聖刃伝唱シンフォギア -語り紡ぐ交響曲の果て- 【改訂版】 作:野鳥
事件に巻き込まれたとある少女の視点から。
────私は呪われているのかもしれない。
現在私に襲い掛かっている異変を考えると、そうに違いないと思えてしまう。
「ギヒヒ……丁度いいところに、エサだァ!!」
いつもの日課である人を探し回っていた私は、突然街を覆う光に呑まれてこの場所にやってきた。
空はおかしな空間に繋がって、街には仮面を付けた不気味な集団や巨大なアリが彷徨い歩く異常な世界。
そこで同じように巻き込まれた女の子を見つけて、一緒にここから出られないか逃げていたんだけど……
「ッ! 見つかった……!?」
街の雰囲気がどんどん重苦しくなる中で、ついに私達は化け物に見つかってしまった。
背中から羽を生やした、アリのような顔の怪人が私達を追ってくる。
中学時代に陸上部だったお陰で走るのには自信があったけど、あんなの相手に逃げ切れる気が全く湧いてこない……。
「お、お姉ちゃん。怖いよ……」
「だ、大丈夫。大丈夫、だからね……!」
だけど、ここで私が折れちゃったらこの子まで巻き添えになる。
そう考えたら、諦めたくてもこの脚を止められそうになかった。
「逃げるな人間! どう足掻こうが、ここから出られはしないのだァ!」
怪人は何をそんなに執着するのか、私達をどうしても捕まえる気らしい。
後ろを向いてしまえば身が竦んじゃう。脚を止めないようにしてた私達の前方へ、突然上空から粘りの強い液体が飛ばされてきた。
「ヒッ…! ……ひっぐ、こわいよぉ」
「ッ……!」
すると目の前のコンクリートが溶かされて、道路にぽっかりと大穴が空いてしまう。
人が一人は収まってしまいそうな大きさで、もしあれが直接当てられていたら……。
そう過ぎってしまうと駄目だった。必死に抑えていた恐怖がぶり返し───やがて一歩、二歩と来て……脚がパタリと止まってしまった。
空気を切って羽ばたく音が聞こえる。……今頃、怪人は私達を眺めて舌舐めずりでもしているのかな。
ゴメン…と、抱えている女の子に心の中で謝る。
この子からしたら酷い話だけど……お姉さん、もう疲れちゃったや。
「さぁ、こいつらで少しでも補給を……」
これから何をされるかわからない恐怖と、今までの後悔が綯い交ぜになって身体が震えてしまう。
なんでこうなっちゃったのかな……。ただ、あの娘ともう一度会いたかっただけなのに。
私には会う資格がないんだとしても、こんな終わりが用意されてるなんて世界は残酷過ぎるよ……。
ねぇ、響───
《ジャックと豆の木、習得一閃!》
「ギエッ!?」
胸の中でこの終わりを嘆いていると、いきなり後ろからアリの怪人が吹き飛ばされてきた。
そこから続けざまに横を通り過ぎて二台のマシンが私達の前に躍り出る。
その二台には蒼いライオンと赤い龍の剣士。そして───マフラーで顔を隠した、どこか見覚えのある女の子が跨っていた。
ソフィアさんから譲られたライドブックに秘められた力は、本自体が専用のバイクへと変化するものだった。
また倫太郎のスマホも同じ力を持っていたようで、俺達は機首に刃のついた赤いマシン『ディアゴスピーディー』。
前方にガトリング等の銃身を取り付けた三輪バイク『ライドガトライカー』の二台を駆り、ようやくメギドに追い付く事ができた。
「ハァ……!」
倫太郎が新たなワンダーライドブックを聖剣に読み込ませて放つ土豆の弾丸。これを背中から受けたメギドは苦しみ、そこへライドガトライカーのガトリングから弾丸を畳み掛けていく。
吹き飛ばされたメギドは立ち上がる間もなく、全身に弾を浴びて火花を散らす。
ここから俺達も追撃しようと前のめりになる。
だがライドブックを取り込んだ影響か、耐久力は相当のもので奴は未だに立ち上がる気力を保っていた。
「け、剣士共……クソッ、捕まってたまるかッ!」
「待て!」
そして一太刀入れる時間もなく、また空へ逃げられてしまう。
マシンの性能は短時間で空を飛べる相手に追い付ける程のものだ。ただし俺達自体に空を飛ぶ能力がないので、このまま制空権を取られればタイムリミットまで粘られるのは想像に難くない。
「どうする……」
どうすれば奴に攻撃を届かせられるんだ?
俺のブレイブドラゴンは飛べるけど、召喚できる時間が短いし決定打に欠ける。
接近戦専門に響ちゃんは言わずもがな。倫太郎も召喚できるのはライオンで、今使ったライドブックだって空に届かせるには射程が───
……待てよ。倫太郎が使ったライドブックの物語はなんだ?
「倫太郎。そのライドブック、俺にも使わせてくれないか?」
「ええ、構いませんよ……?」
首を傾げつつも倫太郎はライドブックを手渡してくれた。
本の題名は『
俺は一旦ブレイブドラゴンの頁を閉じると、左端の物語のスロットへライドブックを挿し込んだ。
「待ってください! まだ二冊は早いです!!」
倫太郎が慌てるも、俺はこの時余計な雑音は排除していた。
頭にあるのはここからの筋書き。この力で出来る事に皆が出来る事を掛け合わせて、メギドを倒すまでの道筋を思い描く。
《烈火抜刀!》
そして全てを書き終えた瞬間、俺は聖剣を引き抜いて新たなライドブックの力を解き放つ。
《二冊の本を重ねし時、聖なる剣に力が宿る───ワンダーライダー!》
《ドラゴン・ジャックと豆の木!───二つの属性を備えし刃が、研ぎ澄まされる》
すると俺の左半身に光が駆け巡り、鎧の形をライドブックに適したものへ変化した。
土豆を思わせる装飾が緑のラインに沿って配置され、左腕には伸縮自在の蔦を収納した籠手が現れる。
腰にも土豆の装飾を散りばめたローブを靡かせて、俺は新たなる力───聖剣の名乗りに沿うならドラゴン・ジャッ君の姿に変身した。
「へ、変身できるんですね……」
「響ちゃん、今から跳ばすからしっかり捕まってて」
「えっ? う、うん……」
後ろに跨ってる響ちゃんに忠告して、俺は地面へと左腕の籠手を突き付ける。
そうすれば倫太郎が出したような土豆の弾丸が発射されて、次々と地面の中へ埋まっていく。
「何してるんですか! 下に撃ってもメギドには当たりませんよ!?」
「いいや、これでいいんだ」
俺の行動に倫太郎は驚いているようだけど、少し待ってほしい。
そう経たない内に………ほら、どんどん立派に育っていく。
「こ、これは……」
「空に伸びる豆の木……」
響ちゃんは意図を察してくれたようで、呆然としつつも目の前の光景に呟きを漏らしてた。
これが俺の作戦。ジャッ君と土豆の木───多分『ジャックと豆の木』に因んだライドブックの力を使って、天まで伸びる豆の木を成長させる。
この木を登ってアリメギドに追い付くんだと、俺はディアゴスピーディーのアクセルを全開に引き絞った。
「さぁ、行くよ!」
「うわっ!?」
限界までエンジンを高めたマシンは響ちゃんの動揺をBGMに、最大全速で豆の木を駆け登っていく。
最初は上に成長していた木は、俺の意志に合わせてメギドへとその幹を伸ばしてくれる。それに沿ってバイクを走らせれば、あいつの軌道に追い付くのに時間は掛からない。
「ば、バカな! この高さを追ってくるのか!?」
俺達に気付いたメギドは、さっきと同じく溶解液をこちらへ飛ばしてくる。
《ブレイブドラゴン》
対してこちらもブレイブドラゴンを召喚し、炎の壁で溶解液を一切近寄らせない。
溶解液が効かないと見て、今度こそアリメギドは逃げの一手に徹しようと背中を見せる。だけどそうはさせないと後ろの響ちゃんが体勢を傾けた。
「ハァァ……!」
サドルから飛び出した響ちゃんは、アリメギドに向かって一直線に急降下。
アリメギドも抵抗しようと腕を奮うも、それより先に彼女の拳があいつの鳩尾を抉った。
「グ、ボエッ……」
「飛羽真さん、今!」
さらに身体を回転させると、その勢いでマフラーを伸ばしてアリメギドの身体に巻き付かせる。
マフラーが邪魔で羽を広げられず、メギドは一気に浮力を失って地上へ落下してしまう。
《必殺読破!》
彼女の呼び掛けに応じ、俺は聖剣を納刀。
一気に引き抜いて、炎を纏う剣と共に二人の下へと跳び下りた。
「火炎十字斬ッ!」
《烈火抜刀!
ドラゴン・ジャックと豆の木、二冊斬り! FA、FA、ファイヤー!!》
落下による気流がさらに炎を燃え上がらせ、火の柱と言うべき大火力でアリメギドを一閃。
一文字の傷を受けたその身体は、聖剣から注がれたエネルギーに耐え切れず崩壊した。
「も、もう少しだったのにィィィィィ───!!?」
爆発を背に落下するその真下には、倫太郎のライオンが地面を走って跳び上がる。
咄嗟に意図を読んだ俺達は、その背をクッションにしてまた跳躍。くるりと一回転して衝撃を殺し、地上へと降り立てた。
「お二人共……その使い方、最っ高ですよッ!」
こちらに駆け寄ってくる倫太郎が興奮気味に語り掛けてくる。何も伝えずに戦ったけど、意外と好印象なようでちょっと驚きだ。
でも悪い様に思われてないなら俺としても嬉しい。これから一緒に戦うにあたって幸先のいいスタートだ────と考えていると、響ちゃんから一冊のライドブックが投げ渡される。
「ほら、あいつの持ってたライドブック。今回みたいに使えるんじゃない?」
「そうだね、ありがとう」
見るとそれは妖精と共に空を征く少年を描いた『
あいつが空を飛んでたのはこれのせいだったな。……それにしてもなんで、メギドがワンダーライドブックを持って戦っていたのか。
まだ俺の知らない事がたくさんある。そう噛み締めていると……メギドに襲われそうになっていた少女達がこちらへ駆け寄ってきていた。
「おねえちゃんたち、カッコいい……!」
「えっ、わたし……?」
どうやら俺達の活躍を見て元気を取り戻してくれたらしい。ただ響ちゃんはその対象に自分も入ってる事に困惑気味の様子だ。
「カッコいいって言うんならこの二人じゃないの? ほら、怪人を倒したのだってこの人だし……」
「でも、おねえちゃんも戦ってたでしょ?
ギューンのドバーンってお化けと戦っててスゴかった!」
「響さん、素直に受け取ってあげてください。
僕の師匠も『人からの賛辞は素直に受け取るのもまた礼儀』と言っていました」
ワクワクと響ちゃんの活躍を語る女の子を、当の本人は真正面から見れずに目を細めてしまってる。
けれども倫太郎の助言を受けるとほんの少し考え込んで。……やがて視線を合わせようとしゃがみ、じっと女の子の顔を見つめ出す。
「まあ、そこまで言うなら受け取っとく。…………ありがとっ」
「えへへ……」
そうして少し照れつつも女の子の頭を撫でていた。
……倫太郎もその師匠って人も真面目で善い人なんだな。響ちゃんはこの前素直にお礼を受け取れてなかったから、一歩踏み出す切っ掛けをくれた彼には感謝しかない。
響ちゃん達の姿を感慨深く見守っていた俺は、そこでふと女の子と共にいた少女の様子がおかしい事に気付いた。
「えっと、どうしたのかな?」
視線の行く先を辿ると響ちゃんが気にかかるようだ。試しに俺が話しかけてみると、彼女は意を決したように口を開き始めた。
「貴女ってヒビキ───立花響、だよね?」
「……なんでわたしの名前を知ってるの?」
響ちゃんの事を知っているらしい。対して聞かれた当人は少女に見覚えがなさそうだけど……どういう関係なんだろうか?
「もしかして………忘れ、ちゃった?
私、未来だよ! 二年前まで一緒の学校に通ってて、友達だった────
そこで素知らぬ顔をされたのが余程ショックだったようだ。酷く狼狽した少女は破れかぶれに自分の名前を叫んで響ちゃんの肩を掴む。
響ちゃんはシンフォギアを纏っているから大丈夫だろうけど、流石にこれは見過ごせない。傷つけないように少女を引き剥がして、何とか落ち着けようと試みる。
「ちょっと君、落ち着いて……!」
「こひなた……み、く────」
「そう、だよ。覚えて……ないの?」
響ちゃんも頭を押さえて酷く動揺しているようだ。未来と名乗った少女はその様子に今にも溢れんばかりの涙を溜め込んでいた。
一体二人はどういう関係なんだ? この娘は友達だと言ってるけど、それにしては響ちゃんの様子もおかしい。
未来って娘が一方的に、とするには妙な迫真さがあるし……まさか、響ちゃんの方が忘れてる?
そうして言い様のない不穏さが場を支配した時だ。
────そんな空気を打ち壊すように、一台のバイクが俺達を飛び越えていった。
「な、なに!?」
「誰……あれ?」
「新手のメギド───では、ないようですね?」
バイクは摩擦を起こしながら前方へと着地し、俺達へ側面を向ける。
見たところただのオンロードモデルのバイクで、乗っているのは女性が二人。周囲も見れば既に結界も解けていたようで、なら仮面ライダーやメギドでない人がここにいるのも頷ける。
「今回も何もできず終わるとは……防人として不甲斐ないばかりだ」
「仕方ねーだろ? あたし等じゃ、あの本には手出しできねぇんだ。
……けど、今日は最後の最後で間に合ったみたいだ」
とはいえそうなると彼女達はこんな場所に何をしに来たのか。
響ちゃん達の諍いも忘れて突然の乱入者に釘付けになっていると、二人はヘルメットを取ってこちらへその素顔を晒した。
そうして明かされた正体に、俺は知らず息を呑む。
日本で彼女達の名を知らない者はいないだろう。
なにせあのライブの生き証人。ライブ生存者への事件が明るみになった後は、度々ワイドショーを賑わせていた歌姫達。
「────ようやく会えたね。仮面ライダー」
日本を代表するボーカルユニット・ツヴァイウイングの二人が俺達の目の前にいた。