クソみたいに性格の悪い喜多ちゃんの話   作:やみーさん

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クソみたいに性格が悪い喜多ちゃん

(──なんで先生たちは……この人たちはこんなに私に優しいんだろう。)

 

 私が幼い頃ふと思ったのは、そんな詰まらないことで、そしてその気付きが私の、喜多郁代の全てを狂わせた。

 幼いながらの私は、こう思ったのだ。

 

(そっか、私が可愛いからだ)

 

 でもすぐに疑問が浮かんだ。

 

(でも、それならなんで私より可愛いあの娘は、私よりちやほやされてないんだろう……)

 

 そして笑顔で先生と会話しながら、私と『あの子』の違いに気が付く。

 

(そっか……いつもニコニコしてて、否定しないで褒めるからこの人は私を可愛がってくれるんだ)

 

 そしてこの考えの一番悪いところは、あながち間違いではなかったことだろう。可愛くて、笑顔で人当たりも良い──幼い私が見つけた理想像は、決して間違いではなかった。

 

 

 だけど、だ。そんな、『誰がどうして私にこうするのか、こう考えるのか』なんていう歪んだ考えを持っていて、果たしてその人は普通でいられるだろうか。

 

 

 果たしてその人は、その『理想像』でいられるだろうか。

 

 

 ◆◇

 

 

「──佐藤さん、凄いのね! 中学校で絵画コンクール入賞なんて、憧れちゃうわ!」

 

「そ、そうかな……で、でも別に私は普通にやっただけだし」

 

「いえ、それは佐藤さんの努力の賜物よ! 私も見習わなくっちゃね!」

 

 目の前の黒髪の女の子を褒め称えながら、私は心の中で呟く。

 

(『普通』? 『普通にやる』? 面白いこと言うのね、貴女。ところで話は代わるけど、()()、大体こういうときの普通って、『私にとっては普通だけど、貴女には普通じゃないんだね! 私凄い!』っていう意思の裏返しなのよね、知ってたかしら?)

 

 「うん、本当に凄いわっ!」

 

 廊下を歩きながら、心にもない言葉を続ける。この学校で『好かれる娘』になるには、全体に『気持ちの良い子』の印象を与えることが必要だから、よく移動途中にこう言う話を誘導する。

 

 通りかかる人が、『いい人だな、あの人』と思うように。

 

「へへ、なんか照れくさいな……」

 

「へえ、佐藤さんってやっぱり凄いね! そういえば皆、中学で合唱コンクール見たいのあったじゃん、あれってどうだった?」

 

(──うわっ……)

 

 もう一人一緒に歩いていた茶髪の娘、小野寺さんが会話を別の方向に振る。そして、その意図が明け透けに見えた私には、余りの気持ち悪さに心で一歩引いた。

 

(絵画コンクールから合唱コンクールに繋げて……で、さっきは佐藤さんの入賞の話…………うわぁ、凄いわねこの子。もうちょっと意思隠さないかしら?)

 

 心の中で言葉を潰す。そして、小野寺さんの期待の方向に話を寄せる。こういうのは直接聞いてもダメなのだ。

 あっちが明け透けだからといって、こっちも明け透けだと『褒めてあげてる』感が出てしまう。

 

「うーん、そうね……学年でやるやつよね? それなら、クラスで3位とかが最高だったかしら? やっぱり『合唱』って難しいのよね」

 

「へぇ、そうなんだ」

 

 茶色の瞳が期待を高めてこちらを見遣る。悪寒と寒気が背筋に走る。

 

「小野寺さんはどうだったの?」

 

「──私? 私は全然だったよ」

 

「なんか隠すことでもあるのかしら……気になるわ!」

 

「えぇ……なんかそこまで興味持たれると恥ずかしいなぁ」

 

(気持ち悪い……気持ち悪い気持ち悪い! せめて最初の問いで言っちゃいなさいよ……ここに来て、『あんまり早く飛びつくと、それをいいたくて話振ったように見える』とか考えて引き延ばす……思考が終わってるわね)

 

 ぞわぞわしてくる。こういうときの保身に近い感情の推移は、もう鳥肌ものだ。そして、やっと小野寺さんは折れてくれた。

 

「……その、皆で協力して優勝したんだよ」

 

「きっと凄い良い合唱だったのね! 私も聞きたかったなぁ……あ、そういえば小野寺さんってなんかの役割担ってたのかしら?」

 

「あー、一応リーダー的なことはしてたかな。でも、ほとんどなにもしてなかったよ!」

 

「そんなことないと思うわ。やっぱりリーダーって大事だもの! チームの空気を変える力が、きっと小野寺さんにはあったのね!」

 

「そういって貰えるととありがたいな……あ、でね! その後、もう一段階あったらしくて、県のコンクール的なので──」

 

 もう吐きそうだった。目の前の人のどこまでも賞賛を求める姿勢を見ていると気持ち悪さが湧き上がる。

 

「へえ、そういうのもあるのね! 佐藤さんはどうかしら? そういうのって知ってる?」

 

 耐えきれなくなり、二人が話すように無理遣り仕向ける。二人が会話を始めるのを見届け、一瞬安堵のため息を吐き出しそうになる。そのまま気分転換に窓へ目を向けると──、

 

(……ギター?)

 

 向かいの窓から見えるのは、ピンクのジャージとギター。なんで学校にギター? そして何故ジャージ?

 疑問符が浮かぶと、やがて結論は出た。

 

(……わざわざあんな目立つもの持ってきてるってことは……言及されたい、もしくは褒められたいなにかがあるってことかしらね。確かうちの学校のバンドにあんな様相の人いなかったはずだし)

 

「──って言われたんだよ! 酷くない?!」

 

「うんうん。私も分かるなぁ、それ……あれ? 喜多ちゃん?」

 

「……あ、ごめんなさい!」

 

「もー、なにぼんやりしてるの?」

 

「ごめんね、ちょっと面白い物が見えちゃって……それでどんなの話してたの? 気になるわ!」

 

 そして、私は目の前にいる二人との会話に戻りながら考える。

 

 

(この二人の相手も中々疲れるし、気休めに別の人のところ行ってみるのも……まあ、ありかしらね)

 

 

 そしてこの決断が、喜多郁代の人生に大きな衝撃を与える少女……後藤ひとりとの出会いの、その始まりだった。




佐藤さんと小野寺さんなんて名前は登場しません(多分)。もし名前とか原作で言及されてたら教えて下さい!
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