聖刃伝唱シンフォギア -語り紡ぐ交響曲の果て- 【改訂版】 作:野鳥
……ですが、すんなり同じ方を歩んではいけないようです。
「───ようやく会えたね。仮面ライダー」
バイクから降りた二人の少女達は、俺達を見て『仮面ライダー』の名を口にした。
……なんで彼女達が仮面ライダーを知ってるんだ?
響ちゃんの話だと俺と同じ姿の剣士がいたようだし、彼らの戦いを目撃していてもおかしくはない。けどだからって仮面ライダーの存在まで知っているのは奇妙だ。
「失礼、あなた方は一体誰なのですか?」
「特異災害対策機動部二課所属。シンフォギア装者の風鳴翼です」
「んで、あたしも同じく二課所属の装者で天羽奏」
そこで倫太郎が代表して問い掛けると、彼女達はあっさりと自分の正体を俺達へ明かした。
機動二課!? それに装者って、響ちゃんと同じ……!
「おっ、二課の事はやっぱり知ってるんだね。なら話が早いや」
うんうんと相槌を打ち、二人は俺達へ要件を告げる。
「二課は仮面ライダーとの共同戦線を希望しています。我々は、貴方達との交渉の為にここまで来ました」
「つっても、今日まで全然会えず仕舞いだったんだけどね。
でもこうして会えて嬉しいよ。……ようやく、あの時のお礼が言えるんだからさ」
お礼? ……まさか彼女達も、俺をライブに現れた剣士と勘違いして?
そう思い至るも、俺が口を開く前に赤毛の少女───天羽奏がこちらに歩み寄って語り掛けてくる。
「ああ。もう一人はこの場にいないみたいだけど、赤い仮面のあんたにね」
そうして俺の前に立つと、いきなり深々と頭を下げてきた。
「───あの時は、助けてくれてありがとう。
あんた達が助けてくれたお陰で、あたしは今も生きていられてる」
彼女の言葉には、溢れんばかりの感謝が汲み取れて。
「私からも感謝を。あなた達が来てくれなければ、あの時奏は死んでいた。
きっと二人で歌う事も、戦う事も……あの日が最後になっていました」
「あたし達にとって、あそこが運命の分かれ目だった。
だから任務とか関係なく、これだけはどうしても伝えたかったんだ」
続いて後ろで見守っていた青みがかった黒髪の少女───風鳴翼も、俺に向かって頭を下げてくる。
当事者でない俺にはその時の様子は伝聞でしか計る事ができない。ただ彼女達にとって、それだけ心に刻まれた出来事だったのは想像できた。
……だからどうしようかと、俺も対応に困ってしまった。
俺は二人の求める剣士じゃないし、この状況はその人達が貰うべき功績を奪う形になる。
かといって真実を話せば、せっかく恩人に会えたと喜ぶこの娘達を落胆させる事になってしまう。
本当に、本当に困る状況だ……。
だから返す言葉にも詰まっていたんだけど、そこで倫太郎が代わりに口を開こうとして……
「どうやら勘違いしているようですが、彼はそもそも───」
「───フンッ!」
「ぐえっ! ちょ、ちょっとッ!?」
「えっと、響……?」
すると響ちゃんがエルボーで彼の言葉を塞ぎ、襟元を掴んでその場を離れてしまった。
え、えぇ…? 響ちゃん何してるの……?
俺や周りの皆も困惑気味に二人の挙動を眺めていた。……でも、これはちょうどいいかもしれない。一旦方針を纏めたかったし、この状況を利用させてもらおうか。
「お、オイ……大丈夫か?」
「大丈夫大丈夫、すぐ持ち直すから! ……さーて、二人共ちょっと話そうか!!」
大袈裟に声を上げつつ、俺は二人の下へ歩み寄る。
そして屈むように合図を出しつつ、ツヴァイウイングには聞こえない声量で話を切り出した。
「倫太郎、大丈夫?」
「変身は解いてませんから何とか……。
……それにしても響さん、なんで引っ張るんですか!?」
「飛羽真さんにお礼を言ってた二人の顔、そっちも見たでしょ?
あんなに感極まってるの見せられたら、本当の事も言うに言えないよ」
響ちゃんはどうやら俺と似た事を考えてたらしい。口の塞ぎ方はかなり乱雑ではあったが、彼女なりにあの二人の心情を察しての行動だったんだ。
でも倫太郎としては納得しきれないようで、難しそうに唸っては苦言を漏らしていた。
「ですがいずれは分かってしまう事です。何時までも隠し通せるものではありませんよ」
「それは……」
「でも、今すぐでなくてもいいとは思うんだ。それに考えなきゃいけない事は他にもあるしさ」
話が平行線になりそうだったので、話題を彼女達の申し出についてへ変える。すると倫太郎は一瞬黙ると、すぐに横に頭を振った。
「……共闘の件、ですか。
「もちろんダメに決まってます。そもそも組織は二課と距離を置く方針なんですし、響さんの件を考えても付いていくのは危険過ぎますよ」
この答えは想像通りだ。倫太郎からすれば彼女達の申し出を受ける理由なんてないんだから。
「倫太郎の話は分かるよ。けど……俺は彼女達の話、受け入れてもいいって思ってる」
「……二課と接触するのは危険だと言った筈です」
この申し出を受ければ万が一二課がこちらを罠に嵌めようとした場合、俺だけじゃなく響ちゃんや倫太郎達を危険に晒してしまう。
加えてソードオブロゴスが響ちゃんを診てくれるという厚意も反故にする事になる。
「倫太郎達を信じてない訳じゃないよ。
だけど響ちゃんの事を考えると、たとえ危険でも二課で診てもらった方がいいと思うんだ」
「……」
二人は揃って俺を見つめてきた。特に倫太郎は仮面越しでもまだ納得できないのが見て取れる。
「ですがそれこそ彼女達が無害としても、二課や日本政府がそうだとは限りません」
「……確かにそうだ」
その反論には頷くしかない。俺は数日前までただの小説家だった男だ。政治や利益を求めた駆け引きなんて理解の及ばない世界である。
「───けど、倫太郎がいる。
俺がもし二課に騙されてても、その時は君が助けてくれるだろ?」
「────」
それでもこの提案できるのは倫太郎の存在があるからだ。
俺が騙されたとして。傍に注意してくれる誰かがいれば、いざ危険が迫っても立ち向かえると思えた。
こちらの話を聞いた倫太郎は言葉を詰まらせると、喉の奥から捻りだすような唸りを上げる。
彼としても難しい話なのは承知の上だ。だとしても賛成してくれないかと祈っていると、暫くして倫太郎はようやく話を再開した。
「……ハァ、仕方ありません」
「倫太郎……!」
「ただし! まずはソフィア様に確認をとります。僕達の一存で決めていい話ではありませんから」
それも俺の話を呑んだ上で、だ。思わず声も明るむ俺に言い含めつつ、倫太郎はソフィアさんに連絡を入れ始める。
響ちゃんと顔を見合わせつつ内心期待してしまう。
これで彼女達が良い協力者になってくれれば……とまで考えたタイミングで痺れを切らしたようだ。
「お~い! 話し込んでるけど、どうした?」
声を掛けてくるツヴァイウイングへ俺は方針を相談していると告げた。
「……となると、この場では答えは出せないという事ですか?」
「そうでもないんじゃない?」
雲行きが怪しいかと二人は表情を曇らせたけど、そこへ響ちゃんが口を挟んだ。
丁度そこで倫太郎も連絡が終わり、こちらへと振り返ってくる。
様子を見てみると彼はゆっくりと頷いた。……という事は、話はまとまってくれたみたいだ。
「って事は────」
「ああ、俺達も君達と一緒に戦いたい。
だから詳しく話を聞かせてほしい。一緒に戦う仲間として」
俺の返事に二人は目に見えて顔を綻ばせる。
やっぱりどう見ても彼女達は悪い人には思えなかった。それは例の剣士へ募らせている想いからも推し量れて………だからこそ信じたい。
この二人、そして彼女達の所属する組織が信頼できる人達なのだと。
その後俺達は二人の先導の下、解放された街のとある地点まで案内された。
そこでは所かしこに専門の車両や機器が並んでいて、忙しなく周囲の状況を調査している。どうやら二課が街の人々の保護も行いつつ、実況検分をしている真っ最中のようだ。
「倫太郎、やっぱり変身は解いていいんじゃないかな?」
「協定を結ぶとはいえここは相手側の陣地です。
失礼は承知の上ですが、まだ用心しておくに越した事はありません」
ただ変身を解かないままやって来た俺達に、いくらその道のプロとはいえ注意は引きつけられるみたいだ。すれ違う度にチラリと視線をよこされ、こっちとしても気が気じゃない……。
こっそりと倫太郎に耳打ちしてみるが、必要な事だとこれについては頑なのようだ。
「悪いね、流石にその恰好じゃ皆気になるみたいでさ」
「暫し耐えていただきたい。そう長くは掛かりませんので」
二人も特に気を悪くしてる素振りはないけど、やっぱり申し訳なくなる……。
ただ同時に思うのは、なんで二人の様子が変わらないかだ。
何しろこちらは話し合いの場で武器を手にしている状態。何時刃を向けるか判らないと気を張ってもおかしくないだろうに、二人にはどこか余裕とも言える佇まいである。
それがこちらを信用してくれている証なのか───或いは、万が一は対処できるという自信の現れなのか、俺には判断がつかない。
「司令。仮面ライダーと未確認の装者、計3名をお連れしました」
「ん、ご苦労だったな」
やがて辿り着いたのは一つのテントの中で、そこには資料を手にモニターを見ている一人の男性がいた。
彼への第一印象はとにかくその偉容さだった。
俺も身長が187cmはあるのでよく大きいなんて言われたりする。けれどその人は俺以上の身長に、筋骨隆々と呼べるだけの逞しい筋肉を備えていた。
だからそう目線は変わらない筈なのに、あまりの存在感に俺達は知らずの内に息を呑んでいたんだ。
「ほお、君達が仮面ライダーか……」
「えーと……貴方は?」
「俺は風鳴弦十郎。特異災害機動部二課の司令をやっている」
しかもこの人が二課の司令と言うんだからますます驚きだった。
勝手ながら政府直属というので、てっきりデスクワークが得意そうな型に沿ったタイプを想像してたから。
「そして君が───立花響君か」
「……わたしの事を知ってるの」
「ああ。君が装者に目覚めたのはつい先刻ばかりに知ったが、それ以外のあらましはほとんど調査済みだ」
そして弦十郎さんは響ちゃんを見やり、そう意味深に告げる。
これに彼女は怪訝な顔をつくり、警戒心を顕わにした。それもそうだろう。事前に素性を調べたと言われればこの反応も無理はない。
第一……今の言い方なら、この人は響ちゃんの過去まで調べた事になる。
「その上で君に伝えるべき………いや、謝罪しなければならない事がある。これを聞いた上で、俺達の申し出を受けるか決めてくれ」
「司令! その件ならば私達から……!!」
さらに弦十郎さんは畏まって、彼女に伝えるべき事があると切り出した。翼さん達は代わろうとするけど、それを彼は手で制して首を横に振る。
「伝えるべき事……一体何の話?」
「これは二課の機密にも関わる話だ。誠に勝手ながら、部外者へは漏らさない事を確約した上で聴いてもらいたい」
何が何でも自らの口で、という意志を彼は示していた。
響ちゃんは静かに首を縦に振る。俺も首肯するが、所謂極秘事項らしいので倫太郎の反応を窺ってみた。
「内容如何では組織へ内容を持ち帰る必要もあります。こちらの事情ではありますが、そこもご了承願います」
「構わんさ。君も同席している時点で想定していた。……さて、どこから話そうか」
条件付きながら全員が了承したのを確認し、弦十郎さんは話を続けていく。
一体どんな内容かと耳を傾けると───俺達三人は、余りの内容に思わず言葉を失ってしまった。
それは二年前のライブ……その裏で起きていた事件の真相だ。
あの日のライブには二課及び日本政府もスポンサーとして関わっていた。その目的は『完全聖遺物』なる物の起動実験にあったらしい。
『完全聖遺物』とは、響ちゃん達が使う聖遺物が現代まで完全な形を保った物。
それを起動するには、シンフォギアにも使われているエネルギーが大量に必要で、確保するのに適合者の歌が重要な鍵となるようだ。
なのでライブ当日、会場では二課の装者であるツヴァイウイングの歌で発生したエネルギーを送り込み、完全聖遺物を起動させる手筈が整っていたのだという。
しかしその過程でノイズが大量発生。
混乱の最中に完全聖遺物も奪われ、このタイミングの良過ぎる反応に彼らは何者かによる計画的犯行と見ている───と。
「つまり……なに?」
ノイズが計画的に呼び出せるなんて話も眉唾だが、問題はそこじゃない。
考えるべきはたとえ不幸が重なったとしても、彼らの事情にライブの観客達は巻き込まれたという事実だった。
「あの時の惨劇は、あんた達のせいで起こったって事……?」
「その通りだ…。俺達の不手際に君達を巻き込んだ事、誠に申し訳ないと思っている」
底冷えするように低い声で口を開いた響ちゃんへ、弦十郎さんは事実を認めて頭を……それどころか土下座までして謝罪の意志を示す。
けれど響ちゃんの怒りは収まらない。ギチリと音が鳴る程に拳を握りしめて、顔が歪むくらいに歯を食いしばる。
「思ったところで、今更……ッ!」
「……そう言われるだけの事をした。君の気が済むならどんな誹りも、どんな痛みでも受け止めよう」
声を震わせながら絞り出した言葉にも、弦十郎さんは姿勢を崩さず頭を下げたまま。
その態度すら彼女の勘に触ったのか。響ちゃんは力任せに彼の胸倉を掴み上げ、真正面から睨みを利かせる。
「簡単に言わないでよ…。
あんたがどんな態度をとったって、あの頃の痛みが消える訳じゃないのに……ッ」
そして彼女は堪え切れなくなった拳を、激情のままに弦十郎さんへぶつけようとした。
「響さん!」
倫太郎が声を荒げる。後ろで見守っていたツヴァイウイングもこれには彼を庇おうと動きを見せた。────けれどそれより先に、俺が響ちゃんの拳を受け止める方が早い。
「駄目だ。それだけは……駄目だよ」
「………」
怒る気持ちもわかる。いきなりこんな事実を明かされて、湧き上がる気持ちをどうすればいいか判らないのも。
だとしてもそれを拳に乗せるべきじゃない。
たとえ今は気を晴らせても、君は後で今日を悔やむ娘だと俺は知っているから。
暫くの間俺達は佇んだまま睨み合っていた。……でもやがて俺の気持ちを汲んでくれたのか。ゆっくりと拳を下ろし、響ちゃんは背を向ける。
「話なら勝手に決めて。わたしは……あんた達の顔なんて見たくないッ」
そして最後にそれだけを告げて、彼女はテントの外へ出ていってしまった。
場に陰鬱な空気が流れる。誰しもが二の句を告げれずにいたけど、やがて弦十郎さんが力ない顔つきで呟きを漏らした。
「殴りもしなかった、か……」
「ダンナ……」
奏ちゃん達も彼を呼ぶだけで、それ以上は何も言えずに顔を伏せる。
……もう協定の話は吹き飛んでしまってるよな。同じく空気を読んでいたようで、倫太郎が話を戻そうと語り掛ける。
「皆さん、今回の件は……」
「ゴメン。俺はまだ二課と手は結べない」
そこに俺は自分の意見を被せていった。
「俺はあの娘を守るって約束した。だから俺の勝手で響ちゃんの気持ちを踏みにじる訳にはいかないんだ。
だから一度は了承したけど……この話は、一旦白紙に戻させてくれないか?」
「……君がそう言うのであれば」
「申し訳ありません。我々の不手際で、彼女を苦しめてしまい……」
今度は自分が頭を下げようとする翼さん達に、俺は頭を振ってそれを止める。
……俺だって明かされた真実には思うところはあった。それでもやっぱり俺は彼らを信じたい。
たとえ過去に間違いを犯したとしても、彼らの態度にはそれを重く受け止めて、前に進もうとする想いが籠っていたから。
ただ同時に響ちゃんを置いていきたくない心もある。彼女が踏ん切りをつけられない限り、俺も歩み寄る選択はできそうにないんだ。
……願うのは間違っているだろうか。
許すと言わずとも。せめて両者が同じ道を歩む方法がないかと、俺は彼女の去った出口を見つめていた。