山田リョウの飯炊き   作:ナメクジ次郎

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秘密は案外簡単にバレるもの

 結束バンドの初ライブの翌日、俺は山田と伊地知さんのクラスの前に来ていた。

 山田からは事前に「今日は虹夏のお弁当貰うから作って来なくていいよ」とメッセージが送り付けられて来たのだが、今日は別件だ。

 手に持つはラッピングされたチョコチャンクが三つ。結束バンドの初ライブお疲れ様の意味を込めて山田と伊地知さんと、他校の人らしい段ボールを被った子の分。

 

「おっ居た。おーい伊地知さん、あと山田」

 

 教室で談笑していた伊地知さんと山田を見つけ、声をかける。

 向こうもこちらに気づいたようなので、二人の居る方へと向かう。

 

「坂本くんの方から来るって珍しいね、リョウに用事?」

「いや。山田にというか二人にというか。昨日のライブの感想? とか伝えようかと」

「あー……昨日はお恥ずかしいとこ見せちゃったね」

「虹夏、大丈夫。坂本はどっちかと言うと音楽の良し悪しはわからない側だし私のファンだからこっちしか見てない」

「そういうこと本人の前で言っちゃダメでしょ!」

 

 とんでもない事を言い出した山田を、伊地知さんが軽く小突く。

 実際のところ前に山田に話した通り音楽に詳しいわけでもなければ色々聴いてるわけでもないし、良し悪しがわからないのは事実なんだけど。

 でも山田の方しか見てないってことは流石に無い……と思う。

 

「あはは……まあ次のライブまでにはもっと上手くなってると思うから期待しててよ」

「楽しみにしとくよ。次のライブも絶対行くから」

「ところで坂本、手に持ってるそれは何?」

 

 食料の気配を感じたのか、山田は早速チョコチャンクに食いついてきた。

 伊地知さんの弁当食べた後みたいなのに目ざとい奴だな。

 

「あぁ……これ、手作りだけど差し入れ。ライブお疲れ様ってことで。山田と伊地知さんの分と、あの完熟マンゴー被ってた子にも渡しといて」

「へぇ~坂本くんお菓子作りもできたんだ」

「妹が喜ぶから定期的に作っててさ。今回は俺だけライブ行った埋め合わせで一か月毎日だけど……」

「あ~、妹さんリョウのファンだって言ってたもんね」

「坂本、これ美味しいね」

 

 俺と伊地知さんが会話をしている横で、山田は早速チョコチャンクに口をつけていた。

 美味しい、その言葉を聞けただけで胸にこみ上げてくるものがある。特に気合を入れて作ったものだけに嬉しさは段違いだ。

 

「あっホントだ美味しい! チョコいっぱい入ってるのがいいよねー」

「坂本、もう一枚食べていい?」

「こーら、それはぼっちちゃんの分でしょ。いくら美味しいからって人の分まで食べないの」

 

 机の上に置かれた三枚目のそれへと伸ばされた手は伊地知さんに阻まれ届くことはなかった。

 美味しいと言ってくれた。どうやら伊地知さんの口にも合っていたらしい。

 山田の美味しいは弁当食べさせてる時に聞きなれているが、そうでない相手からのその言葉は料理の腕が認められたみたいでより嬉しい。

 これで家に帰ったら妹からも感想が飛んでくると思うと本当に作って良かった、明日からも頑張る活力になるというものだ。

 

「いやーそれにしても坂本くんの妹さんは幸せ者だなー。こんな美味しいお菓子作るお兄ちゃんが毎日お弁当も作ってくれるなんて」

「ふふん、羨ましいか」

「いやなんでリョウが自慢げなのさ」

「私も坂本の弁当毎日食べてるから」

 

 山田がその言葉を発した瞬間、和やかだった空気にピシリと亀裂が走った音がする。

 こいつ自分で墓穴掘りやがった! 

 

「ふーん。最近昼休みになったら私のとこに来る前にどこか行ってるなとは思ってたけど。坂本くんからご飯貰ってたんだ」

「にに虹夏、待って。冷静に話し合おう」

「坂本くん、私あんまりリョウを甘やかしたらダメだって言ったよね」

 

 下手な言い訳を晒しそうな山田をスルーし、矛先がこちらへ向く。

 実際学年が変わりクラスが別になって少し経った頃に弁当を貢いでたのがバレてしっかり釘を刺されていただけに反論の余地も無い。

 

「あっいやそれは、はい……ただ空腹で辛そうな山田を見てたらいても立ってもいられなくなったというか……」

「まあ坂本くんがそういうの見過ごせない人なのは去年一年でなんとなくわかってたけど、リョウは一回甘やかしたら味を占めるんだから注意しないと」

「あとちょっと秘密を共有する関係っていいなと思ってました……」

「そっちの理由はちょっとよくないと思うなー!」

 

 だって秘密の共有とか共犯者とか、漫画や小説でしか見ないから憧れるものなんだよ。

 友達に毎日甲斐甲斐しく弁当を作っていくみたいなシチュエーションも、フィクションではたまに見るけど現実だとまずありえないし。そういうのに惹かれる気持ちはちょっとくらいわかってほしい。

 

「とにかく! 前も釘を刺したけどリョウをあんまり甘やかさないこと! その歳でダメなバンドマンに貢ぐようになったらダメなことくらいわかるよね?」

「はい……」

 

 伊地知さんはそう諭すように言う。

 そうか、俺ダメなバンドマンに貢ぐファンになってたのか。正直なところ、直接金を差し出したとか物を買ってやったとかではなかったから感覚が麻痺していたのかもしれない。

 それに美味しいとか言われたり、料理に期待されるの凄い嬉しかったし……。

 

「リョウも坂本くんが優しいからって頼りすぎない! お弁当貰いに行くのはしばらく禁止だから」

「そんな……殺生な……」

「返事は?」

「はい……」

 

 山田の方も、伊地知さんの圧に負けて不承不承ながらと言った様子で頷いた。

 こうなってしまったらもうどうしようもない、俺と山田の秘密の関係……もとい飯を貢ぐファン活動は終わりを迎え──

 

「あ、そうだ坂本。お弁当がダメならお菓子持ってきて。毎日妹に作るなら私の分も作れるよね」

「リョウ!!!」

 

 終わりを迎えるのは、もうちょっと。少なくともあと一か月は先の事になるみたいだった。

 

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