山田リョウの飯炊き   作:ナメクジ次郎

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ライブチケット

 弁当を食べ終えた山田から放たれた言葉に、俺は言葉を失っていた。

 

「坂本、お金出して」

 

 ちょいちょい、と手招きするようなジェスチャーをしながら山田はこちらを見つめてくる。

 お金……こいつ今金って言った? 

 飯をたかっているのにそのうえ現金まで……こいつ家が金持ちなはずなのにそこまで困窮を……。

 

「山田、俺達友達だよな?」

「……? うん、そうだね」

「なら金の無心をするのにもうちょっと段階を踏んで欲しいんだが」

「違う。今度ライブやるからチケット代。坂本も来るでしょ」

 

 ライブ……? 

 おかしい、確かこいつ以前にバンド辞めたって言ってなかったか? 

 もしかして音楽から離れ過ぎて少しおかしくなってしまってバンドが続いてると思い込んでいる……? 

 

「またバンド始めたんだよ。今度は虹夏と一緒に」

「マジか! ならまた山田の演奏聴けるって事か! 新しいバンドは伊地知さんと二人?」

「他校のギターも入れて三人、私のファンなんだって」

 

 こいつ学校外にもファンが居るのか、いやまあ別にライブハウスメインで活動してるから不思議なことでもないんだが。

 普段のこいつの言動を知らないファンが一緒のバンドに入ったりなんかしたらライブしてるカッコ良さと素のギャップで幻滅されたりしないものだろうか。ギターの人の情緒が心配だ。

 

「坂本も私のファンだし来るよね?」

「行く行く絶対行く! いやー山田の演奏聴くの何か月ぶりだ?」

 

 山田の居たバンドが解散してからというもの、弁当を作ってやったりはしてはいたが音楽の話やなんかはお互い話題に上げることは少なかったと思う。

 触れていいものかどうかもわからなかったし、向こうも積極的に話さないのならそういうことなのだろうと納得もしていた。

 ただ、漠然ともうあの演奏を生で聴くことはできないのかもしれないという不安はあったから少しだけ安心した。

 

「じゃあいつも通り三千円。お釣り無いからちょうどがいい」

「はいはい」

 

 お前の財布にはお釣りどころかそもそも金が無いだろ。と心の中で毒づきながらも、財布から野口を三枚取り出す。

 そしてそれを山田に渡そうとしたところで、山田の手元を見て違和感を感じた。

 

「おい待て山田、なんでチケット二枚売りつけようとしてんだ」

「なんでって、私のファンなんだよね。坂本の妹」

「そうだな。お前が以前居たバンドのライブには通ってたし」

「なら来るでしょ?」

 

 それが当然のことのように山田はそう言う。

 こいつ前に居たバンドのファンだったとかそういう可能性は微塵も考えないのか。考えてないんだろうな。

 実際のところ妹はリョウ様単推しとか言ってたから間違ってはないんだが。

 

「悪いけど、妹は行かねえから一枚でいい」

「なんで」

「なんで……って、あいつ今年受験だからさ、学校の方からあんまり盛り場に行かないように釘刺されたんだと。あと今年は全国行けそうだから練習時間捻出の為に推し断食だって」

 

 ライブ行けないならいっそのこと、なんて言って物販で買ったバンドグッズなんかも全部封印していた時の苦しそうな妹の顔はまだ記憶に新しい。

 

「もしかして坂本の妹、結構凄い?」

「強豪校で一年からレギュラーって言ってたか凄いんじゃないか? 詳しいことはよくわかんないけど」

「楽器は?」

 

 全国、という言葉に興味を持ったのか山田は若干こちらに身を乗り出してそう聞いてくる。

 こいつちょっと前に妹の話出した時は全然食いつかなかったのに今日は凄いぐいぐい来るな。

 まあ自慢の妹の事だからいくらでも話せるが? 

 

「コントラバス。あのでっかいバイオリンみたいなやつ」

「ふうん、じゃあベーシストなんだ」

「えっ……あれもベースなのか。そういえば弦楽器だもんな……じゃあ山田と同じ?」

「そういうことになる。坂本、家族が音楽やってる割には全然知識無いね」

「あぁー……まあ、お前のライブと妹の演奏くらいは聞くけど正直なんとなく上手いとかパワーがあるとかしかわからん」

「……なら、今からいくらでも仕込めるんだ」

 

 仕込めるって、もうちょっと言い方があるだろ。

「まず最初にサウジアラビアのヒットチャートを……いやそれとももっと別の角度で……」などと意味不明な算段を立てている山田を見てふと思う。

 音楽のこと考えてる時のこいつって──本当にいい顔するんだな、と。

 悔しい事に元の顔がめちゃくちゃいいので本当に絵になる、顔だけで金が取れそうなくらいだ。

 

「山田」

「ん」

「ライブ、楽しみにしてるからな。カッコイイとこ、いっぱい見せて欲しい」

「任せて。私はいつでもカッコイイから……ん? ということは普段の私を見ることにも料金が発生して然るべき……!?」

 

 何やら思考が突飛な方向に飛んで行ってしまった山田を見て、心の底からこう思った。

 さっきまでの感動を返して欲しい……。

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