聖刃伝唱シンフォギア -語り紡ぐ交響曲の果て- 【改訂版】   作:野鳥

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「皆さん、ボンヌレクチュ~ル!」

 ワンダーワールドに建てられた一軒家の中。この家の主である紳士タッセルは前回よりも意気揚々と一人語りを始めた。

「僕は今、作家の神山飛羽真と彼と仲のいい少女、立花響の活躍に大・注目中!」

「本の怪人メギドが飛羽真達のいる街を不思議な世界へと飛ばしたんだ。

 だけど、飛羽真と不思議な本と剣。響は体の内に眠っていた力を使い、仮面ライダーセイバーとシンフォギア奏者に変・身!
 怪人を倒して、街を元の世界に戻して救ったんだ」

 しかし一旦語り終えたところで、彼は少し眉をひそめて眼鏡をくいッとかけ直す。

「そんな中、飛羽真のお店に青いライオンに乗った青年が押しかけてきちゃった!
 飛羽真達は大慌てだけど、うまく収まってくれないかな~…」




第2章 1節 戦う覚悟、問われる先で

 

「蒼い……」

「「ライオン!?」」

 

 扉の前では蒼いライオンに乗った青年が微笑みながらこちらを見つめている。

 えっーーと、誰なんだろう……。ここはどう対応すればいいのかな?

 

「本で読んで、君達の文化では土足は失礼だと思って乗ってきたんだ」

「……いや、ライオンが土足ですけど?」

 

 様子を察してかご丁寧に説明してくれるけど、芽依ちゃんの指摘を聞くなり彼はライオンから跳び上がる。

 

「し、失礼! まだこっちの世界に慣れてなくて……」

「えっーと、君は…?」

 

 慌てて謝罪を入れた彼は蒼い本を開き、ライオンを頁の中に納めてしまった。

 あれは俺と同じ本……。

 まさか彼も、この本や怪人の関係者なんだろうか?

 

「僕はソードオブロゴスの新堂倫太郎。

 大丈夫、安心して。決して怪しい者じゃないから」

 

 倫太郎と名乗った彼は大手を広げて潔白をアピールする。

 うーーん、そんな爽やかな笑顔で見られても……

 

「どう見ても怪しいよ……」

 

 と言葉に迷っていると、響ちゃんが俺の言葉を代弁してくれた。

 これには思わず芽依ちゃんと一緒に頷く。ライオンに跨ってくる人ってだけで怪しい要素満載だ。

 

「……我々ソードオブロゴスは、遥か昔から人知れず世界の均衡を守ってきた組織なんだ。

 君の持つワンダーライドブックには力があり、とても危険な物だ」

 

 すると倫太郎は急に襟を正して自分の素性を語り始めた。

 

 あー、俺達の反応はスルーなんだね……。

 にしてもさっきから彼は()()()()()()()()と、怪人が喋った単語と一致する名前を出す。なら関係者なのは間違いないし、この本の事も知っているんだろう。

 

「これは一体何なんだ?」

「……すまない、それは教えられないんだ。

 君達を危険に巻き込まない為にも、それを僕に渡してくれないだろうか?」

 

 けれど倫太郎はその情報を明かしてくれそうにない。

 要は部外者には教えられないって事だろう。加えて本を引き渡すよう言ってくるけど……

 

「ゴメン、それはできない」

「……んんっ、君は僕の話を聞いていたのかな?」

「これは俺にとって必要で、とても大事な物なんだ。だから渡す事はできない」

 

 俺の返事を聞くと、倫太郎は難しい顔をして俺達を見てくる。

 ……確かにこれを持っていたらまたあの怪人と出くわす可能性はあった。

 けれどこれは長年持ち続けて愛着も湧いてる。第一これを手放したとして、彼の言うように危険と出くわさないという保証はなかった。

 

 何せこの世界には『ノイズ』という存在がいる。

 触れただけで人を灰に変え、現代兵器を悉く素通りしてしまう恐ろしい化け物。

 

 二年前、ツヴァイウイングのライブを襲撃した件で記憶に新しいあいつらに、この力で対抗できるかは判らない。

 だけど最近出現頻度も上がっているとも聞くし、力があるのとないのとではいざという時出来る事も変わってくる筈だ。

 

《Gatling! Gatling! Gatling! Gatling!》

 

 互いに気まずい空気が流れる中で、ふと倫太郎の懐から着信音らしき音楽が流れてくる。

 すぐさま対応した彼は少しぶ厚めのスマホを取り出すと、電話をしながら頻りに俺を見て驚いたように表情を変えた。

 

「……神山飛羽真君、そこの本棚を借ります」

 

 電話を切ると、倫太郎は態度も変えて壁際の本棚へと近付いていく。

 何をする気か観察してみると、彼はさっきとは違う本の頁を開いた。

 

「うわぁ、どこでもドアだ…ッ!」

「これはどこでもドアではなく『ブックゲート』です」

 

 すると本棚は一瞬で扉に変化して、その先には本棚が螺旋状に続く異空間へと繋がってしまう。

 彼らの持つ本はこんな事もできるのか…。

 意見が食い違ったばかりだけど……正直、好奇心がうずうずしているのが自分でもわかる。

 

「では神山飛羽真君、立花響さん。ここから繋がる我らの基地にあなた方を案内します」

 

 こうして奇妙な出会いから立て続けに、俺と響ちゃんは彼らの拠点へ案内される事になったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「遥々お越しいただきありがとうございます。

 私はソードオブロゴスに仕える者。ノーザンベースの本の守護者・ソフィアと申します」

 

 ブックゲートを抜けた先で案内された場で、俺達はソフィアという人に出会った。

 吹き抜け構造からなる、本棚や人一人台の巨大な本に囲まれたミーティングルーム。

 さらにそんな不思議な場所で、神秘的な雰囲気を放つ巫女と出会うっていうのは、まさしく知る人ぞ知る組織に招かれたんだと実感させるシチュエーションだ。

 

 それにしてもここはどこにあるんだろう?

 ブックゲート(あの扉)でワープして来たからには、かがり市からは遠く離れた場所にあるんだろうけど……

 

「ええ。ノーザンベースは北極に存在する、我らソードオブロゴスの基地です」

「「北極!?」」

 

 ソフィアさんから伝えられたのは、思わず叫ばずにいられない内容だった。

 すぐに響ちゃんと一緒に窓の外を観に行く。

 するとそこには、本当に一面氷が張り巡る銀世界が広がっていて、ここが日本じゃないんだと否応にも目の当たりにさせた。

 

「ほ、ホントだ……。外が一面真っ白」

「お二人共、驚く気持ちもわかりますが……」

 

 響ちゃんと眼前の景色に目が奪われていたけど、倫太郎の呼び掛けで俺達は意識を呼び戻される。

 そうしてソフィアさんの口から、まず彼らがどういう組織なのかが語られていった。

 

 ソードオブロゴスは約二千年にも渡る間、世界を創り出した大いなる本を守る為に結成された組織らしい。

 彼らは大まかに大いなる本を狙う敵や、世界を脅かす存在と人知れず戦っていたそうだ。

 二つの内片方が俺達もよく知るノイズ。そしてもう一方の敵が───

 

「本の魔人、メギド……」

「メギドの目的は大いなる本の力を手に入れる事。

 その力を使い、彼らは世界を自分達の都合のよいものへと改変する気なのです」

「世界の改変? そんな事ができるんですか……!?」

「俄かには信じ難いでしょうが、その力の一端を貴方達は既に見ている筈です」

 

 世界の改変。途方もない話だけど、彼女の言う通り俺達はその一端を垣間見た。

 公園を不思議な世界に繋げ、街の建物を本のように崩してしまうあの光景。加えて俺の持つ赤い本を見て、ソフィアさんはさらに詳しい説明をしてくれた。

 

 大いなる本は二千年前に始まったメギドとの戦いでバラバラになり、その破れた断片が俺の持つ本のような───『ワンダーライドブック』となって世界中に広がったらしい。

 そしてソードライバーは、ワンダーライドブックの力を引き出す為に鍛えられた『聖剣』であり、聖剣で変身した姿を『仮面ライダー』と彼らは呼んでいるそうだ。

 

「……二つ質問があるんだけど、いい?」

「ええ、我々にお答えできる事なら」

「ならまず、わたしの力は一体なんなの?」

 

 ここまでで俺の力については理解できたけど、まだ響ちゃんの力は何一つ解明できてない。

 それは本人も感じていたようで、自分の力の出処を尋ねると、ソフィアさんは考えるように顎へ手を置く。

 

「ブレイズ。響さんの力を見た時、どういった印象を持ちましたか?」

 

 すぐに特定できないのか、まず彼女は倫太郎に力の印象を尋ね出した。

 

 あれ……倫太郎はもしかしてあの場にいたのか?

 どうやら見ていたらしく、彼はスラスラと自分の意見を答え始める。

 

「攻撃力は申し分なく、僕達剣士と遜色ないポテンシャルだと見られます。

 ただ防御力は見た目相応と言いますか……率直に言うと、あれは些か肌を露出し過ぎているように思えます」

 

「えっ」

 

 よく観察していたようだけど、その内容に響ちゃんはガチリと固まってしまう。

 

「あー……それはー…」

 

 ああ、やっぱりそういう感想になるんだな。確かに俺も凄い恰好だなと思って………いててッ!?

 見ると響ちゃんは苛立ちながら俺の脇腹をつねっていた。……もしかして考えてる事が顔に出てたかな?

 

「飛羽真さん、今なに考えてたの?」

「………ノーコメントで」

「何かやましい事でも?」

「いや、ここは話したくないなぁ…」

「……答えてよ」

「嫌ですッ!」

「失礼、二人共。話の続きをさせてください」

 

 どす黒い覇気を放ちながら詰め寄ってくる響ちゃんに、俺は必死に答えまいと抵抗する。

 ここではっきり答えたら終わりだ……!

 だからはぐらかそうとしたら倫太郎に注意された上、ソフィアさんは微笑ましそうに笑ってしまってる。

 

 ……つい二人がいる事を忘れてた。響ちゃんもバツが悪いのか、頬を紅くして顔を背けてしまってる。

 

「では、話を続けましょう。響さんの力は恐らく、『シンフォギア』と呼ばれるものです」

「「……シン、フォギア?」」

「はい。ワンダーライドブックはある分野では『聖遺物』と同じ物であると認識されています。

 聖遺物とは太古の人類が造り出したオーパーツであり、シンフォギアは聖遺物の力を引き出して纏う鎧なのです」

 

 曰く、シンフォギアはとある科学者が造り出し、日本で運用されている対ノイズ用の特殊兵装だそうだ。

 ただ扱うには聖遺物と波長が合う必要があるみたいで、条件を満たした者は響ちゃん以外だと日本政府直属の『特異災害対策機動部二課』にしかいないとか。

 

「特異災害対策機動部って、日本政府の対ノイズ部署だよね」

「でも、二課があるなんて聞いた事がない」

「特異災害二課は世間には秘された組織。

 知っているのは各国政府か、ソードオブロゴスのような極一部のみでしょう」

 

 そんな組織があるなんて初耳だけど、続けてソフィアさんが語ったのは二課の話を遥かに上回る驚きを運んできた。

 

「シンフォギアは本来専用のギアペンダントを用いて纏うと聞いています。

 それ無しに変身してみせたとなれば……響さん。恐らく貴女の体内には『聖遺物の欠片』が埋まっているのかもしれません」

「───っ! 響ちゃんの身体の中に!?」

 

 咄嗟に響ちゃんに目を向ける。

 すると彼女はどこか納得したように、自分の胸へ手を置いていた。

 

「その様子、心当たりがあるのですね?」

「うん。でも、なんで今になって……」

「……響ちゃんは大丈夫なんですか? 何か悪影響は?」

 

 響ちゃんの心当たりがなんなのか、後で話を聞かなきゃいけない。

 でもその前に身体の影響について尋ねると、ソフィアさんは静かに頭を振っていた。

 

「残念ながら、シンフォギアについて知っている事はあまり多くはありません。

 調べる事自体はできますが、やはりより専門的な知見は二課の方が上でしょう」

「なら、そこに頼れば響ちゃんの事も……!」

「……飛羽真君。それはあまりお勧めできません」

 

 シンフォギアは二課の専門らしい。ならそこに聞けば……と思ったけど、倫太郎はあまり気乗りしないらしい。

 

「……どうしてなんだ?」

「彼らは日本政府直属の組織。その意味は日本に住むあなた方なら思い至る事がある筈」

 

 その理由は日本政府にあるという。

 二課を信用できない理由……。あるとすれば、もしかして───

 

「もしかして、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が気にかかるんですか?」

 

 俺の問いに、二人は重苦しい表情で首を縦に振った。

 

 ───二年前、ツヴァイウイングのライブで大量のノイズが人々を襲う惨劇が起こった。

 当時の世間はライブから生還した人達へ風当たりが強く、一部の地域では魔女狩り染みたバッシングまで起こる始末だったんだ。

 そこから色々あって事態は収束し、現在は生存者達も穏やかに暮らせてる。

 ただ後に判明した情報によると、このバッシングは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()らしい。

 

「彼らも人を護る使命を持つ者。自らの私利私欲のみで動く者ではないと信じたいのです。

 ですが今の彼らに。或いは政府の人間へ下手に接触すれば、組織を利用しようとする悪意ある者が現れるかもしれない」

「響さんの状態は二課から見てもかなり特殊なケースでしょう。

 これも悪用する者がいないと断言できない以上、接触するのは危険だと僕は思います」

「そう、か……」

 

 ……こればかりは仕方ないのかな。

 俺も隠蔽に走ったっていう人達へは良い印象を抱いていなかった。これが政府全体にとなる人の気持ちも、俺は理解できてしまう。

 それに二人も組織の意向だけじゃなくて、純粋に響ちゃんを心配してくれてるのが伝わってくる。

 だから二人の厚意を無碍にする選択を、俺はする気にはなれなかった。

 

「響さんの身体については、よろしければこちらで検査をしていこうと思います。

 それで二つ目の質問ですが、一体どういった事が聞きたいのですか?」

「それは───」

 

 一方で響ちゃんは自分の身に起きた事をしっかりと受け止めたらしい。

 動揺も少なく、ソフィアさんの問いかけに淀みなく答えていく。

 

「───二年前のあのライブでわたしは見たんだ。

 ツヴァイウイングの二人を助けていた白と金色の鎧の剣士と、わたしを励まして勇気づけてくれた剣士の姿を」

 

 けれど彼女の話は俺達に再び衝撃を与えた。

 剣士って、まさか俺が変身したような? しかもそれはここに来る前に俺へ質問してきた話だ。

 

「そしてわたしを励ましてくれた剣士の姿が、飛羽真さんの変身したものと瓜二つだったんだ。

 だからもしかして、あのライブに現れた剣士の事を知ってるんじゃないの?」

「響さん、貴女は────いえ…今はその剣士達についてですね。

 わたしから言える事は一つ。

 二年前のライブ会場に仮面ライダーが現れた、という事は有り得ません」

 

 ただしソフィアさんの回答は、決して響ちゃんの望むものじゃなかった。

 

 目を見開く彼女を余所にソフィアさんは語る。そもそも組織は()()()()()()()()()()()()()()()()のだと。

 さらに俺の持つ聖剣はかつて担い手ごとその行方を眩ませていた物。もう一人の剣士と似通った仮面ライダーには覚えはあるが、それも当時は使い手がおらず、組織から持ち出された記録もないそうだ。

 

「ですからそれを踏まえると、我々としてはそう答えるより他ないのです」

「……そう」

 

 素っ気ない返事だが、響ちゃんは明らかに気落ちしてしまっている。

 何か言葉を掛けたいところだが、俺が口を開く前に倫太郎が彼女を励ましにかかった。

 

「そう落ち込まないでください。ソフィア様はただ仮面ライダーではないと見解を述べただけなんです。

 どこかにその剣士達がいるのなら、いつか会える時がくるかもしれません」

 

「そう、かな。……うん、そうだよね」

 

 彼の言葉に響ちゃんは気を持ち直したようだ。その目には少しだけ活気が戻っている。

 倫太郎には感謝しないとな…。とんでもない姿で店に入って来たけど、世間の事を知らないだけで根は善い奴なんだろう。

 

「ソフィアさん。……俺達はこの力をどうすればいいんですか?」

 

 ただそれを言うより先に、この事だけはしっかりと聞いておかなくちゃいけない。

 話を聞くに、俺達の力は想像もつかないような強大さを秘めている。

 ノイズやメギドに備えて持っておこうとしたけど……果たしてそんな心持ちで手にしていい代物なのか、俺はここにきて判断に迷っていた。

 

「それは貴方達次第です」

 

 ……だからこそ、なんだろうか。

 ソフィアさんは決して断言せず、俺達に選択を委ねてきた。

 

「俺達、次第……」

「僕達剣士は皆、命を賭けて戦っています。ですから君達に無理強いはしません。

 命を賭けてでも戦うべき理由があるのか。よく考えて決めてください」

 

 響ちゃんもまた、ソフィアさんの言葉を真剣に聞き入っている。

 戦うべき理由、か───しっかりと見定めなきゃいけないんだろうな。

 

 この力を奮う、自分だけの覚悟を。

 

 

 

 

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