ぼっち・ざ・ばんとり 作:あああ!
とあるタワーマンションの最上階で1人の少女がヘッドホンをつけ、タブレットの映像を睨むように見ていた。彼女の名前は珠手ちゆ、周りからはチュチュと呼ばれており、ガールズバンド、RAISE A SUILENの通称RASのリーダーでDJをしている。
「……。」
座っている椅子にふんぞり抱えるように座り、タブレットを持ち上げて見ている。その後、深くため息をついたあと、あたりを見渡した。
視線の先にはRASのメンバーが何やら談笑をしていた。既に練習は終わっているた、何をしていようが本人達の自由だから構わないのだが、いつまでここにいるのだろうか? と、チュチュは思った。
ここはスタジオであると同時にチュチュの家である。そのため、少し前まではRASのメンバー達も、他人の家であることを意識した様子であが、最近では遠慮がなくなってきている。ドラムのマスキングこと、佐藤ますきに関しては
彼女そんな状態に自分が不快感を覚えないことにため息をついて、また動画の続きを見て、少し嬉しそうに笑った。
「どうしたんです?チュチュ様」
ふと、キーボード担当のパレオこと鳰原令王那がチュチュの元に来た。パレオはチュチュのキーボードメイドを自称しており、チュチュと最も親しい人物である。
チュチュはチラリとRASのギター担当であるロックこと朝日六花の方をチラリと見た。見たあとヘッドホンをずらして耳を出した。
「これを見てちょうだい。」
タブレットを操作して音をスピーカーから出し、動画をはじめからにした。すると、上手とは言えないバンド演奏が流れた。聞くに耐えない、とまでは言わないが、かなりミスが目立つ演奏である。
「………マンゴーの段ボール。フフ、変わりませんね。」
パレオはその動画だけでチュチュの感じたことを察して楽しげに笑った。
「違うわ。変わったのよ。
ドゲトゲしか物言いだが、その裏には優しさも含まれている事をパレオは感じていた。というのも、少し前までならば「RASから逃げておいて今更他のバンドに行くなんて!」と、怒っていた可能性もある。しかし今ではそんな気配はなく、前に進もうとしているかつての仲間を応援しているようだ。そんな
ただ、
(
と、思ったな過ぎない。
「あ、その演奏、あの子の?」
下手っぴな演奏を聴いていると、ベースボーカルであるレイヤこと、和奏レイが楽しそうに割って入ってきた。後ろにはマスキとロックも控えている。マスキはなにか思い出そうと何か考えている様子だが、ロックは何だか分かっていない様子だ。
「そうなんですよ〜。
パレオの返答にマスキは「ああ」と何か合点が行った様子で声を上げた。
「ワンネスって…………。あの、ゴミ箱に入ってた?」
「……。そう、そいつよ。マスキングとは、数回しか会ってなかったわね……。」
色々と思い出しながら話している4人だが、1人なんの話かついていけないロックはおずおずと会話に入った。
「その……、ワンネスさん?とはどなたなんですか?」
「そっか、ロックは会った事あるわけないね。」
レイヤはそう言うと、チュチュが言葉を続けた。
「タエ・ハナゾノを入れて、2代前のRASのギターよ。」
その言葉にロックは驚いた。
というのも、チュチュは音楽について妥協をすることは無い。しかし、この演奏からはとてもRASに入れるようなものには思えなかった。そんな彼女の感想に気がついたのかチュチュは楽しそうに言葉を続けた。
「確かにこの演奏はとてもじゃ無いけど、披露出来るレベルじゃ無いわ。趣味としても酷過ぎる。けど、彼女の実力はexcitingでsweetなのよ。見なさい。」
そう言うと、チュチュはタブレットを操作し、モニターに1つの動画を上げた。タイトルは『天下トーイツA to Z☆ を引いてみた』というものだ。そして、投稿者は……。
「これ、ギターヒーローさん?……まさか、ワンネスさんってギターヒーローさんなんですか?」
信じられない、と言う顔のロックをした。
ギターヒーローとは動画サイトにギターの演奏動画を投稿している人である。その技術は凄まじく、おそらく、ロックは勿論のこと彼女達に近しい
また、顔は写っていないが、衣服や声から彼女達と同年代の少女であることは分かっている。
そんな実力者があのような演奏をしている事が信じられ無い様子のロックにパレオが応えた。
「そうなんです。1人だととてもお上手なのですが、その、彼女は致命的に他人に合わせるのが苦手だったんです。辞められたのもそれが原因でしたし……。」
「へぇ……。ギターヒーローさんにそんな、弱点が……。何だか、RASを辞めた理由も想像できちゃいますね。」
ロックは音を合わせられずにチュチュがクビを宣告する場面を思い浮かべた。しかし、他の4人はなんとも言えない顔のままロックから目を背けた。
「けど、会ってみたいです。ギターヒーローさん。私、あんなキラキラした学園生活憧れちゃいますよ!」
ロックの言葉に4人は吹き出しそうになったが、頑張って堪えた。その様子が首を傾げた。
「えぇ、何がおかしいんですか?!」
その問いに答える者は誰もいなかった。しかし、静かにチュチュだけはつぶやいた。
「Don't need to know」