてクリスちゃんに説明していく。

 

 まずあいつは、サンショウウオの中でも大型に分類される『オオサンショウウオ』に違いない。

 曰くこの生き物は身体を半分に裂いても生きられると言われていて、その伝承から『ハンザキ』という異称を持つようになった。

 

 俺がこの推察に辿り着いたのは『人喰いハンザキの伝説』のお陰だ。

 この絵本でハンザキは人を食う化け物として描かれている。たくさんの贄で力を蓄えたハンザキは、その後ナワバリを統べるヌシとして人々を脅かすようになった。

 

「つまりあいつをやるには、一片も残さず倒すしかないのかよ…」

 

 説明を受けて奴の能力に行き着いたようで、クリスチャンは苦い顔でメギドを見据えてる。

 恐らく奴は僅かな肉片からでも身体を再生できるんだろう。予想通りなら、再生の度にその力を増して。

 そうなると生半可な力ではあのメギドは倒せない。さらにこの前の作戦も今の奴に通じるかは未知数。

 

 ならこちらも以前にはない、それもあの策を上回る手を使う必要があった。

 

「そりゃあ、あの時のライドブックか…!」

 

 俺が手にしたのは『NEEDLE HEDGEHOG』と銘打たれた薄い黄色のライドブック。

 ハリネズミの描かれたこれはハンザキメギドを倒した際、周辺に転がっていた物だ。多分メギドが使っていた針の能力はこの本に由来するものだったんだろう。

 

「わたしも一緒に…」

 

 変身に入ろうとした時、響ちゃんの声が耳に届く。

 ……彼女は何か気にかかるようで、頻りに首元を手で覆っている。

 

「響ちゃんは病み上がりなんだ。今回は下がってて」

「でも……ッ!」

 

 もしかして俺達が助けに入るまでの過程を思い出してしまっているのか?

 一秒でも遅ければ危うく命を落としかねなかった状況だ。平静を装ってるけど、あの時と同じ相手を前に身を竦ませてもおかしくない。

 

「一度倒した相手だ。お前の助けがなくても、またぶっ倒してやらぁ」

 

 無理をしないよう勧めると、クリスちゃんもまた彼女に下がるよう進言してくれた。

 

「……わかった」

 

 不承不承といった様子ながら、響ちゃんは頷いて見守る体勢に入る。

 彼女も一緒に戦う味方は多い方がいいだろうに、こうして気を使ってくれたのはありがたい。

 響ちゃんを下がらせた以上、ここは勝たなければと俺も気合が入る。

 

《ニードルヘッジホッグ!》

 

 ライドブックのページを開けば、幾千もの針が俺とクリスちゃんを包むシャボン玉を弾けさせた。

 そのまま外に踏み出し、俺は三冊のライドブックをソードライバーへ装填。

 

「変身!」

「Killter Ichaival tron───」

 

 聖詠を背に剣を解き放てば、龍と連なる針にド豆の蔦。三つの異なる力が合わさって鎧に変じていく。

 

《二冊の本を重ねし時、聖なる剣に力が宿る───ワンダーライダー!》

 

《ドラゴン・ヘッジホッグ・ジャックと豆の木。

 ───三属性の力を宿した強靭な刃が、ここに降臨!》

 

 身に纏う鎧からは二冊の時よりも強大な力が満ちている。

 さしずめ今の俺は『セイバー ドラゴンヘッジホッグジャッ君』といったところだ。

 

「貴様、オレのライドブックを……」

「これはお前達の物じゃない。この本だって誰かの心を豊かにする、素晴らしい物の筈だ…ッ!」

 

 聖剣を振り払ったのを合図にメギドへと斬りかかっていく。

 振り下ろす剣は相手の刃と鍔迫り合いからの力比べに移る。刃越しに伝わる臂力は、確かにメギドの強さが増しているのを感じさせた。

 だけど張り合えないレベルじゃない。それに俺の手札は単純な力比べだけでもないんだ。

 

「ハァ…!」

 

 ヘッジホッグの力を発動。棘を生やした聖剣は重さを増し、軽々とメギドを突き飛ばしてみせる。

 さらに左腕の装備を展開し、伸ばした蔦で相手を拘束。体重を乗せたスイングで空中に振り回していく。

 

「グ、ヌォ…!?」

「今だ!」

 

 掛け声の後にクリスちゃんがアームドギアをガトリングに変形。一斉に解き放たれた弾丸は全てメギドの胴体に命中する。

 体表の粘液が弾丸を滑らせても衝撃までは逃がせはしない。次々と撃ち込まれる打撃に耐えかね、メギドからは次第に苦悶の声が漏れ出ていた。

 

 決めるならここだと、機を見てメギドを地面に叩きつける。

 ビクンと跳ね上がったメギドに、俺は蔦を介してライドブックのエネルギーを注入。充満した力はやがて幾千もの針に変わって、メギドを内側から刺し貫いていった。

 

「ガ、アァ……!!」

 

 途端、巻き起こった爆発が身体を包んでメギドの姿を一瞬見えなくする。

 

 ……この展開はマズい。

 相手は微かな肉片ですらその身を再生させたんだ。もし一欠片でも残れば……

 

「…フ、ハハハ……ッ」

 

 果たして予感は的中して、肉の蠢く音と共にメギドが姿を見せる。

 

「三冊でも押しきれない…ッ」

「見誤ったな炎の剣士。今のオレはお前如きにやられはしない!」

 

 これは俺が今持てる最大の策だった。それが通じないとなれば新たな策が必要で。とはいえ考える時間をくれる油断は相手から見て取れない。

 

「炎の剣士…」

 

 この状況にクリスちゃんはこちらへ視線を投げてくる。

 もしや戦況に不安を覚えて……いや、怯えてるようには見えない。言い表すなら彼女は何かを言い淀んでいるように思える。

 

「……もしかして、何か策があるの?」

「ッ、そんなもん無理矢理押し通せばいい話だ!!」

 

 無理矢理話を断ち切った辺り、俺の予想は的中していると見ていい。

 苦し紛れに放つ弾丸はどれも粘液に防がれ、メギドはこちらを嘲笑うだけ。反撃に奮われる刃を躱しながら、彼女もどん詰まりなのを悟ってか表情を険しくさせる。

 

「……臨界まで溜めたフォニックゲインを一気に解き放つ。そうすりゃ絶唱に近い威力を叩き込める筈だ」

 

 すると観念したように切り出されたのは、戦況を変え得る打開策。

 ……絶唱といえば翼さんが身を削ってまで唄った歌の筈。その名を聞けば不安を覚えるも、近いと銘打つ辺り反動のコントロールは効くと思っていいのかな。

 

「けど、あたしには無理なんだよ!」

 

 もしそうならメギドを倒せる切り札になる。

 是非とも使ってもらいたいところ、彼女は我慢ならないと声を張り上げて

 

「唄ったって、この心が臨界点を塞ぐんだ。

 あたしの歌は壊す事しかできない。どれだけ突き放したって……二人のように優しい歌が浮かばない、あたしには……ッ」

 

 明かされた彼女の本心は驚きを齎すと共に、ずっと分からずにいた欠片を埋めてくれた。

 

 クリスちゃんは歌が嫌いなんじゃない───寧ろ嫌っているのは、戦いに歌を使う自分自身。

 戦火を身近にしてきた自分は本来の在り方とは違う歌しか唄えない。

 これまでの経験が視野を狭めて。自分には無理で、望む姿には変わり様がないんだと思い込ませている。

 

「それが本当の気持ちなんだね」

 

 そしてそれこそ、クリスちゃんが一番大事な事に気付けてない証拠だった。

 

「歌への迷いが君を縛るのなら……」

 

 俺には彼女の……いや、彼女達の苦しみを全て共有はできない。けれど創る者の先達として、クリスちゃんに伝えられる事が一つだけあった。

 それを理解してくれれば、きっと彼女は自分を縛るからを打ち破れる。その為に俺ができる事はもう頭の原稿に浮かび上がっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 荒ぶる衝動のままに告げた想いに、炎の剣士は迷いがあたしを縛ってると言う。

 迷い、か…。

 この窮地に唄えないと足踏みしてる身じゃあ反論はできない。結局あたしは歌なんてとっくの昔に……

 

「あるところに、音楽に溢れた町がありました。

 そこで暮らす少女には町一番の音楽家であるパパとママがいたのです」

「貴様、急に何を言っている…!?」

 

 と、自分の限界に落ち込んでる場合じゃなかった。

 炎の剣士はメギドと再び戦いだしたかと思えば、急に物語を語り始めたんだ。

 

「二人の歌は町の人達に元気をくれる素晴らしいものでした。女の子もまたそんな二人が、そして歌が大好きな子になっていきます」

 

「いつしか女の子はパパとママのようになりたいと、歌の練習を始めます。

 二人のように上手くなるのは大変な道のりです。ですが少女はいつか必ず憧れに手を届かせようと練習に励みました」

 

 言葉には出さないが内心はメギドと同じだ。

 ふざけてんのかと思いそうな所、語り口調があいつの真剣さを伝えてくる。

 

「ですがある時、とんでもないことが起こりました。お父さんとお母さんが病気になって、町からいなくなってしまったのです。

 これを悲しんだ人々は楽しい音楽を創れなくなり、やがて町は悲しく重苦しい音ばかりが聞こえるようになっていきました」

 

「少女は悩みます。

 パパとママがいないのは悲しい。けれど町の人達も同じくらいに悲しんでくれている。そんな彼らを放っておくのは、何かが違う気がして……」

 

 そして主人公の少女には妙な既視感を覚えた。

 所詮は物語だし、自惚れかもしれないが……

 それでもこのタイミングで歌に纏わる話となりゃあ、誰に対する語りかは想像に難くない。

 

「だから少女は決めました。パパとママの代わりに自分の歌で人々を元気にしようと。

 それが二人の子供である自分にできる事なんだと、少女は張り切りました」

 

 ───だからこそ物語の少女にあたしは黙っていられなかった。

 

「そんな事して何になる…ッ。

 無くしたものは戻ってこないんだ。なのに代わりになろうとしたって、そんなもん自己満足でしかない……!」

 

 あくまで物語の登場人物に当たるなんざバカバカしい。

 頭で理解できても、歌を題材にしてるだけに感情を抑えられなくて……

 

「あたしのやってきた事もそうだ。

 世界中から戦う力を奪えばいいと吹き込まれて、まんまとソロモンの杖を起動したんだ。それで今更優しい歌を唄う資格なんて、あたしにある訳ないだろうが……ッ」

 

 少女みたいに純粋であれたらどれだけ良かっただろう。

 

 綺麗な夢を見るのに、今のあたしはもう遅すぎる。

 平和を願って起こした道具は大勢の人を傷つける兵器だった。たとえ自ら使ってなくとも、利用された結果でも、知らぬ存ぜぬじゃいられない。

 

「……確かに君のやってきた事は重い。きっとこれから先の人生でずっと付き纏ってくると思う」

 

 ああ、そうさ。この罪は一生消えやしない。

 そいつを分かってて尚も唄えとお前は言うのか? もしそうならあたしは……

 

「でも君は間違いばかりしてきた訳じゃない。誰かを助けて、優しくあろうとした時もたくさんあっただろう?」

 

 拒絶するべく開こうとした口は、次にかけられた言葉に押し留められた。

 間違いだらけだったあたしの人生。なのにこいつはそうじゃないと言いやがる。

 

「罪の痛みと人の優しさ。どちらも知ってる君でしか紡げない歌が必ずある。

 だから君も思うままに唄っていい。───何かを表現するのに資格なんていらないんだ」

 

 こんな汚れ切った身でも歌を唄っていい。

 そんな筈ないと否定しようとする。こんなあたしじゃ唄えるのは、血に濡れた聞くに堪えない音だけだと。

 

 けれど剣戟の最中に垣間見えた奴の仮面からは───あたしに対する、揺るぎない信頼を感じさせた。

 

「……ホントに、バカだよお前ッ」

 

 一緒に過ごした時間も短い、敵対すらしていたあたしを信じられるなんて。

 ………そして差し伸ばされた温もりに、心地良さを感じているあたし自身も。

 

「だったら聴かせてやる! 躓いて、失敗ばかりで、凸凹だらけなあたしの歌ッ!!

 下手くそでも最後まで唄い切ってやっから……後悔すんじゃねぇぞ!!!」

 

 正直者は馬鹿を見るような時代。もしかしたらあたしはまた間違えてるのかもしれない。

 だとしてもあの大バカまで嘘吐きだってんなら、きっと世界は欺瞞だらけで救いようがなくなっちまう。

 

 ……そうじゃなかったのを、あたし自身が一番知ってる筈だ。

 だからこそ唄う、唄ってみせる。

 どれだけこの身が罪深かろうと。ここで応えなきゃ、あたし自身の願いさえ嘘にしてしまうから。

 

「たかが小娘一人の歌で、オレを倒せると思っているのか?」

「信じてるよ。今の彼女の歌なら……」

 

 一句紡ぐ度に集束していくフォニックゲインの高まり。

 徐々に臨界点に差し掛かる中で、炎の剣士も大技を放ちにかかる。

 

「どんな不可能も、絶対に乗り越えられるッ!」

《必殺読破!》

 

 抜き放たれた聖剣を合図に、地面から何本もの巨大な蔦がメギドを絡めとっていく。

 

「ヌ、オォ! なんだこれは…ッ!?」

 

 さらに蔦同士が互いを繋いで横っ広い円柱を造り、その結び目を補強すべく数多の針が生えては交わる。

 仕上げに炎の剣士が撃ち出した火球が空に浮かび上がり、メギドを封じたそれは全容を顕わにした。

 

「勇気を胸に、少女は人々の前で唄ってみせました」

 

 語る内容に沿った、太陽の火に照らされる即席のライブステージ。

 ……こんなもん造られちゃ、ますます迷いなんかで燻ぶってはいられねぇ。

 

 ぐしゃぐしゃだったあたしの顔も、昂る想いに釣られて火照りを取り戻す。

 溢れそうな想いの全てを歌に注ぎ込み───やがて越えられないと踏んでいた臨界点なんて、余裕で越えてみせたんだ。

 

「二人に比べるとまだまだ上手くないかもしれません。

 けれどその歌に込められた気持ちは、人々を覆っていた悲しみを振り払ってくれました」

 

 これがありのままのあたし。

 泥臭くて、綺麗じゃなくとも……生きていきたい。唄いたいと願う全霊の咆哮。

 

《MEGA DETH QUARTET》

 

 イチイバルの誇る弾薬の全てがメギドへと降り注ぐ。

 高まったフォニックゲインによって煌めく閃光は、着弾と共に盛大な花火に切り替わった。

 

「バカな…バカなァァァ……ッ!!?」

 

 最後に一際大きな爆発が空を彩り、ステージに幕が下りる。

 

 爆発の跡にメギドの残骸はこれっぽっちも残っちゃいない。その勝利を確かにする光景は喜ぶには十分な理由だ。

 

 けど、それ以上に……

 こんなに澄み切った気持ちで唄えた事実が、あたしを堪らなく笑顔にしてくれた。

 

「───お疲れ~! 凄かったよ、君の歌~~ッ!!」

「オイ、離せって! くっつかなくていいだろ!?」

 

 と感慨に耽ってる所へ、後ろからガツンと抱き着いてくるバカが一人。

 それに釣られて続々と連中が集い、ステージ前はすっかり賑やかになってしまった。

 

「おにいちゃん、あのお話って最後はどうなるの?」

「結末かい? そうだね………どう締め括ろうか」

 

 構ってくるバカを鬱陶しく思いつつも、ふと炎の剣士と例の子供の会話が気にかかる。

 語り出した張本人が結末を知らない? にしては随分堂々とした語り口調だったぞ。

 

「実はあれ、即興で思いついたお話なんだ。だから結末は決めてないんだよ」

「あの場で一本話を創ったってのか…?」

 

 それこそバカな…と否定しそうになるも、融合症例とバカ二号は驚きもせずに慣れた反応だ。

 まさかこいつにとっちゃいつもの事なのか? 即興で話を創るなんてそう簡単にできるとは思えないが……

 

「あんたの歌もあの場で生まれた気持ちなんでしょ? だったら何もおかしな話じゃないよ」

 

 あたしを例に出されちゃ、炎の剣士の話も信じる他ない。

 でもそれを素直に言えず、あたしは融合症例からそっぽを向いた。

 

「……お前からすりゃ聞き苦しかったろ。無理に聴かなくてもよかったんだぞ」

「そんな事ないよ。あんなにいい歌だったのに……響?」

 

 別にこいつの理屈を認めたくないとかじゃない。ただこいつもあの歌を聴いてたんだと認識して、真正面から見辛くなっただけ。

 あれだけ分かった面して好き放題言ったのに、結局あたしも歌を捨てきれてなかったんだ。自分だけ前に進んで、こいつからどんな目で見られるか怖くて……

 

「良かったよ」

「……えっ?」

「いい歌だった。それが今のわたしの気持ち」

 

 だってのに───想像とは真逆の事を言うもんだから。あたしはつい逸らした視線をこいつに向けちまった。

 

 視界の先に映ったのは、憑き物の落ちたような翳りない笑み。

 こちらを見る目に何の含みもない。心の底からあたしの歌を褒めてるのが伝わってくる。

 

 どんな心境の変化か知らないが、そんな事言われちゃこっ恥ずかしいたらありゃしない。

 ……ああ、でもこれまでと違って今なら認められる。

 

 あいつらの手を繋いだ事に、あたしはこの先もきっと後悔はしないだろうって。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……本って歌みたいに楽しいものがいっぱいつまってるの?」

「そうだよ。絶対そら君が気に入る物語もある筈だ」

 

 響ちゃんの言葉にクリスちゃんは相変わらず顔を背けてる。

 ただその口元は彼女の賛辞に喜んで、微かな綻びを浮かべていた。

 

 そんな二人の姿は、彼女達が抱える悩みに明るい兆しを感じさせるもの。

 そしてそら君もまた、自分の気持ちに変化を起こそうとしている。

 

「例えば、さっきのお話はそうだね…」

 

 俺の行動が少しでもその一助になったのなら何よりで、だからこそここで創ったお話も結末を決めなきゃならない。

 

 クリスちゃんを見やる。

 ……彼女の今後が大変なのは間違いなく、二課の処遇次第では長い時間を償いに費やすだろう。

 それでも思うんだ。

 歌を好きだという気持ちを思い出せた彼女ならば、きっとこれからを明るい未来にしていけるって。

 

「寂しかった街に暖かな日差しが差し込みます。

 無くしたものは戻らないけれど、それに負けない素晴らしいものは生み出せる。それを知った人々なら、きっと前よりも素敵な音楽を創っていけるでしょう」

 

 その未来を応援し、彼女の力になる為にも……この物語はこう締めくくろう。

 

「めでたしめでたし」

 

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